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国家の犬  作者: 木谷未彩
1/2

人生、ハードモード

2040年犯罪者は全員死刑になる法律が可決された。

死刑にならないためには三年間、国のスパイになるしかない。

そのスパイのことをみんな国家の犬と呼んでいる。

少年法もなくなったから、五歳児のスパイもいるそうだ。

スパイというくらいだから、もちろん他国でスパイ活動もするわけで、もし捕まったら死ぬよりよっぽど酷い目に遭わされるから、大抵の犯罪者は死刑を選ぶらしい。


まあそんなこと、善良なヒキニートの俺には関係ないんだけど。


自室でパソコンで日課の動画視聴をしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

「母さん!!入るときはノックしてくれっていつも!!」

「警察だ」

「は?」

「AVのダウンロードは全て違法であることは知っているな?」

「え?は?え?」

理解が追いつかない。


そうだ。夢だな。そうに決まってる。

たしかにこの警官が言うように、AVのダウンロードは全て違法になったけど、警察は黙認してる。

AVのダウンロードくらいで死刑にする訳にはいかないからな。

AVのダウンロードだけでなく、軽犯罪は大体、黙認されている。

重大犯罪は大幅に減少したが、軽犯罪は増加しているらしい。


いや。今はそんなことどうだっていい。

早くこの夢から醒めないと。


「午前9時45分。現行犯で逮捕する」

……手錠の感触とか冷たさとか。やけにリアルなんだけど夢だよね?


そうだ。これいわゆる明晰夢ってやつだ。

明晰夢は自分の思い通りにできるって聞いたことあるぞ。

よし。パソコンの中のAV男優と俺を入れ替えよう。

替われ!!





…………替わらない。

ま、まあ。明晰夢だからって思い通りになるとは限らないよな。

そんなに上手くいかないって。


AV男優もうんことか食わされて大変みたいだし、入れ替わってもきっと上手くいかないよ。


きっと明日になれば、この悪夢は醒めるはず。

大丈夫。大丈夫。


そう思いながら、パトカーに乗った。




三日後、俺は独房の中にいた。

……悪夢が醒めない。

え、現実?

……いやいや。まさかね。

どこの世界にAVのダウンロードで死刑になる奴がいるんだよ。

さすがにあり得ないだろ。


でももしだ。もし仮に夢じゃなかった場合。

俺は死刑か。国家の犬になるか。選ばないといけない。


……俺がスパイに?




……無理だ。体育の成績は万年2だぞ。

そんな運動音痴がスパイになんかなっても、捕まった挙句。死よりもきつい拷問を受けて、底辺スパイだから、提供できる情報もなく。惨めに死んでいくんだ。


……嫌だ。それなら死刑の方がまだましだ。


「おい。出ろ。取り調べだ」

取り調べ室には、軍服姿の20代後半のイケメンがいた。

どうせ取り調べを受けるなら、こんな勝ち組野郎じゃなくて、事件にのめり込みすぎて妻子に捨てられた出涸らし親父にしてくれよ。

余計惨めになるじゃないか。


「……お前の罪状はアダルトビデオの違法ダウンロードだったな」

ゴミ虫を見るような目で見られた。

「……は、はい」

「……はぁ。情け無い」


『情け無いとはなんだ!!むしろ男としてとても健全な証拠ではないか!!』と叫んでやりたかったが、寿命を縮めたくはないので我慢した。


「犯罪者には死刑か国家の犬になる選択肢が与えられている」

「あ、あの……。しゅ、修正されていたんですが……」

「……何がだ?」

「だから、あの、その、え、AVが……」

「……それがどうした」

「だから。そのー……減刑とかって……」

「ない」

「でも多分貴方が思ってるより、モザイク多いんですよ?あれはもはやAVじゃないです」

「AVなのが問題なのではなく。違法ダウンロードなのが問題なんだ」

「で、でも、男なら全員観てるじゃないですか!!それに俺が観てたのって、恋人同士のいたってノーマルなやつですよ!!催眠でもキメ○クでも強○でもないんですよ!!」

「だからAVのジャンルが問題なのではなく、違法ダウンロードなのが問題なんだ。それと男なら全員見ていると言ったが、俺は見たことがない」

「不健全!!」

「は?」

「不健全!!」

「何を訳の分からないことを言って……」

「良い歳こいた大人の男がAVを一度も観たことがないなんて、とっても不健全だ!!健康に悪い!!」


「健康を言い訳に犯罪を犯すな。お前には死刑か国家の犬になるか二つの選択肢が用意されている。どうする?」

国家の犬になって、他国に拷問された挙句死ぬくらいなら……。

「…………し、死刑でお願いします……」

「わかった。刑場に移動するぞ」

「え!?も、もうですか!?ちょっと心の準備が!!」

「犯罪者に心の準備なんていらない。さっさと行くぞ」

「ちょ、ちょっと待っ……!!」

抵抗はしてみたものの、看守の力にヒキニートの俺がかなう訳もなく、あっという間に刑場につれてこられた。

そこは人生の最後を迎えるとは思えない程何もなく、無機質でとても気持ち悪かった。

自分は無宗教なのに仏壇が置いてあるのも、ある種の同調圧力を感じて気持ち悪い。


「遺言は?」

「え!?ゆ、遺言!?……じゃあ、両親に産んで育ててくれてありがとうございました。こんな最後でごめんなさいって」

「遺言を残すのは両親だけでいいのか?友人には」

「……友達……いない」

「……目隠しと縄を」

「わー!!人の地雷踏み抜いといて無視ですか!!いいご身分ですね!!

まあ、別に気にしてないんですけどね!!話の合わない連中と無理矢理友達ごっこしたってしんどいだけだしね!!」

視界を塞がれ、首に絞縄をかけられる。

目が見えない分、縄のごつごつした感触がより伝わって気持ち悪い。

「えっ。いや。ちょっと待って!!今の時代に絞首刑なの!?薬で殺してくれたりとかしないの!?」

「楽に死んだら被害者が浮かばれないだろう」

「いや!!それはそうだけど!!俺の場合被害者いないし!!」

「処刑方法に特例はない。五秒後に執行する」


もう最悪だ。彼女さえいたら法を犯してまでAVなんて見なかったのに……。

首絞め物のAVすら可哀想で見れない俺が、絞首刑で死ぬなんて笑えないよ……。


「5、4、3」

自分の命が終わる瞬間が近づく。

覚悟なんてとても出来ないけど、思いっきり目をつぶった。


…………?、3以降の数字が聞こえない。

緊張しすぎて耳がおかしくなったんだろうか。


目隠しが取られ、急な光に反射的に目を瞑った。

「……お前の死刑が取りやめになった」

「よ、良かった!!やっぱりAV視聴で死刑はおかしいですよね!!」

「お前は強制的に国家の犬だ」

「ん?……え、あ、いや。ちょっと待ってください。……な、なんで俺が?」

「……知らん。上からの命令だ」

「そ、そんな……。俺にスパイなんて無理だ」

「じゃあ、死ね」

俺の視界にナイフが現れた。

「国のために死ぬ覚悟のない人間にスパイになられても足手纏いだ。死にたいなら勝手に死ね」

この看守の言う通りだ……。

俺はいつだって足手纏いだから……。

震える手でなんとかナイフを掴んだ。

「おすすめは首だ。死ねる可能性が一番高い」

首にナイフを押し当てた。

あ、本当に血って出るんだ。

と素っ頓狂なことを思った。

別に生きていたい理由もそんなにないし、生きていたってこの先きっと大変なことばかりだ。

なら今終わらそう。


このナイフをもっと深く刺せば死ねる。

早く。早くしないと。…………早く!!







…………無理だ。

ナイフを床に落とした。


「……死ぬことすらできないのか」

ああ。そうだよ。自殺する勇気なんてあったらとっくにしてるんだよ。

俺の人生生きていたいって思える程、良い人生じゃないんだから。

「……勝手にしろ」

そう言い捨て、看守は去っていった。



俺は再び独房に入れられた。

散々足を引っ張った挙句、捕まって拷問されて殺されるんだろうな。

あのナイフで死んでおけばと何回も後悔するかもな。

なんならすでにちょっと後悔してるしな……。


嫌だな。怖いなぁ。スパイってなにをやらされるんだよ。

こんなことならもっとスパイものの漫画とか映画とかもっとたくさん観ておけばよかった。

現実とフィクションは全然違うだろうけど、きっと何も知らないよりましだ。

異世界転生系ばっかり観るんじゃなかった……。どうせ異世界転生なんて出来ないんだから、可能性のあるスパイものを……。

ってスパイもほとんど可能性ないだろ!!

……駄目だ。頭がおかしくなる。


「……出ろ」

この前の看守がやってきた。

一分程、刑務所を歩いた。

「……入れ」

特に特徴のない部屋に入れられると、中にはすでに二人の男がいた。

「その人で最後ー?」

「ああ」

「あはっ。よろしくねー」

「……よろしくお願いします」

気さくな笑顔だし、別に犯罪者には見えないな。

俺と同じで大したこともしてないのに、捕まってしまったのかもしれないな。

「オレもよろしくです」

「よろしく」

もう一人は見たところ十四歳くらいだろうか。

少年法が廃止されたから捕まったんだな。

この子も犯罪者には見えなかった。


「まずこいつが渡邉綾人(わたなべあやと)。連続強○殺人犯だ」

「え!?」

「だから強○じゃねぇって。全部向こうから誘われたんだから」

「なら殺す必要ないだろう」

「だって俺騙されたんだもん。むしろ俺が被害者だって」

やべー奴じゃねぇか!!関わりたくない!!

女の子とセッ○スできるだけで羨ましいのに、なんで殺しちゃうんだよ!!

やっぱりイケメンにろくな奴いないな!!

「俺自分の苗字嫌いだから、気軽に綾人って呼んでねー」


「そしてこいつが宮本叶多(みやもとかなた)。連続万引き犯だ」

「よろしくお願いしまーす」

「よ、よろしく」

今の時代に万引きくらいの軽犯罪で捕まるなんて珍しい。

盗んだ金額がよっぽど大きかったのか。盗んだ回数がよっぽど多かったのか。その両方か。


「そしてこいつが清水遥暉(しみずはるき)

「あ、ちょっと待って。俺なにしたか当てたい!」

「じゃあオレも!」

「そんなことしても時間の無駄だ」

「えー。良いじゃん。お願い。お願い」

「……はあ。勝手にしろ」


「うーん。知能犯っぽいよね」

「たしかに頭良さそうですよね」

「うん。馬鹿ではなさそう」

「うーん。詐欺とか横領かなぁ」

「たしかに!ぽいですね!」

「ねぇ。ヒントないの?ヒント!」

「ヒントより答えを」

「答えはいいからヒントちょうだい!ヒント!」

「はぁ。……パソコン関連」

「パソコン系!?絶対ハッカーじゃん!カッケー!」

「ええ!?ハッカーっすか!?握手してください!」

「……違う」

「え、ハッカーじゃないならもういいや。答え教えて」

「……AVの違法ダウンロードだ」

「え……。そんなことで死刑囚になるなんて、馬鹿みたいじゃないですか?」

辛辣!!!!

「ていうかさー。なんでAVなんて見るの?時間の無駄じゃね?」

「え……」

「AV見る時間あったらさ。セッ○スしたらいいじゃん」

「ファーーーーーーー!!!!!」

「うるさwwww」

「お前は!!!お前だけは絶っっっっ対に許さないからな!!!!」

「え、ごめん。なんか怒らすようなこと言った?」

「あー、言ったよ!!あんた程、罪深き人間を俺は知らないね!!」

「えーじゃあ謝るよ。ごめんね」

「絶っっっっ対に許さない!!!!」


「……喧嘩なら後でしろ。本題に入るぞ」

「はーい」

「俺とお前ら三人の計四人で1チームとなった。これから三年間国家の犬として活動する」

「はーい」

「早速だが最初の任務だ。ある重要人物の護衛をしてもらう」

「じゅ、重要人物……」

「護衛対象に傷の一つでもつけてみろ。お前ら三人、連帯責任で全員死刑だからな」

連帯責任……。

俺がこの世で二番目に嫌いな言葉だ。

(ちなみに一番は童貞)


あのヤリチンクソ野郎が死ぬのは別にいいけど。(なんなら殺してやりたいくらいだけど)

あの男の子まで死ぬのは駄目だ。そんなの間違ってる。


「明日護衛対象とショッピングに行ってもらうからそのつもりでいろ」

犯罪者とショッピングしたい重要人物ってどんな変態だよ……。


「それとくれぐれも逃げようなどと思うなよ。お前らの首についてるチョーカーは、スイッチ一つで毒針を出せるようになっているからな。毒針が刺されば即死だ」

怖い。怖い。怖い。

人間の命を軽く見過ぎだろ!!


翌日

連れて行かれた部屋に居たのは、五歳くらいの男の子だった。

「え……」

「おい!さっさと行くぞ!ボサっとするな!」

「こ、子ども……?」

「なんでお前みたいなガキが犯罪者に護衛頼むの?」

「お、おい!!お偉いさんの息子なんだろ!!きっと!!そんな口きくなよ!!忘れたのか!?連帯責任!!」

「俺そんなのどうでもいいしー。気になったことはすぐ聞けって  が言ってた」

「  さんって誰だよ」

「うーん……。母親みたいな人」

「あー。母親を名前呼びする若者ね。俺、嫌いだわー。そういうの」

「若者ってそんなに歳変わんなくね?」

「実年齢じゃなくて、言動が幼稚だって言ってんの!!」


「時間がもったいないだろ!!喧嘩なら僕が帰ってからしろ!!」

「も、申し訳ありません。坊っちゃま。肩をお揉みするのでどうか許してください!!」

「情けないよ。清水君。恥ずかしくないの?」

「うるさい!!命には変えられないだろ!!誰の尻拭いしてると思ってんだ!!」

「そんな事よりさー。なんでお前みたいなガキが犯罪者に護衛頼むの?親から嫌われてんの?」

「ふん。嫌われてなんてない!!僕のお父様は裁判官で将来は僕も裁判官になるから、後学のためにお前ら死刑囚がどれほど愚かな存在かを知っておこうと思ってな」

「……俺このガキ嫌い」

「おい!!バカ!!やめろ!!死にたいのか!?」

「こいつの父親には俺らを殺す権限があんのかもしれないけど、こいつはただのガキでしょ」

「な!?」

「誠様。そろそろ行かないとご希望されてた場所を回りきることは不可能です」

「ふ、ふん。命拾いしたな!!次そんな生意気な口きいたら、お父様に頼んで即刻死刑にしてもらうぞ!!」

「はいはい。お好きにどうぞー」


「おい!!早く行くぞ!!犯罪者共!!」

「は、はい!!」


誠様に連れてこられたのは、ショッピングモールだった。

「お前達はただの荷物持ちだ。くれぐれも僕の買い物の邪魔をするんじゃないぞ」

「はい。はーい」


誠様はおもちゃ屋に入っていった。

全員でついていく。

電車や戦隊ヒーローやロボットのおもちゃを大量に持たされる。

「誠様。まだ買うんですか?」

「当たり前だろう。この程度で音を上げるな」

誠様は辺りを見渡し、他に買う物がないか見ているようだった。

突然視線を止めると。


「……僕はトイレに行く」

「あ、じゃあ。お供します」

「いい!!誰もついてくるな!!」

「え、でも。子どもが一人でトイレに行くと危ないですよ」

「僕は子どもじゃない!!お前らみたいな犯罪者よりはよっぽど大人だ!!」

うっ。反論しづらい……。

「とにかく絶対についてくるなよ!!ついてきたらお父様に頼んで即刻死刑にしてもらうからな!!」

誠様の姿が見えなくなった直後

「綾人。追え」

看守が言った。

「えー。ほっときゃよくない?なんかあっても自己責任でしょ」

「追え。三度目は言わんぞ」

「はぁ。もうしょうがないなぁ。清水君このおもちゃちょっと持っといてね」

すでに限界ギリギリまで持っているおもちゃの上にさらにおもちゃを載せられた。

「う、腕が!!死ぬ!!」

俺の断末魔を無視して、綾人は走り去ってしまった。


「誠様の後を追うにしても、あいつでよかったんですか?」

「刃物を持った男が複数人現れたとしても、あの子どもを無傷で助ける自信があるならお前がいけ」

「遠慮しておきます。……でも護衛なら看守がつかないといけないんじゃないんですか?」

「……お前たちを野放しにする訳にはいかないからな」

「それもそうか。……いやいや。要人の息子と連続殺人犯を二人きりにする方がまずいでしょ!!」

「……あいつは女しか殺さないから大丈夫だ」

「あー。それなら安心……てなるか!!

連続殺人犯の気なんていつか変わるか分かんないだろ!!心配しなくても俺たちは逃げませんから追ってください」

「……ガキは嫌いだ」

看守ともあろう者が好き嫌いで動くんじゃありません!!

と言ってやりたかったが、後が怖いのでやめておいた。


「……そんな事より宮本。ポケットに入れた物を出せ」

「なにも入ってないですよー」

「早く出せ。今日の晩飯抜きにするぞ」

怒り方お母さんかよ。

「ちぇっ。バレたか。ゲームしたことないから、してみたかったんだけどなー」

「月末にそれなりの金額の給料が出るから自腹で買え」

「えー。自腹なら美味いもん食いたいですよー」

「じゃあ欲しくなかったということだ。いい歳してそんな物盗むな」

「……どうせお金持ちにはわかんないですよ」



綾人は誠を見失っていた。

「ガキは小さいから見つけにくいなぁ。めんどくさい」

しばらく歩き回り、やっと見つけた。

「クソガキー。トイレ終わったー?」

誠は魔法少女のおもちゃを手に持っていた。

「それも買うの?」

「か、買う訳ないだろ!!こんなの!!僕は男だぞ!!女はこんなのに現を抜かしてバカみたいだなと思ってただけだ!!」

「ふーんそう。俺結構好きだけどね」

「え……。男のくせに変なやつ」

「子どものくせに君の価値観古くない?今は多様性なんでしょ?多様性」

「多様性なんて犯罪者が犯罪を犯すための言い訳にすぎない」

「わーお。すごい価値観」

「……だってお父様の言うことは全部正しいんだ。そうじゃなきゃなんのために遊ぶ時間も全部犠牲にして勉強して……」

「……君がそう思っていた方が楽に生きられるならそれで良いよ」

「……むかつく。犯罪者のくせに分かったようなことを」

「たしかに。犯罪者のアドバイスなんて聞かない方がいいよね」

「……まあでも。お前がそんなに魔法少女が好きならこのおもちゃ買ってやる」

「え、いいよ。おもちゃ買う程好きじゃないし」

「た、たまにはまたお前ら犯罪者の愚かさを見に行くだろうから……」

「あーなるほど。じゃあありがたく貰っておくね」

「……その目をやめろ」

「澄んでてキレイでしょ?どれだけ悪いことしても濁らない不思議な目なんだよ」

「……罪をちゃんと認識できてないからだろ」

「えー。ちゃんと反省してるよー」

「……どうだか」

「本当だってー。信じてよー」

誠は無視して歩き出した。

「あ、待ってよー」



「あ、やっと帰ってきた。トイレ長かったですね。下痢ですか?」

清水が聞いた。

「……そうやってデリカシーがないから、その年で童貞なんだよ」

「は?どどどど童貞じゃねぇし!!ていうかなんでそう思ったんだし!?童貞じゃねぇけど!!」

「顔見たらわかる」

「ギャーーーーー!!ルッキズムだ!!清々しい程までにルッキズムだ!!」

「清水君。うるさいよ」


「綾人。お前が手に持ってるおもちゃはなんだ」

「あーこれ?ガキが買ってくれるんだって。可愛いでしょ?」

「えー、いいなぁ。誠様。俺にも買ってください!!なるべく高くて価値が落ちなそうな物を!!」

「……やだ」

「けち!!これだから金持ちは!!」

「さっさと買って次の店に行くぞ」

「まだ行くんですか!?」


セルフレジでの会計中

魔法少女のおもちゃをレジに通そうとすると、看守が止めた。

「な、なんだよ!!言っとくけどこれは僕のじゃないからな!!」

「だから止めたんです。お会計はなにで支払うつもりですか」

「え、それはこれだけど」

そう言って誠が取り出したのは、ゴールドカードだった。


ゴ、ゴールドカード……。

俺なんてニートでも作れる年会費無料のカードしか持ってないのに……。


「わぁ。俺クレジットカード初めて見ました!!あのカードがあればなんでも買える魔法のカードなんですよね!!」

良かった。下には下がいる。

「いや。魔法のカードではないよ。使えば使う程預金残高が減るから」

「よきんざんだか?難しそうな名前ですね」


「誠様。現金はお持ちですか?」

「え、まあ。ちょっとだけ持ってきたけど」

そう言って誠は一万円札を10枚程、ズボンのポケットから取り出した。

「クレジットカードだと利用明細が残るので、これは会計を分けて現金で購入した方がいいです」

「そ、そうなのか!分かった!」


浮気とかもクレジットカードの利用明細からばれるっていうもんな。

俺も気をつけないと。

え?気をつけるもなにも浮気相手どこらか彼女もいないだろうって?



死ね!!!!!!



無事お会計も終わり、俺たちは大荷物をロッカーに預けた。

ショッピングモールの出口に向かって歩いていると、喋りながら歩いてくる二人組の女性とすれ違った。


「なんか屋上で女子高生が自殺しようとしてるらしいよ」

「え、やば」

その会話を聞いて無意識に走り出した。

「え、清水君。なにしてるの?」

「止まれ。毒針を打ち込まれたいのか」

「な!?そんなことしたら僕が許さないからな!!追いかけてやればいいだろ!!」

「規則ですので」

「規則なんて知るか!!早く追いかけるぞ!!」

「えー。めんどくさいー」

「黙って走れ!!」



女子高生の自殺なんて聞いたら、思い出したくないのに否が応でも思い出してしまう。

俺を見て笑いながら死んでったあいつのことを。

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