黒騎士と魔王王妹殿下
私の名前はリシェイラ・エル・シア・ヴァレンティア。魔王陛下の一番下の妹です。私の憧れはお父様とお母様。
あぁ身分違いの恋なんてなんて素敵なんでしょう………。私もこの身を焦がす程の恋がしたい!!!ジークお兄様が結婚なさってから数日、エリックお兄様まで幼馴染の君と恋人になられた事が発覚!!!なんて羨ましい………。
あぁ、どこかに目つきが怖くて身体のがっしりした素敵な殿方はいないのかしら???私だけのナイト様!!!
そんな事を考えていたら今日も奥殿からお母様の悲鳴が聞こえてきました。さっき、通り掛ったらお部屋の中で沢山のマンドラゴラが走り回っていたからきっとお母様がまたなにか失敗してお父様にお仕置きされてるんだと思います。
お仕置きって一体どんな事なのかしら???前に聞いたらお前にはまだ早いってお兄様、お姉さま達に言われました。私もう13なのに!!!この事を知らないのはもう私と一つ上のエリシュラお姉さまだけのよう………。みんな秘密にするなんてずるいです!!!私ももう十分大人なのに!!!
そんなある日の事でした。私、理想の殿方を見つけたのです!!!あぁ、黒騎士様!!!お慕い申し上げております………。初めての出会いは、お母様とお茶を楽しんでいた時の事………。
「お母様、今日はお父様にお仕置きされなくて良かったですわね」
「そうねぇ………ここの所立て続けだったから本当に良かったわ………」
遠い目でお母様がおっしゃいました。せっかくなのでお仕置きの内容をお聞きしようとした時です。
ズルリ、ズルリと音を立てて真っ赤な小山が近づいてきます。何かしらと思って良く見ればそれは凶暴な炎巌竜………ガレオスドラゴンでそれを誰かが引っ張って来ているのです。
「あら、グレゴリアス卿。今日は大物ですね」
「シェルフィアラ妃………リシェイラ殿下」
その方は臣下の礼をとると顔をあげました。私お父様より大きな方を初めて見ました!!!少し生えたワイルドな無精髭、そして何より獣を射殺せそうな鋭い眼!!!なんて素敵な方でしょう!!!私、言葉も忘れて見とれてしましました!!!黒い騎士の鎧をつけているその方の所々見える筋肉の引き締まって素敵な事………はう。気絶してしまいそう。お母様と黒騎士様は何かお話されてますが私の耳には聞こえませんでした………黒騎士様のお顔を見つめるのに必死で。
あぁ、立ち去る御姿………ガレオスドラゴンを引きずる御姿も素敵………。
「お母様!!!お母様!!!今の方はどなたですの?!」
「??リシェ???あの方はガロンド・イクス・グレゴリアス卿………ジークの騎士団の団長さんですよ」
「ガロンドサマ………決めましたわ!!!お母様!!!私ガロンド様のお嫁さんになります!!!」
姫と騎士………なんて王道で身分違いの恋でしょう!!!
「リシェ!!!落ち着いて!!!あの方は確かに独身だけど、あなたのお父様とかわらない位の年ですよ!!!」
「それがなんだと言うのですか!!!障害があるほど恋は燃えるのです!!!」
お嫁さんになると言いきった手前、何か行動を起こそうと思ったのですけれど、中々そうはいきませんでした………。あの方の傍に行くと何も言えなくなってしまうんです………。今は頑張って視界に入るようにするのが精いっぱい………。あぁ、恋とはこんなに苦しいモノなのですね………。
ですが、ある時転機が来ました。ガロンド様に見とれて転びかけた私を助けて下さったのです。ガロンド様は少し困ったような顔をなさっていいました。
「殿下………一体毎日、私の後をつけて何をなさってるんですか?私の後をつけても何も面白くないと思うのですが………」
初めて話かけられました!!!私はモジモジしながら勇気を振り絞って言いました。
「私をガロンド様のお嫁さんにして下さいませ」
私がガロンド様のお返事を聞こうとした瞬間です。背後からいやに冷たい空気が流れてきました。
「………ほう。そうか………リシェはガロンドみたいな男が好みか………」
あら?ガロンド様に夢中でお父様とジークお兄様がいる事に気付いてなかったみたいです。今のお言葉はお父様。心なしか怒ってらっしゃいますか???そして気付きました。
「ジークお兄様、お父様もお顔が怖いです。どうなさったの???」
「気の所為だ」
「うん。気の所為だよ?」
そうですか………何でしょうこの空気。何か圧迫感があります。
「ガロンド様?お顔の色が悪いですわ………」
大丈夫ですか?と聞けば、唸るように大丈夫ですとのお言葉。その言葉にお兄様が言いました。
「そうか。大丈夫なのはいい事だねガロンド。………分かっていると思うけどリシェは可愛い妹だ。傷つけたら殺すよ?」
「は………陛下。猊下………心得ております」
お父様からの御計らいでガロンド様とのお付き合いはお友達からという事になりました!!!私とっても嬉しいです。
※ ※ ※
たった一度会っただけのリシェイラ殿下に陛下と猊下の前で可愛らしく告白されて正直色んな意味で死にかけた。陛下と猊下からピンポイントで送られてくる殺気が重い。新兵だったらこのプレッシャーだけで死んでいる。
正直に言えば困った事になったと思った。私は幼女趣味ではないし、正直に言うと女性の扱いは苦手だった。どうにも無骨過ぎる自分が呪わしい。だが、リシェイラ殿下は私のそんな思いはお構いなしに純粋な好意を向けてくる。初めての経験に戸惑う事もしばしばだ。
今日も手作りのクッキーを持ってきて下さり、私の膝の上にちょこんと座りながら食べさせて下さる。何故、こんなに好意を寄せて頂けるのか不思議でしょうがない。私の毒沼のようなボケた緑のやや鋭すぎる目は他者を威嚇するし、灰色のボサボサの髪と無精ひげは女性にムサイと言われる事しかない。
リシェイラ殿下は亜麻色の髪に大きな深緑の瞳、将来はさぞ美しくなられるだろうという可愛らしい方だ。恋に恋する御年頃というやつで、私に興味を持たれたのではないかと思う。
最近ではエリック殿下に「敵には非情なグレゴリアス卿も僕等のリシェにはカタなしだね」とからかわれる始末。
敵の血の海の中に立ち、鎧を朱に染め、雄叫びをあげる私を知ってもリシェイラ殿下は私を好きだと言うだろうか?
魔界にあって血生臭さを知らない純真な方だ。流石に引かれるだろう。まぁ、わざわざ教える必要もない訳だが………。陛下と猊下に言われたように、リシェイラ殿下に真実好きな男が出来るまで傷つけないように守れたらと思う。
牙を抜かれたこの状態も悪くない。逆に、離れて行ってしまう事を考えると少し寂しくもあった。
※ ※ ※
ガロンド様とは少しずつ仲良くなれている気がします。ですけど、不満が一つ。どうも子供扱いされてる気がしてなりません。お膝の上は嬉しいのですけど………これも少し子供っぽいかしら???ですけど、お膝の上に乗らないとガロンド様に「あーん」ができないのです!!!それは困ります。とってもとっても困ります。私も早くお兄様やお姉さまのように大きくなりたいです。そうすればもっともっとガロンド様に近づける気がします。
………一人の女性として好きになって貰えるかもしれません。お嫁さんになるためにはガロンド様に私の事、好きになって貰わないといけませんもの。
今度お母様に「お弁当」の作り方を教えて貰います。ガロンド様のお嫁さんになるにはもっと色々できないといけないと思うのです。私負けません。ガロンド様がお嫁さんにしてくれるまで………。私の事好きになって貰えるまで………。
ガロンドさんはリシェイラの事を甘く見てますが、天然思い込んだら一直線のリシェイラに押し掛け女房宜しく押し掛けられ、なし崩し的に押し負けると思われます。