番外編
番外編〜もし革命後にマレイン王国へ亡命してきたマリーの元家族と再会したら〜
「ねえノア、あれは何かしら…?」
「うん?…ああ、たぶんサンセベリアからの難民じゃないかな。ここまで来るのは珍しいね」
マリーにそう答えながら、私は難民達の中からこちらに強い視線を向けてきている者がいるのを感じていた。念のために、マリーを抱き寄せてそちらから遠ざける。
すると、難民達の列から小柄な人影が飛び出してきた。私…というよりもマリー目掛けて走ってきたので、容赦なく蹴り飛ばす。見ると、その人影は元は高級品だったであろうボロボロなワンピースを着た少女だった。歳の頃はマリーと同じくらいかな?だけど、その少女を見たマリーがハッと息を飲んだのを見て、少女の正体に見当がついた。
腹を蹴られてえずいている少女を見下ろしながら、私は聞こえよがしに言う。
「おや?サンセベリアの貴族が何故ここにいるのかな。全員ギロチンにかけられたのではなかったかい?」
その言葉に、難民達がざわりと揺れる。それに対して慌て始めたのは少女の両親だろう男女だった。だけど、少女は血走った目でマリーを睨め付けると、泡を飛ばしながら叫んだ。
「なんでアンタが生きてるのよ!?大樹海で野垂れ死んだはずでしょ!?」
だけど、その叫びはマリーには届かなかった。というのも、その前に私がマリーの両耳を塞いで、彼女を抱き込んだからだ。
「やれやれ、そこの女はどうやら気が触れているらしいね。私の妻に対する傷害未遂犯として、憲兵に突き出そうかな」
私がそう言うと、近くにいた知り合いの商人の女性がにこやかに言った。
「あらノアさん。さっき通報したから、もうすぐ憲兵が来ると思うわよ」
「ああ、ありがとうロベリアさん」
「良いのよ、落ち延びた分際でローゼマリーちゃんを傷つけようだなんて、見過ごせないもの」
「そうよねぇ。それにしても、サンセベリアの貴族令嬢って品がないのね」
「あの顔をご覧なさいよ、まるで怒ったオークみたいじゃない」
「やぁねえ、みっともない」
ロベリアの周囲にいた他の女性達も、少女を嘲笑する。そこに憲兵達がやって来て、周囲の人々から事情を聞き取ったあと、少女を引っ立てていった。その際、少女の両親が憲兵に縋ったけれど、一蹴されてその場に崩れ落ちていた。
だけど、彼らは往生際悪く、今度は私の元へと這ってきた。
「む、娘をお助けください…!」
「どうか、どうか…っ!」
その言葉を聞いて、私の喉から「は?」とひっくい声が出た。
「なんで私がキチガイ女を助けなきゃならないの?…それにさ、お前らは罪人だろう?本当は祖国で死刑になるはずだったのに、こんな所まで逃げ延びてきて…自分達の犯した罪を反省していない、どころか理解していない証拠だよね」
「つ、罪だと…?…ちがう、我々は…っ!」
「ひぃ…っ!?」
私が追加で何か言うまでもなく、あの少女の両親はサンセベリアの難民達に囲まれた。彼らの、祖国の王侯貴族に対する敵意は強い。程なくして、難民達によって少女の両親はボロボロにされた。その頃にはもう、私はマリーを連れてその場を立ち去っていたのだった。
fin.