マリア・クランテットという令嬢
聖女、それは清らかなる乙女。
聖女、それは祈りの力で皆に神聖なる加護を与える光。
聖女、それは弱きを助け、悪しきを挫く、正義の使者である。
救国聖女、スターライト・メテオ
それこそが乙女の名である。
山田マリアは転生者である。最も、転生者であると気がついたのは家がなくなる数秒前の様なもので、言わば『何もかもが遅すぎた』タイプであった。
この世界においての彼女の名はマリア・クランテット。王国貴族、クランテット男爵家の第一子であった。意地悪な母や妹……などというものもなく、とても人の良い父とおおらかな母、ドリルのようなツインテールの可愛い妹と穏やかな日々を過ごしてきた。そんなある日、その安定した日々が一変したのである。
父が人の良さ故に騙され多額の借金を背負ったのだ。そこからはあれよあれよと言うまであった。家族皆離れ離れとなり、マリアもまた、一文無しで放り出されたのである。
「この家も担保になってるので出て行っていただきますね」と放り出される瞬間に記憶が戻った。もう少し早く戻って欲しかった。戻ったところで何かできるわけではないが。
そして今、そんなマリアはラーメンを啜っていた。
「凄く美味しいですわ……妹にも食べさせてあげたかった……!」
白く白濁したこってりスープにとても細い麺、その上には叉焼とネギ(のような野菜)やキクラゲのようなものやメンマ的な何か、紅しょうがにしか見えない漬物ものっている。
「そりゃあ良かった。びっくりしたぜぇ?突然うちの前で倒れるんだからな」
「本当に助かりましたわ。お腹がすいて倒れるなど……お見苦しい所をお見せしてしまいました」
マリアを助けたその人は「良いってことよ」と親指を立てた。全身真っ黒なアーマーのような物で覆われ、目元のみが光る仕様は前世で見ていた特撮を彷彿とさせる。
空腹と疲労のあまり、道端で彼女を助け、更にはラーメンすら食べさせてくれているとんでもないお人好したる、その人はマリアが一息ついたのを確認し、温かいお茶と共に話を切り出した。
「で、何で嬢ちゃんはこうなっちまった訳だ?」
「よくあるお話なのですが、私、マリア・クランテットと申します。クランテット男爵家の者なのですが、父が人の良さゆえに騙されまして……」
〜回想〜
「この屋敷の端数分は身体で返してもらうぜ」
「お父様!お父様ぁ!!」
「マリア!リリアー!!」
「往生際が悪い!さっさとこっちに来い!」
「お父様ー!!!!」
「……ということがございまして」
「なるほど……んで、嬢ちゃんは逃げ出してきたわけか……」
「あ、いえ、連れていかれたのは父です」
「連れていかれたのは父です?」
「父は今そんなこんなで遠くの国の製糸工場で働いております。母は再建のため漁船に乗って行ってしまいましたわ」
「そんな事ある?」
不可解なものを見るような顔をされているが、これが事実である。ちなみに家を追い出される前に父からの手紙だけ貰えた。とてもいい職場です。と書かれていた。添付されていた写真にはいきいきと働く父と和気あいあいとした職場が写っていた。本当に良い職場が斡旋されることあるんだなと思ったのはまだ新しい記憶である。
「こういう理由でして、妹は信頼できるところに預け、就職先を探していたところ……その、全戦全敗致しまして……」
お金もない、身分もなければ手に職もない。まさに無い無い尽しの小娘を正規で雇ってくれる所はなかったのだ。冒険者などならば依頼を受けたりして小金を稼ぐことも出来るだろうが、登録料すらない。完全な詰みだったのである。
ここまで静かに話を聞いていたその人は腕を組み、なるほどなぁ。と一言呟き、そしてマリアにこう言い放ったのである。
「アンタ、聖女やんねーか?」




