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国家の犬  作者: 木谷未彩
2/2

人生、ハードモードの始まり

高校時代の放課後。誰もいない教室で萌え絵を描いていた。


うわ。まじ可愛い

はぁ。こんな子と付き合いてえな。


……賢者的思考で考えると、自分で理想の女の子勝手に作り出して、その子と付き合いたいとかキモくね?

そんなこと思ってるから、いつまで経っても彼女が出来ないんじゃ……。受験生なのになにしてんだろ……。


いや!!絵の描けるオタクなら男女問わず誰だって一度はやるだろ!!

俺はキモくない!!

キモいとしたらオタクという存在そのものだ!!



「なーに書いてんの」

「……勝手に見んな」

急いでノートを隠したが、ニマニマという効果音をつけたくなる笑顔で俺の顔を見てくる。

「絵上手いね!漫画家なるの?」

「なるって答えてなれる職業じゃねーだろ。……俺絵しか描けないし」

「今の時代、作画担当の漫画家さんたくさんいるじゃん!こんだけ上手かったらなれるって!」

「……あーもう。うるさい!!早く出て行けよ!!」

「そんなに怒るなよ。そんなんだから未だに童貞なんだよ」

「はあ?大体な悪いのは童貞の俺じゃなくて、妊娠させてもろくな責任も取れない年齢でS○Xしてる愚か者共の方なんだよ!!ヤリチン共は俺を見習え!!」

「……ほう。一理あるな。で、貴様彼女は?」

「……いたら放課後の教室で一人寂しく、萌えオリキャラを作り出し、脳内オ○ニーに勤しんでいると思うか?」

「結局僻みじゃねぇか。情け無い」

「うるせぇ!!大体なあ!!高校時代の彼女と結婚するやつなんて、一割にも満たないんだからする意味ないだろうが!!俺は初めての彼女と結婚するんだよ!!」

「おい。思考まで童貞に侵されてるぞ」

「うるさい!!早く帰れ!!」

「はいはい。また明日ね」

「……もう俺にかまうなよ」

「少女漫画のイケメンにしか許されないような台詞をお前ごときが使うな」

「はあ?意味分かんねぇ!!」


「構うなって言われても構うからね!あんたを揶揄うのがこの世で一番面白いんだから!」

「……悪趣味」

「そんな私のことが好きなくせに」

「はあ!?誰がお前のことなんて!!」

「じゃあね。また明日」

やっと出ていった。

俺なんかと話しても時間の無駄なのに、物好きなやつだ。


それにしても俺があいつのこと好きだと?

あんな女のことなんて誰が好きになるか。


……まぁ、あいつがどうしても付き合ってくれって言うなら考えなくも……ってキモすぎるだろ。

あいつの言うように思考まで童貞に侵されてるみたいだ。


あいつも俺もオタクだけど、俺は陰のオタクであいつは陽のオタクだ。

俺に友達はいないけどあいつはクラスの陽キャともそれなりに会話ができる。

俺は帰宅部だけどあいつは陸士部のエース。

住んでる世界が同じなようでまるで違う。

一番俺の心を抉ってくるタイプの人間だ。

実はそれなりにイケメンな彼氏でもいるのかもしれない。

だとしたらなんだ?俺には1ミリも関係ない。


……でもいたとしても知りたくないな。



その後も代わり映えしない日常が続いた。

役に立つのかよく分からない授業を受け、地獄の体育をなんとか乗り越え、値段の割には美味しい学食を食べ、放課後時々お前が俺の絵を褒め、俺の人格を貶す。

腹は立つが大きな不満はないそんな日常。

続いてくれるならそれだけでよかったのに。


数ヶ月後

いつも通りの放課後にいつもと違うお前が現れた。

「なんだよ。暗い顔して生理か?」

「……相変わらずデリカシーないよね。そんなんだから未だに童貞なんだよ」

いつもだったら怒るところだったけど、少しでも対応を間違えたら今にも居なくなってしまいそうなくらい暗い顔をしていたから我慢した。

「なあお前、本当にどうしたんだ?話聞くくらいなら俺にも出来るぞ」

「……あはは。私やばいね。清水の顔がち○こに見えてきたよ」

「はあ?なに訳の分かんないこと言って」

よかった。そういう冗談を言うだけの元気はあるんだな。 

森の顔が少しずつ近づいてくる。

「ねぇ、清水。私ね。清水のそういうところ大っ嫌いで大好きだよ」

そう言うと森は俺の口にキスをした。


は……はあ!?

い、意味分かんねえ!!なんでいきなりキスなんて!!

は、早く止めないと!!

でも……唇柔らか……

舌を入れようとしてきたから、慌てて突き放した。


「な、なにしてんだよ!!」

「なにってキスだよ」

「そ、そういうことじゃなくて……」

「……嫌だった?」

「い、嫌っていうか……。付き合ってねぇし」

「じゃあ付き合う?」

「じゃ、じゃあってなんだよ!?……お前俺のこと好きなの?」

「さっきも言ったでしょ。大っ嫌いで大好きって」

「ふざけてないで真面目に!!」

「ふざけてないよ。人間の感情って好きと嫌いだけで分けられる程、単純じゃないでしょ?そういう清水は私のこと好きなの?」

「お、俺は……。お前が俺のこと好きなら付き合ってやっても良いかなってくらいには好き」

「……あはは。私やっぱり君のそういうところ好きだよ。見てて安心する」

「と、とりあえず!!明日話し合おう!!お前いつもと様子が違うし、お互い一日ちゃんと考えて、す、好きってなったら……付き合おう」

「……そんなに待てないよ」

「そ、そんなにってたった一日だぞ!?」

「……ねぇ。S○Xしよ?」

「はあ!?……お前本当におかしいって!!早く帰って休めよ!!」

「良かったね。風俗って安くても一万円はするし本番出来ないんだよ。私だったら生○出しOKだし現役JK。そんな相手と無料でヤレるなんて超お得じゃん」

「お前ほんとに変だって!!ちょっと落ち着けよ!!」

「……理性的なふりしてるけどさ。勃ってるじゃん」

「な!?勃ってるとかそういう問題じゃないだろ!!」

「そういう問題だよ。男は勃たなきゃ出来ないけど、女は気持ち良くて濡れようが濡れてなかろうが抑え込まれて挿れられたらそれはもうS○Xなんだよ。S○Xに女の意思は介在しないの」

「……お前……なにかあったのか?」


「…………あはは。ごめんね。私ちょっとどうかしてたみたい」

「い、いや。大丈夫だよ。誰だってそんな日はあるって!」

森は涙を流していた。

「……森?」

「……ごめんね。  。さよなら」

森は走って教室から出ていってしまった。

「待てよ!!清水!!」

急いで追いかけたがすぐに見失ってしまった。


クソッ!!万年体育の成績1の俺が、陸上部エースに追いつける訳ないだろ!!


三十分ほど校内を走り回ったがどこにもいない。

下校時刻を告げるチャイムが鳴った。


しょうがない。今日はもう帰ろう。

こんなに探していないんだ。

あいつももう帰ったんだろう。


明日会ったらその時は……ちゃんと返事しないとな。

校門まで歩いていると、生徒たちがスマホを手に空を見上げていた。


「なあ、あれやばくね?」

「マジじゃん。動画撮ったらバズるかな?」

「辞めろよ不謹慎だぞ笑笑」

「そういうお前だって動画回してんじゃねぇか笑笑」

一体なにを撮って……。

スマホが向いている方を見上げると、女子生徒が屋上から飛び降りようとしていた。

森の顔が脳裏に浮かぶ。

……いやいや。あいつはそんなことする奴じゃないだろ。

自殺なんて命を軽んじる真似する奴じゃない。


ここからじゃ女子生徒が誰なのかわからないな。

俺も他の生徒と同じようにスマホを取り出し拡大した。


……嘘だ。

きっと見間違いだ。

あいつはそんなことする奴じゃ!!!!


次の瞬間、その女子生徒は俺を見て笑った。


え……。

学校中に悲鳴が響き渡った。


「キャーーーー!!!!」

「うわっ。まじで飛び降りたぞ!!撮れたか!?」

「バッチリだ!!誰かに先を越される前にさっさとネットにあげよう!」


……嘘だ。きっと見間違いだ。

あいつがそんなことする訳ない!!

俺を見て笑ったのだって、屋上から俺が認識できるはずないだろ?


そんな……そんなはず……。

「うわーーーーー!!!!」

俺は走って学校から逃げ出した。


大丈夫!!大丈夫!!

明日になったら全部いつも通りだ!!

いつも通りお前は死にたいなんて感情とは無縁の顔で笑っているし、俺の絵を褒めて俺自身のことは馬鹿にして笑うんだ!!


お前と付き合いたいなんて高望みはしないから!!

ただ生きてさえいてくれたら、それだけでいいから!!!!


家に帰ってすぐ自分の部屋に鍵をかけて閉じこもり布団にくるまった。

両親が心配し、何度か扉をノックしたが何も返事は出来なかった。

少しでも自分以外の何かと関わりを持つと、あいつの顔が浮かんできそうで。


「大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫」

念仏のように大丈夫と唱えていると、想像よりも早く朝はきた。

一睡も出来なかった。


「はる君。大丈夫だった?」

「一度も部屋から出ないから心配したぞ」

「あはは。大丈夫。最近やってるゲームが面白くてさ、ついつい部屋に閉じこもっちゃったよ」

「全くあんたって子は!」

「さては徹夜したな?隈が酷いぞ。学校休んで寝た方がいいんじゃないか?」

「あはは。大丈夫大丈夫」

早く森の笑顔を見ないと、俺は安心して眠れない。

寝たらあの屋上の笑顔が夢に出てくる気がする。



学校に行くと、いつもはとっくに来てるはずの  がまだ来ていなかった。

……大丈夫。ちょっと遅れてるだけだ。

そんな日もあるだろ。昨日体調悪そうだったし。

大丈夫。すぐに来るって。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。

「昨日、森が学校の屋上から飛び降り自殺し、亡くなった。本来なら死因は隠すところだが、すでにSNSで動画が出回っているため発表する。

クラスメイトが亡くなり悲しいだろうが、受験は待ってくれない。あまり気を落とさず引き続き勉学に励むように」


……嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


森が死んで一週間が経った。

死んだ翌日は皆んな泣いていたのに、今では初めから森なんていなかったみたいにいつも通りだ。

森の机に置かれた花だった物が、時間の経過を物語っている。


……なんでそんな普通に生活できんだよ。

皆んな俺なんかよりずっと森と仲良かっただろ?


俺がいなくなっても世界は変わらないだろうけど、森がいなくなったらちゃんと世界は変わらなくちゃいけないんだよ!!


でも先生が言っていたように受験は待ってくれない。

俺も勉強してる間は他人のことをとやかく言えないくらいに森の事を忘れていた。

でも仕方ないだろう?

行った大学で人生の全てが決まるんだ。

良い大学に行って良い人生を歩まないと。








……あれ。良い人生ってなんだっけ?


あいつにはもう人生なんてないのに、俺だけ幸せになっても良いんだっけ?


……いや。良いだろ。俺とあいつはただのクラスメイト。それ以上の名前がつけられる関係じゃないんだ。

友達でもないし、恋人なんてもってのほか。


そんな関係性の奴がこんなに悲しんでる方がおかしいんだ。



授業中

あいつの最後の笑顔を思い出し、吐きそうになった。

やばい。授業中に吐いたら卒業までクラスメイトのおもちゃにされる。

俺を馬鹿にしていいのは森だけなのに。


「先生……すみません。トイレに行ってきます」

「はぁ。休み時間にちゃんと済ませとけよ。そんなんじゃ社会に出た時通用しないぞ」

「……社会になんて一度も出たことないくせに……」

誰にも聞こえない音量で呟き、教室を出た。


うぅ。吐きそう。早くトイレにつかないとやばい。

走りたいけど走ったら余計に吐き気がするかも。


早歩きでトイレの真横まで来ると中から、不良達の声が聞こえてきた。

こっそり覗き込むと三人の不良がいた。


最悪だ。授業中になにやってんだ。

さっさと教室に戻れよ。

見つからないように少し離れたところで待機していようとすると不良達の口から「森」という名前が出てきた。

無意識のうちに立ち止まって聞き耳をたてる。


「森が死んだのってさ。俺らがレ○プしたせいなんじゃ……」

「バカ!お前!ここ学校だぞ!誰かに聞かれたらどうするんだよ!」

「そ、そうだけどよ……」

……レ○プ嘘だろ?

そんなのエロ漫画とかAVだけの話で現実にあるはず……

「森が自殺する前日に産婦人科から泣きながら走って出ていくとこたまたま見たんだけど。俺らの中の誰かの子ども妊娠したから自殺なんて……」

「……だったらなんだよ。もう死んでんだから関係ないだろ」

「そ、そうだけどよ」

「逆に死んでくれてよかったじゃねぇか。中絶費用請求されたら、下手したら四ヶ月分のバイト代ふっとぶぞ?中○ししただけなのに高すぎんだろ笑笑

それに産むなんて言われてみろ。10代で人生終わるぞ?」

「た、たしかに……」

「俺ら全員彼女もいるしバレたら困るだろ」

「ああ。そうだな。それにしても誰の子どもだったんだろうな」

「おい!やめろよ!死体の父親なんて気持ち悪い!笑笑」

「違いねぇ笑笑」


俺は教室まで走り、筆箱を取って急いでトイレに戻った。

「おい!清水!さっさと席につけ!」

先生が何か言っていたが何を言っているのか分からないし興味もなかった。


なぁ、天国で待ってろよ。森。

俺がこいつら全員地獄に送って、俺も地獄に堕ちるから。

俺は不良のリーダーの男の首にカッターを刺した。

「痛ッ!!」

このまま頸動脈を!!

「頭おかしいのか!!」

横にいた二人の不良に思いっきり鳩尾を殴られる。

「ぐはっ!!」

トイレの床になぎ倒され、タコ殴りにされた。



あーあ。結局こうなるんだ。

もう少し考えて動けばよかった。

3対1で勝てる訳ないだろ。

弱いんだからせめて頭使えよな。


あーあ。クソ痛いな。

このまま殺されんのかな。

まぁ、それはそれでいっか。

幸せな未来なんて訪れる気がしないし。

人生なんて年々つまらなくなりそうだもんなぁ。

花の高校生でこんだけつまらないんだ。

四十代の自分なんて想像すらしたくない。

同窓会で会いたいと思える相手すら、もういないしなんかもう全部疲れたなぁ。


殴られすぎて気を失ったようだった。

気が付いたら病院のベッドの上にいた。

「あ、清水さん。意識戻りましたか?待っててくださいね。先生を呼んできますので」

隣にいた看護師さんが言った。


あーあ。やっぱり殴られたくらいじゃ死ねないか。

人間簡単に死ぬような。なかなか死ねないような。

せめてどっちかにしてくれよな。


病室から出て行った看護師が医者を連れて戻ってきた。

骨を三本折られたらしいが、特に後遺症も残らず治るそうだ。


「車椅子を使えば動けそうですか?」

「あ、はい。なんとか」

「警察の方が話を聞きたいそうです」

「……そうですよね」

「別室でご両親と一緒に待機していただいてるのでご移動お願いします」

「……わかりました」


この場合より悪いのは俺か。あいつらか。

先に手を出したのは俺だし刃物も使ってる。

でも骨を三本折るまで殴るのは過剰防衛か?


うーん。駄目だ。分からん。

まぁ、少年法もあるし大した罪にはならないだろ。 

大丈夫だ。大丈夫。きっと大丈夫。


どんな話をされるのか不安で仕方なかった。

よくこんなチキン野郎が不良の首元を刺せたものだ。

火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか?

少し違う気をするが人間の底力は恐ろしい。

自分がやったことなのに。自分じゃないみたいだ。

……きっとあんな勇気、俺はもう一生出せない。


……森が今の俺を見たら笑うかな。



部屋には両親と二人の警官がいた。

「先生!遥暉は大丈夫なんですか!?」

「命に別状はありませんし。後遺症も残らないでしょう」

「はぁ。よかった」

「心配したんだぞ。お前が無事ならそれだけで良い」

「お前が無事ならそれだけで良いねぇ。そんな甘っちょろいこと言ってるから、刃物で同級生の首を刺すようなサイコパスに育つんですよ」

「おい!やめとけ!」

「なんですか先輩。事実じゃないですか」

「うちの子は理由もなくそんなことをするような子じゃありません!!」

「不良の方が先に手を出したに決まってる!!」

「……犯行現場はトイレだったんで監視カメラもついてないし、どっちが先に手を出したのかは分かりませんけど。

仮に先に手を出されてたとしても刃物で首を切りつけるのはどう考えても過剰防衛です。あと少し深く刺さって頸動脈を切っていたら相手を殺していたかもしれないんですよ? 」

「そ、それはそうかもしれませんけど……。うちの子だって骨を折られているんですよ?」


「手足の骨数本折れたって死なないでしょ?」

「なっ!?」

「おい!やめろ!言い過ぎだ!」

「事実を言ってなにが悪いんですか?先輩?世の中の大人が先輩やこの二人みたいに子どもに甘いから、最近のガキはろくでもないんですよ」

「はぁ。事情聴取は俺がする。お前はもう喋るな」

「はいはい。分かりましたよー」

「それとご両親と担当医は席を外していただいてもいいですか?年頃的にご両親の前だと話しにくいこともあると思いますし」

「でも……」

「父さん。母さん。大丈夫だから。外で待ってて」

「本当に大丈夫か?」

「なにかあったらすぐに呼びにくるのよ」

「うん。ほんとに大丈夫だから」



「俺の部下がすまない。早速だが同級生の首元を切り付けた動機を教えてくれ」

「……俺の同級生が自殺したんです」

「たしかに一週間程前に君と同じクラスの女生徒が自殺で亡くなっているね」

「あいつらの!!あいつらのせいなんです!!あいつらが森をレ、レイプしたりするから!!」

「……その現場を目撃したのかい?」

「……いえ。見てはないです。授業中トイレであいつらが自慢げに言ってたんですよ」

「なるほど。動機は理解した」

「お願いです!!刑事さん!!俺のことも捕まえていいから!!あいつらを捕まえてください!!」

「それは……」

「焼いた後の骨に男の体液なんて残ってる訳ないでしょ」

「で、でも!!他になにか証拠が!!」

「まあ、99%ないだろうね。仮にあったとしても警察はすでに亡くなっている人の性被害を捜査出来るほど暇じゃない」

「な……。じゃあ、俺はどうしたら……」

「辛いだろうけど忘れるしか」

「忘れる?……俺が忘れていいわけないだろうが!!」

力一杯刑事を殴った。

「痛っ!」

「あはは。ストレート!」

「笑い事じゃないだろ!」

「今のは完全に先輩が悪いです。殴られて突然ですよ」

「いや。さっきまでのお前の発言の方がよっぽど駄目だろ」

「ほんと人の心が分かってないですよね。そのうち刺されますよ」

「そんな大袈裟な……」


「おい少年。俺のことも殴っとくか?すっきりするなら一発くらい殴られてやるぞ」

「……いいです。殴ったって森は返ってこないし、あなたの言ってることは伝え方に難はあっても間違ってるとも思わない」

「……へー。お前みたいなサイコパスにも最低限の良識はあるんだな。だからって人を刺したのは許さないけどな」

「……別に許されたいなんて思ってません」

いっそ許さないで欲しい。

……思考が厨二病を拗らせてるやつみたいになってる。やばいな。


「……殴ってすみませんでした」

「あ、いや。俺の方こそなにか傷つけたみたいで悪かった」

「そういう謝り方もよくないですよ」

「……じゃあどうすりゃいいんだよ」


「じゃあ俺たちは帰るね。また話聞かないといけないかもしれないけど」

「分かりました」

「じゃあねー。早く治せよー」

「お大事に」

「はい」

刑事二人が帰っていった。

「はぁ。なんかすごく疲れた」


それからだ。俺の人生がダメな方に流れていったのは。

頑張ってなんとか中の上くらいの大学に入ったけど、少しでもチャラついた人間を見ると森を死に追いやった奴らを思い出して吐き気がした。

1ヶ月も経たずに行けなくなって、あっという間にヒキニートだ。


そんな俺を両親は責めなかった。

俺のことを心から心配してくれる両親。

……でもただ心配なだけではないのかもしれない。

また学校で人を刺すくらいなら、家で引き篭もってる方がマシだと思われているのかも。

そう思うのが悪い訳でもない。

むしろ親として当然の考えだろ。

誰だって自分の子どもを犯罪者にはしたくないはずだ。


早く。早く。社会に戻らないと。

そう思えば思う程、なにもしたくなくなってくる。



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