夢姫
澄み渡る空の下で私は君に腕をのばした。
君に触れたいと思って、存在を確かめたいと思って、腕を伸ばした。
私の腕は空気に溶けていく君の希薄になった存在をすり抜けた。
私は勢い余って倒れ込んでしまった。
碧い方の目から雫が目尻を伝って流れ落ちた。
夢から覚めるだけなんだと君は言っていた。
夢ってなに?君は誰かの夢だったの?
私の気持ちは?胸がこんなに熱いのも夢だったの?
君は私にとても多くのモノをくれた。
あの場所にまた行こうって言ってくれたのはなんだったの?
君はこうなることを知っていたの?知っていて私に秘密にしていたの?
あまりにも唐突なお別れだった。
もう君のぬくもりに触れることはできないの?
もう君の存在に触れることはできないの?
もう……会えないの?
私は力が抜けてしまったからだに、もう一度だけ力を込めて上体を起こし振り返った。
そこに君はもう居なかった。
今でも鮮明に思い出すことができるんだ。
君の温かな体温。君の太陽の様な笑顔。君の私を呼ぶ指笛。
一緒に食べたアイス。一緒に泳いだ湖。一緒に歩いた道。
大きな瞳。絡めた指先。柔らかな口づけ。
全てが夢だったっていうの?
全てが嘘だったっていうの?
ねえ、教えてよ。
ねえ、教えてよ!
私は必死で君を呼んだ。
夢ってなに?
君は誰かの夢だったの?
私の夢ではないの?
もう会うことは叶わないの?
どうすればいいの?
どうしたらいいの?
行き場のない気持ちは、こぶしを強く強く握りしめることしかできなかった。
……夢から覚めるだけだと君は言っていた。
私は君が溶けていった空を仰いだ。爽やかな青空とは対照的に私の心の中はグシャグシャしていた。いつまでも幸せな夢の微睡の中で泳いでいたいと思った。
指先を唇ではさみ、ほんの一抹だけの希望を胸に、最後にもう一度だけ君を呼んだ。
鳥の鳴き声のような私の悲鳴は大きな空に飲まれて消えていった。
これまでの出来事がまるで夢だったかのように消えていった。
君はいつまで経っても夢に再び落ちてくることはなかった。
形のない大切な大切な記憶の欠片達は、君を模倣することでしか保てなくて。
私はバカみたいに君を思い出した。もういない君の背中を追い続けたんだ。
君を思い出す度に胸が苦しくなったんだ。本当に苦しかった。
だけど、その先には君がいるとおもったから、君を追いかける道は君に繋がっていると思ったから、耐えることができた。
何度も、歩みを止めてしまおうかな?なんて思った。その方が楽になると思った時もあったから。
だけど、足が止まりそうになると大きな不安が私を覆ったんだ。その不安はとても大きくて、とても暗い感情だった。私は怖くて走り続けたんだよ。ただ一つ、道のずっと向こうの柔らかな光を求めて。
まるで悪夢のような夢の世界を駆け抜けた。
君はいつ戻るのかな?
心の叫び、私の不幸を嘆いています。