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旧作・駄作・ほぼ没

ブルックナーNo.8

作者: 住友

 それは天井から降りきたる。

それは地底から湧き出る。大気がおののき我が脳髄を焼く。

御陵威のラッパが死を計時する……

「今日、母が死んだ。明日は日曜日だ。

もし明日が月曜日ならいつも通り学校に行かねばならないところであった。 

明日は何をしようか……」


 山犬が鳴いている。ナメクジが銀の涙を流す。蛙がぺちゃんこになって死んでいる。

野人が朝焼けの中、岩山の頂で祈りを捧げる。精霊に、魂に、神に祈る……

「日曜日の朝、近所の山に登ってみた。空がとてもいい。

こんなところがあるのならもっと早くに来てみれば良かった。」


 精神の森を人はさまよう、右も左も分からない。

記憶の雪原、知性の光の中で人は天使のようになる……

「月曜日、私はいじめっ子を殴った。

そのかどで私は教師や親たちからこってり油を絞られた上に

謹慎を言い渡された。

更に母の葬式に出席しなかったことがばれ、そのことが教師たちの怒りを煽りたてた。

何故出席しなかったのかと聞かれたので私は

「空が綺麗だったから」とだけ答えた。」


 神が現れる。

何をするでもない、無知無能の神。便利ではない神。

ただそれは、ひたすらに大きくて、大きくて、目がくらみそう。

それは宇宙に似ている。

何もなくて、何もしてくれない、それなのにただひたすら大きい、そんな宇宙。

神は創造とも救済とも審判とも無縁だ、

なのに、いやだからこそ神は偉大だ。

ああ、見よ、神が来る!

神が来て私を悦ばせる!神とは真実だ!

「私は前にも増していじめられるようになるだろう。

人々の怒号と嘲笑の中で私の心は死ぬことになるだろう。

私は教室で処刑されるのだ、ああ今日はなんと空が輝かしいのだろう。

口の端を吊り上げた人々をびくびくしながら視界の隅で見張る自分を想像して

私は何故か笑いをこらえられなくなり

暗い部屋の隅で笑って笑って笑い転げた。

一通り笑うと私は窓を開け放ち叫んだ。

「いじめられるのは私だけではない!皆いじめられるぞ!

真実の人間に!全知全能の人間に!処刑されるんだ!」

行きかう人々は皆笑っていた。

一番人相の悪い男が一際大きな声を上げて笑っている。

みんなの笑いの中には氷があった。

私は奥に引っ込んで一人笑った。そうしないと泣きそうだったからだ。

黄金の夕日に無機質な宇宙を感じた。どこからかブルックナーが聴こえてくる。

私はやっぱり泣くことにした。綺麗な空のせいだ。」


ブルックナーの交響曲第8番ハ短調を聴いて

またしても勢いで書きました。

あと、展開がアルベール・カミュの「異邦人」にそっくりなのは自覚しています。

交響曲8番も「異邦人」も素晴らしい作品なので是非読んだり聴いたり

してみることをお勧めいたします。

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