1 初めて会ったが何かがおかしい
「……んー、どうすっかなぁ……」
魔王軍と人族のグランツァー大陸王国連合が終戦合意した、というニュースを酒場で聞いたザイツは、魔物討伐の報奨金が入った布袋を片手に町を出ると、ブラブラと冒険者や商人達の行き来でできた道を歩きながら、今後について考えていた。
数千年の長きに渡り、時折大小の猶予期間を時折で挟みながらも、魔族と人族が多くの被害を与え合い領域の境界で戦いを繰り広げていたグランツァー大陸。
そんな大陸の人族と魔族の領域境界にほど近い、平穏とは無縁の場所で育ったザイツは、生まれ育った環境や体力、そして多少の才能にも恵まれていたため当然のように剣を握り、長じて戦士として冒険者登録を済ませた後は、人魔の戦場やダンジョンなどを渡り歩いて生きて来た。
そしてそんなザイツにとって、耳にした終戦合意は平和の訪れを伝える吉報というより、食い扶持を稼ぐ事が難しくなるかもしれないという凶報に近い情報だった。
「……まぁ別にどっちか滅んだわけでもねぇし、すぐまた戦争再開するかもしれねぇとは酒場の親父も言ってたが。……そうでなくても御貴族様同士の領土争いや、山賊海賊討伐で仕事自体はありそうだし……うーん……でも魔王軍属の魔物って、毛皮とか牙が高く売れるヤツもいたから、利ざやは大きかったんだよなぁ……終戦かぁ……残念っちゃ残念だよなぁ……」
魔物を憎き敵というよりは金を稼ぐ手段としてとらえていたザイツは、これから間違い無く減るだろう収入を考え、やや諦観しつつも落ち込む。
帰って実家の商売や畑を手伝えば暮らしていけそうな裕福な家の出の冒険者とは違い、ザイツは実家どころか既に両親もないので、唯一生活の頼りになる金を稼ぐ手段は、できるだけ失いたくはなかった。
「……つっても……終戦したなら、もう軽はずみに魔物殺したら……罪になるんだよなやっぱ? ……しゃーない、ここは以前世話になった傭兵団の団長に頭下げて、人族同士の領土争いにでも参加させてもらうか」
ザイツは以前仕事で何度か使ってもらった傭兵団を思い浮かべ、とりあえず世の中が落ち着くまではそこに身を寄せておこうと決めた。傭兵団は傭兵の他にそこに囲われている女達もいるので、わりとまともな食べ物と寝る場所が期待できるのがありがたい。
「……あ?」
そんなザイツがしばらく街道を歩いていると――かなり前方に、何か黒いものがもぞもぞと動いているのが見えてきた。
「……魔族?」
魔族――人語を解し、人に近い姿を持つ高位の魔物の総称。
だよな、と漏らし近づきながら、ザイツは目を凝らす。
見間違いや幻惑の魔法でもなく、近づくほどそれはきちんとした姿となってザイツの前に姿を現す。
「……ま……まさか……最高位魔族の……堕天魔族か? ……いやまさか……こんな……のんきな田舎に? ……でもあの白い翼は……」
自分で発した言葉の非現実さに呆然としながら、ザイツは前方に在る姿を確かめた。
人間としてはかなり大柄なザイツに優るとも劣らない長身に、人間の目には整いすぎて怖い程の耳が尖った鋭利で端正な顔立ち、両額から伸びた深紅の角、闇の者特有の黒い肌。
背には純白の羽根が折りたたまれ、髪が自ら光輝くような白金髪なのは、魔族の中でも最高位に属する堕天魔族が元々は全能神の御使いだったから、という大昔聖堂で聞いた話を思い出しながら、ザイツは彼女を見つめた。
――そう彼女。
そこでは地味な黒のローブを身につけた、長身ではあるが実に女性らしい曲線美を持つ巨乳美脚の美女が、両手を胸に当てて何かの呪文を唱えようとしていた。
多少戦火の名残は見えても、おおむね牧歌的な光景が広がっている街外の草原に、その艶姿は恐ろしく場違いだった。
なんだありゃ、と思わずザイツが呆れた声を漏らした――その時。
「……っ」
「……っ」
声に驚いたのか、女魔族はぴくりと肩を震わせて顔を上げ、ザイツを見た。
正面から見れば益々美しくも艶めかしい女に一瞬見惚れながらも、ザイツは自身の危機感に反応するように素早く背中から大剣を引き抜き、街の魔法屋で買った防魔の呪札を刃に貼り付けて防護の構えを取る。
「っ……」
「くそ……っ! 下位の防魔呪札でどこまで耐えられるかだよな。……こんな事なら、酒場で別れた僧侶ともう少しつるんでおけばよかったぜ!」
魔族の中でも全能神の元から堕天した御使いの末裔と言われている白い両翼と金髪を持つ堕天魔族は、大抵は高位魔法を操り身体能力も桁外れているという、強力な戦闘力の持ち主である魔族領域の支配者階級だ。
傭兵としてザイツが戦場でそんな魔族を見たのは過去に一度だけだが、その一度をしてもう二度と会いたくないとザイツに思わせるほどの脅威を、その魔族は見せつけてきた。
そんな凶悪な力と人間を見下す高慢な態度を思い出せば、例え相手が女だろうが、今が終戦時期だろうが、ザイツは全く安心できない。
『つっても……人王達と魔王の間で正式に交わされた終戦協定の締結後に、いきなり人族領域の街道で事を起こすほどこいつもバカじゃないはず。……隙を見て街まで逃げれば……なんとか……っ』
とりあえず攻撃するというよりは、剣に貼って発動させた防魔呪札で相手の魔法に耐え、街まで逃げる隙を窺うためザイツは身構えた。
「……あ」
「……?」
だがそんなザイツを見返した女魔族は――ザイツとその手に構えた大剣にビクリと肩を震わせると、オロオロと両手を彷徨わせて振りザイツに言った。
「あ、あのー! けけ、剣を下ろしてくださいー! そ、そのもう戦争は終わったはずで!ひ、人と魔族の抗戦は、両領域の終戦協定によって禁止されておりますー!」
「……………………………………………………………………………………ああ、うん」
思わずザイツが頷いてしまうほど女魔族の声は狼狽えており、戦意らしきものは全く感じられなかった。
これが人間の盗賊や暗殺者なら油断させて、という事もあるのだろうが、油断などさせなくても人間一人程度一捻りできそうな堕天魔族がやる意味は無いだろう、と判断したザイツは、油断無く女魔族を見据えつつも一応自分も戦意が無い事を示すように剣を下へと伏せる。
そんなザイツに安心したように、女魔族は小さくため息をつき穏やかな表情で微笑んだ。
「よ、よかった……貴方が盗賊か何かだったら、戦争とか関係ねぇ!! とか言って襲われてしまうかと思いました。攻撃魔法を使って人族領域の地形でも歪ませたら後々面倒なので、どうしようかと慌ててたんですよっ」
「……いや、俺は一応冒険者ギルドに正式登録してる冒険者だ。だから国の触れにはよっぽどのことがなきゃ従うし、あんたに戦意が無いなら何もする気はない」
怖いし、と内心で付け加えながら、ザイツは慎重に答えた。その答えを信用したのか、女魔族はそうですかと頷いた後、そうだ、と手を打ってザイツに言う。
「あの、人間世界での冒険者さんと言うことは、あなたはクエストの個人受注も引き受けていらっしゃるのでしょうかっ?」
「え? ……ああ、犯罪絡みやギルドでダブルブッキングが起きそうなものは駄目だが、単純な護衛や配送依頼なら、わざわざギルドを通さなくても、慣れた冒険者なら小遣い稼ぎに引き受けるぞ。……そういうのはタチの悪い冒険者崩れの犯罪者にひっかかる可能性もあるから、あんたみたいな女には勧めないが」
「うーん……でも貴方は私の言う事をちゃんと聞いてくれましたし、そんなに悪い人には見えないので、大丈夫かと思ったんですけど」
「……へぇ」
魔物の爪や皮を換金物にしか見ない自分を悪人ではないと言う女魔族にザイツは呆れたが、実際目の前の元敵種族に特別な害意は無いので黙って話しを聞いた。女魔族は言う。
「とりあえず……これを開けるのを手伝ってはくれないでしょうか?」
「これって……なんだその罠?」
女魔族が指を差した足下には、狩人が草原の 角ウサギでも捕るために仕掛けたのか、小さな魔獣用の罠があった。そしてそこには、何か赤いものがかかりジタバタと動いている。
「解除呪文が効かないんですよ。人間のこういう道具って、魔法を必要としていないものも多いから困ってしまって。手で引き千切る事くらいはできそうですけど、それでは彼が怪我してしまいそうですし。どうかお願いします冒険者さん」
【ひひっ、姫様ー!! そそ、そのような下賤な人間風情に『お願い』など!! こんないかにも無教養そうな若造には小銭でも投げつけて、『やれ』と命令すればよろしいのですよー!!】
罠にかかっていたのは、人語を解するらしい真紅のカラスだった。とりあえずその鳥頭をひねり潰してやりたいと思いつつ、ザイツは女魔族がそのカラスにどう答えるのかを確かめる。
「あ、冒険者さん。この子は私の側近、魔烏のカンカネラさんです。カンカネラさん、そんな事を行っては駄目ですよ。ここは人族の領域で私達は余所者で、こちらの方々と極力トラブルを起こさずに、目的を果たさなければならないんですからね」
【カンカネラとお呼び下さい姫様!! ああおいたわしや!! 本当に一体どうしてしまったというのですかぁ!! 以前の貴女様なら!! 貴女様ならぁああ!!】
カラスが何か騒いでいたが、幸い女魔族は人に物を頼むという行為に全く抵抗は無いようで、もう一度お願いしますとザイツに頭を下げてくる。
「……ちょっと待ってろ。狩人が独自に手作りした罠は、結構複雑なんだ」
その姿をしばらく見ていたザイツは、やがて小さく頷いて剣を背にしまうと、女魔族の足下にある獣罠を取り外しにかかった。
「――ありがとうございました。よかったですね、カンカネラさん」
【いでででぇ!! くくそう!! もそっと優しく扱わんか!! 下賤者め!!】
「姫様とやら、この五月蠅いの焼いて喰っていいか?」
「あ、お腹空いてるんですか? よかった、荷物に朝家で作ったサンドイッチがあって……ほらっ、そろそろお昼ですし一緒に食べませんか?」
冗談だと言い損ねたザイツの手に、おしぼりとやたら大きなサンドイッチを渡した女魔族は、肩に背負っていた荷物から敷物を取り出して敷くとそこに腰掛け、よかったらどうぞと隣を叩いてザイツを呼んだ。
その暢気な様子にザイツは更に呆れながらも頷き、躊躇した後女魔族の隣に腰掛けた。女魔族が言った『クエスト』という言葉を、臨時収入の機会と判断したからだ。だが。
「ええと……ところで座ってからなんだが、あんたはいわゆるアッチの支配者階層の堕天魔族なんだよな? ……俺みたいな人間の庶民と並んで座るとか、いいのか?」
「え? いけませんか?」
「……いや、あんたがいいならいいんだけど」
奇妙な女魔族だと思いながら、ザイツはサンドイッチを持っていない方の手で頭を掻いた。
魔物というのは基本的に傲慢で魔物至上主義で、人間や人間に属するものをことごとく
見下している、というのがザイツ達グランツァー大陸に住む人間の見解だ。
『ましてそれが支配者階層に属しているだろう堕天魔族なら、人間の王侯貴族みたいにとんでもないプライドで人間を見下しててもおかしくないと思ったんだが……まぁ、王侯貴族や堕天魔族なんてあんまり見た事もないから、実情なんか知らねぇけど』
あまりにもイメージと違う女魔族の言動に、ザイツは戸惑う。
そんな事をとりとめなく考えているザイツの耳に、甲高いカラスの声が飛び込んでくる。
【きき貴様ゆるさん!! 人間風情が姫様の隣に腰掛けるなど断じて許さん!! 貴様のような下等動物など、そこの水溜まりの中で土下座しながら姫様のお話を聞けぇ!!】
「……んで、姫様とやら。あんたが俺に頼みたいクエストってのは、このバカガラスを助けて欲しいってだけじゃねぇよな?」
耳元で五月蠅かったカラス――カンカネラを指先で払いのけながらザイツは言った。
「ありゃりゃっ、カンカネラさん、人間を見下すような事を言っちゃ駄目だって言ったじゃないですか。今のは貴方が悪いですよ」
「……それで?」
「あ、はい。そうです。カンカネラさんを助けて欲しいと言ったのは、ついでといいますかとっかかりといいますか、とにかくそんな感じでしてっ」
跳ね飛ばされたカンカネラを心配しつつも、草の中で首を振りながら起き上がったのを確かめた女魔族は、ザイツに向き直り言った。
「まず冒険者さん、仕事の話の前に事でお互いに自己紹介しませんか? ずっと冒険者さんと呼ぶのもどうかと思いますし」
「そうだな」
魔族の世界の事は知らなかったが、冒険者にとってギルド所属名を名乗るのは依頼を受ける際必要な事だったので、ザイツはさっさと自分から名乗る事にした。
「じゃあ俺はザイツだ」
「財津さんですか」
「……? ……ああ、ザイツだ」
何故か女魔族にはとても奇妙な発音をされた気がしたが、魔族には言い慣れない響きだったのかもしれないと思いザイツは頷いた。
女魔族は多少困った風に眉根を寄せながら、ザイツに返す。
「いえ、ざいつ……ザイツさん、ですね。よし言えた。……初めましてザイツさん。私は……えーと……クローディ・アヌファス・ルブラン……ノーア・フォン・ウィッヒ・ヴィラド・……ティレンツァイ……ザード・ミスクリフォン・………アーデルベルヒム……と言います」
「偽名か?」
ザイツは半分ほどで覚えるのを諦め、女魔族に問い返した。別に名前の長短で偽名を疑ったわけではない。自分の名前にも関わらず女魔族の発音がまるで拙いものだったため、今適当に作った名前を名乗ったのかと疑ったのだ。
【無礼なー!! アーデルベルヒム家の正嫡!! 大堕天ルーシェルギーン様の直系子孫たるクローディ姫様の名乗りを疑うとはなんたる無礼千万!! そこになおれこの下等生物!!このカンカネラが成敗してくれるわぁ!!】
「……すまんバカガラス、家とか言われてもちょっと判らない。魔族領域の事情はよく知らねぇんだ。ええと……できれば姫様、どう呼べばいいのか教えてくれねぇか?」
今更ながら口調がこれでいいのかと、内心ビクビクしながら問うザイツに、得に気にした様子もない女魔族クローディは少々考えた後、何かを思いついたように明るい表情になってザイツに言った。
「それなら、私の事はキョウコと呼んでくれませんか? ――キョウコ・ミヤタと」
【っ姫様、またそのようなお戯れを……はぁ】
慌ててクローディの言葉を遮ろうとした赤カラスのカンカネラは、だがクローディの明るい表情を見上げるとそれ以上何も言わなくなり、諦めたように首を振った。
「キョウコ・ミヤタ? ……それは……二つ名か何かなのか姫様?」
「二つ名……そうですね、それでいいです。できればキョウコを更に縮めて、キョウと呼んでもらえれば嬉しいです」
女魔族はそう言うと、どうでしょうか、とザイツに問い返して来た。
キョウ、と口にしてみたザイツは、悪くないと思いながら答えた。
「……キョウ、か。……うん、さっきの名前よりよっぽど良い感じだな。似合ってる」
「本当ですかっ?」
本気でそう感じたので、ザイツは頷く。一見して高貴な生まれ育ちを思わせる外見の女魔族だが、ザイツには何故か、先程拙い発音で名乗った長ったらしい名前より、キョウという単純な名前の方がよほど似合っている気がした。
「……ありがとうございます」
「っ……ああ、いや……うん」
そう言い微笑む女魔族――キョウは光輝くように美しく、間近でそれを見つめてしまったザイツは落ち着かなくなり視線を逸らす。よく周りから老けてはいると言われるザイツだったが、実年齢は十八歳の若造に過ぎないので、魔族だろうと魅力的な異性との接近には冷静ではいられない。
【貴様ぁ!! 姫様に近づくな!! 邪な欲望を抱くな!! 御身が汚れる!!】
「……あーうるせ」
そんな人間の男に激昂して飛びかかって来たカンカネラの嘴を背中に背負った剣で防ぎ、おかげで冷静になった事に気付いて多少感謝しつつ、ザイツは仕事の話を進める事にした。
「――という事で名乗り合ったな。キョウ姫、クエスト受注するのが俺でよければ、詳細を話して欲しいんだが」
「あ、はいっ。ザイツさんでいいですっ」
しっかりと頷きザイツを見上げたキョウは、やがて真剣な声でこう切り出した。
「ザイツさん、しばらく私の護衛兼ガイドとして人の領域を案内していただけないでしょうか?」
「……護衛兼……ガイド? ……キョウ姫、あんたこっちで何かするのか?」
はいっ、と鋭利で近寄りがたい美貌から出たとは信じられないほど一生懸命な声でそう答えたキョウは、説明を続ける。
「ザイツさんは、二ヶ月前に魔人両領域で出した終戦宣言の直後、戦地であった領域の境界を中心にして、ありこちでまだゴタゴタした小競り合いが続いているのをご存じですかっ?」
「詳しくは知らないが、想像はつくな」
ザイツは戦争の被害にあった者達や、自分のように戦時下の荒事で食い扶持を稼いでいる冒険者や傭兵、戦争のどさくさで荒稼ぎしていた商人などを思いだして頷いた。
そしてそういった者達が終戦を迎え、それぞれの思惑や怨嗟を抱えて生きている以上、争いの種は尽きないだろうと思う。
「――私は、そういうのを止めに来たんですよ」
だがキョウは、そんなザイツに断言する。
「……止める? 小競り合いを、あんたが?」
「はい。この終戦を次の戦争への猶予期間にしないように、私は両国間に争いが起きないよう各地を回って、小競り合いの元を解決しに来ました。それが魔王陛下が私に言われた、勅命なんです」
「魔王……って」
「と言っても、半分くらい冗談だったんですかもしれませんけど。……昔話してあげたミトコウモンが気に入ったせいかもしれないし。私の将来の実績作りにはなるとは言ってましたけど、それもどこまで本気なのか……でも私はがんばりますよっ。折角平和になるかもしれないんですからっ」
ミトコウモンという判らない単語は置いておいて、何でもないように元敵勢力の頂点との気安い交流を言われ、流石にザイツは焦る。
「……キョウ姫、あんた魔王と直接あれこれ話せるくらい親しいのか?」
堕天魔族とはそういうものなのかと思いながら恐る恐る問うザイツに、キョウは頷き言う。
「……親しいんじゃないですかね。……一応、親子ですから」
「……え?」
一瞬頭が真っ白になったザイツを追撃するように、魔烏の甲高い声が辺りに響く。
【姫様は当代魔王陛下の一人娘、王位継承権第一位の次期魔王最有力候補であられるわ!! 貴様のような下等生物がおいそれと口をきけるような存在でない事を理解したかこの無礼者!! 卑賤者!! バカ者!!】
――信じられない言葉と状況にザイツは、目の前の女とカラスの頭がどこまで正常なのかを考え頭を抱えた。
「……いや、冗談だろ?」
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