第1話
俺たちは一旦、キララが普段使っている寮の部屋にいた。
「ナナがその貴族について行ったのが何でキラ…緑川の所為だってなるんだ?」
「先生。さっきから緑川じゃなくてキララって呼ぼうとしてますね。もうキララでいいですよ」
「それでキララ、一体どういうことなんだ?」
すると、キララは1回長い深呼吸をすると、視線を下に落として話し始めた。
「事の発端は、今朝です。今日、緑川たちが特例で学校を休んでよかったことに味を占めたナナが私の部屋に遊びに来たんですが、えっと、その…」
「あー、い、言いたくないことだったら言わなくてもいいぞ?」
「いえ、やっぱり先生と部長には知っておいてもらいます。その、緑川が毎日書いていた日記をナナに見られたことが恥ずかしくてケンカをしてしまったんです」
「それで、そのケンカについてもっと詳しく教えてくれないか?」
「じ、実はその日記ですが、緑川が毎日見つけたナナの可愛かったところを書いていた日記だったので、それを本人に見られて恥ずかしかったのと、それをナナがからかってきたので怒鳴ってしまったんです。
『緑川がどんな形でナナを好きでもナナには関係ないでしょ!』
って。そしたら、
『なんで好きなら直接言おうとせずに隠そうとするんだよ!別にアタシと緑川の仲なんだからいいでしょ?』
って怒鳴り返してきたのに対して、キライだ、って言っちゃって、そ、それで、ちょっと、殴り合いの…っ、っ…」
キララ自身に悪気は一切なかったことは明白。じゃなかったら、何で今泣いてるのか、ってなる。ああ、学生時代に友達と呼べる友達が少なかった所為でこういう経験したことないからな。どれくらい辛いかは正直分かんない。顧問として分かった方がいいんだろうけど…。
「これ以上無理して話さなくていい。1回落ち着こう」
「っ、っ…。せ、先生。それよりも、ユギカちゃんの方も重大だよ」
「確か、貴族に連れ去られたか何かだったか?」
「うん。緑川とナナが殴り合ってる時に、ユギカちゃんが部屋に逃げ込んできて、
『余はもうここにはいられない。皆に余のことは頼んだぞ』
って言ってたら、なんか黒いスーツの大きい男の人と、なんか高そうな服を着たユギカちゃんと同じくらいに見える男の子が入ってきて、
『さぁおいで、我が愛妻、ユギカ=シンシェポール三世。貴女と我の結婚式は既に準備が最終段階だ。さぁ、こちらへ』
『それは断らせていただく。今の余には貴様以上に共にあるべき者たちがいるのだ!貴様について行けば二度とここに戻ってくることが叶わないはおろか、彼女らに会うことすら叶わぬであろう。貴様が余の幸せを望むのなら、その求婚は断らせていただく』
『本当、物分かりの悪いお姫様だ。さて。お前たち、やってしまいなさい!』
ってスーツの人がユギカちゃんを誘拐しようとしたんだけど、ナナが、
『お前ら、ユギカちゃんを誘拐するならアタシも連れて行きなさい!それで、アタシを婚約者にしてユギカちゃんを開放しなさい!』
って言っちゃったんだけど、緑川が止めても、
『私のこと、嫌いなんでしょ?それならさ、きっとアイツらについて行った方が幸せだからさ』
って言って、緑川の方を振り向きもせずに行っちゃったの」
「じゃあ、俺たち賞金稼ぎ部で2人を取り返しに行こう」
「で、でも、相手が誰かなんてわかんないよ」
「大丈夫だ。学園長が防犯カメラの映像からアイツらが誰なのか調べてくれてるから」
すると、さっきからそこにいたかのように颯爽と学園長が登場した。
「ああ、たった今さっき、たった今さっきだ。アイツらの顔と名前、その屋敷の場所を特定したぞ」
「それで、相手は?」
「相手はシド=ラーニレフ二世。両方の親が利害の一致で政略結婚させるとりきめになっていた。つまり、そのシドとユギカは許嫁の関係らしい」
「そうか…。なぁ、ミコ。ユギカとナナを救出できる作戦は何かあるか?勝算はあるか?」
「はい。少し強引な作戦ですが、救出の為の作戦ならありますよ。」
すると、キララは申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。緑川がナナに向かってキライって言わなければ負担は増えなかったのに…」
「大丈夫だ。1人救出するのも2人救出するのもそう大して変わんないから。ナナもキララが迎えに来るのを待っているはずだ。だから、行こう」
「…はい!」
*
一方そのころ、ラーニレフ邸では…
「おい、何で庶民の女ごときが我について来ようなどと考えた?」
「きっと、ユギカちゃん1人だけだったら先生か部長があっという間に片づけて帰ってきちゃうかもしれなかったからね。でも、アタシが一緒になって来ることでキララとアヤカちゃんも来るだろうからね。アンタの一族なんかお仕舞いだね!」
「貴様…。それが庶民ごときのとっていい態度だとでも思っているのか!?」
「アンタだけには例外でとっていい態度だと思っているわ」
「何か我々の一族に恨みでもあるのか?」
「アンタらがいなければ、ママはあんな死に方しなかったのよ!」
「ほう。詳しく聞こうじゃないか」