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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
空の英雄と魔王女一行 ~ワイバーンは何が欲しい騒動~
73/201

71 捜査方針を立てるが何かがおかしい


 夜の港の隅に集まった魔王女一行を前に、ケイトは小さく咳払いした後、一応言っておきますが、と口を開いた。


「――私は探偵ではなく、学者兼冒険者なんですよ皆さん。……とはいえ、雇い主の御意向に添うのも仕事の内なので、探偵の真似事をするのもやぶさかではありませんが」

「じゃあ早速、探偵として何か判りますかケイトさんっ?」

「申し訳ありませんが姫様、結論を出せる程の情報を得ていないので、まだなんとも言えません。……今まで聞きかじった情報(モノ)だけで、無責任な仮説を立てる事くらいならできますけど」


 あまり意味はありませんが、と苦笑しケイトは首を振った。


「……というか正直な所、この町に在る誰を『黒幕』にしても、仮説が立てられるんですよね……」

「ええと……それはケイトさん、魔王海軍や町人の誰かが黒幕になってもおかしくないってことですか?」

「そういう事です姫様」


 キョウの問いに頷くと、ケイトは常備品なのか細身の白粉塊(チョーク)を取り出し、傍らに立っていた黒い石壁に、サラサラと書き付ける。


「先程ハウルグ卿がおっしゃっていましたが」


 ①まだ戦争が終わって欲しくなかった奴等

 ②勝敗や戦果が気に入らなかった奴等

 ③戦争が終わった事が理解できない奴等


「――の、大まかに分けて三種類の『また戦争したい』動機を、現在この町に在る者達は、多かれ少なかれ持っていておかしくないんです。――ああ勿論、私達のように単なる通りすがりの旅人などは除外しますが」


 黒壁に書かれた文字を見つめ、キョウは呻る。


「……うーん。敗戦した人達が、その結果を受け入れられずリベンジしたいって思うなら、気持ちは判ります」

「そうですね。好きこのんで敵国に降伏し支配下に置かれたわけではなし、恨み辛みと鬱積は貯まっているでしょう。バロークの人族には魔王軍への嫌がらせ目的で、戦争というか争乱、騒動を起こしたい動機はあります。つまり②ですね」


 ケイトとキョウは頷き合う。


「はい。……でもケイトさん、戦勝国側のマーマン族やハーフリット族が、まだ戦争したいなんて動機を持つんですか? 勝利して終戦なら、一安心じゃないですか?」

「持ってもおかしくはないと思います。動機としては、①+②というところか」

「なぜ?」

「復讐のためですね」


 ふくしゅう、と繰り返したキョウは思い当たったのか、表情を強張らせた。

 キョウの内心を肯定するように頷き、ケイトは続ける。


「周知の事実ですが、マーマン族は人族領域で暮らしていた頃、人族に美しい女――マーメイドを略奪されていました。……捕らえられたマーメイド達は高値で取引され、凄惨に弄ばれ、そして血肉を妙薬として利用されて死んでいったそうです。……彼らが人族への怨嗟に猛り、同じ目に遭わせてやりたいと思っていてもおかしくはない」

「――だがさっさと降伏されちまったせいで、この港町の連中を皆殺しにする事はできなくなった。――まだまだ殺したりない、敗戦国の人族を根絶やしにしなければ、胸に抱いた復讐心は収まらない。――だからそのための口実が欲しい。……とでも、マーマン族が思っているってかケイト?」

「一応、仮説の筋は通っているでしょうハウルグ卿?」

「ああ、通ってるな。マーマン族は人族に恨み骨髄だ。敗戦国の連中を皆殺しにしてやりたいと考えたって、全くおかしくはないさ。――やるかやらないかは、別としてな」


 そうですか、とあっさり頷いたケイトはハウルグに問う。


「マーマン族は、やりませんかね?」

「可能性がゼロとは言わないが、低いと俺は思うね。あいつらナリは怖いが、あれで中々義理堅くて理性的な種族なんだ。忠誠を誓う魔王陛下が終戦の有り様を定められたのならば、個人的感情はどうあれ、大部分はそれに従うだろう」

「ふむ……」


 ハウルグの言葉を吟味するように、ケイトは少し考え。 


「……つまりマーマン族の中でも一部分くらいは、私の仮説通りに荒ぶる可能性があるという事ですか」

「否定はしねぇが、揚げ足とるなぁ」

「性分ですので。――とにかくこれが、マーマン族黒幕仮説です」


 一つめの仮説をまとめた。


「確かに現状では、仮説にしかなってねぇな」

【証拠は何もないであるからな】

「そりゃそうだよ。そういう動機がある、という事実確認程度にしかならない」

「うん」

【であるな】


 ケイトに言われ、ザイツとその頭に乗っていたカンカネラは頷いた。

 話を聞いていたキョウが、続けてケイトに問う。


「……だとするとケイトさん、ハーフリット族もその動機で黒幕になりえますか?」

「可能性としては、あるでしょうね。彼らも人族領域で暮らしていた頃、愛玩用として女達を人族の変態に略奪されていた過去があります」

「ハーフリットさん達も……かわいいですからね」


 ケイトはちらりと港に停泊している魔王海軍の高速船へと視線を移し、言葉を続ける。


「ですからその復讐心に燃えていても、おかしくはない。……とは思いますが……」


 高速船前では、三叉槍を手にしたウーゴ准尉が、包帯だらけのハーフリット達に囲まれていた。


「戦ったらお腹がすいたんだぞーっ。お夜食お夜食ーっ」

【貴様ら治療中だろうがっ!! 安静にしとらんかぁー!!】

「腹が減っては安眠ができないんだぞーっ」

「おやつよこすんだぞーっ」

「確かこの辺に……あっ、海藻チップみつけたんだぞーっ」

【あっこら俺の荷物を探るなぁ!!】

「海藻チップかぁー。まぁ無いよりはマシなんだぞーボリボリ」

「今度から、果物も入れておいて欲しいんだぞーボリボリ」

「ケーキでもいいんだぞーボリボリボリ」

【と言いつつボリボリ喰うな俺のおやつーっ!!】


 相変わらずの平和な光景を見たケイトは、やがて視線を逸らし小さくため息をついた。

 

「……思いますが…………彼らに復讐などという、気力と体力と執着心が必要な難事を企てる頭が、そもそもあるかどうか。……いや勿論、エスター少尉のような理知的なハーフリットもいますし、可能性としてはゼロではないと思うのですが……」

「大部分のハーフリット達は、辛い事悲しい事があっても、喰ってるうちに、色々忘れてそうだよな」

【お馬鹿さんな一族である。あの呑気さは、ちょっと羨ましいである】

「ははは、飛行士としては、優秀な種族なんだがなぁ」


 ケイト、ザイツ、カンカネラの言葉に、ハウルグは苦笑した。


「……あ、でも、エスターさんは、お父さんの仇討ちをしましたよね?」


 そして思い出して言うキョウに、説明する。


「殿下、あれは別に、エスター少尉がやりたくてやったわけじゃないんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ。……『英雄』の後継者が親の仇討ちもできないとは情けない、とか難癖つけてくる奴等がいましてね。そいつらを黙らせるために、エスター少尉は行動で示すしかなかったんです」


 仇討ちの裏事情に、ザイツが驚いたように言う。


「へぇ。騎士サマとか御貴族サマとかか、おっさん? 魔王国にもやっぱり、鬱陶しいヤツはいるんだな」

「そりゃあいるさ。……高位魔族のドラゴニュート族つってな。魔王国建国以来の旧家で、魔王国の空戦の主力を担ってきた武の名門、ついでに魔王の代々の後宮に一族の娘を送り込み、魔王の生母を何人も輩出した、魔王家の姻戚でもある」

「うわぁ、めちゃくちゃ偉そうな奴等じゃねぇか」

「実際偉いんだよ」

「なんでそんな連中が、ハーフリットなんて気楽なチビ達に難癖つけるんだよ」

「気楽なチビ達が自分達の領域(空)で活躍するのが、気にくわねぇんだとさ」

「器が小さいな」

「そうですよねザイツさんっ。ペットボトルの蓋並みの器だと私も思いますっ」

「……ぺっとぼとる?」

「……ぺっとぼとる? ……まぁいいか」


 そろそろ慣れてきたキョウの謎発言を流し、ハウルグはケイトに向き直る。


「なぁケイト、この町じゃなく、外部に黒幕がいるってのもありえるよな」

「勿論ありえますね。……例えばそのドラゴニュート族が更にハーフリット族の英雄を貶めるため、英雄の騎竜を使って嫌がらせをしている――などという仮説も立てられるでしょう」

「おっ、それいいな。なぁなぁ、お前の推理でそういう事にしちまわねぇか?」

「そうだな、嫌なヤツが黒幕なら、めでたしめでたしだ」

【姫様のために、魔王国の老害は滅ぼすべきであるっ!!】

「こらこらこらこら。ハウルグ卿、ザイツ、カンカネラ君」


 物騒な事を言い始めた男達を、ケイトはチョークを振って止める。


「根拠が無いそれは、推理じゃありません。捏造というんです」

「終わりよければ全て良し、って言葉があるじゃねぇか」

「権勢一門に濡れ衣なんか着せたら、間違い無く良くない事態になるでしょうよ。……全くハウルグ卿、貴方随分とドラゴニュート族がお嫌いのようですね」

逢い引き(デート)に誘いたい連中じゃあねぇな」

「ははは」

「あ、お前は誘いてぇな~ケイト。今度どっか行かねぇ?」

「行きません。……しかし、可能性としてはあってもおかしくないんでしょうね。各国の有力者達は、今も現在進行形で、この土地の戦火を利用しているんでしょうし」


 別にドラゴニュート族に限った事ではありませんが、と付け加えたケイトは、高速船の強い灯りに照らされた夜のバロークを見渡し、やや真剣な表情で言う。


「この町にも旅行者を装って、どれだけの国の工作員が入り込んでいるのでしょうかね……」

工作員(スパイ)……ですか?」

「はい。……各国の工作員、彼らの動機は③ですね。戦争当事者国を取り巻く各国は、戦闘が終わっても、戦争が終わったとは考えてません。理解できないというよりは、理解しない。彼らは戦乱で乱れた土地で、何か利用できないか、弱みにつけ込めないか、自国の利益を生み出せないかと画策しているわけですよ」

「う、うわぁ……えぐい」

「全くえぐい話ですが、そういう連中が黒幕の企て、という可能性もあるんですよね」


 呆れたような口調でそう言うと、ケイトはまたチョークを黒壁に走らせ書き付けた。


 黒幕候補。

①バローク町人

②マーマン族

③ハーフリット族

④上記三者のいずれかに思う所がある、外部者(※例ハーフリット嫌いのドラゴニュート)

⑤戦乱で乱れた土地を利用したい、外国勢の工作員

⑥その他


「――以上書き出してみましたが……こうして見れば一目瞭然ですね? この町に在る者達は、皆黒幕になりえる可能性と動機を仮説立てられるんですよ」

「な……なるほど。……うーん……」


 黒壁を眺めていたキョウは、やや呆然としたように呟き、腕組みする。


「……容疑者多いですね」

「そうですね。この中から黒幕を断定できる証拠が、果たして掴めるかどうか」

「難しそうだな」

「そ、そうですね……」


 うんざりした顔で呟いたザイツに、キョウも思わず同意し頷いた。

 

「――という事で、この事件の解決には、幸運の要素もかなりあると思って下さい。結論を出せるほど証拠が集まらなければ、私にはお手上げです」

「は、はい……大変な事をお願いして、すみませんケイトさん」


 ケイトの言葉にキョウは頷いて謝罪し、そして再び顔を上げる。


「――でも、できるだけお願いします。私もがんばりますから、証拠を見つけましょうっ」

「……姫様は本当にお優しい。人族を含む見ず知らずの者達のために、お心を砕かれますか?」

「え?」


 諦めないキョウの言葉に、ケイトは苦笑混じりで返した。


「……そんなんじゃないですよ。でもこのまま騒ぎが大きくなっちゃったら、みんな大変じゃないですか。……取り返しの付かない事に、なってしまうかもしれないじゃないですか」


 そのケイトに首を振り、やはり苦笑を浮かべキョウは応えた。


「……魔王女様なら、放っておかないと思うんですよね」

『……? ……魔王女という立場としては、という意味だろうか? ……まぁ、その態度は嫌いじゃない』


 少し妙な言い回しだと思いながらも、ケイトはキョウの言葉に納得する。


「では姫様、私はその魔王女様に雇われた者として、この事件を放っておかない事にしましょう」

「ケイトさん……ありがとうございますっ」


 ケイトの言葉に、キョウは安堵したように微笑んだ。


『……やはり美女だな。冷たいほど整った魔族の美貌でありながら、浮かべる表情は素直で素朴で、可愛らしさすら感じるとは……これが計算だったら、恐るべしだが……』

「おーいケイト、女同士で見つめ合うなって~」

「……コホン。そんなんじゃありませんよ、ハウルグ卿」


 そんなキョウを凝視し考え込んだケイトを呼び戻したのは、ハウルグだった。


「……んで、まずどうするんだ?」

「話が聞きたいですね。……できれば魔王軍側ではなく、オレンジ七号に襲撃された当事者である、バロークの人族達から。それから魔王海軍が保管している、オレンジ七号の襲撃記録を拝見したい」

「殿下経由のお願いなら、いけるだろう。……ふぅん? ケイト、お前難しいと言いつつ、それなりに捜査方針は立ててるじゃねぇか?」

「そんなんじゃありませんが……まず気になるところから潰していこうと思いましてね。……黒幕容疑者が多すぎる以上、注目すべきはオレンジ七号だと思います」

【……オレンジ七号であるか】


 ケイトの言葉にポツリと言葉を漏らしたのは、魔烏(クローメイジ)姿に戻ってザイツの頭の上に陣取っていたカンカネラだった。


「どうしたバカラス?」

【誰がバカラスかっ。……いや、先程から皆で動機動機と話し合っていたが……あいつの動機はなんなのかと思ったのである】

「……オレンジ七号の、動機?」


 頭の上から振ってくるカンカネラの言葉に、ザイツは首を捻る。――正直知能が低いと言われているワイバーンの心情など、考えもしなかった。


「うーん? ……飼い主亡くして彷徨ってた時に餌付けかなんかされて、そのまま黒幕の手先になっただけじゃねぇか? ……ワイバーンって、牛馬より少し賢い程度なんだろう? 忠誠心なんてご大層なものを持っているとも思えねぇし」

【失礼であるぞザイツっ! 例え頭があまり良くなかろうと、一度主を持った魔獣は、そう簡単に裏切ったりしないのであるっ!! それが隷属ではない、主との絆なのである!!】

「そ、そういうもんか? ……でもお前はそうかもしれないけど、オレンジ七号は、裏切ってるよな」

【う、うむ……だから何があったのか、気になるのだ】


 ザイツの返答に、カンカネラは動揺したようにそう言うと、モゾモゾと翼を擦り合わせる。


【英雄バジル・アビルトンが、自分の騎竜と兄弟のように仲が良かった事は、我輩も知っているである。……だから気になるのである。何故オレンジ七号は、バジルが守りたかった母国に、仲間であったハーフリット飛行隊に牙を向ける?】

「……」

【……オレンジ七号が今何を考え、何を求めているのか……事件に大きく関係しているのかは判らんが……我輩それが、とても気になるのである】

「……うーん……」


 いつになく悲しげな様子で語るカンカネラにつられ、ザイツはオレンジ七号の心境を考えてみる。


『……戦いでバジルを失い、一匹(ひとり)ぼっちで戦地を彷徨った、ワイバーンか……』


「……やっぱり寂しくて腹も減って、つい悪党に騙されて、フラフラと付いていっちまったんじゃねぇのか?」

【ザイツっ! 貴様魔獣を軽く見過ぎである!!】

「いや、俺もオレンジ七号の立場だったら、そうしかねないと思っただけだ」

【……お前、根性無しであるな】

「馬鹿野郎。……戦地で一人で空腹で、ってのは、すげー辛いんだぞ」

【……経験者は語る、であるか?】

「二度と経験したくない経験だったぜ」


 昔を思い出したザイツは、少しだけオレンジ七号に同情しながら、夜空を見上げた。


『……オレンジ七号か。……あいつは今どこで、何を考えているんだろうな……』


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