57 ―過去― とある男女③
―セージ・z・アンダーソン―
―戦功と忠節を認め、この者をゼルモア神聖教国、第六階位聖騎士に任ずる―
―セージ・z・アンダーソンよ、神の御心に添う、神聖国の守護者たれ―
―邪悪なる魔族の暴虐から、祈りかつ働く全ての神の奉仕者を守り戦うのだ―
―お誓い申し上げます。―
―卑しき身にあまる栄誉を賜った事をよく自覚し、我らに尽くすのだぞ―
―異国の異教徒風情に聖騎士の名を与えてやった、この国の御恩を忘れるな―
―しかと、心得ましてございます―
―くれぐれも、代々聖騎士家である我らと肩を並べられると思うな―
―お前は前線で、魔族を殺し続けていればいいのだ―
―心得ましてございます―
―倒した数が多いからと、図に乗るな―
―見苦しい奸計を弄した戦いを制した所で、騎士の誇りにはならんわ―
―ふん、誇りなど弁えているはずもない下々には、判るまいがな―
―ココロエマシテゴザイマス―
―我らと貴様は、生まれながらの格が違うのだ―
―わきまえていろよ、生まれも定かではない卑賤者が―
―貴様のような成り上がり者、戦さえ終われば用無しなのだからな―
―ココロエマシテゴザイマス―
―ココロエマシテゴザイマス―
―ココロエマシテゴザイマス―
―ココロエマシテゴザイマス―
―コロッケテイショクオネガイシマス―
―……う……―
―う?―
―うっぜぇええええええええええええええええええええええええええええ!!―
―なんだ、もうキレたのかセージ―
―うっせぇジジィ!! なんだ?! なんなんだあの、てんで役立たずな癖にやたら偉そうなニーチャンオッサンジイサン連中は!!―
―実際偉いだろう。世襲高位聖職の家系は、普通の国で言うなら貴族階級だ―
―貴族ぅ? ――生まれ育ちで人間の有能無能が決まってたら、アメリカンドリームなんて生まれねぇんだよ! そして役立たずな人間が偉いはずねぇ! あの×××のFuck野郎共が!!―
―……お前とはそろそろ長い付き合いだが、相変わらず言葉に判らん単語が混じるなぁ……―
―なんでもいいさっ。とにかく権力持ちの無能がどれだけ害悪なモンかは、この国で戦争行ってしっかり身に染みたよ!! まったく、俺の母国が王政をとらなかった理由が良ぉ~く判るぜ!!―
―ほう、お前の国は王侯貴族がいないのか?―
―植民地だった昔は宗主国の王がいたけど、合衆国として独立して以来、俺の国に王室が置かれた事はないな―
―へぇ……だが形は違えど、統治しているヤツはいるんだろう。ならその為政者の一門が、力を持ったりはするんじゃねぇか?―
―確かに『名家』ってのは俺の国にもあったよ。でももしそこに生まれたからって、肩書きに足る能力がなきゃ、実力のあるヤツに負けて追い落とされるのは当たり前なんだ―
―お前の国の名家ってのは、王侯貴族より豪商に近いな―
―そりゃそうだ。俺の国を支配していたのは、生まれながらに尊い王サマ貴族サマじゃなくて、稼ぐ金を力としていた商売人達だったよ。……だからだろうな。血筋や家柄や家の権力だけを根拠に、自分はエライ、って確信してる連中が、どうしても俺には理解できない―
―まぁ、俺も高貴な方々は判らねぇな―
―正直判りたくもねぇけどなっ。見下されて馬鹿にされて邪魔されて、いいかげん気分が悪いぜ!! ……全く、この世界のオエライサマってのはどうしてああも馬鹿で傲慢で思考が下衆で……―
―……くすん―
―……あ―
―ご……ごめんなさいセージ……―
―ああエリー!! 俺が悪かったよ!! 判ってるよ!! 君は勿論そんな連中ばっかりじゃないって!!―
―あ~あ、な~かした~な~かした~。セージがお高貴なお姫様エリザベート姫様を泣~かせちまった~♪―
―うるせぇ歌うなジジィ気持ち悪い!! ……本当にごめんよエリー。ちょっと苛ついてたんだ―
―セージ……―
―あのおっかない聖女の婆さんとか、飛竜突撃部隊長のおっさんとか、癒術院院の爺さんとか……身分があっても、目下と話がちゃんと通じる人達がここにもいるってのは判ってるよ。……ああいう人達が影ながら助けてくれたから、前線出ずっぱりの俺も、ジジィの傭兵部隊も、生き残る事ができた―
―……はい。特に聖女様は、戦乱で最初に苦しむのは前線の兵や、弱い立場の国民だと、とても案じてらっしゃいます―
―うん。……でもさ、そういう人達って、この国で発言権は弱いよな―
―……―
―この国では、戦争の不利益と停戦を唱えてる人達は、どんなに身分が高くてもどんどん隅に追いやられてる。……聖女様なんかそうだろ?―
―……はい―
―……国を実際に動かしているのは、教皇を筆頭に魔族との徹底抗戦を狂ったように叫ぶ連中ばかりだ。……高位聖職者のクソ坊主共なんか、戦場にもでないくせに―
―……でもそれは……この国の存在意義でもありますから。……ゼルモア神聖教国は、主神ゼーレの教えと信徒達を守るという大義の元、建国されたんです。魔領域を滅ぼす事は、ゼルモア神聖教国が掲げる最大の悲願です。……だからその方針に異議を唱える事は……―
―……このままだと、負けるぞ―
―……っ―
―それも和平での停戦合意交渉に持ち込めるレベルじゃねぇ。……原爆二つ撃ち込まれて無条件降伏した、Japanと同レベル……この世界なら滅亡したっておかしくねぇくらい、ボロ負けする―
―……じゃぱん?―
―俺の母方の出身国だ。……あそこは敗戦後復興したけど―
―……それほど、魔王の国は……強いですかセージ?―
―ああ、強い。しかもそれは、魔王の力が、とか魔族の能力が、とかそういう事じゃないよ。……怖いのはあの国の軍の、組織力だ―
―組織……―
―単体でも恐ろしいほど強い魔族達が、軍隊っていう組織にきちんと組み込まれ、上から下まで、その軍規に従いスムーズに活用されているんだ。だから仮に隊長クラスが倒れても、即次、そのまた次と指揮権の委譲が行われ、部隊が壊滅しないですぐに体勢を立て直す。……あれは、怖い―
―わ、我が国の軍はそうできないんですか?―
―できないね。……ゼルモア神聖教国は上級軍人に強力な聖属性の魔法使いや武人を多く抱えている反面、徴兵された一般兵の練度は低く、特権意識の強い名家出身者の上級軍人達を縛る強力な軍規も無い。足りない戦力を傭兵で補ってるせいもあるだろう。隊長クラスが死ぬか逃げるかすると、下はあっという間に散り散り状態になって、敗走する部隊が殆どだ。結果、一度崩された部隊の被害は甚大となる―
―俺達みたいに、傭兵団として雇われてる集団はまだましだけどな―
―うぅ……何故、ここまで差がでてしまったのでしょうか?―
―うーん……俺だって、魔王国とゼルモア、二国を正確に比較できるほど知ってる訳じゃないけど。……でも意識の差は、はっきりと感じるな―
―意識の差、ですか?―
―そう。……魔王の国はさ、上も下も、自分達の国を守るんだって自覚がすごく強い気がする。……あっちだって、様々な主義主張や差別、権力争いは当然あると思うんだ。でもそれはそれとして、有事の際には、国民全体が協力できる体勢が整っているように見えるんだ―
―……それは、侵略される側だから……でしょうか?―
―危機感は勿論あるだろう。……でもそういう意識を常々自覚させるには、危機感と共に、やっぱり強い規律と教育が必要だと思う。そして魔王軍には、その両方を感じる―
―我が国の軍には……いいえ、軍を率いる支配者階級の者達には、その意識も規律も無いという事ですね……―
―……Duty,Honor,Country……か―
―セージ? なんだ、そりゃ?―
―俺の国の言葉で、『義務、名誉、国家』だよジジィ。ダグラス・マッカーサーっていう俺の国の偉い軍人の演説で、『義務を果たす者があって、そこに名誉が存在する。名誉を重んずる者があって、そこに祖国が存続する』……とか、確かそういう感じの意味で使われてたはず―
―なんか曖昧だな―
―し、仕方ないだろ。ハイスクールのレポートで調べたっきりなんだから。……でもさ、魔王軍の戦いを見ていたら、それを思い出した―
―なるほど、確かに。ははは、この国の、危なくなったらすぐに逃げる聖騎士サマ達や、欲太った高位聖職サマ達にも聞かせてやりてぇ台詞だ―
―……そうなんだよな。あいつらは既得利権を当然として、『名誉』と共にあるべき『義務』を考えもしない。……そして上がそんななら、下にだって忠誠心や義務感なんて芽生えないだろう―
―この国の軍が弱いはずだなぁ。……命を賭ける義理はねぇ傭兵としては、そろそろ見切り時か?―
―……駄目だ―
―セージ―
―なんとかする方法を考えないと……この国は本当に滅ぶ。……エリーを守るために、なんとかしないと……なんとか……―
―……―
―……セージ、一人で気負わないでくださいませ―
―エリー……でも―
―わたくしもこの国も、できる事をしますわ。わたくし達はもう……充分貴方に救っていただきましたもの。どうか無茶をしないで―
―……―
―……貴方は、ここで死んではなりません。……貴方は生きて、故郷のご家族の元に帰る事をどうか忘れないで。……それが貴方の、望みだったはず―
―……エリー、ありがとう。……でも俺の望みは、それだけじゃないよ―
―……セージ―
―君を守りたい。……今は帰りたいと同じくらい、強く願ってる事だ。……君が好きだから―
―……セージ―
―……俺はできるなら、君と僕の故郷に帰りたいんだよエリー―
―……それはできません。……私は神聖家の者です。……私もこの国を守りたいのです。……できる事はとても、少ないですけれど―
―……―
―……セージ、わたくしも貴方をお慕いしております。……だからどうか、故郷に戻り幸せになって下さい。……これは……わたくしの望みでもありますからね。……それでは、また―
―……皮肉だな―
―あ?―
―『できそこない』呼ばわりされてる彼女が、この国の誰よりも尊く見える―
―そりゃお前、恋人の欲目も入ってるぞセージ―
―うるさい―
―けどまぁ……戦乱で疲弊する信徒達の上でふんぞり返ってる教皇共に比べれば、あの姫様はよっぽどマシな部類だな。純粋で一生懸命で、健気だ。可愛いしな―
―……ジジィ、お前まさかロリコンじゃねぇよな?―
―ろりこんってのがよく判らねぇが、とりあえず違うと言っておく―
―だがエリーが可愛いのは同意だ!!―
―そうかい。……なぁセージ、俺達への国からの補給、増えてるだろ―
―え? ああ、そうみたいだな。武装や食料の他に、最近じゃ豪華な野営用のテントや医者、鍛冶屋まで用意されてるもんな。雇われた当初からは考えられない―
―ああ。……あれな、エリザベート姫が、聖女様に掛け合ったかららしい―
―……エリーが?―
―そうだ。彼女は話が通じそうなお偉いさんに、『あの傭兵団はこの国を守るために大切にすべきだ』と説明して回ってな、神殿内で俺達の味方を増やしていてくれてるんだ。もちろん今もな―
―もしかして……だから聖女様や、飛竜部隊のおっさん、癒術院の爺さん達も?―
――そういうこった。彼女が説得に回ったから、俺達と協力してみようかって気になってくれたらしいぜ。おかげでここでの居心地が、格段に良くなった―
―……彼女が……―
―……力はないが肩書きはある姫君にできる、最大の援護だよな。……国を守りたいってのは勿論本当だろうが、……彼女は本当にお前に生きてて欲しいんだろうぜ―
―……死んでたまるか―
―そうだな―
―こんな腐った国どうだっていいけど、……エリーのおかげでマシな人達とも知り合えたんだ。……できる限り、かんばってみるさ―
―ふーん……―
―あんたにも見切らせねぇぞジジィ。ここは待遇良いんだろうが。ちったぁ恩義感じて見ろよ―
―ははっ、忘恩無頼の傭兵に恩義ときたか―
―偶にはいいんじゃねぇの? 今までの悪行が許されて、楽園に行けるかもしれねぇぞ―
―生憎だが俺の楽園は、現世の花街にあるんだ―
―国を守ったヒーローになったら、ネエちゃん達にもモテモテだぞ。楽園のランクが上がるぞ。酒の池に肉の林でボインボインのネエちゃん達に囲まれてウハウハし放題だぞきっと―
―やっべぇ。すげぇやる気でてきた―
―このエロジジィ。まぁいいや。そうだやる気を出せ。あんたはやればできる男だ傭兵団長―
―まぁヤればデキるよな。そこは注意しねぇと―
―そういう意味じゃねぇから!!―
―……なんにしろ、気を付けておけよセージ―
―ん?―
―お前が地位を得たって事は、今まで以上に『役立たず共』がお前を邪魔に思うって事だ。敵が分かりやすい魔族だけだと思うなよ―
―……判ってるさ。……それに、人だからと容赦する気もない―
―……―
―この銃口は、等しく敵に向き引き金は引かれる。……それが魔物であろうと人であろうと、俺は生きる事を躊躇わないよ―




