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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
最初の街と魔王女一行 ~最初の騒動~
9/201

9 クエスト申請をしたが何かがおかしい⑤

「お……この庭はチットリオが生えてるのか。ある程度温暖湿潤ならどこでも育つ木なんだが、丁度良かった。……ここにはウッドゴブリンは住んでねぇか……当然だな街中だし」


 冒険者事務所の庭に小さな池と、それに大きな影を落とすチットリオの古木を見つけたザイツは、マントの中で肩にかけていた皮の鞄を降ろし準備を始めた。


「あくまで移動予定だったから大したものは持ってなかったが、これならなんとかなるか」


 ザイツは鞄の中から手の平サイズの小さな小鉢と、その中で使用できるほど小さい木棒や匙を取り出し、平らな石の上にそれを置く。


「水気と土、それからチットリオの粉末……軟膏……」


 そして何かを思い出すように口ずさみながら、小鉢に匙で池の水と古木の根元の土を匙で入れ、そこに更にチットリオの粉末と鞄にあった薬用の軟膏を加えると、木棒でかき混ぜはじめた。


「本当は幻覚効果の強いケシーの花粉があれば完璧なんだか……贅沢は言ってられねぇな。……少しチットリオ粉末を多めにして匂いを強くするか。……うわぁ……いつもながら臭ぇ……」


 水と土に混ぜ合わされたチットリオの粉末は、小鉢の中でやがてどす黒い粘液に変わり、チーズと腐った葉野菜が混ざったような悪臭を漂わせ始めた。

 その匂いにザイツは顔をしかめながらも、時々材料を加えながら小鉢をかき混ぜ、黙々と作業を続けた。


【うわっ!! なんだこの匂いは?!! 貴様!! そのような不浄な悪臭を姫様に近づける気ではあるまいな?!!】

「うぁいて?!!」


 すると突然甲高い声が響き、頭の上を鳥の爪で鷲掴みにされる衝撃に襲われる。


「……バカラスてめぇ、手が離せない時に何しやがる」

【ふん!! お前が中々戻って来ないから見張りに来てやったのだ!! 低劣な人間は、いつ臆病風に吹かれて逃げ出すか判ったものではないからな!!】

「あ、猫」

【みぎゃあああどどこであるか?!! わわわ吾輩を狙うな肉食毛玉ぁあああ!!!】


 ザイツの頭に飛び乗っていた魔烏(クローメイジ)のカンカネラは、恐怖に叫びながら空中高くに飛んで逃げた。


「嘘だ」

【ぬぎゃ?!!】

「ははは、低劣な人間(・・・・・)並みに臆病風に吹かれるなよバカラス」

【お、おのれたばかりおってぇえ!!】

「おっとっと」


 騙されて怒り、飛びかかって来たカンカネラを回避し、ザイツは小鉢が零れないように守る。


「逃げたりしねーよ。そのために準備してるんだろうが」

【人間など信じられるものか!】


 作業の邪魔をされないようザイツが宥めるように言うと、即吐き捨てるようなカンカネラの尖った声が返ってきた。


【人間は卑怯で凶暴で残酷で、魔に属する者達には何をしても許されると思い上がっている最低の生き物だ。本当ならそのようなモノを姫様に近づけたくなどないわ!!】

「嫌われたもんだ」

【大嫌いだ!! 案内役が必要でなければ誰が人間などと旅をしたいものか!!】

「おい邪魔するなよ。作業中だっての」


 再び頭に飛びかかり爪を突き立ててきたカンカネラを、付き合ってられないとザイツは小鉢から離した手で払った。

 それをかわし、カンカネラはザイツの頭に爪を立てて着地する。


「だから痛いっての! ハゲたらお前の羽根も毟るぞこの騒音カラス!」

【……】


 邪魔され怒るザイツに負けないほど不機嫌な様子で沈黙したカンカネラは、だがやがて渋々といった風に口を開き、ザイツに言った。


【……だがお前は、あのキンキラの人間よりマシだ】

「? 王子様の事か?」

【何様でも知った事か!! ――おい人間!! 絶対逃げるなよ!! 負けるなよ!! あんな人間を、姫様に近づけるでないぞ!!】


 カンカネラの声はやはり居丈高だったが、真剣だった。

 ザイツはカンカネラを頭にのせたまま、作業を再開しつつ問いかける。

 

「そんなにあの王子様は嫌か? まぁ確かに鬱陶しそうな兄ちゃんだったが、色男じゃねえか。姫様のお供としては見栄えがいいんじゃねぇか?」

【冗談ではない、ゾッとするわ! ……あの高慢な人間の姫様を見る目は、まるで奴隷市で気に入った商品を見つけた者のようであったわ!!」

「奴隷市、なぁ」


 ザイツはジルベルトの選良意識の強そうな表情を思い出し、なんとなく納得する。


【言葉は飾り立てていたが、あやつは魔族の姫様に対する敬意など一欠片も持ち合わせておらん! それどころか腹の中では姫様を見下し、まるで娼婦にでも抱くような汚らわしい欲望を膨らませておる! あれぞまさしく、魔属の領域を侵し、我らに隷属を強いようとしてきた人族(ヒュー)の姿よ!】

「……」

【……あ、あんな恐ろしい者達の領域を……姫様がこれから旅しなくてはならないなんて……】

「……バカラス?」


 ふいに強気な様子が崩れたカンカネラの震える声が、ザイツの耳に小さく届いた。 


「どうした?」

【……なんでもない】

「なら俺の頭の上でプルプル震えるなよ。伝わって来る震動で手元が狂うじゃねえか」

【……お前、問題はそこであるか】


 ザイツの面倒臭そうな声に落ち着きを取り戻したのか、カンカネラはまた元の調子で返し、小さくため息をつく。

 そして、やがてどうでもよさげな口調で言葉を続けた。


【……吾輩は人領域の森で生まれたが、捕らえられ市場の商品にされたのだ】


 ザイツは作業を続けながら、それを黙って聞いた。


【野生の魔烏が人の言葉を堪能に話せるのは珍しいと、人族の金持ちが吾輩を買って息子に贈った。……息子は酷い人間だった。取り巻きと一緒になって吾輩を刃物で突き、羽根を毟り、火がつけ、水に沈め、動物をけしかけ。……殺しかけたら『修理』して、そいつは吾輩をいたぶり続けた。……お前のような弱い生き物は、玩具程度の価値しかないと笑って……】


 恐怖を思いだしたのか、また一度小さく震動がザイツの頭に伝わる。


【――そんな吾輩を、まだ幼い少女であった姫様が救って下さった】


 だがその震えは、自ら口にした思い出に力付けられるように止まった。


【森でいつものように吾輩を嬲り遊んでいたそいつらの前に現れた姫様は、静かに口を開きこうおっしゃった】


―……人の子ら、弱い者をいたぶる事が、そんなにも楽しいか?―

―ならば私も――お前達で試してみよう。――【苛虐の炎陣(トーチェルフラム)】!!―


【姫様がそう言われた瞬間、金持ちの息子と取り巻き達は、突如自分達を取り巻いた炎の熱さに絶叫した。――その炎は息子達を焼く事も殺す事もなかった。だが焼き殺されるのと同じ苦痛を与えているのだと、息子達の悲鳴から吾輩にもわかった】


―……楽しくないな。お前達の悲鳴も泣き叫ぶ姿も、見苦しく不快だ―

―品性に人魔の区別は無しと父上はおっしゃっていたが……お前達を見ていると、人族というものがとても醜く下劣なものに思えてくる。……悔い改めよ人の子ら。……さもなくば、魔領域に生きる者達の厄災となるお前達は……一人残さずこの私が刈り取るだろう―


【……そして息子達が悲鳴すら上げることもできなくなり、その目から正気を失って倒れ伏した後……姫様はそう言って炎を消すと、吾輩をそっと抱き上げて神聖魔法で傷を癒し……優しく声をかけて下さったのだ】


―……よくぞ生き抜いたな魔烏。……お前の運と生命力は強さだ。誇れ―


【――ああ! まだほんの幼子でありながら、クローディ姫様は既に恐るべき魔力と冷酷な威容、そして深き慈愛の心を併せ持つ尊き魔王女殿下であられた! ……吾輩は……あの時の姫様と御恩を、消して忘れない!!】


 主と出会った思い出を語り終え、今度は感動で打ち震えるカンカネラ。

 頭の上から伝わって来るより大きな震動にため息をついた後、ザイツは正直な感想を一言漏らした。


「……で、それがどうしてああ(・・)育ったんだ?」

ああ(・・)とはなんだこの無礼者ぉおおおおおおおおおおおおお!!!!】


 当然のようにカンカネラの猛抗議が返ってくる。

 ザイツはどうにも納得がいかない。


「いや、だって随分な変わり様じゃねぇか?」

【どこが変わっているのだ!! 昔も今も姫様は姫様だ!! 高貴なる魔国の第一魔王女殿下だ!!】 

「いや、そういうんじゃなくて……その……かなり性格変わってるだろ?」


 足場にしたザイツの頭上を爪で掴みながら、カンカネラは反論した。


【失敬である!! 多少おっとり(・・・・)となさっただけだ!! 姫様の慈悲深く高潔なお心は、何一つ変わってはおらんわ!!】

「そ……そうか?」

【そうだ!! ならば貴様は、今の姫様があの時の吾輩を見捨てたと思うか?!!】

「え? ……あの時が今の姫だったら?」


 ザイツは先程の思い出話を、考え直してみた。


~カンカネラ虐待場面にキョウ姫が遭遇したら~


―!! ここここらー!!! 小さい子をなにイジメてるんですか君達はー!!― 

――①制止。


―そんな事しちゃ駄目です!! ほら!! 叩かれるとこんなに痛いんですよ!!―

――②仕置き。


―もう大丈夫ですよ魔烏さん。今怪我を治してあげますねっ―

――③治療。


「あの姫なら……ん? ……やりそうな事は……そんなに変わってないか?」

【そうであろう!!】

「そ……そうなのか?」

【そうだ!!】

「……そう……か? ……あれ??」


 ――何かがおかしいような気がしたが、反論できずザイツは首を捻った。


『うーん……確かにガキってのは大人になって思い返すと恥ずかしいが、英雄(ヒーロー)の物真似や口真似して、格好付けたがる時期があるもんだしな。……姫もそんなお年頃(・・・)だったと考えれば不自然は……ないのか?』


 理由を付けてなんとなく納得しようとするザイツの上で、カンカネラは断言する。


【姫様は姫様だ。何も変わらぬ。……いや、例えどれほどお変わりあそばされようと、クローディ魔王女殿下はこのカンカネラが魔力を捧げた唯一の主だ。吾輩は人間は心底嫌いだが、姫様が行かれるのならば人領域だろうとどこだろうとお供して、必ずやお守りするのだ!!】


 だから姫様が必要とする貴様は逃がさぬ、と言い頭に爪を立てる小さな魔烏に――ザイツはふと下らない事を思いつき、思わず笑う。


【なんだ?!!】

「いや別に。……ははは」


 ――あのキンキラ王子なんぞより、お前の方がよほど姫を守る騎士らしい。


 まるで褒め言葉のような内心を生意気な魔烏に言うのも癪なので、ザイツはとぼけながら、小さな笑い声をたてた。


【な! 一体なんだと言うのだ!】

「何でもねぇよ。……にしてもよバカラス、なんでお前がヤられてた時に、姫は人族の領域にいたんだ?」

【む……】


 話を逸らすように問うザイツに、カンカネラは面白くもない、と鼻で息を吐く。


【……あの頃は戦争も起きておらず、両領域が平和で行き来も楽だったからな。その機会を狙って、魔王陛下が人領域に住む友に会いに来ておられたのだ。その陛下に姫様も連れられて、人領域に来ておられた】

「こっちに住む魔王の友って……もしかして人間か?」

【……良くも悪くも付き合いが広いのが、魔王陛下だ。……人などを信用して姫様まで連れて行くとは……いや、そのおかげで吾輩は助かったのだが……】


 軽率ではないのか、とブツブツ続くカンカネラの文句を聞きながら、ザイツは魔王(全裸)を思いだして、見かけ通り開放的な王だなと思った。


「……でも人領域でも全裸だったら、魔王とかそういう以前に逮捕されるだろうけどな」

【あれが通常状態のはずがあるかー!!!】

「? 違ったのか? 姿が映る魔話術(ビューフォン)にあんな恰好で堂々と出てるから、てっきりあれが魔王の日常なのかと……」 

【違うわー!! いくら堅苦しい魔王装束を嫌う陛下でも、いつもはパンツ一枚くらい着けておるー!!!】

「……それはそれで変態じゃねぇか」

 


 玉座に鎮座するパンツ一丁魔王を想像から追い払い、ザイツは作業を続けた。

 そして。


「――よし、出来た」


 しばらく後、ザイツが木棒で練っていた小鉢の中には、とろりとした黒濁の粘液が出来上がっていた。


【うわ臭ぁ?!! で、出来上がりであるか?!! なにやら悪臭が増している気がするのだが?!!】

「これでいいんだよ。……うん、いくつか素材が足りてないが、これなら大丈夫だろう」


 小鉢を覗き込み悪臭に顔をしかめたカンカネラに、ザイツは満足そうに答えた。


【これはなんであるか? 毒であるか? 呪いの触媒であるか? あのキンキラにぶっかけるのであるか?】

「やりたそうだなお前。まぁ、本番のお楽しみってやつだ」

【むー……それはちゃんと使い物になるのだろうなっ?】

「さぁ。それはまだなんとも……ん?」


 適当に答えながら、チットリオの粉末を入れていた布袋に小鉢入りの粘液と汚れた匙を入れ、荷物をまとめようとしたザイツは――何気なく視線を向けた庭と事務所の建物の隙間に、何かキラキラしたものが見えて動きを止める。


『? ……あれって……王子様の鎧じゃねぇか? あんな人気の無い隅っこで何してるんだ?』


 そこは閉鎖された倉庫と本館の裏側に挟まれた、事務所の者達でも近寄る用事などなさそうな寂れた一画だった。


「……」


 ザイツは荷物を鞄の中に全て収めると、草むらと木の陰と伝ってこっそりと近づいてゆく。


【どうしたのだ? ……む、あれはキンキラ王子か?】

「いや、なんかあいつコソコソしてるから。弱みでも握れたらめっけもんかと」

【……あれに従う騎士共に、背後からばっさり殺られんよう注意するのだな】


 幸い王子の勝手な行動なのか、周囲には護衛の姿も無く、ザイツは姿を隠しながら倉庫と本館の裏側に近づく事ができた。興味が沸いたのか、ザイツの背にしがみつくようにしてカンカネラもついて行く。


『……おや?』


 ジルベルト王子は一人ではなく、苛立たしげな顔で誰かと話していた。


『えーと……王子の隣にいるのって……確か酒場の客間にも来た……事務所所長の補佐じゃなかったか?』


 ザイツは建物の影から、ジルベルト王子と傍でへこへこと頭を下げている貧相な小男――所長補佐との会話を盗み聞きした。


「――話しが違うぞ! 冒険者などこちらの権威を見せて金でも渡せば、簡単に引き下がるとお前は言ったではないか!」

「は、ははぁ。申し訳ありません。……その、普通の冒険者なら大抵はそうなのですが、どうやらあの男は、冒険者の常識が判らぬ阿呆だったようで……」

「全く、……魔王女を手中に収めるチャンスだと、お前が言ったのだぞ。こんな面倒な事になるとは思わなかった。上手く行かなければ、この件の報酬は無しだ」


 ジルベルト王子の言葉に、思わずザイツは目を見開く。


『――え……それってやっぱ……姫の情報は、冒険者ギルド内部の人間であるあの補佐野郎が……王子に漏洩してたって事か?』

【ほほう……大陸の各勢力間で中立を謳う冒険者ギルドの職員が、王子と癒着して情報漏洩であるか。……少し中を探れば、まだまだ腐った事情が見つかりそうであるな。所詮は人間が作った組織よ。生臭いものだ】

「……」


 カンカネラの嫌味に反論できず、ザイツは顔をしかめた。

 上の事情になど大して興味はない末端冒険者のザイツだが、それでも目の前で不正を見せられれば良い気もしない。


【あっ、まだ聞いておるのに……】

「しっ」


 声が大きくなりかけたカンカネラの嘴を手で閉じ、ザイツは戻る事する。


『――冒険者ギルドにおいて機密漏洩は大問題だ。……補佐の目的が金か王族とのパイプかは判らねぇが……もし今見つかれば、自分もまたギルドから追求されるだろう王子様に、騎士達呼ばれて俺が切り捨てられる危険があるぜ』


 上の事情は上で処理してくれと思いながら、ザイツは静かにその場から立ち去ろうとした。


「――しかしあの女は、目がおかしいのか?」


 その耳に、侮蔑に満ちたジルベルト王子の声が飛び込んで来る。


「この私ではなく、あのような野蛮で小汚くいかにも無教養そうな不細工と共に旅をしたいなど。目か趣味か、でなければ頭がおかしいとしか思えん」

【――!!】


 嘲笑いながらそう続けるジルベルト王子の言葉に、ザイツは自分が抱えているカンカネラが熱くなるのを感じた。

 そんな事は勿論知らず、追従して補佐も言う。


「まったくその通りでございますな王子殿下。貴方様ではなくあのような山猿を選ぶとは……大方下等なオークやゴブリン共を見慣れて育ったせいで、審美眼がおかしくなっているのでしょう」

「ふん、美しいが所詮田舎の小娘だな、人族の王族の優美さを理解できんとは。……だが手に入れれば魔国の強大な力が手に入るのだ。愚かさには目をつぶってやろう。外見だけは、私の傍に置くには相応しい」

『うわぁ……確かに下心ありだとは思っていたが……こりゃ酷ぇ』


 カンカネラの言った通り、キョウに対して敬意の欠片も無いジルベルト王子に、ザイツは内心で呆れ声をあげた。

 男の暴言に手の中のカンカネラは更に熱くなり、周囲に発動する魔力を帯びた輝く光が、パチパチと音を立てて弾ける。


「もっとも私の傍に置く時は、あの角や翼はしまわせるがな。――魔族の証しなど目にするのもおぞましい。ぞっとするわ」


 ――ザイツはとうとう怒りを爆発させたカンカネラから膨れ上がった魔力の熱を感じ、両手ごとそれをマントの中に隠し全力で逃げた。

 できるだけ物音を立てずに走ったので、ジルベルト王子達が気付き追ってくる様子はなかった。


【は――なせぇええ!!】

「はー……やれやれ。――こら、待て」


 人通りのある事務所本館の通路口の端まで駆け込み、ようやく安心したザイツは、暴れてザイツの手から飛び立とうとするカンカネラを更に押さえ、それを止める。


【何故止める!! 姫様を侮辱されたのだぞ!! 魔法でぶちのめしてやる!!】

「やめとけ。悪口なんて現行犯でもなきゃ、言った言わないの水掛け論で証拠になんかなりゃしないんだ。……魔国の姫の使い魔が人族の王子を傷つけた、って事実が残るだけだぞ」

【く――だが!! それでも許せん!! あやつは姫様を!! 姫様を!!】


 怒りに燃えるカンカネラは、自分を捕まえるザイツを睨み悔しげに言った。

 そんな小さな魔烏を見下ろし、ザイツは静かに返す。


「……だろうな。……俺でさえ、腹立ったもんよ」

【っ……ザイツ】

「本当に……反吐が出そうなくらいムカムカする野郎だ」


 いつもは表情に乏しい平坦な顔に、怒り混じりのぞっとするような笑みを浮かべ、ザイツは言った。


「――だからよカンカネラ、……姫の前で、あいつに痛い目を見せてやろうじゃねぇか」




次回戦闘開始



ザイツの認識

幼少期の姫=ヒーローごっこ中

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