46 ―過去― とある男女②
―セージ、あの砦の上で大笑いしてるオーガが、俺らが攻めてるこの砦のトップだ―
―すげーでかい。ゴリラかよ―
―狙えるか? トップが倒れれば、防衛してる連中も多少は怯む―
―……ざっと150ヤードってとこか。……的がでかいし目視が楽な昼間の射撃場ならまず大丈夫だろうけど……夜、しかも戦争中になんて、やったことねぇからな。外れても恨むな団長―
―……それでも、当たる可能性がそこそこあるってのもすげぇぞ。あんな上方、下から弓じゃ狙いを定めるのも一苦労だ―
―……シモ・ヘイヘなら、この倍以上の距離(300m)からヘッドショットを成功させてたんだよな……―
―しもへいへってのはなんだ?―
―俺が元居た世界にいた、狙撃手―
―まて、お前の故郷は、人族しかいねぇんじゃなかったのか? この倍の距離を狙うとか、エルフの熟練弓手でも厳しいぞ―
―そのはずなんだけど、時々人間やめたような記録を残すヤツがいるんだよな……ああいう連中って、本当に同じ人間だったのかな……―
―知らん。さっさとやれクソガキ―
―……了解、ジジィ―
― ――なんだどうした将軍? ……鎖骨の骨が折れてるのか。誰にやられたんだよ?―
―! ま……魔王陛下。……面目次第もありませぬ……突如砦を攻める下の人族共の中から……雷のような轟音が響いたかと思うと―
―ほぉ? ……魔法……じゃねぇな。魔術防御結界に反応は無かった。……となると……これは人族の、純然たる技術って事になるが……―
―陛下、こちらが将軍から摘出されたものです―
―……! マジかよ? ……こんな小さな石ころが……巨体を誇るオーガを吹っ飛ばしたってのか? ……へぇ、こりゃ面白ぇじゃねぇか―
―……ゼーレ教団共が……これほどの武器を?―
―いいや。それにしちゃあ、足開く処女並みに『恥ずかしがりや』な反応だ。あの頭の足りてない聖騎士共なら堂々と名乗って、武器を振りかざして使う―
―……だとしますと?―
―……多分傭兵。最前線でゼルモア正規軍サマ共の露払いをさせられてる、下の群れの中に、この技術の使い手はいるな。……攻撃の様子からして、多分数はいねぇ。せいぜい一人か二人、三人はいねぇだろう―
―……たったそれだけの人族に、このような無様を晒してしまうとは……―
―だから人族は、侮れねぇんだって。――おい!! 砦中に引きこんで囲め!! 聖騎士共の方を挑発すれば、乗ってくるはずだ!! 魔王の国は組織力で戦うんだって事を、あの馬で突撃馬鹿共に見せつけてやれ!!―
―御意のままに。我らが魔王陛下―
― ――包囲陣形成功。ゼルモア側、総崩れで砦から撤退します―
―よし、追撃は領地境界までだ。深追いはするな―
―……魔王陛下、技術使いを生かして捕らえろとは、おっしゃらないのですね―
―ん? ……言いたいトコだがなぁ……相手の手の内が読めない以上、兵達に下手に手加減させるのは危険だ。無駄に兵が死ぬのはもったいねぇ―
―確かに。折角十数年がかりで鍛え学ばせた、一人前の兵達ですからな―
―それにこの砦の兵力程度の攻勢で生き残れないようなら、技術使いの力もたかが知れてる。死体にしてから、武器を回収できれば充分だろう。あとはウチの技術屋であるドワーフ達に、武器の解析でもさせるさ―
―なるほど。……技術使いを、仕留められますかな―
―できればいいな。……だが万一そいつが逃げ延びたなら……そうだな、身分を隠してオトモダチにでもなりにいくか♪ その価値はあるだろう?―
―逃げるぞセージ!! 馬を失ったヤツも全力で走れ!!―
―負けたのか団長っ―
―ああ、尻に火でもついたみてぇな勢いで、聖騎士サマ達が御帰還だ。……随分死んだみてぇだし、こりゃ上の首がいくつか飛ぶな―
―よ、傭兵もやばいんじゃねぇの?―
―アホらしい。俺達傭兵を雇い主が下らない尻尾切りなんかするつもりなら、その前にさっさと金目の物を奪ってトンズラするさ―
―逃げる? ……それは……嫌だな―
―ははっ、ここで死んだら嫌もクソもねぇがな!! 死ぬ気で急げセージ――って足速ぇなお前っ!!―
―自慢じゃないがこれでも、盗塁とタッグアップ成功率でMVP取った事もある、一番バッターだったんだよ!!―
―なるほど!! わからん!!―
― ――前から?! ジジィ挟まれたぞ!! こんな橋の上じゃ逃げ場がねぇ!!―
―……領の境界ギリギリに配置してある兵まで、無理なく包囲陣形に組み込めるのか。……くそ、一兵卒に至るまで、随分と練度が高いじゃねぇか魔王の国は。……プライドの高い石頭共が指揮権を握ってるゼルモアじゃ、勝てねぇはずだ―
―どうするんだ?!―
―どうもこうもねぇ――総員死ぬ気で突っ込め!! 突破できなきゃ死ぬだけだ!!―
―死ぬ――っ―
―人族を殺せ!! 妙な得物を持っているヤツを殺せ!!―
―将軍を害した賞金首だ!! 引き裂いてやる!!―
―死ぬ――かよ――死んで――たまるか――死んだら――家に――帰れないじゃないか――それに――
―雷のような音がしたぞ!!―
―あいつだ!! あの武器だ!! 殺せ殺せ!!―
―魔領域を侵す侵略者共め!! 皆殺しだ!!―
―死んだら――あの子が泣くじゃないか!! ――殺す!! てめぇら全員ブチ殺してでも――俺は絶対!! あの子の側に戻る!!―
―セージっ?! ――なんだ?!―
―うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!―
―……あの頑丈な、石橋が落ちたぁ?!―
―はっ。……怪しげな武器を使う、若い男の手が輝いたかと思うと、突如小さな騒妖精達が出現して石橋を激しく揺らし、崩壊させた……と―
―……地震を起こす騒妖精……ヘンキーか。……組石の橋の上であのパー娘達が暴れれば、そりゃ崩壊して落ちるわな―
―……現場は大混乱に陥り、挟撃で追い詰めていた傭兵達は……その隙を突き囲みを突破、境界の外に撤退したそうです―
―そりゃ……すげぇなクソっ。……まさか怪しい技術に加えて、妖精魔法まで使うとはな。――侮ってたぜ技術使い!!―
―生きてるな、ジジィ―
―……妖精魔法? ……セージ……さっきのは……お前がやったのか?―
―魔法? そんなの使った事ねぇよ。……え? さっきの橋の上で起きた地震って、魔法なのか? ……なんか小さい光が、一杯跳ねたような気はしたけど―
―……おい、ちょっとその右手、手袋外してみろ。――……ああ、やっぱりな―
―……光ってる? なんだこれ?―
―姫の祝福だ―
―っ……あの子の? これが?―
―自分の魔力の一部を宿し、ただ一人を守る。これが神聖家の祝福だ。……聖属性の祝福だと、ピンチ時に回復支援魔法が発動するらしいんだが……―
―なるほど。あの子の魔法は妖精だから、ああいう事になったのか―
―……妖精魔法ってのは、敵味方巻き込む、そりゃあおっかねぇモンだぜ―
―でも、助かっただろう?―
―…………そりゃまぁ、確かにな―
―……そうか……あの子が助けてくれたのか。…………そうか……―
―エリザベートっ―
―エリーっ―
―……どうしたの、ヘンキー?―
―帰ッテクルっ エリーノ友達帰ッテクルっ―
―っ……本当に? セージさんは無事なのね?―
―エリーノ友達 ヘンキーノ友達っ―
―守ルっ シナナイっ―
―……そう、貴女達が……ありがとうみんな。……本当に……―
―エリー 泣ク? ナンデ泣ク?―
―マタ 化粧オバケ共ニ イジメラレタ?―
―いいえ……違うの。……嬉しいの……―
―……本当に? ……負け戦だったんだけどな―
―……っ! ……セージさん……―
―ただいまお姫様。……魔王軍は強かったよ。……君の祝福がなきゃ、俺もとっくに死んでた……うわっ―
―セージさん!! ……セージさ……セージさん……よくご無事で……!!―
―よ……汚れるよお姫様?―
―……ごめんなさい……わたくし達だけ……神殿の中だけ……綺麗で……ごめんなさい……っ―
―……ばかだなぁ。……君がこんな風にボロボロになって、逃げなくてよかったって……今俺は思ってるよ―
―……―
―……これからどうなるのか、俺には判らない。……もしかしたら……俺達を返り討ちにした魔王が……こっちに攻めてくるのかもしれない……―
―……はい―
―……俺……君を守るよ。……君が守ってくれたように……今度は俺が、君を守る……―
―っ……いいえ。……この国が危ないと見切りを付けたら、貴方はすぐに離れるべきですセージさん。……貴方は……故郷に帰るという望みがあるのですから……―
―……一緒に、行かないか?―
―……え?―
―俺の故郷に、一緒に行かないか? いいや、帰れなくても、ここから出ないか? ……ここにいても、辛いだけなんだろう? ……だったら……俺と……―
―……いいえ、それはできませんセージさん―
―っ……なんで―
―……たとえ『できそこない』でも……わたくしは信徒達の平和と安寧を我主に祈る、神聖家の娘ですから。……生まれ持った役目は……果たさなければなりません―
―……―
―……ずっと、お祈りしています。……貴方が無事でありますように……故郷に帰れますように……離れていても……どこにいても……ずっと……―
―……エリザベート……エリーっ―
―……セージ……―
―……大勢命を落とし、虜囚となったようじゃな……教皇―
―っ……聖女!―
―……魔王の国は、捕らえた虜囚達を処刑せず、身代金交渉に応じると言ってきたのう。……そなたらに殺されないよう、わざわざ幽鬼族の使者を立てて。……その態度は実に優美で、上品だ。それでいて隙も無く、容赦も無い――
―おのれ……悪魔共め!!―
―……現実を見よ教皇。この戦の先に勝利は無い―
―っ!! 何を言う聖女!!―
―何度でも言おう。……そなたたちの言う『聖戦』など、魔領域の財宝と美しい女達を奪おうとする、単なる侵略じゃ。……だからこそ、魔王の国が団結して軍備を整え、ゼルモアを返り討ちにするようになってからは、呼びかけに応じる国々は目に見えて減っておる。……人と金を使って『稼ぎ』に行っても、元が取れないからな―
―貴女が考える事ではない。――教団の神聖不可侵の象徴たる聖女は、ただ平和の祈りを捧げておれば良い!!―
―……無論そうしたい。……だが政務を司るそなたらが率先して平和を乱している状況では、説得力もあるまい―
―黙れ!!―
―……―
―我らは――このゼルモア神聖家は、光神ゼーレに力を授かったその時に、悪しき魔族をこの大陸から駆逐し、人族に真の平和をもたらす事を神に誓ったのだ!! それに異を唱える事は、例え聖女といえども許されぬ!! 冒涜ぞ!!―
―……それによって、信徒達が苦しんでも構わないと?―
―崇高なる大望のためならば、主も許されよう。――必ず――必ず魔族共を滅ぼしてやる。――どんな事をしても――どんな手を使っても――!! ―
―……神意で、君主と国力の差は埋められぬぞ……―
―……ならば君の祝福をくれ、エリー。……君の妖精の加護を、俺に―
―セージ……―
―……俺は……帰りたい。……でも……恩人の君を……違う。……大好きな君を、こんな状況に残して……帰れない……―
―……―
―君が安心して笑顔で暮らせる日が来るまで……俺は戦うよ。……だからエリー……どうか俺を……祝福してくれ。……見守っていてくれ―
―……セージ……わたくしは……ずるい。……嬉しいなんて……―
―エリー……―
―……だけど……本当に……嬉しいのです。……貴方がいてくれる……生きていてくれる……それが……すごく幸せです……―
―……―
―……人に寄り添う善き妖精達よ……どうか彼を守りたまえ……私の愛する人を……どうか生かしたまえ……お願い……死なないで……セージ―
―……ありがとう……エリー―
―約束するよ。……最後の最後まで、妖精達と一緒に……絶対に諦めないって。……だから……二人で生きよう。……一日一日を……一緒に……エリー―
魔王「よっしゃ、技術使いを捜しに旅支度旅支度♪ ――ハッ」
宰相「……この停戦に関する書類の山が見えねぇのか?」
魔王后「これが見えぬなら、そんな役立たずな目は必要ありませぬなぁ……」
魔王「\(^o^)/」




