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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
空の英雄と魔王女一行 ~ワイバーンは何が欲しい騒動~
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76 作戦開始するが何かがおかしい

 初日に通された会議室の黒板前に立ち推理を披露し終えたケイトは、聴衆達をぐるりと見渡す。


「――さて」


 そして現状バロークに駐屯する魔王海軍の責任者代理である、王宮騎士ジェレミアへと視線を留めると、すぐ前の席に着いているジェレミアに恭しく一礼し、言葉を続ける。


「私の事件検証と推理は以上です。魔王海軍側から、何かご不明な点はございませんか、王庭騎士ジェレミア様?」

「……いや、特には無いなケイト殿」


 ジェレミアはケイトの言葉をしばらく熟考した後、まず静かに首を振り、そして答えた。


「検証推理でこちらの疑問には答えてもらったし、聞かされた解答に矛盾点も思い浮かばん。……真相かどうかはまだ断言できないにしろ、今の所、君の推理を否定する要素は無いだろう」

「それを聞いて安堵いたしました」

「……その上で、問おうケイト殿」

「はい」

「君の推理が真相だったならば――今ここからどうすれば、この事件をできるだけ早急に解決する事ができる? 何か策はあるか?」

「……」

「推理通りならば、人の命がかかっているのだろう?」


 僅かに眉根を寄せたジェレミアの言葉に、ケイトは頷き、そして微笑む。


「それを気にしていただけたのは、幸いです」

「確かに人族(ヒュー)は大嫌いだが、救えるなら救うさ。現状はそれも、任務に含まれるのだからな」


 仕事と個人的恨みは別物だ、と付け加えたジェレミアは、面白くもなさそうな顔で腕を組みケイトを睨んだ。

 これは失礼しました、とケイトはもう一度頭を下げた後、真剣な表情に戻って二本指を立てると皆に見せる。


「現状、このワイバーン襲撃事件を早急に解決できるだろう作戦を、私は二つ考えております。ですがその作戦には、それぞれ問題があります」


 二つ、と繰り返したキョウが、ケイトをじっと見つめる。


「まず一つめ。皆さん、先程私が推理で披露した通り、バロークの町には、――『オレンジ七号の隠れ場所を知っている可能性がある人物』がいますね?」


 ケイトの言葉に、既にその人物について説明されていた皆が頷いた。


「この人物に、オレンジ七号の隠れ場所まで案内させる。というのが、事件解決作戦その①です。運良く隠れ場所でオレンジ七号が眠ってでもいたら万々歳。その場で取り押さえて事件解決……と相成りますが……」

「問題があるんだったな?」


 確認するザイツに頷き、ケイトは説明する。


「……この作戦の問題はですね……この人物がオレンジ七号の隠れ場所まで知っている可能性が、実はあまり高くない事なんですよ」

「えぇ? なんだそりゃ」

「そのまんまだよザイツ。先程説明した通り、その人物はオレンジ七号とその事情をある程度知っている可能性がある。だがその人物が持つ情報量は不透明で……オレンジ七号の隠れ家まで知っているかどうかは、私にも正直判らないんだ」


 難しい表情になったケイトは腕組みした。ザイツは続ける。


「本人に確かめてみるまで、判らないって事か?」

「そうだね」

「……()()()が、オレンジ七号の隠れ家まで知ってる可能性は、どのくらいあると思ってる?」

「うーん……半々……いや、三割可能性があれば、良い方かもしれない。こればっかりは、私の勘だけれどもね」


 誰とも無く、失望のため息が漏れた。


「つまり、作戦成功の可能性も三割以下か……それは確かに、問題だな」

「おっしゃる通りですジェレミア様。正直私は、その人物が詳しく知ってたら幸運だった、くらいに考えております」

「……という事は、もう一つの作戦は、まだこれよりも、可能性はあるのだな?」

「……それは」


 ジェレミアの問いに、ケイトは唇を引き締め頷く。


「はい。……作戦その②。こちらの方が相当、オレンジ七号捕獲成功の可能性は高いはずです」

「ほう? その方法とは?」

「その方法とは――オレンジ七号をおびき寄せるというものです」


 ジェレミアの目が、一瞬細まる。


「単純だな。私管轄で魔王海軍も何度も試して失敗した事だ。……だが勝算があると?」

「はい」


 端的に返したケイトは、更に言う。


「私の推理が正しければ、この作戦で、オレンジ七号がおびき出されてくるはずなのです」


 はっきり断言したケイト。だがその表情は優れない。


「その割には、お前は乗り気じゃねぇようだなケイト? 何故だ?」

「……」


 ハウルグの問いに、ケイトは僅かに躊躇した後顔を上げ、静かに答えた。


「――真っ当な方法ではないからです」


 確認するように、その場の皆は黙ってケイトの言葉を待った。


「正直に申し上げます。――これはこの作戦を考えた私でさえ、やりたくないと思う方法です。……もしこの作戦を実行した事がばれれば、私達は確実にバローク住民達から恨みを買い、非道、冷酷、不名誉の誹りを受けるでしょう」

「え、ええっ?! ケイトさん、何を考えたんですか?!」


 物騒な言葉に、驚いたキョウの声が返った。

 ケイトは答える。


「私が考えた作戦はこうです。――まず――……」


 ケイトは感情を抑えた声で、二つめの作戦計画を説明する。


「――、という作戦です」


 話を聞いたその場の皆は―― 一様に、言葉を失った。


「……け、ケイトさん……それは……あまりにも……」


 やがて、血の気が引いた顔のキョウが、おずおずと声を上げた。


「人族はやはり野蛮だな!! そのような礼儀を弁えぬ非道、騎士として断じて許せぬ!!」


 怒りを吐き捨てるように、ジェレミアが言い放った。


「……理屈としては判るぜケイト。成功率が高いってお前の考えにも、賛成だ。……だがバローグの治安維持任務を請け負っている魔王軍がやって良い事かどうかって言えば……厳しいだろうな?」


 よく考えたのだろう、腕組みしたハウルグは真面目な顔で首を振った。


「……」


 そんな皆の言葉を聞きながらザイツはしばらく考え、そして発言した。


「――ケイト、俺はいいと思う」


 ギョッとしたキョウ、蔑むジェレミア、やや驚いた風なハウルグの視線が、一斉にケイトからザイツへと集中した。

 皆に続き、ケイトもザイツを見つめ言う。


「……賛成してくれるのか、ザイツ」

「ああ。考えたけど、お前の作戦以上の策は浮かばなかったからな。……あんたは浮かぶのか、マーマンのお偉いさん?」

「それはっ! ――それとこれとは、別問題だ!!」


 ジェレミアの声には、ケイトの作戦に対する拭いがたい嫌悪に溢れていた。だがザイツの言葉を、否定はできない。


「ザイツさん……」

「キョウ姫、早急に事件は解決されるべきなんだろう?」


 ザイツに声をかけたキョウは、ザイツの返答に声を詰まらせ、ザイツを見上げた。


「っ……」

「さもないと、犠牲がでるかもしれない。だからできる限り急がなきゃならない。俺もそう思うよ。だからケイトの作戦に感じるあれこれは、脇に置いておこうと思った」

「それは……」


 置いておけるか!! というジェレミアの怒声を押しとどめ、今度はハウルグがザイツに問う。


「現実的な問題はどうするザイツ? 魔王海軍がこれ以上バロークの住民達の反感や恨みを買えば、より深刻な政情不安や治安悪化を招く可能性もあるんだぞ?」

「作戦が、ばれなきゃいい」

「……あっさり言うなぁ、お前」

「嘘や誤魔化しってのは、こういう時ほど活用すべきものだろう? バロークの住民達だって真相を知らなくても、事件がさっさと解決して平穏な生活が戻ってくればいいじゃないか」


 卑劣な、と心底嫌そうなジェレミアの声が聞こえた。ザイツは返す。


「うん。でも俺は冒険者だから、卑怯でも卑劣でも仕事を達成できる方がいい」


 ジェレミアは一瞬目を見開き、更に眉根を寄せて口を閉じた。

 ジェレミア同様、キョウ、ハウルグ、発案者のケイトも、複雑な顔で黙り込み。

 だがザイツの意見に否定的でないのは、なんとなくザイツにも通じる。



「――とにかく、まず最初の作戦を試せばいい。そう手間がかかる事では無いからな」


 やがて仕切り直すように強い口調で発言したのは、着席していた椅子から勢いよく立ち上がったジェレミアだった。


「ケイト殿の言う、『オレンジ七号の隠れ場所を知っている可能性がある人物』を呼び、情報量を確かめる。その人物が、本当にオレンジ七号の隠れ場所を知っていればそれでよし! 後は魔王海軍がなんとかする!」

「お、おう」

「う、うん」

「あ、はい」


 ジェレミアの言葉の端々に、その成功を祈るような焦りが見え隠れしていたが、皆見ない振りをした。――正直それで事件解決なら、ザイツだってその方がいい。


「そ、それで駄目だった時は……?」


 それでも確認したく無い事を確認しまったのは、キョウだった。

 聞かれたくなかった事を主筋たる姫君に尋ねられたジェレミアは、人魚を思わせる神秘的な美貌を一瞬引きつらせ、だがすぐに姿勢を正すと恭しく答える。


「………………バローク民が一刻も早く平穏な生活に戻れるよう、手を尽くします」


 ――こいつ今妥協したな、とザイツは思ったが黙った。 

 ジェレミアはそんなザイツから目を背け、会議室出入り口前の、直立不動の姿勢で立つマーマン海兵に命令する。


「飛空母船エギーリャ司令官代理権限により、王庭騎士ジェレミアが命じる」


 は、と敬礼した海兵は、命令を待つ。



「――バローク町、元町助役のギョーム・マーレを連行しろ」



 ザイツの妖精を追い払った老人がエギーリャに連行されて来たのは、それから約一時間後の事だった。


「なっ!! なんじゃ!! ワシが何をした!! ワシが何故魔王海軍に連行されねばならん!!」

「やれやれ……まずそこから説明が必要ですか町助役殿?」

「なっ」

「――貴方が何をしたか、判っているのですよ?」

 

 そう言い冷淡な目で自分を見下ろすケイトに、町助役の老人――ギョームはビクリと全身を振るわせ、歯を食いしばった。

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