30 現状を確認するが何かがおかしい
―リリエッド砦を魔王軍が攻撃してる―
―多勢に無勢。撃退は……不可能だろう。陥落は時間の問題だ―
―進軍の『通り道』にあった国境沿いの村々は、酷い事になっているだろうな―
―ああ、ヤツらは無慈悲で残虐な魔物共だ。人族に情けなどかけまい―
その夜。難しい顔で言葉を交わす町の衛兵達と、魔力と炎で赤々と輝く山を閉ざされた窓の隙間から目にしたロンは、止めようとする祖母を振り切り、妹と共に暗い町の外へと駆け出した。
―お兄ちゃん……お父さん……お母さんは……―
―きっと大丈夫だっ。あんな小さな村、襲ったって何もないだろ!―
―……ふぇえ……―
―泣くな! 大丈夫……大丈夫に決まってる! ――きっと!―
何ができるわけでもない、魔王軍に見つかればその場で殺されていてもおかしくない、無謀な道行きだった。だが兄妹は不安に耐え切れず、衝動的に祖母の家を飛び出したのだった。
祖母へのおつかいで通い慣れた山道を進み、やがて夜明けには、両親が待つはずの自分達の村に到着した。
―お……おにいちゃ……あ……ああ!!―
村は、無くなっていた。
ロンは打ち壊された家の下に転がるものが、村を出るときに挨拶した隣家の老人達である事に気付き、衝撃と恐怖で声を失った。
営まれていたはずの日常が、一晩で破壊しつくされた事を、ロンは目の前の光景で理解するしかなかった。
―お……おや……君達は……―
―……っ―
―お爺さんは隣村の者だ。ほら、物々交換をよくしている―
―……―
―……魔王軍の通り道になってしまった、この村の様子を確かめにきたんだが……これは酷い。砦を攻めるついでに滅ぼされたんだろう。……ほら、この爪痕をごらんよ。……きっと人狼だ。あいつらが砦を攻めるついでに村を襲い、若い子達を連れ去って喰い殺したに違いない―
―……人……狼……―
―怖かったね、それに疲れたろう。とりあえずお爺さんと一緒に……あっ―
―う――うわぁああああああああああああああ!!!―
怯える妹の手をしっかりと握り、ロンは隣村の老人を振り切って、元来たリリエの町への道を全力で駆け出した。
恐怖に突き動かされる身体にとって、疲労はまったく問題にならなかった。
元々村育ち、山歩き慣れしていたロンは、疲れたと泣く妹を最後には背負うようにして休まず進み、いずれ魔王軍が来るだろうリリエの町を目指して、ひたすら歩いた。
―畜生――人狼!! 畜生!! 畜生!!―
その脳裏には、破壊された村の家屋に付けられた無惨な爪痕が、くっきりと焼き付いていた。
「う……うぅ……?」
「あっ気付いたかな? 大丈夫?」
「え……っ」
あの日以来何度も繰り返される悪夢から目を覚ましたロンは、自分が今どこにいるのかはっきりしないまま声の方向に顔を向け、そして驚いた。
「どこか痛くない? 見た感じ怪我はないようだけど、痛い所があったら手当するよ?」
「な……無いけどっ! お……お姉さん……だれ?」
どうやら馬車の中らしい薄暗い視界の先には、光輝く白金髪と艶やかな黒肌を持つ、秀麗な美女が座っていた。
「私はキョウ。君はロン君、だよね?」
「う、うん……じゃなくて……あれ……俺……っ?!」
今まで見たことも無い、眩しいほどの異性の笑顔に狼狽えながらも、ロンは自分がなぜこんな所にいるのかと考え、やがて気絶する前の事を思い出した。
「お、お姉さん!! お姉さんもまさかあの狼にさらわれたのか?!」
「え?」
「ち、違うならすぐに逃げないとダメだ!! お、俺極悪非道な魔王軍のフェンリルに捕まってたんだ!!」
「……」
自分を捕らえたフェンリルの恐ろしい姿を思い出しながら、ロンは慌ててキョウに叫ぶ。
「俺がどうやってあいつから逃げて、今ここにいるのかは判らないけど!! あいつ俺が必要だからきっと探しに来るよ!! 逃げろお姉さん!!」
フェンリルがキョウに襲いかかるかもしれない、その鋭い爪がキョウを引き裂くかもしれない。そう思っただけで、ロンは震えるような恐怖と怒りが同時に込み上げ、フェンリルがますます許せなくなる。
「大丈夫だよロン君、落ち着いて? フェンリルのハウルグさんは怖くないよ。ロン君が協力してくれるなら、もう君を無理矢理捕まえたりしないって、約束してくれたよ」
「お……お姉さん? ……まさかあの狼と……話したのか? 怖くねぇの?」
「怖くないよ」
そんなロンを落ち着かせるようにロンの頭を撫でたキョウは、ロンが天使様のようだと見惚れる笑みを浮かべ。
「だってハウルグさんは、お姉さんの国の騎士様だもん」
――左手に付けているアクセサリーを外して、真紅の角と翼を見せた。
「ひ――ひぃいいいいいいいいいい堕天魔族ぉおおおおおおおおおおおおお?!!!」
ロンは絶叫した。
そして開いていた馬車の出入り口から転がり落ち、その場から逃げようとする。
「――っと、坊主目が覚めたか」
「ぴぎゃあ?!」
だが突然襟首を掴まれ、逃げられない。
ロンは停車した馬車の前に陣取っていた、狼の耳とシッポを持つ大男に片手で捕まり、気が付けばその場に強制的に座らされていた。
「うわーん!! 美女の笑顔なんか二度と信用するもんかー!!」
「おぉ小僧、その年でその真理に気付くたぁ、良い勉強させてもらったな」
「貴方は何を言っているんですかハウルグ卿」
「……俺もあの強欲商人に騙される前に、学んでおきたかったな……」
「君も何を言っているんだザイツ」
馬車の前には狼耳の大男――ハウルグの他に、若い男女二人が焚き火を囲むようにして、その周りに腰掛けていた。
二人の見た目は人族だったが、ハウルグを含め大人三人の囲みから脱出できる術など、勿論ロンは持っていない。
「こ、怖がらせちゃったねロン君、ごめん。……さりげなく自己紹介すれば、大丈夫かと思ったんだけど……」
そこに後ろの馬車から魔王同種族の堕天魔族が来れば、逃げ道などどこにもない事を、無鉄砲なロンも理解するしかなかった。
「キョウ姫、気にするな。魔族は怖いもんだって意識は、多分本当に平和になっても変わらないと思うぞ。俺も怖い」
「身も蓋もないですザイツさん。……色々隠さないと、顔合わせる度怖がられるなんて、本当に嫌なんですからね……」
そう言いながらロンの隣に腰掛けたキョウは、やはり見惚れるような笑みを浮かべ、パタパタと翼を揺らしながら、ロンに言う。
「こ、怖くないよ?」
「……」
神の怨敵である魔族の言葉を、ロンは勿論信じなかった。
「――さてと、姫様の傷心はさておき、そこの少年の意識もしっかりしたようですし、意見交換を再開しましょうか」
こうして焚き火を囲む五名が揃ったところで、ケイトは軽く手を叩いて皆を見回し、口を開いた。
「い、意見交換ってなんだよっ?」
ハウルグとキョウに挟まれ、怯えながらも自分を睨み付けてくるロンを見返して、ケイトは答える。
「無論、君の村の事だよ。ボッジ村の少年、ロン君」
「――え?」
「そこのキョウ姫様と、我々冒険者は、君の妹さんに頼まれて、君の様子を見に来たんだ。できる事なら、君を家に帰してやりたいと思っている」
「え……」
突然の救い手に、ロンは目を見開いてケイトとザイツ、そしてキョウを見回した。
ケイトと隣の人族の男はともかく、魔族であるキョウが自分を助けに来たなど、到底信じられない。
そんな狼狽えているロンを気にせず、ケイトは静かに言葉を続ける。
「だが、このハウルグ卿は、今のまま君を帰す訳にはいかないと言う」
「――っ」
「……ロン君、君は君の村が、魔王軍に滅ぼされたと主張しているね?」
「そっ、それがなんだよ?!」
「それが今、ハウルグ卿を悩ませているんだ。君が気絶している間に、大体の事はハウルグ卿から聞いているのだけどね。……君の主張は、ハウルグ卿の主張と大きく食い違っている」
「な――っ?!」
「……そうですね、ハウルグ卿?」
おう、とケイトに頷き、ハウルグはロンを見下ろして言う。
「小僧、確かに俺達魔王軍はリリエッド砦を攻めた。そして、俺が率いていた第一、第二フェンリル特火力歩兵小隊は、お前が言うボッジ村付近を通過して山を登り、砦の上側面から突撃を仕掛けた。――進軍ルート的に、あの夜、村を攻め滅ぼす事ができた魔王軍は、村を通過した俺達フェンリル特火力歩兵小隊以外にいないだろう」
「……」
「――だが、俺達はやってねぇ」
「――っ」
顔を強張らせて自分を睨むロンから視線を逸らさず、ハウルグは繰り返す。
「あの夜、俺達はどこの村も襲ったりしてない。当然村の人族共を殺してもいない。俺と俺が率いた二小隊は、ただ村道を利用して素早く進軍し、お前の村の側を通り過ぎて、砦に攻め上がっただけだ」
「な……」
「俺はそれを証明するために、お前を連れて来たんだ。――小僧、協力しろ」
「ふざけるなぁ!!」
ハウルグの言葉は、怒ったロンの叫び声で遮られた。
「俺達の村を襲った事を認めないつもりだな!! 卑怯者!!」
「小僧、俺は嘘なんか言ってねぇんだよ」
「俺だって嘘なんかついてない!! 日にちだって間違ってない!! 俺はあの日!! 砦が陥落した翌朝!! 酷い事になってる村に帰ったんだ!! あの日妹と見た潰れた村と爺ちゃん達の死体――それにあの大きな爪痕!! 忘れるもんか!!」
怒鳴るロンは、だが恐怖に戦き顔を強張らせている。
まだ幼いロンにとって思い出した光景は、耐えられない程の恐怖と衝撃を与える、トラウマになっていた。
「人も少ない小さな村だった――山の中で獲物が無さ過ぎて、盗賊も来た事ないくらい――小さい――けど平和な村だったんだ!! あんなとこ――通り過ぎた魔王軍以外の誰が襲うってんだよ!!」
「ロン君……」
「触るな魔族!!」
宥めようとしたキョウの手を振り払い、ロンは全身を震わせながらも必死に言う。
「俺――俺は――こ――殺されたって――お前達になんか負けない!! みんなの仇に――媚び売ったりしない!! 絶対――言う事なんか聞くもんか!!」
「……昨日から、ずっとこんな調子なんだ。……やれやれ。」
とうとう泣き出したロンを見下ろしたハウルグは、やがてため息をついて肩を落とした。
「やった事で責められるのは別にいいさ。そういう役割だからな。……だが今は、やってもいない事でガキに大泣きされたあげく、部下の進退まで危なくしちまってるんだ。正直冗談じゃねぇよ」
「……部下の進退……先程もそうおっしゃってましたねハウルグ卿?」
ケイトの問いかけに重々しく頷き、ハウルグは返す。
「ああ……この件をウチの指令官――リリエッド砦駐屯大隊長は、潰れた村を確かめさせただけで、俺達の仕業と決めつけた。――そして『王庭騎士様』の俺じゃなく、俺の部下達を処分して『収めてやる』と言いやがった。――恩着せがましいんだよ!! やってねぇって言ってるのに全然聞く耳ももたねぇんだ畜生あのクソエルフ!!」
『!! ひぇえっ人型でも馬鹿力!!』
バキ!! と音がしたハウルグの手を見たザイツは、その手に握られていた石が粉々になっているのを目にして、思わず身を引く。
一方そんなハウルグに冷静な目を向けるケイトは、ふむ、と僅かに首を傾げてハウルグに問う。
「……つまり今までの話しをまとめると、
①ハウルグ卿の部隊が通り過ぎたその日に、ロン少年の村が潰された。
②潰された村には、大きな爪痕(フェンリル?)が残されていた。
③山中の上貧村であるロン少年の村を、襲うような者は今までいなかった。
④だからロン君は、ハウルグさんの部隊が村を襲ったと思っている。
⑤現場を確かめた砦の総司令官も、ハウルグ卿達がやったと思っている。
⑤だがハウルグ卿はやっていないと言っている。
――という事ですね?」
「ああ、そういうこった。――くそっ」
なるほど、とケイトは頷き更に言う。
「おそらくそのエルフの司令官殿は、この事件をさっさと処理しようと思っているのでしょうね。だから面倒なハウルグ卿という魔王陛下の騎士ではなく、その下を切る事にしたと」
「ああ、判るか人族……じゃねぇ、ケイトか。その通りだ。戦時下の略奪程度、表沙汰にならなければどうでもいい些事だったと司令官は思ってるさ」
「えっ?!」
ハウルグの答えに驚いたのは、キョウだ。
「だ、だって非戦闘員……っていうんですか?! 戦えない一般の人達が、一方的に殺されたんですよ?! そういうのって戦争でもやっちゃいけない事なんじゃないんですか?!」
「……魔王女殿下、なんですかそれ?」
「えっ?」
「そんな話、聞いた事ねぇぞキョウ姫?」
ハウルグとザイツは、何言ってんだこいつ? という表情でキョウを見返す。
「魔王の国の法律でも、大陸法でも、敵国の住民に対する略奪や誘拐、暴行などは、別に禁止されてはいませんよ。作戦行動として、物資の『現地調達』を村や町からする事もありますし」
「えぇえ?!」
「傭兵団に、『あの村の物と住民を好きにしていい』って『褒美』を雇用先が出す場合もあるぞ。えーと……確か略奪権、とか言ってたっけ?」
「お、坊主は傭兵だったのか?」
「昔少しだけ傭兵団に世話になってた。向いてないと傭兵団長の爺さんに言われたから、冒険者になった」
「ああ、なるほどなぁ。あれって腕もだが、性格的に向いてないとすぐ死ぬみたいだしな」
「まぁな。命乞いする女や泣いてるガキの頭笑ってカチ割れるくらいじゃねぇと、やってられねぇって爺さんが言ってた。実際見逃そうとして、女子供にナイフでブッ刺されて殺された奴もいたし……」
「あるある。武器持って死に物狂いになった奴は、女子供だろうと怖ぇよ」
「か弱そうな女のフリして実は魔法使いだった、なんて場合もあるしな」
「それもあるある。捕まえようとした兵士達が一斉に燃え上がって辺り一面焼け野原の地獄絵図になった時は、流石にやばいと思ったぜ」
村の略奪から始まり、なぜか戦場恐怖体験で盛り上がるハウルグとザイツ。
「わぁあ……知りたくない知識が増える……知りたくなかった……中世戦国とか春秋戦国とか……そんな残酷な時代を歩いてるんだって自覚したくなかった……」
【姫様っ!! 大丈夫であります!! 姫様は必ずこのカンカネラがお守りするであります!!】
そんな男二人から目を逸らすように頭を抱え、ブツブツと呟くキョウと慰める小さな魔烏。
「……ええと、だから村が壊滅した事自体は、魔王軍にとって全く問題にはなっていない、という事ですねハウルグ卿?」
やや脱線しかけた話を戻したのは、ケイトだった。
「――そういう事だケイト。うちの司令官にとって、敵国の村一つが潰されて住民が殺されたなんて、どうでもいいんだ。問題なのは俺達フェンリル隊(略称)が、正式に拝命した軍事作戦中に、それを阻害しかねない勝手な行動を取ってしまった、という事だ」
すぐに真面目な顔に戻ったハウルグは、ケイトに応える。
「主力部隊が砦正面から防御しつつ弓、砲、魔法の遠距離攻撃で砦の戦力を引き付けている隙に、山を越えた俺達フェンリル隊が側面から砦を越えて強襲、敵を一気に殲滅する、というのが今回の作戦だったからな。俺達の進軍速度と強襲タイミングは、作戦の成否を分ける重要なものだった。――当然その作戦中に、のんびり村で略奪なんて、やっていいはずもない――だってよ」
何かを思い出したように、ハウルグの精悍な顔が不機嫌に歪んだ。
なるほど、ケイトは頷く。
「だから処分の対象になったわけですか」
「ああ。――幸い作戦自体は成功したが、軍に対する不服従を許す事はできない、ともっともらしく言われてな。――だが俺も俺の部下も、やってねぇもんはやってねぇんだ!」
ズドン!! と音がして、今度はハウルグが片手で殴った地面が、大きくヒビ割れた。
驚いたキョウは顔を上げ、泣いていたロンもそれを目にして、ひっ、と悲鳴を上げて震える。
「ちゃんと調査しろとこっちがどんなに訴えても、獣の本能でやってしまったんでしょう、これだから野蛮な魔獣族は、と、あのクサレエルフはとりつく島もねぇ! ――魔獣族だからなんだってんだ!! ――俺も部下達も、魔王陛下に立てた誓いを違えずにずっと戦ってきたんだ!! 例え高位魔族にだって蔑まれる筋合いはねぇんだよ!!」
「は……ハウルグさん……」
「……全く、見下す者というのは、どこも変わりませんね」
ハウルグの苛立ちに、キョウは悲しそうに顔をしかめ、ケイトは吐き捨てるように呟くと眉根を寄せた。
「そして貴公は、この一件で、大した調査もされずに処分されようとしている部下達を助けるために、そこのロン少年を連れて砦を飛び出して来たという事ですかハウルグ卿」
そうだ、と頷いたハウルグは、地面を割った自分の握り拳を睨む。
「……部下達は、俺の命令で敵を殺すんだ。必要なら目を背けたくなるような非道な行いだってさせるし、殆ど『死にに行け』、と同じ意味の命令にだって従わせてる。――だからこそ、命令に従い任務を果たしたあいつらの権利は、それを統率する俺が絶対に守ってやらなきゃいけねぇ!」
ハウルグの迷い無く強い口調に、ロンは一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて悔しそうにハウルグを睨んだ。
――守るために戦う力があるフェンリルの騎士が羨ましいのか、とザイツはそんなロンを身しながら思う。
「俺は命令不服従で処刑されようと、絶対に潰れた村で、部下達の無実の証拠を見つけてやるんだ!! ――そのためには、こいつにも協力させる!!」
「――っ!! な――なんで俺が――魔王の騎士なんかに協力しなきゃいけねぇんだよ!!」
怯えた声で、それでも必死に返すロンに答えたのは、ハウルグではなかった。
「――それが唯一、君が殺された者達の仇を討つ手段だからだろうな、ロン少年」
「――っ!!」
何かを考えるように腕を組むケイトは、値踏みするような視線をロンに向け、そして言う。
「――悔しくないか少年?」
「――え?」
「もし真犯人がいたら――そいつらを見つける事もできず逃がすのは悔しくないかと聞いているんだ」
「な――そんな事!! くやしくないはずないだろ!! でもこいつは!!」
「敵国の騎士だな。――だがそれがなんだ?」
「――!!」
ケイトの言葉には、ロンはどころかハウルグも驚かせた。
自分を見つめる二人に躊躇無く、たたみ掛けるようにケイトは言う。
「彼が濡れ衣を着せられて苦しむ姿を見て、感情的な憂さを晴らしたいと言うなら、そうするがいいさ。――君はそれだけの、御両親の無念を本当の意味で晴らす事もできない、器の小さな男だったというだけだ」
「な――な――!!」
「一生その負い目から逃げ続けるつもりなら、そうすればいい。だがそうでなければ、今自分がどうすべきか、考えたまえ。――それができないなら、君こそ自分が『今』から目を逸らす、卑怯者だ」
「こ――この――!!」
ケイトの言葉に、ロンは真っ赤になって何かを言い返そうとした。
「……く……くそ……くそ……父さん……母さん……」
――だがその声はやがて勢いを無くし、途切れる。
ロンはしばらく、再び零れそうになる涙を拭っていたが、やがて小さな声で、ハウルグに言った。
「……狼」
「……なんだ」
「お前……本当にやってないんだな」
「やってねぇ。闇神シューレに誓う」
「じゃ、邪神なんかに誓われたって信用できるか!!」
「あぁ?! 俺らからすりゃ魔物皆殺し宣言ぶち上げる、光神ゼーレの方がよっぽど邪神だ!! シューレは俺達魔領域に住む者の守護神!! 眠りと再生を司る慈悲深き夜の神だぞ!!」
「知るかそんなの!!」
ハウルグに怒鳴り返したロンは、それでも何かに耐えるようにハウルグを睨み、しっかりとした口調でハウルグに言う。そして。
「きょ――協力するっ!」
「小僧……」
「協力して真犯人を見つけたら!! あんたはそいつを捕まえるんだろ!! ――だったら協力する!! それで俺のできる事で、父さん母さんの仇を討つ!!」
「! ――ならば俺もお前に約束する。人族のロン、お前の協力をこのハウルグは決して無駄にはしない。感謝する」
「かっ――勘違いすんなよ!! あんたの部下のためじゃねぇ!! 俺のためだ!!」
胸に湧き上がっているのだろう、様々な感情を堪えるように顔を歪ませながらも、ロンは断言した。
「……ツンデレ?」
「は?」
「い、いえなんでもないんですザイツさんっ。――ハウルグさんっ、私達も協力させて下さい!! これは魔王軍が、適当に処理していい問題じゃないと思います!! 兵士さん達のためにも……ロン君達のためにも!!」
そんなロンに謎の言葉をこぼしたキョウも、ハウルグへの協力を申し出る。
「……私達って事は、勿論俺らも込みだよな」
「そりゃ、雇い主を放置して戻るわけには行くまい」
「……」
なんとなく予想していた成り行きにため息をつきながらも、ザイツは隣に座るケイトを見返し、小首を傾げた。
「……なんか、やる気だよなケイト? さっきのロンの説得(?)とか」
「そうか? ……そうかもな」
ザイツの言葉に、ケイトは少しだけ困ったような顔でそう言いながら、そっぽを向く。
「……なんか理由でもあるのか?」
「……」
その横顔を見つめながら、ハウルグはケイトに問うた。
そして質問に答えるべきかどうか、僅かな逡巡見せたケイトに、にやりと笑って楽しそうに続ける。
「もしかして、俺に惚れたか?」
「……濡れ衣というものが気に入らないだけです」
これ以上ないくらい嫌な顔で、ケイトは応えた。
そうか、と応えたハウルグは、そんなケイトの蔑んだ視線を受けて、何故か上機嫌に笑った。
こうして話がまとまった五名は、ロンの案内で、山中にある村へと向かった。
キョウ「きれいなおねーさんに蔑みの視線を向けられて喜ぶ……Mなのか」
ハウル「魔王女殿下……なんで俺から距離を取るんですかい」




