28 砦に着いたが何かがおかしい
泣きじゃくるユミィの頬をハンカチで拭ってやりながら、受付の中年女性――サリーは静かにユミィへ語りかける。
「……さぁ、泣き止んでユミィちゃん。そしておばさんに、どうしてそんな事になったかを話して頂戴。お兄ちゃんのロンは、どうしていきなりそんな事をしたの? ……この国を制圧した魔物達には逆らっちゃいけないって、みんなに言われていたでしょう?」
小さな赤毛の少女は、しゃくりあげながらサリーに答える。
「あ……あたしたちの村……砦が落ちた時に……潰されちゃったの……っ」
「……そうだったようね」
「……あたしとお兄ちゃんは……その日おばあちゃんがいるこのリリエに来てて……助かったけど……お父さんと……お母さんは……。……村に帰ったら……村が潰れてて……いっぱい……人が死んでて……」
「……」
「村の近く……砦を攻めた……魔物達が通って行ったんだって……だから……砦を攻めるついでに……滅ぼされたんだろうって……隣村の人達が……言ってた……」
キョウが小さく声を上げたのが判ったが、特に珍しい事でもないとザイツは思う。――敵軍や敵に雇われた傭兵が進軍途中にあった村をついでに襲い略奪していくのは、実際良くある話だ。
「……あたし達……リリエのおばあちゃんの家に戻ったけど……そしたら昨日……リリエで……砦攻めた……魔王軍の偉い隊長……見て……それで……それで……っ」
少女は震える。
「……お兄ちゃん……許せないって石ぶつけて……『死ね化け物! 村を潰しやがって! 父ちゃん母ちゃんを返せ!!』って……怒鳴って……そ……それで取り押さえられて……連れて……行かれて……っ!!」
「……それは」
サリーの表情が強張るのが判った。ザイツも、ユミィの兄がどれほどまずい事をしたかを考え呆れる。
敗戦国側の民が、戦勝国の偉い隊長――おそらく将校クラスを面と向かって罵倒し石を投げる。――その場で切り捨てられてもおかしくない、最悪の愚行だ。
『……やるなら家の影からこっそりと、とか、濡れ衣を着せる奴を用意しておく、とか、逃げ道を確保しておく、とか、とにかく自分が捕まらないように頭を使えよ馬鹿……』
「……ザイツさん、顔が小悪党です。何か卑怯な事考えてません?」
「……いや別に?」
キョウに図星を突かれ、ザイツはさりげなく視線を逸らしながらユミィの話を聞く。
「おばあちゃん……ただ神様にお祈りしましょうって……だからあたし……おばあちゃんの家を抜け出して来たの……」
「……ユミィちゃん」
「お願い……サリーおばちゃんっ……サリーおばちゃんは元国兵の突撃部隊で、とっても強いんでしょうっ? お願いおばちゃん……おにいちゃんを助けて……魔物達の砦から……お兄ちゃんを助け出して……っ!!」
「――そんな事ができる訳ないだろう」
「――っ」
少女の訴えはサリーではなく、事務所のカウンター席からの鋭い声で撥ね付けられた。
「冒険者ギルドと所属職員は、事務所が置かれた国の体制がどう変わろうと、その動向に口出ししてはならない。そうしなければ中立を謳う組織として、各国に事務所を設置などさせてもらえない」
「……事務所所長」
サリーに所長と呼ばれたのは、仕立ての良い灰色の上下をきちんと身に付けた、初老の男だった。
男は神経質な仕草で厳しい表情の眉間を押さえながら、サリーに言う。
「サリー、君がその子供の助けになる事は、許可できない。そんな事をすれば、君が背信の罪で冒険者ギルドから処断される」
「所長……この子のお兄さんはまだ十一歳、ほんの子供です。……せめて砦まで行き、どうなったのか確かめてはいけませんか?」
「駄目だ。……子供と言えど、その子供の兄は自業自得だ、諦めろ」
事務所所長の言葉に、今度はサリーに庇われていたユミィが震え言葉を返す。
「――なんでよ!? お兄ちゃんは悪くないもん!! 悪いのは村を潰してお父さんとお母さんを殺した魔物達だもん!!」
「――それを口に出すなら、君もお兄さんと同じ運命を辿るだろうな」
「――ッ!!」
涙目の少女にも躊躇せず、事務所所長は冷たく言い放つ。
「君は敗戦国の民だ。……しかも相手の国を侵略しようとして打ち負かされ逆に侵略された、本当なら敵国が憎悪のまま虐殺しても当然の国の民だ」
「ひっ……っ」
「……いつ魔王軍の気が変わり、殺されたり奴隷にされたりしてもおかしくない事を忘れてはいけない。……でなければ、お兄さん同様君も酷い目に遭うだろう」
「うぅ……ひどい!! うわぁああん!!」
容赦のない男の言葉に、ユミィはサリーに縋り付いた手を握り絞め、声を上げて泣き出した。
「あ……あたし達が悪いんじゃないもん!! 悪いのは魔物共だもん!! 魔物達は悪だから滅ぼしてもいいって神殿の神官様もおっしゃってたもん!! 助けてよ……誰か助けてよぉ!!」
「やめなさい!! 本当に死ぬぞ!! ゼルモア神聖教国に都合の良い教義しか説かなかった、赴任神官の言った事など忘れるんだ!!」
「やだやだぁ!! お兄ちゃん!! お兄ちゃん!! わぁあああ!!!」
――それを哀れむものは、この場では厳しい顔で少女を怒っている事務所所長、少女を慰めるサリー、そして自分の隣で心配そうな顔をしているキョウだけだろうとザイツは思う。
『だってあのおっさんの言ってる事、正しいもんな。……身の程も知らず猛獣相手にキャンキャン吠えるバカ犬は、猛獣の気分次第で噛み殺されたって文句は言えないんだぞガキ?』
ザイツの内心に同意するように、壁際で身を起こしている(サリーに先程殴られた)冒険者達も、泣き叫ぶ少女に冷めた視線を送っていた。中には馬鹿にした様子で、首を振っている者もいる。
『……そりゃこんな『依頼』、例え金もらったって、誰も力貸そうなんて思わないだろうに……』
そう思いながら――ザイツは隣にいる『雇い主』が動いたのに気付き、ため息をつく。
「……あの、だったら私が、砦に行ってその子のお兄さんについて聞いてきましょうか?」
ザイツの雇い主ことキョウの一言に、周囲は騒然として注目した。
『……だよな姫。……終戦後の人領域を確かめに来たあんたなら、ここは口を出すよな……やれやれ』
「……やれやれ」
気が付けば、ザイツ同様キョウの隣にいたケイトも、この面倒な展開を予想していたのか、小さく諦めの言葉を漏らしていた。
そんな護衛二人が判ったのか少々肩身の狭い様子で、それでも撤回する事無く、キョウは話を続ける。
「私は冒険者ギルドとは無関係ですし、砦に行って魔王軍とケンカする気もありませんから、問題無いと思います」
「おいおいあんた!! 馬鹿な真似はやめろ!!」
「あんたみたいな美人、捕まったら酷ぇ事になるぞ!!」
「魔王軍なんて、野蛮で残酷な魔物達の軍団じゃねぇか!! あんな連中と話が通じるわけねぇ!!」
「……魔王軍が本当にただ野蛮で残酷なら、この国の人達はとっくに皆殺しにされているんじゃありませんか?」
「そっ……そりゃ……」
男達に冷静な言葉で返したキョウは、にこりと笑って付け加える。
「私の旅は、こんな事が続く面倒なものです。……それでも私の護衛増員として、雇われてくれる人はこの中にいますか?」
先程勢い込んで自分を売り込んで来た男の冒険者達は、引きつった表情で全員キョウから離れ、視線を逸らす。
『……だよなぁ……』
その気持ちがとても良く判るザイツは、今更ながら面倒な仕事を引き受けてしまったと後悔し、肩を落とした。
こうして護衛の増員が得られないまま、ザイツ達は砦に行く事になった。
駐車場に止めていた馬車へと戻ったキョウ達に、事務所の裏口から出てきたサリーが追い付き、砦までの地図をキョウに渡す。
「……これは?」
「冒険者ギルド調査による、砦までの最短ルートが印された周辺地図です」
「いいんですか? こういうのって、部外者には秘密だったりしません?」
「大丈夫です。所長の許可も取りましたので、どうぞご活用ください」
「ありがとうございますサリーさん、助かります」
「いえ……あの……本当に、行ってくださるんですか……お客様?」
サリーは腰にしがみつくユミィをなだめながら、心配そうにキョウに問うた。
キョウは頷く。
「私も気になりますから」
「それは……申し訳ありません」
キョウの身分を申請書類で知っているサリーは、恐縮したように頭を下げる。
「どうかこの子達を、お許し下さい。……この子は私の友人の孫なのですが、私の友人の一族はとても信心深く、神殿の教義を疑うなど考えもしなかったのです」
「頭を上げて下さいサリーさん、私は怒ってないですから。……それに……自分の村が焼かれてお父さんとお母さんを殺されたなら、誰だって恨むと思います」
「……お客様」
「……人族だって、魔族だって、恨みますよ」
悲しげな表情でぽつりと漏らしたキョウに、サリーも頷く。
「……そうなのでしょうね。……私も兵士を止めるまでに、多くの魔物達をこの手にかけました。……彼らの家族に恨まれても当然です」
「おばちゃんは悪くないもん! 悪いのは悪の……」
「ユミィちゃん」
「っ……」
不満げな顔をしたユミィは、だがサリーの静かな表情に気圧されたのか、黙ってサリーの服を掴んだ。
そんなサリーとユミィを見つめていたキョウは、やがて視線を逸らしてザイツへと向き直り、声をかける。
「……行きましょうか、ザイツさん、ケイトさん、カンカネラさん」
「そうだな」
「はい、姫様。……結局増員は叶いませんでしたが、後でなんとかするしかないでしょう。……腰抜け男共めっ」
【変なのが姫様に擦り寄るよりマシである。さっ、行くぞ我が弟分ガンバーっ】
「ヒヒ~ン♪」
「いつから馬の兄貴分になったんだバカラス……」
一騒ぎしながら定位置となりつつある御者台の端に乗り込んだザイツは、同じく馬車に乗り込み座るキョウの、押し殺すような声を聞いた。
「……やだな」
「……え?」
「……あのユミィちゃん……家族を殺されて泣く……人族を恨む魔王国の子供達と同じだ。……本当にこういうの……連鎖していくんだ……」
「……」
そういうもの、としか考えてなかったザイツは、敵国の子供の泣く姿にショックを受け、途方に暮れたように呟くキョウが不思議だった。
『……やっぱり変な魔王女様だよな……まぁ、これ以上姫が悲しまないよう、あのガキの兄は生きているといいんだが……』
「ふむ……処刑台に死体が晒されてない、という事は、まだあの子の兄は拷問中なのかな? ……もしくは食料として、既に鍋でグラグラと……」
「ちょおお?!! 怖い事言うなよケイト?!!!」
「え?」
ドライに可能性が高い最悪の事態を考えていた御者台のケイトは、慌てたザイツに不思議そうに首を傾げながら、馬車を出発させた。
冒険者ギルド所有の地図の精度は、かなり高かった。
罠代わりか複雑に枝分かれしている山道を、迷う事無く進む事ができた馬車は、やがてまだ日の高い内に、巨大な崖を背に堅牢な石壁に囲まれた、リリエッド砦へと到着する事ができた。
「お……思ったより……大きいです」
「……一応北の要所だからな。……それに……陥落した砦とは思えないな」
キョウに答えながら、ザイツは砦を観察する。
おそらく魔王軍の攻撃によってだろう、砦の石壁や屋根には矢が突き刺さり、
所々黒々と焼かれていたが、内側からしっかりと補修され、防御機能は回復しているようだった。
またおそらく打ち壊されたのだろう、開け放たれて兵士達が行き交う木製の正門も、真新しい木材によって新たに設置し直されている。
「……門から見た感じ……中の建物もしっかり再建してるな。僅か二ヶ月程度で、魔王軍の工兵部隊ってのは大したもんだ……」
「製造の天才ドワーフ族がいるのは伊達ではない、ということだろうな」
見事な仕事に、ケイトも感心したようにそう言い砦を眺める。
キョウも馬車の窓からしばらく砦を見上げていたが、すぐに表情を引き締め、ザイツ達に言う。
「そ、それじゃあ、砦にお邪魔して、ユミィちゃんのお兄さんについて聞いてみましょうかっ?」
「そうだな……姫は正体を現した方が、話しが早く進むか?」
「あ……うーん……」
ザイツの言葉に少し考えたキョウは、首を振る。
「……最初は、ただユミィちゃんの代理人として行ってみてはだめですか?」
「魔王女としてではなくて、か?」
「はい。……その、できれば身分ではなく、用件で話を聞いてもらえせば……と思いまして」
「……」
それは、魔王軍がただの人族の訴えを聞くか、という事だ。
「……難しいぞ多分。良くて門前払い、悪けりゃ……」
「そ……そうです……よね」
すみません、と呟いたキョウに、御者台から降りたザイツは続けて言う。
「うん。じゃあ行くぞ」
「えっ? ……あの?」
「確かめたいんだろ? だったら、護衛は護衛の仕事をするよ」
具体的に言うなら退路確保な、と付け加えてガンバーのたてがみを撫でたザイツに、キョウ驚いたように目を見開き、そして笑った。
砦の正門前で門兵を勤めているのは、ぶ厚い身体を魔王軍装備である皮鎧に包んだ、一体のトロールだった。
【人族 どぉまれ】
「……」
馬車から降りて歩いてきたザイツ達は、その毛深い巨体に少々圧倒されながらも、その場に止まり、見るからに凶悪そうなトロールの門兵に声をかける。
「あ――あのっ、すみません!!」
【……あんだ】
ザイツの横に立って声をかけてきたキョウを見下ろし、威嚇するようにトロールは恐ろしい顔を歪めた。
その顔に小さく震えながらも、手元にあったザイツのマントを握り締め、キョウは続ける。
「あ――あの!! 昨日リリエの町で捕らえられ、こちらに連行された子供――ロン君について伺いたいのですが!!」
【……】
恐ろしい表情のまま、トロールはキョウを見下ろす。
「そ、その!! ロン君の事を妹さんが大変心配しておりまして!! 現在どうなったのかを確かめに、妹さんの代わりに私達が来ました!! ――え、ええとそれで!! できれば返して欲しいと思っております!! 確かにロン君のやったことは悪い事ですが!! まだ未熟な子供には更正のチャンスが与えられるべき――とか少年法の精神がそんな感じで!! ――あ、少年法魔王国にはないんですけど!! でもそういう考えって良いとおもいませんか?!! できれば寛大な処置をお願いしたいと思います!! お願いです!!」
【ちょ ちょど 待て】
恐怖を思い切るようにどんどん叫ぶキョウに、トロールは初めて困惑したように手を振った。
そして背後に設置されている、詰め所らしき小部屋に声をかける。
【昨日……ごども……】
【あれ? まだ返してなかったのか?】
【ああ……隊長が話を……】
【おかしな点が……総司令は……】
【ああ……あのふたり……仲悪いから……ケンカに……】
【村の襲撃が……で……】
【ああ……そういえば隊長が……怒って……】
『……?』
詰め所には数体の魔物が詰めていたらしく、トロールも含めた会話がしばらく聞こえてきた。
やがて振り返ったトロールは、再びキョウを見下ろし口を開く。
【がれ】
「え?」
【ごどもは おぅじがすんだら がす だがら がれ】
「……ええと……それって、ロン君は生きてるって事ですか? ……それで返してくれるんですか?」
【ああ】
「ほ、本当ですか?!!」
【おらだちは いぎょうな 人族ど ぢがう うぞは 言わない】
トロールは、厳めしい顔のまま頷いた。
強張っていたキョウの表情が、明るく輝く。
「よかった!! ありがとうございます!!」
【っ……え、ええがら が、がれ】
笑顔のキョウに見つめられ、トロールは慌てたようにそっぽを向き、また大きな手を振った。
『……そういやトロールって、別種族の女も好きなんだったっけか。――照れているのか……』
「……? どうしましたザイツさん?」
「……いや……なんとなく」
敵意とは違う危機感を覚え、ザイツはさりげなくキョウの前に立って、トロールと向き直った。
【? あんだ?】
「……あ」
改めて問われると、先程の会話が気になる。
「ええと……何かもめているようだったけど、あれって連れてきた子供のせいなのか?」
【ながの ごどは 話せね】
「……そら、そうなんだろうけど……子供は、いつ頃返してもらえる?」
【わがらね がれ】
「いや……でも……」
【がれ 人族】
「っ……」
はっきり不快を示して睨み付けられたザイツは、トロールの嫌悪を感じながら口をつぐんだ。
そして数歩下がると、共に下がったキョウとケイトに、こっそりと話しかける。
「……どうする? ……嘘じゃなきゃ、子供は生きてるみたいだが」
「嘘をつく理由もない……ですよね? ……でもザイツさんの聞いた通り、何かあったんでしょうか?」
「総司令と隊長がどうのこうの、と聞こえましたね。……ふむ、子供の身に差し迫った危機が無いなら、返してもらえるのを待つ、というのも穏便な方法ですが……」
「でも……子供だし、体力も無いでしょうから……やっぱり返してくれるなら早い方が……」
「それは確かに……――ん?」
数秒の密談は、砦から聞こえてきたざわめきで遮られた。
『……なんだ?』
砦の本丸らしい建造物から、、大勢の魔王軍の兵士達が慌てて飛び出してくるのがザイツにも見えた。
【お待ちを!! 隊長!! お待ちを!!】
【総司令の許可無しにどこに行かれるというのですか!!】
【お、お止めしろ!!】
「? ――うわ?!!」
「ひぇえ?!!」
「なっ?!!」
【五月蠅ぇええええええ!! くらだねぇ濡れ衣着せられたままで黙ってられっかぁああああああああ!!】
――偶然、何気なく視線を上げたザイツら三人は、砦の石壁の上を跳躍し、目の前に着地した魔物に驚いて悲鳴を上げた。
「ひ――ひぃいいい!! こわいよぉおお!! 父ちゃぁああん!! 母ちゃああん!!」
【あぁ?! 俺に石ぶつけてきたくせに、このくらいで怖がってんじゃねぇよ。ほら、お前の村はどこだっつってんだ。案内しろよ】
ザイツ達の目の前で身を起こし、片手に掴んだ少年に話しかけているのは、濃灰色に輝く美しい毛並みの、二本の後ろ足で立つ狼だった。
類い希な跳躍力で戦場を駆け、鋭利な爪で敵を切り裂くその勇壮な魔獣を、ザイツも知っている。
「……フェンリル族……」
【ん? 俺は確かにフェンリルだが、人族がこんな所になんのようだ……】
魔王軍らしいフェンリルは、ザイツの声に応えて視線を向けてると――驚いたように視線を止め、そして叫ぶ。
【ま――魔王女殿下?!! なんでこんな所に?!!】
「は――ハウルグさん?!! ここの部隊だったんですか?!!」
「……え?」
「……え?」
驚くフェンリルとキョウに、ザイツとケイトも驚き思わず聞き返した。
その騒ぎを聞き隠れていたザイツのマントから顔を出したカンカネラは、フェンリルの姿を認めると、嬉しそうに声を上げる。
【ん? ……おおハウルグ様ではありませぬかっ!! お久しゅうございます!!】
【おうっ、チビガラスじゃねえかっ。相変わらず殿下のお側でがんばるなお前!!】
「……知ってんのかバカラス?」
【知っているも何もっ。――このお方はフェンリル族族長の御六男にして、魔王陛下がお育てになった、王庭騎士団の騎士様であらせられるぞ!!】
「き……騎士?」
おう、と返すフェンリル――ハウグルは、片手で暴れる子供を掴んだまま歯をむき出しにして、ザイツ達を見下ろす。
――騎士に退治される、化け物にしかザイツには見えなかった。
ザイツ「……初登場のケモミミがおっさん……」
キョウ「期待してたんですかザイツさん?」
ザイツ「……多少は」




