第3話
只今時刻は午後2時55分。昨日は遅刻ギリギリで来ていたナナ達も既に緊張の面持ちで席についていた。
「それでは、部活動を始めます。今日は、昨日決めた通り郊外の地下闘技場で行われる金網デスマッチに向けて作戦会議をします。まず、今回は賞金が普段に比べてかなり高いので受け付けまでの道のりでもいつもより多くの罠や妨害の人たちがいると思うので、本戦で戦う人1人と妨害や罠からその人を守る人4人に分けた方がいいと思いますが、どうしますか?」
「アタシはそれで賛成。でも、それだと自動的に本戦で戦うのは部長にならないか?」
「私はその方がいいと思うんです。私が守られている限り、皆さんが怪我をしても私が治療できるので」
「部長さん、今回のトーナメントでは<大罪の権能>は使っても大丈夫なんですか?」
「私もできればあれは使いたくないんですが、もしも使わざるを得ない状況になってしまった場合は使います」
<大罪の権能>?名前くらいは聞いたことがあるけど、それとミコに何の関係が?
「ミコ、<大罪の権能>って何だ?」
「<大罪の権能>というのは、『大罪の幻獣種』である傲慢の鷲獣人、憤怒の一角獣人、嫉妬の人魚族、怠惰の不死鳥、強欲の小鬼族、暴食の黄泉犬人、色欲の淫魔族が使えるそれぞれの大罪に関わった特別な能力のことです。例えば私は憤怒の能力が使えますが、使うと理性を失って敵対的な相手に本能のままに立ち向かうという能力らしいです」
「“らしい”?」
「はい。権能を使っている間は理性を失っているので記憶が無いんですよ。それで、かつて人を殺してしまったことがあるんです」
「そ、そうなのか」
「とりあえず、逸れた話を元に戻すんですが、私が本戦で戦い、受け付けまでの道での戦闘は皆さんがやるという振り分けでいいですね」
「部長がそれでいいならアタシは賛成だ」
「み、緑川もそれでいいと、思います」
「私もそれでいいと思うよ」
「うむ、余も賛同するぞ」
満場一致、か。俺は改めて、この部に俺が必要なのか考えたくなったのだった。
*
地平線を眺めても<雲母>の壁が少し見えるだけで殆ど一面が砂で覆われた広大な砂漠。そこに頑丈そうな小屋が1軒、ポツリと建っていた。
「本当にここから先は戦場なのか?」
「はい。信じがたいかもしれませんが、私たちは何回も来ているので間違いありません」
「みんな、準備は大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「はい、大丈夫です」
「うん、大丈夫なんじゃない?」
「うむ」
俺は思い切って号令をかけてみることにした。
「それじゃあ、第3雲母学園賞金稼ぎ部、ファイト、オー」
…。
無反応である。ミコに至っては目が点になるほどのキョトン顔をしていた。
「あの…、先生?そうやって大きい声を出すと妨害の人たちが来ちゃいますよ?」
「…あ」
「先生はおっちょこちょいさんですか?どうせ気付かれちゃったんですし、せっかくですからみんなでやりましょう」
ミコ…。俺、ミコがこの部の部長で本当によかった。…なんて心の中でじんわりきってしまった。
「そ、それじゃあいきますよ?だ、第3雲母学園賞金稼ぎ部、ふぁいと、おー!」
「「「「オー!!!!」」」」
そして俺たちは果敢にその中へ突っ込んでいった。
*
暗い。暗視メガネなんかがなかったら何も見えないところだった。ミコは後方待機みたいだが、他の4人はそれぞれ思い思いに妨害者を蹴散らしていた。
ナナは妨害者に殴りかかってボコし、キララ…緑川は普段の気弱そうな態度からは想像できない真剣な顔つきをして妨害者をニホントウとやらで切り付けていた。
アヤカは拳銃で妨害者の首や胸を確実に打ち抜き、ユギカは矢に呪いをかけてとばしていた。
戦い方は十人十色みたいだが、前衛後衛がしっかり分けられていてミコの布陣のよさがうかがえた。
*
気づいた頃には、前に立ちふさがる邪魔者は誰1人いなくなっていた。
「さて、そろそろ私の番ですか」
「ミコ、あんまり無理すんなよ」
「大丈夫ですよ先生。私、幻獣種なのでそこまでか弱くないですから」
「あと、できるだけ<大罪の権能>は使うなよ」
「わかってますよ。私だってむやみに人は殺したくないですから」
こうして、俺が顧問になって初めての勝負、金網デスマッチが今、開幕しようとしていた。




