77 結論は出るが何かがおかしい
無理矢理跪かされた元町助役ギョームの前へと一足歩み寄ったケイトは、肩口で切り揃えられた髪をゆっくりと揺らして腕組み、ギョームを見下ろす。
「……判っているのですよ?」
貴方の悪事は、何もかも。
そう言われているような錯覚を与えるほど、ケイトの酷薄な視線は容赦がなかった。
睨み付け反論しようとしたギョームは、まずそのケイトの視線に臆し身を竦ませた。
「わ――ワシは……違います!」
それでも小柄な老人は、必死に身を保つため声を上げ、目の前の小娘に反論する。
「ワシを現在、魔王海軍が頭を悩ませる事件の黒幕と思っておるなら、それは大間違いです!! ま、まさか皆様は、バロークの町をワイバーンに襲わせたのがワシだなどと考えているのですか?!」
「……」
「違います!! ワシにそんな事はできません!! ワシはワイバーンを操ったりしていません!! ワシは事件の犯人ではありません!!」
ギョームの嗄れた声は、その場にある皆の耳をつんざくように響いた。
悲壮な形相で老体を震わせて絞り出される声には、聞く者の憐憫と動揺を煽るような必死さがあったが、そんなギョームに対しケイトは眉一つ動かさず、あっさりと言う。
「――判っていますよ」
「……え」
「言ったでしょう? 私は『貴方が何をしたか』判っていると。――元町助役ギョーム・マーレ。私は貴方が、現在バロークの町を騒がせるワイバーン襲撃事件の黒幕『ではない』事を、判っています」
「だ、だったら――」
「ですが」
「――貴方に、この事件の元凶の見当がついている事も、判っています」
「――っ!!」
「それがなぜか、から、言った方がいいでしょうね?」
なんでも無い事のように発せられたケイトの言葉に、ギョームの全身は強張った。
元より現バロークの支配者側である魔王海軍に連行され逆らう事などできない。だからこそ『真相』を看破されてしまえば、ギョームには身を守る術が無い。
『ハッタリだ。こんな小娘に判るはずがない! ――いや、判らないでくれ。どうか!! どうか!!』
内心の焦燥を必死に押し隠すギョーム。
そんなギョームの一縷の望みを断ち切るように、ケイトは言う。
「それは貴方が――この町から逃げた前町長の、『公にできない別邸』の存在を知っていたからです」
ギョームの呼吸が、一瞬止まった。
「そしてその別邸に、戦時中主バジル・アビルトンを失い、仲間からもはぐれたワイバーン、オレンジ七号が捕らえられた事も、知っていた」
なんとか否定しなくてはと焦るほど喉は干上がり、ギョームはただ、ケイトの言葉を耳に流し込まれ続ける。
そんな老人を更に追い込むように、ケイトは数冊の帳簿の束を放り出して見せた。
思わず視線を向けたギョームは、更に顔を引きつらせる。
「魔王軍が前町長宅からバローク町関係の書類を押収した、様々な用途の帳簿です。……こういうものは敵の手に渡らないよう、逃げる時に持って行くか処分して行くものだと思うのですが、前町長はよっぽど時間がなかったのか、逃げてしまうのだからどうでもよいと思ったのか、それともマヌケだったのか」
マヌケだったと、ギョームは内心で元上司を罵倒する。
ギョームは自分の手が届く範囲のそういった書類は全て処分していたが、町長の屋敷に公文書として収められているものには、流石に手がでなかった。
「まぁおかげさまで、こちらの推理情報にさせていただきましたけどね。……元町助役ギョーム・マーレ、この帳簿各種は、貴方の仕事ですよね? 貴方の名で提出されている書簡と、全く字が同じです」
「ぐ……」
「そしてこの帳簿は、確認したはずの魔王軍も気付かなかったほど至極真っ当なものでありながら、改ざんされている。……おそらくは、貴方の元上司のお好みにでしょうね?」
図星を突かれ、ギョームは身体の力が脱けるのを感じながら、それでも必死に反論を考えた。
ケイトは気にせず言葉を続ける。
「貴方は前町長の末端で、前町長が私腹を肥やすための、書類の改ざんをさせられていましたね?」
「か、改ざんなど……」
「魔王海軍責任者代理の前で偽証は、命に関わりますよ?」
そう言われてしまえば、ギョームもしていない、とは答えられない。
「……わ……ワシは何も知らない。……元上司の命令で、言われるまま書類仕事をしていただけだ。……元上司はワシに別邸の存在など明かさなかったし……そこに何が捕らえられたかなど……聞いた事もなかった……ワシは……元上司の側近でもなんでもない……ただの末端だ……」
やがて返ってきた弱々しい反論に、ケイトは酷薄な嗤いで返す。
「ただの末端でも、数多くの情報と数字を知る者には違いないでしょう。……そして情報を持つ者は、情報を元に思考する事ができる」
「……ただの想像だ」
「そうですかねぇ?」
「……」
反論しながらも、その通りだとギョームは内心でケイトの言葉を認めていた。
逆説的だが、情報の改ざんをさせられるからこそ、ギョームは多くの正しい情報を得ていた。そして得た情報から、元上司であるバロークの前町長が何をしているのか、ケイトの言うように推測する事ができた。
『――戦時中は身を守るため、特に耳を研ぎ澄ませていたのだ。……クレマン卿に討ち取られた、魔王軍の英雄と共に戦ったワイバーンが行方不明になっている事と、急に増えた隠匿支出、それからしばらくして、急に神聖教国の聖都と繋ぎを取りたがるようになった元上司の態度を考えれば……元上司が何を手に入れたか、推測することは簡単だった』
おそらく偶然元上司は魔王軍のワイバーンを捕らえ、ゼルモア神聖教国のお偉方へ、そのワイバーンを賄賂として売りつけたかったのだろうとギョームは予想していた。
なにしろ敵方英雄の愛竜だ。戦果を示すために公開処刑してよし、洗脳して道具としてよしと、使い道はいくらでもある。
そしてそのワイバーンを隠すならば、元上司が秘かに所有しているだろう、別邸に違いないとも想像できた。
――そう推理できてしまった自分が、ギョームは憎い。何も考えていなければ、言い訳する事もなく知らぬ存ぜぬで通せたのだ。
「何も考えず仕事だけする手駒にしては、貴方は優秀過ぎるんですよ。ここまで見事な改ざんは、与えられた情報に対する、深い理解がなければできません。私も些細な違和感を感じなければ、気付かなかったでしょう。いやぁお見事」
そんなギョームの心情を逆撫でするように、ケイトはパチパチと手を打ってみせた。
内心を読まれたようなケイトの言葉に屈辱でギョームの肩が震えるが、同時にその言葉が、酷く気にもなる。
「……違和感、とは?」
目の前の賢しい小娘が本当に気付いたのか、どうしても知りたくなったギョームは、思わず問いを漏らしていた。
そんなギョームの問いに、ケイトは返す。
「そうですね――例えば、石の値段ですよ」
ケイトの返答は、帳簿改ざん最大のカラクリを理解しているとしか思えないものだった。
目を見開き、息を飲むギョームの前に帳簿を開き、ケイトは続ける。
「この辺りの記載です。前町長時代、バロークの町では橋や役場、駅などの公共機関の補修のためとして、かなりの額の特別課税がかけられましたよね? まずこの部分を見た私は、この補修工事に使われた石材の値段が、随分お高いと思ったんですよ」
ここです、とケイトは更に近づけて帳簿を見せる。
「……良い材質を使えば、そうなるのは当然だ」
「そう。本当に良い材質なら、多少高くても仕方が無い。……だがそんな良い石材が、本当に使われていかなったら、どうでしょうね?」
「……記載された石とは別種類の、安い石を使ったとでも言うのか? そんな事をすれば、多少石に詳しい者が見ればすぐにばれるぞ?」
「ふふ……」
もはや確認のように問い続けるギョームに、ケイトは楽しそうに笑って答えてやる。
「貴方が改ざんしたのは、石の種類ではなく――石の品質等級だ」
「――!!」
正解だった。
「建築素材になる石材や木材というものは、種類だけで値段が決まるものではありません。その品質によって細かく等級が定められており、同じ種類の石材であろうと、最高等級と最低等級には雲泥の値段差があるんです。貴方はこの値段差を利用し、税支出帳簿を改ざんした」
違いますが? と問われれば、違わないとギョームは返すしかない。
ケイトの言う通り、ギョームは最低等級の石材を最高等級と偽って記載する事によって、多額の差額金を前町長に着服させていた。
「鉱物最高の目利きであるドワーフ殿に確認をお願いしましたので、裏は取れています」
「っ……」
「なかなか上手い手ですよね。石材の種類自体が同じなら、多少詳しいくらいではこの詐欺を見抜くのは難しかったでしょう」
「……なぜ、あんたは気付いた」
「帳簿の石材の値段が高い、と感じた後で、ワイバーン襲撃の被害記録を読んだからです」
「……?」
「補修されていた橋の一本が、ワイバーンに少し接触されただけで、壊されてたんですよ。……最高等級の石材使ってるにしては、どうにも脆すぎるような気がしまして。それでもしかしたら、石自体の品質が悪いんじゃないかと思い当たったんです」
「……なるほど。……あんたも一を知って十を考えてしまうタイプだったか」
「おかげで充実した人生を送らせてもらっています」
「……嫌な女だな」
諦めたギョームは、自棄な気分で吐き捨てた。
お褒めにあずかり、と嫌味な口調で返したケイトは帳簿を閉じ、話を続ける。
「それでまぁ、あれこれと検証すると税支出の改ざんが出るわ出るわ。前町長というのは相当欲深な人物だったんですね。そしてその欲望を抑える気も無い。莫大な額の税金が、前町長の懐に収まったはずです」
「……」
「……貴方も、おこぼれでももらえました?」
「っ!! あの男にそんな気遣いがあったものか!! 銅貨一枚だって、私のような末端の使用人ごときに放り投げたりしなかったさ!!」
「ああ、まぁそうでしょうね。……貴方が前町長と共に甘い汁を吸えた立場なら、奥様の看護に使用人の一人くらい雇えたでしょう」
「っ大きなお世話だ!」
「いや、よかったと思いますよ。貴方は私腹を肥やしてないのが端で見ていて判る貧乏暮らしだったからこそ、この町の人達の風当たりが、そこまで強くないんじゃありませんか?」
「っ……親切にされているわけでもないがな。……所詮ワシは、町人を苦しめていた町長の下っ端だ」
罪を暴かれた脱力感を憶えながら、ギョームは欲望のまま奢侈と享楽に耽る、醜く肥満した雇い主を思い出してため息をついた。
そしてこの際だと、気になっていた事を逆に問いかける。
「……質問、いいだろうか?」
「どうぞ」
「……あんたの言う、町長の公にされていない別邸というのは……本当にあったのか?」
「それに関しては私も、これだけの裏金蓄財があれば、どこかにお楽しみ目的の隠れ家を手に入れていてもおかしくないだろう、という希望的観測しか持ってません」
「そ……そうなのか?」
推理というより妄想のような返答に、ギョームは唖然とするが、ケイトはケロリとしている。
「しかし『もし前町長の隠れ家に、オレンジ七号が監禁されていたとしたら?』――と思いついた時に、全ての情報と私の推理は矛盾無く統合され、一つの解答を出したのです。私は私の思いつきが正しかったのだと、現在確信しておりますよ」
「……確かにあんたの思いつきを、ワシも否定できん。……証拠は無いが、町長や町長の取り巻きの会話の端々から、そんなものがあるだろうと、ワシも予想はできた」
ギョームの言葉に、ケイトの背後で成り行きを見守るジェレミア、ハウルグ、ザイツ、キョウの表情が一様に強張った。
――ギョームが町長の隠れ家を知っている事は、オレンジ七号捕獲作戦その①を成功させるために、絶対必要だったからだ。
「……本当に、貴方は知らなかったんですか?」
「ああ。……本当だ。……なんなら、そこにいる小僧の妖精魔法で調べたらいい。……もう抵抗もできないからな。……せめて身に覚えの無い罪が着せられないよう、調査に協力したい」
「……」
ギョームの言葉にケイトが背後へと視線を向けると、背後の者達は皆難しい顔で首を振る。
「一応後でやるにしても……多分あの爺さん、嘘付いてねぇよな」
「お前もそう思うか、ザイツ?」
「私もそう思いますね」
打算と自己保身に満ちたギョームの言葉だったが、だからこそここで嘘をついて、心証を悪くする事はないだろうと、皆判断していた。
「……という事は……作戦②しかないんでしょうか……」
「……魔王女殿下……これも皆、事態を収められなかった私の責任!! 申し訳ございません!!」
「落ち着けジェレミア。まぁ、仕方ないわな」
「作戦②か……さて、まずはどうやって町人達を誤魔化すかだな?」
ケイトの後ろで暗い顔になって話し合う者達に、ギョームは戸惑う。
「……ワイバーン襲撃事件解決に、町長の別邸がそれほど重要か?」
「重要ですねぇ」
「だ、だが……ワイバーンがそこに監禁されていたにしろ、もうそこから逃げて、どこか別の場所に行ってしまってるだろう? だったら今更町長の別邸を探しても……」
「いいえ」
「え?」
ギョームの言葉をはっきりと否定し、ケイトは首を振る。
「私は、ワイバーン・オレンジ七号は、町長の別邸を自由に逃げ出せるようになってからも、そこを拠点としている可能性は高いと思っています。……いやむしろ、離れられなくなっているのではないかと」
「え? な、何故だ? 監禁された忌まわしい場所だろうに?」
「そう推理した理由は色々ありますが……最大の理由はこれですね」
ケイトは手にしていた紙束の中から、今度は真新しい書簡を取り出してギョームに見せる。
「……魔王国の言葉だな」
「はい。魔王海軍の、ワイバーン襲撃事件に関する報告書の一部、被害報告です。許可は得ているので、どうぞ見て下さい」
「……」
ギョームはケイトから手渡された数枚の書面を捲って確認した。
紙面には日時ごとに細かく、略奪された場所と品物が印されている。
「……」
――襲撃事件時に報告された、オレンジ七号の略奪物
パン屋○○より パン籠一個パン十個
民家××家より 毛布及びシーツ各三枚
民家△△家より 成人衣服男女兼用チュニック二枚
服屋▽▽より 反物五反
民家□□家より リンゴ樽一個 パン六個
パン屋○○より パン籠二個パン二十個
民家◇◇家より シチュー鍋中身ごと一個
薬屋◆◆より 薬箱一個
民家⊿⊿家より 焼き菓子入りの籠一個
民家■■家より 炭四束
――……etc
「……これ、が略奪物?」
「そう。これらがオレンジ七号が町から奪っていったものなんです」
「……」
「なにか、おかしくないですか?」
ケイトの言いたい事は、ギョームにもすぐに気付く。
「……ワイバーンが、必要としない物が多い?」
「はい、その通りです。パンや果実などの食料はまぁ、ワイバーンも食べるでしょう。しかし毛布やシーツ、洋服、シチュー鍋に薬箱なんてものを、ワイバーンが必要としますかね?」
「……」
ギョームは黙って首を振った。
「ただのイタズラでないとしたら、これはどういう状況だと思いますか?」
「……ワイバーンが、こういった者を必要とする者と、一緒にいる……という事か?」
ケイトは頷く。
「そういう事です。――詳細な事情は勿論判りませんが、ワイバーンは今、一匹ではない。そしてその傍らにいる誰かのために、町から生活用品と食料を持ち帰っているのです」
誰か。呟いたギョームにケイトは頷く。
「――さて、この誰かとは誰で、どこでオレンジ七号と知り合ったと考えるのが一番現実的だと思いますか? オレンジ七号は魔領域のワイバーンであり、人族領域の敵。人の大勢いる場所に出れば、人族と仲良くなるどころか、狩り立てられる立場です」
置き去りにされたオレンジ七号には、人族領域に行き場などないのです。
そうケイトが言った時、背後に立つジェレミアの顔は微かに強張った。
「そんなオレンジ七号が、敵の捜索網にも気付かれずに、なんらかの情を抱くほど長い時間一緒にいる事ができた存在とは……一体どこにいた者でしょうか? ……少し考えれば、一番可能性の高い答えは、判りますよね?」
「――自分が秘かに捕らえられていた、前町長の別邸に、居た者……か?」
「そういう事です。……」
ギョームが導き出した答えを肯定したケイトは、ふとギョームに向けていた視線を伏せて、腕組みした。その表情は、先程までの皮肉げな薄笑いとはうって変わって、真剣だ。
「……まさか、前町長がこの事件の黒幕なのか? ……別邸に潜伏した前町長が、なんらかの方法でワイバーンを懐柔して、操っている……?」
真剣な表情のまま、ケイトは首を振ってギョームの思いつきを否定する。
「前町長がオレンジ七号を操れるなら、もっと金目のものや高級食材を盗ってこさせるんじゃないですかねぇ。何しろ欲深な方のようですし」
「それもそうか……じゃあ、別邸に留守番役でもいて、そいつがワイバーンを世話して手懐けて……?」
「正解に近いかもしれませんが、ただの雇われた留守番なら外出くらい可能でしょうし、食べ物や生活用品が欲しければ、自分で町まで出て合法的に手に入れられますよね?」
「……?」
正解に近いと言いつつ否定されたギョームは、ケイトが意図する正解を導き出そうと考え込み――やがて考えるほど嫌な予感と悪寒を感じ、小さく呻る。
前町長やその取り巻きでもなく。
自由に別邸を出入りできる使用人の類でもない。
別邸の中に存在し続けた者。
「――それはつまり……捕らえられていたワイバーン同様……自由を奪われ、別邸に捕らえられていた……者?」
「……正しくは、『捕らえられていた』ではなく――『捕らえられている』者達ですね」
「――っ」
想像しない訳ではなかった。
欲深な権力者が、財宝と共に気に入った『生き物』を買い集める。
それを、別邸で『飼う』
それは、決して珍しい事ではなかった。
――だが。
「……なんと、むごい。……まさか、前町長は……捨てていったのか? ……誰も存在自体知らないような、誰も気付いてくれないような舘に……その者達を……捕らえたまま?」
ギョームは前町長がやった事を想像し、おぞましさに震えた。
「そういう事です。……よかった、貴方は悪事に手を染めていても、良心を残した人だ」
そんなギョームに頷き、ケイトは厳しい表情で宙を睨みながら結論する。
「オレンジ七号が奪った物を届けているのは――前町長に買われ、前町長が町から逃げる際、別邸に捕らえたまま放置された、前町長の奴隷達でしょう」
始末されなかっただけ、マシだったのかもしれませんが。そう呟くケイトの表情は険しい。
「オレンジ七号の潜伏先は、捕らえられていた前町長の別邸。そしてオレンジ七号は、同じく捕らえられている者達のため、町から度々食料や生活用品を奪い、その者達の命を繋いでいる。……これが情報と資料から導き出した、私の結論です」
反論できないギョームは、俯き頭を振る。
自分が心ならずも荷担してしまった罪の重さを、もう考えたくなかった。
だが、ケイトの言葉は止まらない。
「オレンジ七号を捕らえなければ町の被害はこれからも増え続けますし、オレンジ七号の潜伏場所を見つけなければ、オレンジ七号に支えられている者達の身が危険です。……彼らは奴隷です。飼い主の命令ならば、別邸から自由に逃げる事はできないでしょう。もしオレンジ七号が死にでもすれば、あとは飢え死にするしかない」
ケイトはその罪の一端を担った老人を睨み、きっぱりと言う。
「――だから私は、早く事件を解決しますよ。……あいにく奴隷なんてどうでもいい、家具や家畜や消耗品だろうと割り切れるほど、お偉くもないのでね。……救いたいんです」
その言葉はとても不機嫌で、そして真剣だった。
「……」
がっくりと項垂れたギョームは、ケイトとケイトの後ろで自分を睨む者達の迫力に耐えきれず、身を竦めた。
その頃。
【ギュェエエエエエエエ!!】
大海原の波間から巨大な怪魚を捕らえたオレンジ七号は、鋭いカギ爪でそれにとどめを刺して、『家』へと戻っていた。
――今日は魚しか、手に入らなかった。
――そろそろ、パンも果物も無くなってしまう。
――今度こそ、町で美味しいものを手に入れてやらなければ。
――あの子達は、食べる事が大好きだから、こんなものばかりじゃ可哀想だ。
何度も『敵』に邪魔をされ、オレンジ七号は不機嫌だった。
――私は、約束を守らなくてはならないのに。
オレンジ七号は、約束を交わした主を思い浮かべ、そしてその面影に誓う。
――バジル。我が主。
――お前を守れなかった私だが、必ず約束は守る。
――あの子達は、きっと私が守ってみせる。
――そして、お前の仇はとってやる。
――お前を殺した、あの竜騎士を必ず。
――バジル。我が主――我が友。
――約束する。必ず。約束を私は果たす。
――だから許してくれ。
――お前を死なせてしまった。
――お前の骸すら探せなかった。
――私を許してくれ。
――バジル。バジル。バジル。
――バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。バジル。
ここには無い姿を求め、大海原を彷徨うオレンジ七号。
焦点の合わない双眼は既に、正常な現実世界など映してはいなかった。
ウィルジニー「ヤwンwデwレwwww」
オレンジ七号「黙れデレデレ爺コンプレックス」
ウィルジニー「クレマンがショタだった時から愛してるもん!!」
オレンジ七号「おまわりさん変態です」
おまけでケイトの推理三行まとめ。
・オレンジ七号、前町長の隠れ家に捕まっていた。
・今も隠れ家を拠点にしている。
・拠点にしている隠れ家で、置き去りにされた奴隷達を養っている。以上。




