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告白②

「わんこみたい」


「はい?」


「俺はあなたのことを可愛いと思ってます。だけどこの『可愛い』は多分小動物的なやつなんだよね」


 俺は珠唯さんの顔をまっすぐ見ながら伝える。


「さっきも言ったけど、俺って誰とも付き合ったことはないんだよ。それってさ、付き合いたくなくて付き合えなかったんじゃなくて、相手がいなかったのもあるんだけど、そもそもそういうのに興味がなかったのね?」


「なんとなくわかります」


「さすが。それでそもそもの話になるんだけど、俺って異性とか以前に人に興味がないんだよ」


「それもなんとなくわかります。悠夜さんって、基本的に自分からは誰かに話しかけないですし、話しかけられても対応が軽いって言いますか、なんて言うか……」


「適当でしょ?」


 珠唯さんが慌てて否定しようとするが、事実を否定するのが難しかったのか、口を閉じてしゅんと項垂れる。


「別に気にしないでいいのに。とにかくさ、俺って人に興味がないんだよ。だから深く関わろうとしないし、関わってきた相手にもどう対応したらいいのかわかんないから適当になる」


「でも──」


「そう、あなた諦めないでしょ?」


 珠唯さんが言おうとしたであろうことを先に答える。


「俺がどれだけ適当に返事をしても、あなたは諦めずに俺に話しかけ続けた。だから俺もこうしてあなたと普通に? 話せるようになったんだよ」


 それだけではない。


 珠唯さんと話せるようになってからは、少しずつだけど話しかけられたら返事をできるようになった。


 ほんとに少しずつだけど。


「あれ? もしかして最近悠夜さんに話しかける女の子が多いのって……」


「多くはないでしょ。仕事の話しかしてないし」


 確かに少し前に比べたら後輩に話しかけられることが増えた気はする。


 だけどそれは俺だけではないはずだし、俺が店に居る時間が長いから仕方ない話だ。


「悠夜さんの無意識スマイルは破壊力が強すぎるんだよな」


「何言ってるの?」


「なんでもないです。それで結局私と付き合ってくれるんですか? それとも……」


「そのしゅん顔すごい心抉られるからやめて。まあ結論から言うと、付き合わないんじゃないかな」


「合わないですか? 合えないじゃなくて」


 珠唯さんが首をコテンと傾げながら聞いてくる。


「うん。俺は当たり前だけどあなたと一緒に居るのは楽しいから好きなんだけど、それって関係が先輩後輩だからなんだよ」


「えっと?」


 珠唯さんが首を反対側に倒す。


 いや、可愛いかよ。


「つまり、これは俺の価値観、考え方なんだけど、付き合うことって俺の中だと結婚までを考えてるのね」


「結婚……」


 暗くてよくわからないけど、多分珠唯さんの顔が赤くなった。


「普通はそこまで考えないよね」


「い、いえ、私も悠夜さんとなら結婚まで考えてます……恥ずかしい」


 珠唯さんが顔を両手で押さえる。


 ほんとに可愛いな。


「話を戻すと。俺があなたと付き合えないのは、あなたの将来に責任が持てないからになる」


「すごい現実的なお返事だ」


 今の俺の職業はフリーターだ。


 それでは珠唯さんと結婚した場合に養うことなんてできない。


 なら就職をすればいいという話になるけど、それにも少し理由があって難しい。


「だから俺はあなたと付き合わない」


「なるほど。つまり悠夜さんはこう言いたいんですね?」


「絶対に違うのがわかるけど聞こうか」


「私の人生なんて気にならなくなるぐらいに私を好きにさせればいいんですね?」


 珠唯さんが暗くてわかりにくいけど、はにかんだように笑った気がした。


 そういうところがずるい。


「一応はそうなるけど」


「言質取った」


「何されることやら」


「悠夜さん」


「何?」


「私、頑張ります」


「何を?」


「悠夜さんに振り向いてもらうことです」


 珠唯さんがはにかむような笑顔で振り返る。


 ほんとにこの子は呆れるぐらいに……


「ん?」


「どうしました?」


「いや、多分気のせい」


 なんだろう。


 珠唯さんの笑顔を見たら鼓動が早くなった気がする。


 ついに俺も寿命なのだろうか。


「あ、一応言っとくね」


「なんですか?」


「今回あなたが告白してくれたわけじゃん?」


「そうですね。あやふやになっちゃいましたけど」


「優柔不断で本当にすみませんでした」


 俺は土下座する勢いで頭を下げる。


「だ、大丈夫ですよ。いきなり告白した私も悪いですし。それに、可能性はあるみたいですから」


「多分俺ってチョロいからすぐに落ちるかもよ」


「私と付き合ってすぐに浮気とかしないでくださいよ?」


「チョロいって心を許せばの話ね。俺が心を許した相手って、あなたを含めて片手で足りるから」


 俺がそう言うと、珠唯さんは信じてないのか呆れたように「そうですね」と軽く言う。


 実際のところ、俺は珠唯さん以上に心を許してる相手はいないかもしれない。


 まあそれは俺じゃなくて、俺の周りの人間に変なのが多いせいだから仕方ないのだけど。


「まあ悠夜さんが浮気なんて考えられないんですけどね」


「相手がいないから。あなたぐらいだよ? 俺なんかを好きになるの」


「……内緒にしとこ。自分から浮気相手紹介しても仕方ないし」


「実は俺の反応見て楽しんでましただけはやめてよ?」


 絶対にないとは思っていても、やっぱり珠唯さんほどの美少女に好かれるなんてドッキリを疑ってしまう。


 まあ珠唯さんになら騙されてもいいと思う俺もいるけど。


「あはは、ここでキスでもしたら信じます?」


「俺はあなたに絶対の信頼を置いているので大丈夫です」


「残念です。信じてもらえるのは嬉しいですけど」


 あんまりこの子の前で下手なことを言うのはやめよう。


 何をされるかわかったものではない。


「じゃあ次のお休みにデートしましょ」


「ごめんバイト」


「大丈夫です、私もなので」


「じゃあ無理じゃん」


「終わりは同じじゃないですか。一緒にどこか行きましょ」


「いや、いいけど」


 一緒に出かけるのは一向に構わないけど、いきなり「デート」なんて言われると身構えてしまう。


「ん?」


「どうしました?」


「バイト終わりに二人で出かける……既視感があるような?」


「気のせいですね。考えたら駄目なやつです」


 珠唯さんはそう言うけど、似たようなことをしたことがあるような……


(あぁ、今のがデートに近いのか)


 夜も遅いからと家が近くの俺が珠唯さんを送って行く状況。


 これもある意味デートに近い。


「いやぁ、初デート楽しみですね」


「……わかった。そうだな」


 どうやらこれはデートではないようなので、次の休みの日に行われるのが初デートのようだ。


 そもそもデートの定義が何かわからないから、本当に初デートになるのかわからないけど。


「まあいいか。それよりもそろそろ寒くなってきたから帰ろ」


「うち来ます?」


「なんでだよ。今日も近くのコンビニまで送るから」


 俺は珠唯さんの家を知らない。


 俺の家から近いということだけは知ってるけど、家バレしたくないだろうからと珠唯さんの家の近くだと言うコンビニまで送ることにしている。


「もしもそのコンビニからうちまでの間で誰かに襲われたらどうするんですか?」


「………………」


「あ、すいません。そこまで本気で悩んでくれるとは思ってなくて」


「あなたに何かあったら俺は普通に辛いですから。それに……」


「それに?」


「あなたがいないと、結構寂しい」


 基本的に心を許さない俺だけど、一度許してしまうとこれだ。


 依存性なのか、その人がいないとなにか物足りなくなってしまう。


「どしたの?」


「気にしないでください。悠夜さんが悠夜さんしてるせいで私のハートが撃ち抜かれただけです」


 顔を両手で押さえながらしゃがんだ珠唯さんに声をかけると、まさかの返事が返ってきた。


 ちょっと意味はわからないけど。


「いいから帰ろ。寒い」


「私は暑いですけどね」


「熱でもある? 大丈夫?」


「平気……じゃないです。なのでおうちまでおぶってくだ……冗談です、すいません」


 俺が珠唯さんの前にしゃがむと、珠唯さんに謝られた。


 さすがに俺におぶられるのは嫌だったのだろうか。


 それならいつも以上に気にしながら隣を歩くことにする。


「本当に大丈夫ですって。それよりも、告白の話はなんなんですか?」


「あぁ、俺があなたを好きだって自覚できたら俺から告白するって話。もちろんその間にあなたが他の人を好きになったら俺を捨てて大丈夫だから」


「ちなみに悠夜さんは私に捨てられたら嫌ですか?」


「……うん」


 少し想像してみた、珠唯さんが俺以外の男と仲良くしてるところを。


 なんかモヤモヤする。


「やばい、嬉しすぎてニヤニヤが止まらない」


「なして?」


「教えませーん」


 珠唯さんが楽しそうに歩き出す。


 どうやら本当に大丈夫そうだ。


 気にはかけながら俺も後に続く。


 そうして長い寄り道を終えてコンビニへ辿り着いた。


 手を振りながら歩いて行く珠唯さんに軽く頭を下げてから俺も家に帰るのだった。

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