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2.決闘(デュエル)

放課後


「君は本気か?」


可能な限り声を殺した志澄だが、驚天動地と言わんばかりに目を見開いた。


「本気も本気。私がやると言ったらやる」


満面の笑みをこぼし、少年のまぶしさのようでありながら、年相応のかわいらしさが見るものを引き付ける。


アリステラは授業を受けていたこの数時間でその小さくまとまった頭脳でガンマ線バーストのようなに輝くひらめきを志澄に語った。


「お試し期間中の部活に入り、上級生に勝てるだけ勝つ」


「君はどうしようもないアホか稀代のアホかどちらかだな」と呆れるほかなかった。


「言ってくれるな志澄助手」とさわやかにくすくすと笑みをこぼす。


「誰が助手だ。雌雄を決するのはこれからだ。これだからお嬢様……」


「だってそうだろ。文系、理系、体育会系問わず、当たれるだけ当たって、勝ち星を多く上げた方が勝ち単純な決闘方法だ」


優れた身体能力を持つアリステラと頭脳明晰な志澄の勝負の落としどころとして、お互いの得意なジャンルを取り入れる勝負。決闘とは名ばかりのお遊びに対決を用いて勝敗を決めようと提案した。


「これが新興国の決闘(デュエル)というものなのか?」


呆れて物も言えない志澄。


「ふふふ」


「なんだ気色が悪い……」


「これが終わったら、君に私の母国の正式な決闘を教えてあげようではないか志澄男氏(ゆきずみだんし)


各部活へと向かう彼女は大きな歩みにステップを加えるアリステラはどこか楽し気に振舞った。


アリステラは余裕綽々(しゃくしゃく)に志澄に最初の競技の選択権を譲った。


㐂開学園の校内は広大で端から端まで移動するのに幾分か時間がかかる。先端の教育プログラムを取り入れたこの学園には様々な部活動が存在していた。


野球、サッカーなど人気のスポーツからボードゲーム部、科学部、ディベート部など多種多様な活動が存在していた。


志澄がまず選んだのは、ボードゲーム部であった。


部室棟に訪れた彼ら(特にアリステラ)は、躊躇も何もなくその門戸を叩いた。


「頼もうー!」と溌剌(はつらつ)とした好奇な声色とともに彼らの領域に足を踏み入れた。


部室に入った途端、数名の男子学生が驚きのあまり、最初は目を丸くし驚きを全面に見せていたが、すぐに「どなたですか」とすぐそばの部員が弱弱しく応答した。


「私は一年生のアリステラ・エアルドレッド!分け合って貴部の得意分野であるボードゲームで挑戦したい。あとついでにこの堅物そうな少年は北條志澄。彼がこの部活の道場破りを挑みたい」


志澄もボードゲーム部の部員と同様に礼儀もへったくれもない道場破りさながらの威勢の理解に追いつこうとしていた。だが彼女の貴族の末裔さながらの型破りな物言いに呆れていた。


「はぁ」といった面持ちで言葉には出さないものの、どこか納得したようなはっきりとはしない態度を見せた。


「事情はよくわからないが体験入部ってことでいいのかな」と部長らしき人物が声を振り絞り、彼女の大胆な言動にどうにか言葉を振り絞った。



「……と、投了です」

詰みを悟ったボードゲーム部員から弱弱しく、自らの敗北を宣言した。


「56手……やはり将棋は難しい……」

試合は決したにも関わらず、志澄は目を細くして盤上を眺める。


持ち時間は与えられていたが、誰に頼まれたでもなく早指しで盤上を序盤から優位に進めた。ぶっきらぼうな少年は自らの勝利の余韻もなく、今なお頭の中で感想戦を行っている。


「き、君!今度はチェスをやらないか」


別の部員がボードとチェスの駒一式をいつの間にか運んできていた。同じ部員が負けたにもかかわらず、どこか嬉々としてゲームをやりたいと言わんばかりに。その機微から感じ取れた。


「ええ、もちろんです。こちらが勝負してくれと頼んだんだ」


「それじゃあ早速」


志澄とチェス一式を運んできた部員は駒をそれぞれの位置に素早く置き始める。



「チェック」


「ぐ……ここまでです」


「ありがとうございました」


今度はあまり悩む姿を見せず、早々に対局に対する謝辞を述べた。


先ほどの対局よりは比較的ゆっくりと志澄は盤上を進めた。寡黙を守りながらも雄弁に駒で語っていた。


「君、もう一度、名前を教えてくれ」


「1年の北條志澄。先に自ら名前を名乗らず失礼しました」


負けたにも関わらず、チェスの対戦相手は爛々とその瞳を輝かせた。


「是非、うちの部に入らないか!こんなに強い相手にはそうそう出会えることはない」


「いや、誘いはありがたいですが……」


「他にもボードゲームはたくさんあるんだ。囲碁、オセロ、ちょっと毛色は違うけどカードゲームでブラックジャックやポーカーなんてのも」


「ちょっと待った!」

アリステラは唐突にストップの掛け声をかける。


「もう勝負は決しただろ!次の部活に行くぞ。志澄」


ほほを膨らませながら、機嫌を損ねたとその相貌が表していた。アリステラはすぐさま志澄の腕をつかみ、部室を後にした。


「あああ、北條君、いつでも待っているからなー」


ボードゲーム部の部員の声が遠ざかっていく。


「おい、もう少しいてもよかっただろ」


「志澄、君が放課後は時間がないなどと言っていただろうが。何、愉悦に浸っているんだ」


唇を尖らしながら先を急ぐ、彼女のシルクのような髪の毛が神主の振るうオオヌサのようにわさわさと揺れていた。


急いで部室を出たもののどこに行くかは決まっていなかったようで「次は運動部だな」と明朗に口から言葉が出た。


部室棟を後にすると今度は体育館へと歩みを進めていた。


「今度は何をするんだ?」


その言葉を聞いたアリステラはにやりと笑みを見せる。


「志澄、君は羽根つきをやったことがあるか?」


「え?」


志澄の言葉に聞く耳を持たず、そういうと体育館の中へと闊歩していく。


彼らの双眸には激しく動き回りテニスラケットよりも小ぶりなものを持ち、躍起だった生徒たちが声を出して練習をしているようだった。


「バドミントンか」


「ああ。これであれば私も白星を一つ重ねることができるだろう」


そういうときょろきょろと頭を動かし、何かを探しているようだった。


「頼もう!」


アリステラの一言は、館全体に広がり、一瞬にしてバドミントンへの研鑽にいそしんでいた部員の手を止めた。


「何か御用ですか?」


一番最初に声をかけてきたのは一番近くにいた女子だった。ショートカットでいかにも運動部学生然としたいで立ちの彼女は「はて?」と言わんばかりに顔を曇らせた。


二の句を告げさせず、アリステラはこう述べた。


「バドミントン部で一番強い人と勝負をしたい!」


そこにいた生徒たちはより疑問が深まったことだろう。なぜこのタイミングでしかもこのご時世に道場破りのような言い回しの女子生徒がここに現れたのかと。


「いきなりここへ来て失礼じゃない?」


対応した女子はすぐさま顔を曇らせる。「ごもっともだ」と志澄は小声でつぶやいた。


「失礼なのは百も承知で述べた。貴部と勝負がしたい。取り計らってくれると助かるのだが……」


「あなた一年生?普通に考えて、戦わせてくれって無理があるでしょ?」


語気と語調で拒絶の色に染めあげた上級生らしき女生徒は短くまとめていた髪の毛を体から発せられる蒸気でややふんわりと逆立ち始めた。


見かねた志澄がやむなしと横から口をはさむ。


「体験入部ということでどうでしょうか」


「そこまでして何がしたいの?」とすぐさま冷淡に言い放った。


「入学したての一年生が無理を承知でお願いしているところですが血気盛んな彼女は是非とも活動的なバトミントン部を拝見したいという勢いのみで乗り込んだのは失礼千万も極まったところ。この右も左もわからない彼女にぎゃふんとその辣腕でねじ伏せて、先輩方の腕前を披露してほしいのですが……一つ、手合わせだけでもいかがでしょうか?」


志澄が抑揚をつけながら、冷静に試合を取り付けようとする。


「おい、志澄。それはあまりにも……」と志澄の口上に似た言い回しが気に食わなかったのか彼に文句の一つでも言おうとしたが、キッとアリステラに一瞥をくれ制止の意思を示した。


「……仕方ない。いいわよ……だけど私がその手合わせの相手をするわ。早々にご退場していただきますけど」


そう言ったバトミントン部の女子生徒は壁際においてあったラケットを足早に持ってきた。


「さぁ、始めましょう。部活の時間は限られてるし、手短に終わらせましょう」

そう言ってアリステラにラケットをぶっきらぼうに手渡した。


「ゲームセット」


審判に入った別の生徒がそう告げると対戦相手の女生徒は膝から崩れ落ちた。


アリステラは女生徒には目もくれず、早々と志澄の方へと駆け寄る。


「どうだ!志澄!私の身体能力は!」


嬉々として一等星のような瞳を彼に向けた。


「お見それしたよ……だが、まずは対戦相手に礼をするべきじゃないかな」


志澄はアリステラが背にしたコートを指さした。


「これは失礼した」


再び、コートに戻ると「対戦、ありがとうございました!」と明朗に謝辞を述べ、深々と頭を下げた。


茫然自失となっていた女生徒が我に返り、むくっと立ち上がり声をかける。


「……あなた何者なの?」


「アリステラ・エアルドレッド。今日入学した1年生。どうぞよろしくお願いいたします。先輩殿」


本人は礼をわきまえた挨拶をしているつもりなのだろうが、客観的に見るとしっくりこない。そしてその様子は、騎士然とありたいというアリステラの在り方を志澄は感じた。




「志澄、次は君の番だぞ」


体育館を離れて、二人並んで歩いていると志澄はぶっきらぼうに語り始める。


「すまないが今日はもう時間だ」


「学外の活動とやらか?」


「ああ。この対決はまたいずれ」

そういって志澄は帰路に就こうとした。


「そうか……ではどうだろうか?明日、君の知りたがっていた我が国の決闘とやらをやってみないか?」

リフレイン。先ほどと同様に数歩、歩みを進めた志澄はアリステラの方へと振り向き替える。


「知りたがっていた……というのは君の先入観に基づく空論だろうが……実際に見てみたいのは事実だ。明日の放課後でいいだろうか?」


アリステラは不敵に笑う。

「もちろん。志澄男氏にしっかりと我が故国のデュエルを目に焼つけてあげようではないか!」


「まったく」


やや呆れた志澄はそういって学園を後にした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いいたします。

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