行く
僕は、来た道を引き戻して、駅に向かった。
駅の構内に、壁にもたれて俯いている彩の姿があった。
「やあ」
僕は、そっと近づいて声を掛けた。
「何笑ってるの?」
言われて気付いた。
僕は、微かに微笑みを浮かべていた。対して彩は、泣きそうな顔をしている。
「別に。それにしても、よくここって分かったね」
「なんとなく。あなたの過去に何かあったことくらい、一緒にいれば分かる」
「いや、でもこことは限らないよ」
「じゃあ、あなたは、大学に行くまでこの地元を出たことがあるの?」
「ない」
「ほらね」
彩は優しく微笑んだ。
僕は少し、ホッとする。
「ねえ、帰ろう」
「帰れないよ」
「ねえ」
僕は、首を横に振る。でも、彩のことは見ないようにする。
だって、彼女の泣き顔を見たら、僕は帰ってしまいそうだから。
「ねえ、行かないでよ。どこにも」
「だめだよ」
「あなたが、あなたでなくなるような気がして、私は怖い」
「僕は僕だよ。きっと」
僕らはようやく互いを見つめあう。
駅構内に、電車到着のアナウンスが響く。
僕は、近くにあった時計を見る。
『10:00』
「私も行く」
「でも」
「私も行く」
「分かった」
やっぱり、僕が折れてしまう。
僕と彩は、僕の実家も弥生ちゃんの家も、神社も素通りする。
僕は、彼女との、弥生ちゃんとの思い出を探しに行くため、高校へと向かった。
僕らは、銀杏の並木を通り抜ける。
脇には小さな池。
ケーキ屋。花屋。
つい、2年前まで見ていた景色が、僕の頭に甦る。
彩は、何も言わず僕の後ろを付いてくる。
僕は立ち止まる。
「ここ?」
彩が尋ねる」
そう。ここだ。
僕らの前には、いや、僕だけに見える。
漠然とした、巨大な建物。
笑ってしまうな。ここは、学校でしかないのに。
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