第1話
俺たちが妨害に対抗しながらそこに長く続く一本道を歩き続けると、奥から光が差し込んでいた。
そこに辿りつくと、観客席からの歓声と熱気で満ちた部屋に出た。その中央にある金網フェンスの中の広いリングには屈強そうな魔人やらずる賢そうな冒険者が大勢いた。
すると、その中の1人がこっちに向かっていった。
「お前ら、第3雲母学園の賞金稼ぎ部か何かだろ?」
どうやら、俺たちに用があるらしい。俺が話そうとした時には既にミコが話しかけていた。
「私たちに何か用ですか?」
「主催者様が、お前らに賞金持ってかれてばっかなのが気に食わないらしくてさぁ、お前らを始末しろと仰せだ。だから俺たちでお前らを殺す。今まで自分たちがしてきたことを悔いながらむざむざと死に腐るといいさ」
「私たちはあなたたちのような外道には負けませんよ。返り討ちにしてみせます」
ミコの口から外道なんて言葉が出てきたのは意外だが、返り討ちなんて簡単に言っちゃっていいのか?
「外道だぁ?一応、こううやって地下闘技場で金網デスマッチなんかやってる時点で違法、しかも参加していいワケが学生のお前らが毎回のように賞金をかっさらって…。お前らの方がよっぽど外道だろ!?」
「いいえ、そういう話ではなくて、自分の気に食わないからって簡単に人を殺そうとするお前たちが外道だという話です」
「そうか。そこまで言うなら死ぬ覚悟ができてるってことだな?野郎ども、あのガキどもをとっちめろ!」
そしてその集団はこっちに向かって駆け出してきた。
「みんな、アイツらが私たちを殺すって言ってるんだから私たちも遠慮なく攻撃しましょう!」
「「「「はい!!!!」」」」
こうして、5人は突っ込んでくる敵の群れにひるむことなく立ち向かっていった。
ナナの拳、キララの長刀、アヤカの拳銃、ユギカの呪いの矢、ミコの角からの魔法(!?)は敵を徐々に戦闘不能にしていった。
それでも、敵の数は圧倒的故になかなか減らなかった。それに、もう4人はへとへとな様子だった。
「みんな、もう下がって。ここからは私が1人で片づけるから」
「待って!?それって部長が<大罪の権能>を使うってこと!?」
「大丈夫。今はあんまり感情も昂ってないしそこまで暴走はしないでしょうから。それに、もし私が暴走してもみんななら止められるでしょ、きっと」
「部長…」
「部長さん…」
そのままミコは振り向きもせず敵たちの待つ方へ歩いていった。
「ミコ!」
「せ、先生?どうかされました?」
「…無理はするなよ」
「…はい」
ミコは深呼吸をして、叫んだ。
「私は愛する仲間の為に、ここであなたたちを殺す!そして、賞金も頂いていくぞ」
「俺たちを殺しても賞金は出てこないぞ。それと、このままだと俺たちはただの主催者様の捨て駒になるが、それは悔しいからお前らに主催者様がいる本当の場所を教えておいてやる。きっと、お前らがお前らの部室に戻ったらいるだろうよ!」
「そうか。あなたたちにも事情があるみたいだが、本当に殺す必要はあったのか?」
「俺たちはお前らに殺されなくてもどうせ後で殺されるらしいからな。お前に殺された方が胸糞悪くねぇんだ」
「そうか。仲間たちも同じでいいな?」
敵の仲間たちからも同じような悲痛な叫びが上がり始めた。
「なら、一思いに逝かせてあげます。解放されよ、<大罪の権能>!!」
すると、ミコは両目の瞳が紅くなり、目つきが変わった。
「ーーーーーー!!!」
声にならない咆哮を上げたミコは、角から赤黒い雷を何十秒も放電させ、気づいた頃には敵は皆死んでしまっていた。
「先生、ちょっといいか?」
「どうした、ナナ」
「先生、あっち側の事情で死ななきゃいけないアイツらが可哀そうだとか思ってます?」
「それが?実際そうだろ」
「やっぱりそうですか。勘違いも甚だしいですよ」
「それどういうことだ?」
「一番可哀そう、一番辛いのは殺される側のアイツらじゃない。一番辛いのは部長。殺す必要がないなら救いたかったところを我慢して殺さなきゃいけないからこそ、記憶に残らないで済むように<大罪の権能>を使ったんです」
「…そうか」
「アタシ、最初に先生に向かってユーモアがないって言ったけど、こういうシリアスな展開の時はかえってこの方がよかったです」
ナナとそんな話をしていると、奥から男女1人ずつが出てきた。
「まさか、自分たちから殺されに行くとは思ってもみなかった。手の内は見せておくモンじゃないわね」
「チミ様、お下がりください。この者どもは我が片付けます」
「そぅ。お願いね」
そしてその巨体を持った男はミコの前に立ち塞がった。
「貴様、一角獣人族か。まあいい。回復する間も与えはしないぞ」
「ーーー!!」
「そうか、理性を失っているか。野生に帰りかけた獣など我が敵ではない」
そういうと男はミコに掴みかかろうとすると、ミコは背中に回り込んでその角を男にぶっ刺して放電した。
「…っ。まさか、そのような戦法を使ってくるとはな。まるで、本能の中に理性があるかのようだ」
そう呟くと、男はミコの頭を右手で掴んで持ち上げ、左手で殴り始めた。
男の服や床に血が飛び、ミコは激しく吐血し始めた。




