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29.虚ろな飾り

昼休みを知らせるチャイムが響き渡り思い思いに過ごす生徒たちを横目に生徒会室に赴くとすでに生徒会の面々が揃っていた。


副会長の道之江拓人、ミクリア・エーヴァルトは自席に鎮座し、風紀委員長の遠野玲は上座に用意されたパイプ椅子に着座し、到着した志澄に鋭い眼光を三人が一斉に向けた。


「お早いご到着で」


「志澄!君の席はここだ。座り給え」


アリステラもすでに到着し、用意された席に座っていた。


志澄はその言葉を聞き、彼女の横に用意された席にあえてゆっくりと座した。


緊迫した室内で、異質な存在に感じさせた人物、生徒会長の四季朝貴は堂々と鎮座する。


笑みを絶やさず、どこか余裕な雰囲気を醸す。


「皆揃ったね。それでは始めるとしよう」


「一つよろしいでしょうか?」


「どうしたのかしら?北條志澄君」


「念のため確認したいのですが俺とアリステラが召集された理由を確認しておきたいのですが」


志澄はここに召集された理由はわかってはいたがあえて尋ねた。


「ふふふ。君の度量は計り知れないね。すでに知っているだろう?」


取り仕切っていた風紀委員会の遠野玲が含み笑いしてそう述べた。


「どうでしょうか?お互いの考えに相違があれば話す前に正しておきたいと感じたまでです」


飄々とその顔を崩さず、涼し気な語り口で取り図ろうとするが心中はこれ以上なくざわついていた。


「あまりふざけるなよ。ここまで大事になっていてとぼけようとしても意味がないことは君がよくわかっているだろう」


生徒会副会長の道之江は気が短く、語気を荒立て志澄の立ち振る舞いにいら立ちを露骨に見せた。


「とぼけてはいません。お話しする前に議題を明確にしておきましょう。先輩方」


「昨日、学園近郊の森林で我が校を標的としたテロを企てた人物たちが一斉に逮捕されました。ここでは彼らのことを率直にテロリストと呼ぶことにしましょう」


生徒会長の四季が突然、その口を開いた。生徒会室に来た当初と同様に楽し気な様子を窺わせながらその語り口はこの場をより張りつめるような口ぶりだった。


「テロリストたちは確認できているだけで数十名ほど潜伏しており、兵装したランドクラフトでこの学園に無差別テロを行う予定としておりました。しかし、彼らにとって想定外のことが起きた。我が校の生徒3名が彼らのアジトに忍び込み、警察へ通報したとの情報が学園側からの連絡で確認できました。その三名は北條志澄、アリステラ・エアルドレッド、そして一年三組、シア・ルアンです。ここまでで質問などはありますか?」


志澄は『ここでもヴィルヴァ・ラウティアイネンの存在は言及されない』と逡巡した。


「いえ、相違ありません。先日から行っている不審者目撃に伴う生徒の見回りの件について、自分が怪しげな人物を目撃したため、私が他2人を連れ、アジトと思われる廃工場に赴きました」


「テロリストのアジトまで先導したのは北條君ということで間違いないと?」


遠野玲は慎重に言葉を選びながら志澄に尋ねた。


「はい。間違いありません」


「君は不審者である人物がテロリストであるとわかっていたのかい」


「いいえ。ですが彼……を追いかける最中に、その可能性が確度が高まるモノや事象が多く確認できましたので彼らのアジトまで赴くこととしました」


「君はアジトまで行って何をするつもりだったんだい?不審者を見つけたなら、そこで学園側に相談するなりのことができただろうに……」


『ヴィヴィの存在が何者かに伏せられている以上、彼女について言及しない方がよい』という考えに帰着した。


「……私が見かけたテロリストの一人が我が校の清掃員のような、似て非なる格好をしていたので、まず彼が何者なのかを確定させてから学園側ないし生徒会に報告するつもりでいました」


「結果的に北條君は他二名の生徒を危険な目に合わせたわけね」


「生徒会長殿、私たちは危険な目など……」


「アリステラさん、あなたは高所から落ちて脳震盪を負ったと聞き及んでいます。一歩間違えればここにはいなかったことも考慮してください」


生徒会長然として、アリステラのフォローを払った格好だった。


「いずれにしろ、彼には何かしらの責任を負ってもらう必要があるかと考えます」


道之江副会長は淡々と志澄の行動に対して何かしらのペナルティを課す必要があると提議した。


「そうね……エーヴァルトさんはどう考えますか?」


四季はもう一人の副会長に彼の処遇を尋ねた。


「わ、私は……確かに一連の行為は危険を伴っていることは明白です。北條君の行動にはいささか蛮勇さを感じえません。ですが結果から見ればこれはテロを未然に防いだということも確かかと考えます。生徒会としては必要であれば注意など比較的軽度の処分が適当かと考えています」


「……最後に遠野風紀委員長のご意見を賜りたいわ」


「当初、任意の自警団を考えたのは風紀委員長の私だし、彼の行動については私も風紀委員会の責任者として何かしらの処分を負わなければならないかな。あくまで見舞回りを目的としていたところだけれど、その行動に明確な規範、ルールを設けたわけではないし、『学園や警察に任せる』といったことも守られていることも事実だ」


その言葉を聞き、道之江がやや顔を曇らせる。


「風紀委員会が発起して、学園の風紀を守ろうとして、その活動に無償で協力してくれた人物を処分した方がよいかと聞かれると、正直気が引けるところではあるんだよね」


「それに」と遠野が続ける。


「この問答に意味はあるのかい?四季会長」


両手を天に広げて、苦笑を浮かべる遠野。志澄とアリステラはその様子を見て、何を示唆しているのかわからなかった。


「ふふふ……ちょっと新人さんにお灸をすえる意味もあったのよ」


四季の言葉を聞いて副会長二人も何を意味しているのか理解できないでいた。


「か、会長、何を……」


「本件を管轄する警察署からすでにこの件に関して通報した3名に対して、感謝を表したい旨の連絡もあわせて学園側から伝えられているってこと」


四季はいたずらに微笑を浮かべ、道之江にウインクした。


「じゃあ……」


ミクリアはすでにこの件に関しての結末を予期した。


「警察からそういわれているのに、私たちが生徒に対して処分を下すのはお門違いじゃないかしら」


「しかし、北條はほか二名の生徒を危険に晒しました。これは列記とした事実です。この件に関しても不問とするのですか?」


道之江はあわてて、志澄の行動に対して再度、疑義を呈した。


「警察さんが褒めて、私たち生徒会がその行動を注意するっていうのも、ね?」


「もうすでに感謝状を授与したいので日程調整してほしい旨も伝わってきているんだろ?」


「ええ。ですので本件に関しては生徒会および風紀委員会からは公式に処分等は下さないことをここに報告します、ということで今日は集まってもらったってこと」


その言葉を聞いた道之江が呆れたような驚いたようなどっちつかずの表情を人知れず造る。


「それでは私たちは……」


「ただし」

生徒会長が傾聴させるように声を張る。


「四季朝貴としては今後このようなことがないように祈っていることをあえて言わしてもらうわね」


この上なく飾ったような笑顔を見せる。

その表情を見た志澄は対照的に真顔のままその言葉を頭の中にしまった。



「志澄、君は何かしたのか?」


生徒会室から解放された志澄とアリステラは自らの教室へと戻ろうとしていた。アリステラはあっさりとこの一件から解放され、不気味さを感じていた。


「何も。むしろアリステラのお父上様が何をしたのか気になるところだが」


「え!?な、なぜここで私の父が出てくるのだ?」


驚きのあまりコミカルな顔を志澄に見せる。


「先ほど来週のことについて君は言及していただろう。直々に俺の父さん経由で催し物に招待されたよ。昨日のうちに」


「そうなのだが……父上め、こちらの動きを……」


志澄はアリステラがとぼけているのか、ありのままなのかわからずにいた。


「24時間、見られているだろうな。俺も君も」


「志澄、君はこうなることを予期していたのか?」


「さすがにここまで手早いとは考えていなかったよ。それに君も手柄を立てたことだしもっと喜んだらどうだ?」


北條家の情報収集能力、手回しと処理の早さを幼少から知った上で志澄はアリステラを煽てた。

今度はムッとした表情を作るアリステラ。


「これは志澄が率先して挙げた手柄だ。付け加えるならシアもいなければ、こうもうまくは行かなかった。私は足を引っ張っただけだ」


すでにシアには別途、この件について志澄たちが召集されているタイミングで通達されているようで『彼も面白い人物のようね』と四季がいたずらに笑っていたことを思い出す。


「シアは驚いているだろうな」


歩きながら話していると彼らの教室がある階へとたどり着いた。


「また、放課後、自動車部で」


「ああ、シアによろしく」とアリステラが言うと二人は別れた。


志澄は遠ざかっていく彼女の背中を眺めながら多くを考えていた。


『どこから、誰が、どのように仕込んでいるのか……』


すべてが都合よく動いている。


アリステラの父バルト・アリステラ、北條志加瀬、四季生徒会長、㐂開学園……そもそもアリステラがあの日、志澄に声をかけなければこのようにはならなかった。シアに自動車部に勧誘されなければランドクラフトにさえ然程、興味を示さなかった。


『止揚の到達点』というヴィヴィの言葉を思い出す。


すべてが演出されたものなのか。すべからく偶然にして運ばれたのか。


想像しえない何かに足を踏み入れている感覚。


誰かの脚本で描かれた舞台で踊っている自分を想像しながら自らの教室へと志澄は歩き出す。

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