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次期魔王に雇われたが何かがおかしい  作者: 宮路広子
最初の街と魔王女一行 ~最初の騒動~
13/201

13 決着がついたが何かがおかしい②

~闘技前~


【姫様、姫様、吾輩ザイツを近くで応援してやりたいのでありますっ。なのでこの一戦のみ、吾輩をザイツの使い魔として貸し与えては下さいませぬか? 闘技場規定により、闘技者の使い魔となっておれば、共に闘技場に上がる事もできまするっ】

「応援ですか? ……それはいいですけどカンカネラさん……あれ? いつの間にザイツさんと仲良くなったんですか?」


 敬愛する主の問いに、魔烏(クローメイジ)カンカネラは一瞬渋顔となって沈黙したが、すぐに恭しく頭を垂れて答えた。


【……これから姫様のお供をする同士でありますから。いがみ合うより協力すべきだと思っただけであります】

「あの人間嫌いのカンカネラさんが……」

【おかしいでありますか?】

「……ううん、そんなことないです、嬉しいですよ。カンカネラさんとザイツさんが仲良く協力してくれたら、私はとても心強いです」


 そう言うとカンカネラの主クローディは、カンカネラの白い羽毛で包まれた腹に宿る使い魔の証を指で触れ、呪文を唱えた。


「――はい、調整終了。これでカンカネラさんの主人は一時的に、私とザイツさん二人になりました。カンカネラさんへの魔力供給は私が引き受けていますから、魔力が来なくてカンカネラさんがへばってしまう事もありません」

【お心遣いに感謝申し上げます姫様。……くっくっく、これであの無礼千万なキンキラ王子をぶちのめしてやれる……】

「え?」

【い、いえなんでもございませぬ。それでは姫様、しばしお側を離れる事をお許し下さい】

「わかりました。ザイツさんや事務所の皆さんのお邪魔にならないようにして下さいね。それじゃあ、いってらっしゃい。また後で」


 ――こうして、魔王女クローディの使い魔カンカネラは、一時的にザイツの使い魔となったのだった。


「――闘技は決しました!! 冒険者ザイツの勝利です!!」

「……ああ……そういえばそうだった……よかった」


 それを混乱していた頭の中で思い出したクローディは、安堵で脱力しながら窓の縁にしがみつき、闘技場がら響く審判マーカスの大声を聞いていた。


「そういえばって……忘れてらしたんですか姫?」

「忘れていたというか……闘技場にカンカネラさんが出てきませんでしたから、やっぱりまたケンカでもして、ザイツさんの応援をやめたのかもしれないと思ってまして。……でも違ったんですね」

「いなかったのではなく、ザイツのマントの中に隠れていたのですね。使うその時まで、『隠し球』の存在を悟らせなかったザイツの勝利でしょう。……それにしても」


 クローディの隣に立ち、目を凝らして闘技場に散らばった白銀の鎧の破片を

見ながら、ケイトは思わずぶるりと肩を震わせる。


「あのいかにも高性能な鎧を難無く粉砕とは、下手な人間の魔法使いなど足下にも及ばない、凄まじい魔力ですね。……堕天魔族(フォルディノー)の使い魔とは、かくも強力な力を授かるものなのか……」


 最後は一人言のように呟き複雑な表情になったケイトに、クローディは苦笑して首を振り答えた。


「カンカネラさんは努力家なんですよ。……『姫様』を守るために、魔王の国で王宮魔術師の先生に弟子入りして、一から魔法を学び直した子なんです」

「ほう」

「……あの子は本当に、『姫様』が大切なんでしょうね」

「……」


 どこか申し訳なさそうなクローディの言葉を聞きながら、ケイトは闘技場を見下ろし、ザイツとザイツのマントから首を出しているご機嫌のカンカネラを見つめた。



「……おいバカラス、殺してねぇだろうな?」

【ふふん、心配するな野蛮人小僧、攻撃は鎧が衝撃を吸収するように放ってやったわ♪】


 一方闘技場のザイツも、戦いが終わった闘技場の上でぐったりと座り込み、恐慌した様子で水路からジルベルトを引き上げている騎士達を見ながらカンカネラに確認していた。


「仮にも王族、闘技場とはいえ、ヤっちまったら後が面倒だぞ。……というか、もう俺思いっきり恨み買ってるし」

【ははんっ、お顔の良いお坊ちゃんはお得であるなぁ。メスザル共が五月蠅い事よ】


「いやっぁあああ!! ジルベルト様がー!! ジルベルト様ぁー!!」

「何よあいつー!! 貧乏冒険者の分際で信じられないー!!」

「あんなのズルよインチキよイカサマよー!!」

「汚いさすが冒険者きたない!!」


 闘技場の外からは、華やかに装った娘達から王子を倒したザイツへ、さっき混じりの悲鳴と怒号が湧き上がっている。なお男の観客は、それが恐ろしいのか引きつった表情で遠巻きに娘達とザイツの様子を伺っている。


「……王子様が死んだら、俺あの娘達に殺されるかも」

【その時は姫様のお目に触れない場所で死ね♪ 我らを巻き込んでくれるな】

「絶対お前だけは道連れにしてやる」


 そう言ってザイツが軽く首根っこを掴むと、カンカネラはマントの中で為す術無くジタバタともがいた。


【や、やめるである~っ。魔獣虐待反対である~っ】

「……本当に非力だな」

【か弱い魔烏をいじめるなである~っ!!】

「魔力は人族(ヒュー)の一流魔道師並で、体力は子供以下か。……ほんと、隠してる事がバレなくてよかった。王子様の盾が擦ったたけで、お前死ぬだろ」

【だからお前が庇うのである肉盾!!】


 極端な能力性能を持つカンカネラに、ザイツは自然とため息が漏れる。


「……やれやれ、これからが思いやられるぜ」

「確かにこれから大変そうだなぁ。割に合わない勝利報奨だよコリャ」


 視線を上げると審判のマーカスがいた。少々出た腹を揺らして肩を竦めたマーカスは、哀れむような微妙な視線をザイツへと送り、小さな声で言う。


「勝負はついた、審判の俺も認める。さっさと退場した方がいい」

「……あ、やっぱり?」

「騎士団の連中今は王子様を助けるのに必死だが、王子様に何かあったら、絶対お前に難癖つけてくるぞ。闘技場の勝者であるお前に何かされたら困るし、ここはさっさと――」


 多少は親切心も入っているらしいマーカスの忠告が、残念ながら少々遅かった事にザイツは気付いた。


「ちょ、ちょっと騎士様方?!! お、お待ちを――」

「黙れ!!」


 戦闘が終わり結界が解かれた闘技場に、騎士数名が上がってくる。

 剣こそ抜いていないが、王子を救助している者達より身分が高いらしい煌びやかな鎧甲冑の騎士達は、燃え立つような怒気を纏い立ち上がったザイツへと詰め寄る。


「このような卑劣な戦いを認められるものか!! 我らが王子殿下を愚弄しおって!!」

「小細工を弄し使い魔の力まで使ったこんな勝敗が、その冒険者の実力として認められるはずはない!!」

「こんな勝負は無効だ!! 王族に対する不敬の数々――今この場で叩き切ってくれるわ!!」


 やっぱりそう来たか、とどこか冷静な頭で思いながら、ザイツは言い返そうとしたカンカネラをマントの中に隠す。

 姑息な戦い方だったのはザイツも認めている。だがそれでも闘技の『ルール』に違反しない事を念頭に置いてザイツが戦ったのは、こうなった時の後始末をギルドに押しつけられるからだった。


「――お、お待ち下さい騎士様方!! 卑劣とおっしゃいますが、ザイツは何一つ闘技のルールに抵触した行いをしておりません!! それはこの闘技の審判を任された、このマーカスが冒険者ギルドの名において断言します!!」


 案の定やや恨みがましい視線をザイツに送った後、それでもマーカスはザイツと騎士団の間に立ちふさがり、騎士達に言葉を返した。


「闘技場においてできる事、できない事は闘技前に王子殿下にも説明差し上げ、ご了承いただいております!! それを敗北したからと不服を申し立てるのは――」

「黙れ!!」

「ひぃっ」


 ――だが屈強な騎士の一喝で、ザイツの後ろに逃げた。


「おいマーカス……」

「いや無理無理。俺とっくに冒険者引退した酒場の親父だし、騎士様の集団に毅然と対応とか絶対無理だから。ザイツ、自分でなんとかしてお願い」

「丸投げすんなおっさん!!!!」


 マーカスへ思わず声を荒げて返すザイツの目の端に、慌てた様子で二階から移動しようとするクローディと、それを止めるケイトが見えた。


「っ……」


 そのまま止めてくれと、ザイツはケイトに願う。激昂している騎士達の前に魔王女が現れてザイツを庇えば、どんな悪感情を生むか判らない。ならば。


「……無効なら無効でいい」

「何だと!」


 こういう時にはありがたい、焦燥も恐怖も出にくい表情を騎士達に向けて、先手を打ってザイツは言葉を続けた。


「でも俺は、護衛の仕事を受ける。――あんた達が見た『卑劣な戦い』で、どんな事をしてでも姫を守って金をもらう。あんた達が敵になるなら、あんた達が考えつかないような汚いやり方で、撃退する」


 半分はハッタリだ。先程の戦いも必死で一杯一杯だったザイツは、今この場で騎士達を撃退する方法などまだ考えつかないし、利用できる手札も残り少ない。


「――仕事を奪うっていうなら、貪欲な冒険者はなりふり構わないぞ。試してみるか?」


 だがそう言ってマントの中に手を入れたザイツの様子は、それなりの効果があるようだった。

 騎士達は怒りに顔を歪めながらも、警戒を解かず一定の距離を保ってザイツと対峙する。そのただならぬ様子を、観客達も思わず声を失って見守る。


「――どうかおやめ下さい」


 その重苦しい空気を破ったのは、落ち着いた男の声だった。


「――騎士様方、我々は大切な依頼を任せるために、『どんな手を使っても、仕事を完遂できる者』を必要としております。この闘技場における戦闘の自由性は、それを見極めるためのでもあるのです」


 大勢のギルド員を連れて闘技場へと上がってきた男――冒険者ギルドシュネイ事務所所長は、穏やかだが有無を言わせない口調でそう言うと、ザイツの前で騎士達に跪き言う。


「よって我ら冒険者ギルドは、この若者のような『卑劣な戦い』を認めております。誇り高きカトラの騎士様方にはご理解いただけなくとも仕方のない事だと思いますが……これが我々冒険者のやり方なのです。どうか我らを頼る依頼人のため、お許し下さい」

「ぬ……」


 それはザイツの勝利を認めた言葉だった。

 下手に出つつも自分達の領域を譲る気が無い事務所所長を、騎士達はやや冷静さを取り戻した表情で睨んだ。更に事務所所長は言う。


「……この一件の責任は、『王子殿下をそそのかし、王子殿下に冒険者の真似事をさせようとした』、情報漏洩者にあります」

「――えっ?! ――ひぃ?!」


 突然事務所所長に従っていたギルド員達に捕らえられ、男が声を上げた。

 それが事務所の陰でジルベルト王子と密談していた所長の補佐だと、ザイツは思い出す。


「……この愚か者が王子殿下を唆し、妙な情報を流さなければ、此度の闘技は起きませんでした。処分すべきは闘技相手の冒険者ザイツではなく、この男です」

「ちっ――違う!! あれは王子殿下の方から――ぐぁっ」


 反論しようとした所長補佐は、ギルド員から腹に一撃喰らい呻いた。


「……『我々はそう判断しております』……騎士様方、いかがでしょうか?」

「……」


 冒険者ギルドは、ジルベルト王子がギルド員に情報漏洩させた事を判っている。

 それに目をつぶり、場を収める生贄を差し出すので、そちらの怒りも抑えて欲しい。


『……って事だよなこれ。……怖ぇえ……』


 ――所長が言外に言っている事に気付き、ザイツは背筋が寒くなるものを感じた。ギルドの『切り捨て方』によっては、ザイツがその『生贄』にされてもおかしくなかった。


「我々としても、情報漏洩はゆゆしき事態……納得していただけぬならば、此度の一件を報告してギルド本部とカトラ王国司法院により詳細な調査を依頼し、全てを明らかにしなければなりません。……事を大きくすれば、お忙しい王子殿下や騎士様方にも、ご迷惑をお掛けするのではないかと……」

「――わ、判った!!」


 ザイツ同様、言葉の意味に気付いた騎士がやや引きつった顔で事務所所長の言葉を遮る。


「此度の一件は、確かに殿下を唆したそやつの咎であろう!!」


 立場的には支配者階層の下に位置していても、冒険者ギルドは大陸全土に情報網を張り巡らせ、大勢の冒険者を抱えている大組織であり、決してないがしろにして良い存在ではない。大事になるくらいなら生贄を処分して事を収めたいと、騎士達もそう判断したようだった。


「ち、違う!! 俺の方からじゃない!! 俺はただ殿下に――」

「どっちにしろ、あちらさんが提示した利益に目が眩んで情報漏洩したのは確かだろうが」

「た――助けて!! 助けてくれぇ!!」

「こういう目に遭うから、組織に不義理するべきじゃないんだよ。まぁもう遅いけどね」


 冷えた言葉を投げかけ、ギルド員達が泣き叫ぶ所長補佐を事務所へと連れて行く。

 その憐れな姿を見ながら、ザイツはギルドに目を付けられるような行動は、できるだけやめようと心に誓った。――もう遅いような気もしたが。


【――とはいえ、一応これでお前の勝ちは決定であろう? やっとあのキンキラ王子共からあれこれ言われず、旅立つ事ができそうだな】

「……あぁ……そうだよな」


 それでもようやく一安心を感じ、マントの中のカンカネラに答えたザイツは、もう大丈夫だと伝えるため、キョウとケイトがいる二階席を見上げようとした。


「――大変です!! 殿下が――殿下が!!」


 だがその一時の安堵は、恐怖に裏返った騎士の声で破られる。

 ザイツ他、闘技場に上がった全ての者達が視線を向けた先には、水路からジルベルト王子を救助していたのだろう若い騎士達、そしてタンカに乗せられているジルベルト王子の姿が見えた。

 ――ジルベルトはピクリとも動かない。


「お……王子の御心音が……止まって……!!」

「なんだと?!!」


 緊急事態に、闘技場の上にいた騎士達や事務所所長、そしてザイツも表情が強張る。


『……闘技の結果とはいえ、王族の死は一大事だ。もしこのまま王子様が死ねば――やっぱ俺の責任になるか?!!』


 内心で今まで以上の恐怖を味わうザイツだったが、幸いというべきか、騎士達も冒険者ギルド事務所側も、ザイツに構っている余裕は無いようだった。


「戦闘不能回復を!! 神聖魔法使いの癒術者を呼べ!!」

「騎士の中に一人癒術者はおりましたが――戦闘不能回復魔法程度では全く効果が無く!!」

「ならば神殿に連絡しろ!! 急いで高位蘇生魔法を行使できる大神官様を呼ぶんだ!!」

「大神官様は、終戦処理のためゼルモア神聖教国へ向かわれており御留守です!! 大神官様以外で蘇生魔法を扱える者は神殿にはおりません!!」

「ならば冒険者ギルド!! お前達の人材でなんとかしろ!!」

「お、お待ちを……ミス・ケイトの神聖魔法は――ダメだ、確か彼女が行使できるのも、戦闘不能回復魔法までだ……他に神聖魔法の熟練者は――とにかく事務所に待機している癒術者を皆呼べ!!」


 騒然とした空気の中で、ザイツは本当にジルベルトがまずい状態なのを知り唇を噛んだ。

 神聖魔法には体力が完全に尽き戦えなくなった者を治癒する戦闘不能回復魔法と、それ以上に傷付き仮死状態に陥った者を治癒する蘇生魔法がある。

 どちらも神聖魔法限定のものであり、難易度が高く習得しにくい高位魔法ともなると、行使できるものは極端に少なくなるため、必要な時に術行使者を呼ぶのは大変だった。


『……蘇生魔法は、処置が早ければ早いほど効果を発揮するが……間に合わなければどうしようもない。……こりゃ……やばいな……』

【……強すぎたであるか? 吾輩のせいであるか?】

「違う」


 頭を出そうとしたカンカネラをマントに押し込み、ザイツは断言する。


「俺がお前を使ったんだ。……保護水晶(ガドクリス)が耐えきれないほどの過剰攻撃は、俺がやった事だ」

【……ザイツ】

『……バカラスがどれほどの力を持つか、俺は全く判っていなかった。……使い魔と言ったって、所詮お姫様に城の奥で飼われていた箱入りのペットだと、頭の中で甘くみていた……くそ……俺の判断ミスだ!!』


 自分を殺そうとしてきていたジルベルトに対する罪悪感は無い。だがこれが問題になるかもしれないと思うと、ザイツはキョウに罪悪感を覚え俯いた。

 

『……当然俺にも、蘇生魔法なんか使えない。……どうしよう……本当にあいつが死んでしまったら……』


 ザイツは途方に暮れながら、周囲の喧噪を聞いているほかなかった。


「……あの、蘇生魔法必要ですか?」


 ――え? とその場の全員の声が、戸惑ったように上から降ってくる声に答えた。


「ひ……姫様?」

「蘇生魔法、必要なんですよねっ?! だったら王子様を闘技場に持って来てください!! 今行きますから!!」


 慌てたような声と軽い足音が響き、やがて闘技場に、杖を抱えた絶世の美女堕天魔族(フォルディノー)が駆け込んできた。


「――キョウ姫?」

「ありがとうございましたザイツさんっ。――それから、大丈夫です。……魔族の姫には、彼を助ける力がありますから」


 呆然とするザイツを力付けるように頷くとキョウは杖を握り締め、キョウに従いジルベルトをのせたタンカを闘技場の上へと運んだ騎士達に頭を下げると、表情を引き締めから目を閉じる。


「……大丈夫」


 慌てた声から震えと焦りが消え、キョウが握り締めている杖にはめ込まれた宝石が輝き始めた。

 周囲を包みこみ慰撫するような、強大で暖かい魔力が闘技場に満ちてゆく。


「……慈悲深き、常世を守りし太古の光。生命尽きしこの者より死の影を払い、再び立ち上がるため御力を与えたまえ……」


 その魔力を集約するように詠唱するキョウは、やがてジルベルトの額へと杖先を向け、静かに魔法を宣誓した。


「――【死者蘇生(リーヴァレイション)】」


 弾けるような輝きがジルベルトを包み、癒す。


「っ……私……は?」

「王子殿下ぁあ!!」


 戸惑うようなジルベルト王子の声と、騎士達の歓声が重なった。

 ザイツは、再び安堵の脱力を覚え、その場にへたりこんだ。

 キョウを追って来たのか、その横にケイトが立ち感心したように言う。


「詠唱は少々違うが、あれは正しく神聖魔法の高位蘇生術だ。……才能のある人族が生涯をかけて習得するような魔法を、うら若い娘が難無く使いこなすのが堕天魔族(フォルディノー)か」

「っ……ケイト」

「……ああいう力を見ていると……凡人である私は、やはり恐ろしく感じるな。……君は違うかザイツ?」


 なんと答えてよいか判らないまま見ていると、キョウは戸惑いながら身を起こしたジルベルトの横にしゃがみ込み、話しかけていた。


「痛い所はありませんか?」

「……貴女は」

「仮死状態を回復しただけですから、怪我はちゃんと見て貰った方がいいですよ王子殿下」

「……何故助けたのです……」

「……え?」

「……無様な敗北を晒した者など……捨て置いて下さればよかったのだっ」

「……っ」

「あれだけ大口を叩いたあげく、この不名誉……いっそ死んだ方がよかった……っ」

「そんな風に言っちゃ駄目です!!」

「――っ」


 あまりにも屈辱的な敗北のショックか、捨て鉢なジルベルトをピシャリと打つように、キョウは強い口調で返す。


「……死んじゃ駄目です」

「……」

「死んでしまったら……どこかにいってしまったら……どんなに後悔したって……悲しませた人達に謝る事もできないんですよ」

「……姫」

「貴方は……ちゃんと帰ってこれたんですから……どうか貴方を助けようとしていた人達の気持ちを、大切にしてあげて下さい」


 そう呟くように言ったキョウは頭を下げてから立ち上がり、ザイツの所へと戻ってきた。


「……ザイツさんに怪我はありませんか? ……マントとか、もうボロボロですけど……」

「ああ、俺のダメージは、全部保護水晶(ガドクリス)が吸い取ってくれたからな」

「……よかった」


 そう言って微笑むキョウを見上げていたザイツは、やがてケイトに視線を送り、先程投げられた問いに答えを返す。


「……俺は、この姫なら怖くねぇな」

「……ふむ、確かにな」


 ザイツの答えに、ケイトは小さく笑って同意した。


 こうして、闘技場の一件は全て決着した。



「……にうー」


  ――そしてその一部始終を事務所の屋根の上から見守っていた小さな黒猫は、キョウとザイツをしばらく見つめていたが、やがて身を起こし屋根を伝って走り去って行った。




一件一応落着


カンカネラの使用戦闘技能


暗黒魔法


のみ。魔力が高く、魔法火力は一流の魔道士に匹敵するが、体力は無く防具も着けられないため、非常に脆い。切られても射られても殴られても死ぬ。

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