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第7話「○○したのか。俺以外の奴と」「?」

 馬車は、護衛の騎士たちに厳重に守られて出発した。厳重なのは、王制反対派を警戒しているからである。


「俺が十九歳の時に襲われたのも、あの頃から事態が動いていたからかもしれないな」

 揺られながら、ラフェドはため息混じりに言う。

「もし俺が死ねば、今度はウレディ王家の存続に不安があるってことになって、貴族はますます力を増す」

「全然、理解できません」

 呆れて、リオリエルは首を振る。

「神にとって代わろうだなんて、何を考えているんでしょうか」

「王族に限らず、能力のある奴がいるなら、代わってやってもいいとは思うがな」

「ラフェド様っ!?」

 思わず声を上げると、ラフェドは笑った。

「いやいや、とりあえず今は、任せてもいいと思える奴はいねぇよ。貴族連中にもな」

(びっくりした! でも、そう……ナダ王家が王に相応しくないと天の神がお考えになったから、ウレディ王家に王位が移ったんですものね。『王族ならどなたでも国を善く治められる』、とは限らない……)

 尊い王族を守る、ということ第一に考えてきたリオリエルは、思わず首を振る。

(でも、王族の全ての方々が相応しくないなんてことはありえない! 私たちをお守り下さるために、いくつもの王家が千年の時を……)

「そういえば」

 不意にラフェドが言ったので、リオリエルは「はいっ」と背筋を伸ばした。彼は続ける。

「ゼタルは、なかなかの人格者とみた。お前にとって、どんな信徒長なんだ?」

「あ、ゼタル様は……私にとって、父親代わりのような方です」

 気を取り直したリオリエルは、頬をほころばせる。

「『リオリエル』という名も、ゼタル様がつけて下さったんです。幼い頃に信徒会に引き取られてから、読み書き計算、神々のこと、体術……全て、ゼタル様から教わりました。もちろん、他の影徒たちからも。普通の家族とは違うのでしょうが、私にとってエルセネスト信徒会は家族そのものです」

 様々な思い出が頭の中を過り、彼女はつぶやいた。

「本部がなくなってしまうって、帰る場所がなくなるってことなんですね」

 内紛を装って解体する、という件は、彼女ももちろん聞いている。

 ラフェドは、そのつぶやきに即座に返事をした。

「お前は俺と結婚して、俺と家族になったんだから、帰る場所は俺のいる場所だろうが」

「あ、そう、そうです。ゼタル様にもそう言われたんでした」

「前みたいに、勝手に姿を消したりとかもすんなよ」

「はい」

 リオリエルはクスッと笑った。

「妻がいきなりいなくなったら怪しまれますしね、ふふ」

「それもそうだが、それだけじゃねぇよ。お前は王族を守って死にかけ、好きでもない王族と結婚し、王族の都合で家族も失う」

 どこか苦々しい口調で彼は言う。

「もっと、俺の妻であることを利用しろ。少しくらいわがままになって、俺に見返りを要求したっていいんだからな」

「よ、要求、ですか」

 神に(こいねが)うことはあっても、具体的に何かを要求したことなどないリオリエルは、困ってしまった。

「まあ、考えとけ。……で、なぁ、リオ」

 ラフェドはちらりと横目でリオリエルを見る。

「はいっ」

 彼は、馬車のガタガタいう音に紛れそうなほどの小声で、ぼそぼそと聞いた。

「あの後……影徒として、誰かのそばにいたのか。俺以外の奴の」

「? ……あっ、怪我の後ですか? いいえ」

 リオリエルは再び、ふるふると首を振った。

「ラフェド様の時に、周囲の皆さんに顔を覚えられていますから、しばらくは対神守護の使命をお受けすることができなくて。怪我を治して再訓練する間は、本部にいました。それから、大人になるまで──えっとつまり、成長によって顔つきや身体つきが変わるまで、町の礼拝堂で連絡係の仕事をしました」


 エルセネスト信徒会の本部は険しい山の中にあり、影徒の訓練はそこで行われているが、もちろん裏の仕事だけをしているわけではない。町の人々のため、布教のために支部があり、そこから信徒が各地の礼拝堂に派遣されている。

 ちなみに礼拝堂は、影徒たちが連絡を取り合う中継所にもなっていた。


「今、対神守護の影徒は足りているので、交代や補助の必要がある時にすぐ動けるよう待機しておりました」

「ふーん。……じゃあ、必要なら俺以外の奴と結婚してたわけだ」

 ぼそっと言うラフェドに、リオリエルはあっけらかんと答える。

「必要なら、していましたね」

「…………」

 ムスッとした様子で、ラフェドは黙り込んだかと思うと――

 ――いきなり手を伸ばし、リオリエルの手をがっしりと握った。

(わっ! こ、これは、『普通の夫婦しぐさ』でしょうか?)

 さすがに少し驚いたが、リオリエルはされるがまま、おとなしくしていた。

(大きくて優しい手。神々は皆、こんな包み込むような手をしていらっしゃるのかしら……)


 馬車が巨大な門柱の間を抜けていくと、城の中心、本宮の威容が姿を現した。

 外壁はクリーム色の石づくりで、正面にはいくつもの巨大なアーチが横に連なっている。深く掘り込まれた外装、その奥に窓と、装飾は重厚で豪華だ。

 馬車が止まり、御者が外から扉を開けた。

 ラフェドはリオリエルの手を引いて馬車から降りると、いったん手を離し、そして腰を抱いた。御者の目の前で、二人の身体が密着する。

「ラ、ラフェド様!?」

 今度は、リオリエルもさすがに足を止めた。頬がカーッと熱くなる。

「あ? 何だ」

「いえ、あの、異性と人前でくっつくのは、いけません。信仰上の理由で」

「『清貧 貞淑 服従』の『貞淑』か?」

 ラフェドは信徒会の戒律を口にし、そしてどこか意地悪く言い放った。

「普通の夫婦が連れだって歩くだけだ、貞淑もクソもないだろ」

「く、くそ……ええと……くっつくのが夫だけなら、それは罪にならないということでよろしいでしょうか? 申し訳ありません。よ、よし」

 ごくっ、と喉を鳴らしてから、リオリエルはおずおずと身体を寄せた。

「…………あのな。『逆らうべきでない』から、そうやって言うことを聞くのか?」

「え?」

「いや。なんか、権力を笠に着て女にいうことを聞かせる悪役になったような気がしただけだ。おら、こっちに来い」

「は、はい。……うぅ、一度、どう考えたらよいのかゼタル様に伺いたい……」

 リオが思わずつぶやくと、

「俺が聞きてぇわ」

 とラフェドもつぶやくのが聞こえた。

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