65 話し合ったが何かがおかしい
【ヒヒ~ンっ】
「おお、遅かったなガンバー君。よしよし、船酔いはしていないか?」
【おつかれであるガンバー。水の上は怖くなかったであるか?】
ジェレミア、そしてハーフリット達との質疑応答が終わった頃に、陸地と飛空母船エギーリャを結ぶ、ハウルグとガンバ―を乗せた船が到着した。
「お~い、この色男は無視かよケイト~?」
「ああ、いたんですかハウルグ卿。いかがわしい浪漫とやらを妄想しがまんできなくなって、バロークの娼舘にでも突撃してるのかと思いました」
「ひでぇなぁ。海中の華マーメイドに、ちょっと夢見ただけだってのに。あ、もしかして妬いてるか~?」
「妬いてません。それじゃあガンバー君、また後でな」
【ヒヒ~ンっ】
馬車とガンバーをエギーリャの厩舎に預けた魔王女一行は、エギーリャの甲板に上がって明るい空と海を見渡しながら、今回の一件について話し合った。
「――殿下、俺も話は聞きましたが、とにかく制御不能で人の街から盗難を続ける、オレンジ七号をなんとかしなければならないんでしょう?」
「……エスターさんやコリン君達のため、できる事なら殺さずに、です。……可能でしょうかハウルグさん?」
キョウに問われたハウルグは、多少考えながらも答える。
「うーん……生きたまま無力化して捕縛できれば、それを殺せとはジェレミアも言わないと思いますがね」
「強盗罪とか、その辺は大丈夫なのかおっさん?」
「騎竜も含めて魔王軍の騎獣ってのは、魔王軍所有の兵器扱いなんだよ。何千人殺そうと、大砲や剣そのものが罪に問われる事がないのと同じだ」
「そういう扱いなのか」
「ああ。で、オレンジ七号という『兵器』の主、バジル・アビルトンは既にこの世にはいないからな。軍法会議で監督責任を問う事もできない」
「……つまりオレンジ七号は、法で裁かれて処刑される事はないわけだ」
「このままじゃあ、ただの町を荒らす害獣として処分されるけどな」
ハウルグは、困ったように頭を掻きながら付け加える。
「……主を失った騎竜を保護できず、敵地で見捨てちまったのは、仕方がなかったとはいえ魔王海軍だ。ジェレミアだって内心では気の毒に思ってるだろうし、積極的に殺したくはないはずだぜ」
「だが情に流されて『害獣』を見逃すタイプでもない以上、殺したくないのならば、早急にオレンジ七号を無力化して捕縛する必要がある……というわけですか」
話をまとめたケイトは、自分で発した言葉に思わず顔をしかめ、ぼやく。
「無力化して捕縛……難しいな」
「む、難しいですかケイトさん?」
「ええ。陸の上ならともかく、相手は落下しただけで命の危険がある、遥か上空を飛んでいるんですよ。そりゃ生かして捕らえるより、殺した方が何百倍も簡単でしょうよ」
「だよなぁケイト」
「俺も、そう思う。……っていうか俺、空の上で何かできる自信がない……」
「どうしたザイツ、顔色が悪いぜ?」
「……ほっとけ、おっさん」
ハウルグとザイツも、ケイトに同意して頷いた。
「ま、魔法とかで捕まえられませんかね? ほら、ケイトさんのサラマンダーの檻とかでっ」
「どんな魔法だろうと、上空を高速で飛ぶ竜にきちんと照準を定めるのは至難の業でしょう。私も自信はありません」
「うっ……じゃ、じゃあ可哀想ですけど、一度殺してから魔法世界の反則技、蘇生魔法で助けるというのは……」
「それも空から落下して首の骨を折ってたり、バラバラになってたら、とても蘇生なんて無理だろうな。手加減なんかできる余裕はないだろうし。……下手に蘇らせたら、ドラゴンゾンビの一丁上がり、なんて大惨事になりかねない」
「生きてて欲しかったオレンジ七号のゾンビ姿とかっ、エスターさんが余計に可哀想ですよっ」
ケイトとザイツに次々否定され、キョウは涙目になった。
少し考えたハウルグが、また発言する。
「……一番良いのは、オレンジ七号の現在のねぐらを突き止める事なんだがな」
「あっ、巣ですか! あるんですかね?」
「そりゃあ竜は、ずっと飛び続けて一生空で暮らす事ができる生き物じゃありませんからね。オレンジ七号だって地上のどこかに縄張りを作り、そこで休んでいるはずです。……間違い無くジェレミアも、空兵での討伐作戦と同時進行状態で、そっちの探索をしているはずですよ」
「そっか……寝込みを襲っちまえば、空に行かなくてもいいんだよな。……空にいかなくても……」
「……ザイツ、そんなに怖かったのか?」
「……で、巣ってのは見つけられそうなのかおっさん?」
「……」
ザイツは話を逸らすように、ハウルグに尋ねた。
ハウルグは、苦い顔で首を振る。
「いやぁ、そう簡単にはいかないだろうよ。……周囲の関所を通過しなければならない陸地と違って、空には国境が無いからな」
「確かに、どこからでも簡単に飛んで来られるもんな」
「バローク領内にいない可能性もありますよね。少し飛べば外国領ですし、見た所海の上には、あちこち無人島が点在しているし」
「……無理ですかねぇ」
「……時間はかかるだろうな」
「……バローク領内を調べ、付近の無人島を調べ、更に外国の領土まで調べるなら許可が必要ですし、その許可が降りるまで、また時間がかかります」
「……ねぐらを突き止めるまで待ってたら、被害が拡大するだけだろうさ。ジェレミアの早急に討伐判断は間違ってねぇわ」
魔王女一行は、空を飛ぶ者を捕縛する難しさを、改めて痛感した。
「あっ、おひめさまだっ」
「おひめさまーっ、オレンジ七号を助ける方法考えてくれたーっ?」
「エスター隊長を泣かせない方法考えてくれたーっ?」
「おひめさまーっ。……あっ、一人増えてるっ。おっさんだれーっ?」
「おっさんだれーっ?」
「だれーっ? おひめさまの仲間ー?」
「旅の仲間ー?」
そこに、甲板に出て来たハーフリット達が、竜を連れて来る。コリンやエスターはいない。
キョウは小さくため息をついて首を振った。
「まだ何も、浮かばないわ。ごめんね」
「そうなのーっ?」
「うかばないのかーっ?」
「おひめさまでもだめなのーっ?」
「やっぱりオレンジ七号、死んじゃうのーっ?」
悲壮な顔で騒ぐハーフリット達が気になるのか、竜達も首を伸ばして、顎でハーフリット達の頭を撫でる。
【グルグル】
「グレープ四号……きっと大丈夫だよっ」
【グギャウ……グウ】
「ブルーベリー十三号、お前はオレンジ七号を怖がってたのに、やっぱり心配なのか?」
ハーフリット達はそれぞれの竜を宥め、会話していた。
「……やっぱり、君達と竜は仲がいいのね?」
「当然だよ、おひめさまっ」
栗色の巻き毛のハーフリットが、得意げに返す。
「こいつは、俺の相棒グレープ四号は、卵から孵った時から、俺が育てたんだから」
「産まれたばかりの頃から、一緒なの?」
「うん。ワイバーンは一年くらいで大きくなって竜舎に入るんだけど、それまでは、相棒って決まったハーフリットが、家で責任もって育てるんだっ。そうすると、仲良くなるっ」
なるほど、とケイトが感心したように手を叩く。
「卵生生物の刷り込み本能を利用して、騎竜として飼育しているんですね」
「そう言っちまうと見も蓋もねぇが、だがハーフリットに育てられれば、確かにワイバーンもハーフリットに懐いて従うだろうな」
「よくわかんないけど、魔王様にワイバーンを預けられた時、そうしろって命令されたらしいよっ」
栗毛のハーフリットは、嬉しそうに相棒ワイバーンの鼻面を撫でながら続ける。
「だから俺達ハーフリット飛行士にとって騎竜は、世話しなきゃいけない弟妹みたいなもんなんだ」
「じゃあ、お父さん……バジルさんが育てたオレンジ七号も、やっぱりエスターさんにとっては……」
「うん……兄みたいなものだったと思うよ。小さな頃からエスター隊長はオレンジ七号が大好きで、オレンジ七号も、エスター隊長が気に入ってたのか、よくじゃれてた」
「……お兄さんを、殺したくなんかないよね……」
「コリンは、特にそう思ったんだんだと思う。……あいつも同じだから。あいつはずっと、エスター隊長の傍で育ったから」
「育った?」
「あいつ、外から来た孤児なんだ。バジル様御夫婦に引き取られて、お屋敷で育ててもらったんだよ」
「……そういう事か」
コリンがあそこまで必死な理由を、キョウと共に話を聞いていたザイツも判った。
「コリンは、エスター隊長も、オレンジ七号も大好きなんだよ。……だから傷つけたくないって、一生懸命なんだ」
「そうか……」
ザイツは、エスターがキョウに問われ、オレンジ七号を殺せると断言した時の事を思い出す。
―そんなのダメだぞ!!―
―コリン、やめなさい―
―やだ!! やめないぞ!! エスター隊長は――エスター隊長だけは、オレンジ七号を手にかけちゃいけないんだぞ!! そんなの――絶対バジル様だって悲しむんだぞ!!―
―コリン、いいかげんに―――
― ――だったら俺が!! 俺がオレンジ七号を倒す!!―
―っ―
―誰かがやらなきゃいけないなら俺がやる!! 俺があいつを止める!! ――あ、相打ちになったって!! 俺があいつを―――
「……って言ったら、エスター少尉が殴ったんだよな」
それでもエスターに最後まで反抗するコリンは、発言は撤回しなかった。
少し頭を冷やせとジェレミアに怒られたコリンは、そのまま船底にある懲罰房につれていかれた。
「コリンは馬鹿だ。……コリンが死んだって、エスター隊長は悲しむのに」
「馬鹿な兄弟達に苦労するな、エスター隊長は」
「……そうだね」
ザイツの軽口に、ハーフリットはくすりと笑って明るい表情になる。
「懲罰房って食事抜きなんだよっ。最悪だよなーグレープ四号っ?」
【グルグル】
「お前らハーフリットには、なによりの罰だろうな。……けど、なぁハーフリット?」
「ん? 何人族?」
「食事っていうか、食い物って言えばさ……なんでお前らのワイバーンって、食い物の名前なんだ? そういう決まりでもあるのか?」
「え?」
ハーフリットは、不思議そうに首を傾げ、問いかけたザイツに答える。
「決まりなんか特にないけど、みんな好きなものの名前を、つけてるだけだぞ?」
「……つまり、お前達は全員食い物が大好き……と」
「そうだけど、変かな? お前なら、なんて名付けるんだよ人族?」
「俺か? ……えーと、金貨一号、銀貨二号とか?」
「欲深っ」
「うるさい。……ええとじゃあ……キョウ姫。魔王国のお姫様なら、なんて名付けるんだ?」
「えっ? 私ですか? ……好きな物……うーん……沢山あるけど……」
突然話題を振られたキョウは、悩んで答えた。
「ローソ○一号、セブンイレブ○二号、ミニストッ○三号、ファミリーマー○四号……」
「……?」
「あっ、好きな物は多いんで、好きな物が一杯売ってる所にしましたっ」
「なるほど、わからん」
高貴な姫君が知る店は、やはりよく判らないとザイツは思った。
【姫様姫様~、我輩なら騎竜に、飾り玉一号、ガラス玉二号、ヘアピン三号と名付けるでありますっ】
「カンカネラさんは、本当にキラキラしたものが好きですね。さすがカラス」
「じゃあ俺は、ケイト一号にするか♪ ケイトケイト~、お前もハウルグ一号と名付けていいんだぜ~?」
「女好きの駄竜に育ちそうなので結構です」
いつも通りハウルグをさらりと拒否したケイトは、ふと真面目な表情に戻って空を見上げながら、言葉を続ける。
「……しかし駄竜だろうが狂竜だろうが、天空を自由自在に駆ける彼らを捕まえるのは……やはり難題ですねぇ」
声につられたのか、その場にいた皆も空を見上げる。
「……どうしようもなく、高くて広いな」
足場が存在しない、果てしなく広大な空間。
自分一人では自由に動く事もできないその中を悠々と飛ぶ敵を想像し、ザイツはキョウが引き受けた依頼の難易度を実感した。
キョウ「ザイツさんが巨大化して手で捕まえる、とかできないかなぁ……」
ザイツ「どういう発想だよ……」
キョウ「ウルトラマ○的発想です」




