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8年ぶりの帰郷



◆8年ぶりの帰郷



 ボクが住む城ことアパートは家賃12万。2階の角、3LDKの間取り。

 主寝室、書斎、客間、居間。独立洗面台があり、バスルームとトイレは別。1人暮らしにしてはかなりの贅沢だ。ボクがこの世界に追放されて、戸籍を買って、王族気分が抜けないうちに契約したための、この無駄な広さ。

 戸籍を買い得たとしても、大きな契約するのは大変だし、問題が起きないかこわいし…………だから引越しはしていない。この城の家賃こそが、フリーター生活の魔王を貧乏暮らしに追いやっているんだ。

 日が傾いてきて薄暗くなってきた室内。

 秒針の音、蝉の声、隣に住むトリオの芸人がゲームで盛り上がる声が聞こえている。僕はテーブルに王冠を置き、ただじっと眺めていた。

「はぁ……」

 やおら立ち上がり、書斎の窓辺で育てている豆苗と大根の葉の水を換える。自家製ヨーグルトの発酵具合も確かめる。バイト先で出されるラッシーに必要なヨーグルトと同じ菌で育てているものだ。うん、もう少しかな。

 いや。いやいや、そんなことよりもだ。

 どうしたものか――――。

 重い足取りで歩いていって、客間の引き戸を開ける。

 勇者の死体がそこにあった。運び込んだ時と1ミリも変わらない位置に。

 状況を整理しよう。今日起こった事を。

 ボクはバイトを半日で上がった。気分良く歩いていると、ボクの本名を呼ぶ声が。声の主は前からボクのファンで、大好きだと言った。絹繭メル、という美女。そら恐ろしくなって、逃げた。逃げた先で勇者に襲われた。殺してしまった。勇者の死体は客間に隠した。イマココ……ってわけだ。

 警察、の2文字が当然浮かぶ。

 でもボクは戸籍を買っているし、そもそもこの世界の住人じゃない。それがバレたらどうなるんだろう。想像すると、小さい頃、「死」について考えた時に抱いた、果てない不安と焦燥が蘇ってきた。

 ボクは負の感情の嵐の中で、あの魔族の格好をした絹繭メルの姿を見た。

 現状、ボクを知るのは彼女しかいない。同じ世界出身なんだ。

 勇者だって、きっとそうだ。魔王の城が陥落して8年。きっと二つの世界は行き来可能になったんだ。そうだよ。きっとそうだ。

 ボクの中で、この問題を話せるのは彼女しかいないという気持ちになってきた。名刺を確認し直すと、チュイッターなどのSNSのアカウント名が載っていた。

 ボクはスマホでチュイッターのアカウントを開いた。

 この貧乏暮らしでもスマホは持っている。契約が切れてるから、ワイファイのある所でしか使えない。許可を取って、お隣の芸人さんたちの電波を拝借している。定期的に新作ネタを見せられて、忌憚のない意見を言うことが条件で。

 絹繭メルさんは、驚くべきことに連絡を入れると数秒で返信してきた。実は話したいことがあると、メッセージの流れでこちらの住所を告げると、15分もしないうちにやって来た。

「もしかしてあまりに早すぎてビックリした?」

 曰く、コスプレイヤーの仲間とイベント後の打ち上げを即抜け出して、タクシーでやってきたらしい。薄手のパーカーを羽織って、小さめのキャリーケースを引きずっていた。

「変なこと言うようだけど、アタシ、なんだかキミは只者じゃない気がしてたの。上手く言えないんだけどさ、なんだか『本物』って雰囲気を感じたんだ。他のみんなには悪いけど、どうしてもアナタのことが知りたくて来ちゃった」

「本物……ですか」

 そう。ボクは本物の魔族、王族、魔王だ。

 やっぱり同じ世界の出身だけある。よくお分かりで。

「メルさんは、魔族なんですよね?」

「うん? うん、そうそう」

 念のための問いに、彼女は軽い調子で答えた。

 やっぱりだ。ボクが情弱だから知らなかったけど、やっぱりあっちとこっちは通じているんだ。

 絹繭メルさんは好物を目の前に出されたワンちゃんみたいに目を輝かせ、次の展開を待っている。同じ魔族なら、きっと相談に乗ってくれるはず。

 ボクは客間に彼女を案内した。

「え…………?」絹繭メルさんはその場で固まった。

「勇者の方に襲われまして、返り討ちにしてしまったんです!」

「襲われた? 返り討ち……?」

 ボクは洗いざらい全て話した。ものすごい勢いでぶちまける。

「あなたの力を貸してください! それから、いま向こうの世界はどうなっているんですか? ボクの父、レームドフ亡き今、やっぱりゴートマが魔国を総べているんですか? 勇者たちはなぜ今更ボクを狙ってくるんですか?」

「オーケー、オーケー」絹繭メルさんは苦笑いした。「キミがすっごく聖剣神話を好きなのは分かった。コスプレも上手だし。でもコレはやり過ぎだよ。どうやって作ったの? よく出来てるね」

「聖剣神話? コスプレ? どういうことですか?」

 ボクの正体を知っていて、コスプレなんて有り得ない。

「聖剣神話のゲームキャラ、キルコのコスプレってことだよ。アタシは2の魔王キルコ。キミは無印のロリキルコ……の成長後のコスプレ。ねぇキミ、ここに1人で住んでるの? まさかね」

 彼女は倒れた勇者を探り始めた。

「リアルだなぁ。服飾品はもちろん、カラダはどうやって作ったの?」

「あわ……、あわわわ」なんだかとんでもない早とちりをしてしまったようである。

「えっ? コレって……」彼女は勇者のマントの裏側から、1つの小瓶を摘み出した。「もしかして、チュートリアルイベントで入手する回復アイテム、『おくすり』じゃないの? コレ……ううん、そんなことより」

 絹繭メルはボクに詰め寄ってきた。手にした小瓶には、「やべこ」と書いてある。

「なんでアタシのあだ名……、アタシが勇者につけた名前がここに書いてあるの!?」

 また、1から状況を整理する必要がありそうだ。

 その後、約20分間、自身が頼んだデリバリーが来るまで、絹繭メルさんは黙っていた。ピザを食み、缶ビールをすすって、「理解!」と膝を叩く。

「つまりキルコちゃんはファンタジーの世界から転移してきた異世界人。で、その異世界というのが、この現世で人気のゲーム、『聖剣神話』の1の世界そっくり。魔王側近のゴートマの裏切りにより勇者に魔国は落とされた。キルコちゃんは王位を継いだまま、こっちに追放。んで8年後の今日、なぜか勇者に命を狙われた、と」

 彼女は思案顔でピザとビールを口に運ぶ。「あっ、食べていいからね」とボクにもすすめながら、頭の角を……外した。その瞬間というのは、ボクからしたらかなりショッキングなシーンだった。

 角がとれた…………魔族じゃなかったんだ……。

「あの、人間の絹繭メルさんは、こんな非現実なお話を信じてくれるんですか?」

「信じるってか……んー、現に起きてる。起きてることを信じないのは現実逃避だしね。アタシの目の前には不思議なキミと、このリアル過ぎる勇者がいる。それにさ、例えばこれが漫画やゲームなら、いちいちそういうの描写したり、読んだり見たりすんのも飽き飽きじゃない? 『信じられない!』とかなんだと」

「ん? ん~~?」

 んー?

「そうだ、ねぇ! 第一話にありがちな女神には会った?」

「女神……。女神みたいに優しいお隣さんは前にいましたけど、ボクは追放されたわけで」

「そうかぁ」

 彼女は肩を落とした。表情がよく変わる、にぎやかな人だ。

「とにかく、アタシが信じているのは、信じていいからね。アタシはさ、何年か前におかしな経験してるの。怖い系の。心霊体験ってやつ。超常的なことはこの世にあると既に思い知らされてるわけさ」

 心霊…………。逆にそっちは絶対に信じたくない。

「あー、でも……ここに聖神が出来ればばなぁ……! ハードが無いしなぁ。異世界のこと何か分かるかもしれないのに」

「聖神って、さっきおっしゃってたゲームのことですか? ゲームはスマホのアプリしかやらないのでよく知りませんが、お隣さんがゲーム好きなので、一応聞いてみましょうか」

 そして、お隣にピンポン。

 中で騒いでいた声が止む。

 扉が開く。漏れた部屋の明かりに階段室が照らされ、多過ぎるビニール傘と設置型灰皿が宵闇に浮かび上がる。

「あ、瑠姫子(るきこ)ちゃん」「こんばんわ」「どうしたの?」

 仲良く3人並んで顔を覗かせた彼らは、「ルールおぶチーズカッターズ」という名前のトリオ芸人だ。

「ルキコ……?」絹繭メルさんが呟いて、ボクは「こっちの名前です」と囁いた。

「みなさん、急にごめんなさい。スーファミを貸してもらえませんか? あと、聖剣神話ってカセットも。ありますかね……?」

「スーファミ?」「聖神?」「あるよ、待ってな」上井君が部屋の奥へ引っ込んだ。

「ごめんなさいね。ところで何のゲームやってたんですか?」

 絹繭メルさんが2人にたずねた。面識がないからか、美人だからか、彼らは少々たじろいだ。

「バイオっす」「新しいやつを……って、アレ?」

 中口君が絹繭メルさんを遠慮がちに指差した。下田君が「あっ!」と声を上げる。

「絹繭メルさんじゃないですか! あの、おれ、今日の『聖剣神話の生みの親、山田と土井を偲ぶ会』のイベントで係員やってました。えっ、すげぇ、オフの絹繭メルだ……」

「そういうことならさ」上井君がゲーム機を持ってやってきた。「今度おれらのライブに来ることを条件にコレお貸しします」

「なるほど。分かった。今度見させてもらうよ」

「じゃあチケットを」中口君が紙切れにペンを走らせ、ボクらに1枚ずつくれた。

 ルールおぶチーズカッターズ ライブ入場券

 と、綺麗とは言えない字で書かれた紙切れ。

「瑠姫子ちゃん、またネタの審査たのむよ」下田君が言った。

「はい。ゲームありがとうございます」

 ボクの部屋に戻ると、絹繭メルさんは笑った。

「愉快な人たちが隣にいるんだね、羨ましいよ。……さてっと」

 彼女は慣れた手つきでうちのテレビに配線を繋いだ。

「コレであの勇者の正体が分かるかも」

 ゲーム機の電源、オン。

 こういうおっきなゲーム……アプリじゃないゲームをやるのは初めてでドキドキする。

「そうだ、キルコちゃん。聖神の魔王はさ、王の力を行使して、異空間を作ったり、真名を奪った相手を操ったりできるんだけどさ。こう、心臓をずぷりとやって、名前を盗るのよ」

「なんのことだか……」

「ふうん? そうなんだ。あら? なんか読み込まないなぁ」

 ゲーム機の調子が悪いらしい。カセットにフーッと息を吹きかける彼女に、ボクは聞いた。

「絹繭メルさんは、なんでコスプレを?」

「メルでいいよ。気軽に話して」

「あ、はい。じゃあメル…………はなんでコスプレを?」

「好きだから!」

 至極シンプルな理由だった。

 真っ黒だったテレビ画面に、ドット絵の世界が映し出される。

「アタシはありがたいことにコスプレイヤーとして人気出ちゃってね。でもキルコちゃんも、そのまま出たってバズりそうだよ。『我こそが魔王なり!』ってさ」

 明るく笑う彼女から、ボクは目を逸らした。

 末っ子の息子が魔王だなんて、そんなの実力もなにもない。ボクはただ、勇者たちに相手もされなかった弱者だ。

「キルコでいいよ。ボクなんて呼び捨ててくれていいんだ。それからボク……瑠姫子って女性の名前で暮らしてるけど、男なんだ」

 そう告げると、メルは目を丸くした。

「聖神1のキルコ男説は正しかったんだ……!」

 と、大興奮するメル。

 男説?

 というか、キルコは女性なの?

「もちろん、まさかキミが女子ではなかったことにも純粋に驚いてるけど」

「幸いなことに女の子っぽい顔だからよかったけど、それもいつまでもつか分からないんだけどね……」

 もうすぐ17だ。

 いつかバレてしまうんだろう。男なのに、女として生きていくのには限界がある。やれることの制限もたくさんある。

 もっと自由に生きたい。

「困ったらアタシに言ってね。できるだけ助けるからさ」

「…………ありがとう」

 もっと自由な世界に行きたい。

 それこそ、ゲームのような世界で。

「さっ、『つづきから』で聖神の世界を覗いてみるよー!」

 そう言うメルの声はなんだか遠かった。

「メル……?」

 ふと、眼前に広がる世界に息を呑んだ。

 故郷の景色だ。

 魔王城の周辺ではないけど、美しい草原と、大きな青空。たったそれだけの情報で、ここが故郷と地続きの世界なのだと理解した。頭で分かるより、肌が感じた。

「ここ……! ボクのいた世界だ! 空も、土も、風も、ボクが感じていた世界だ!」

 あまりの懐かしさに目頭が熱くなった。

『信じられない……! キルコが消えた! そして本来ならあり得ない、ノドの草原にキルコが立ってる! それにそこにいるのは『やべこ』じゃない?!』

 興奮したメルの声が頭上から響く。周りにメルはいない。

 でもボクの隣に勇者がいた。思わず身構えたけど、彼女から敵意は一切感じない。うやうやしくボクに一礼。

「キルコ様、先程は失礼いたしました。私は上で話している彼女の、言わばゲーム上の分身。やべこと申します」

『キルコ! 聞いてよ! 向こうの部屋に倒れてた勇者が消えてるの! 画面に映ってる、キルコの隣にいる勇者がもしかして……』

「メル、きこえる? ボクの隣に、やべこと名乗る勇者がいるんだ」

『聞こえてるし見えてる。ねぇ、そっちにリアクション芸人とか、魔道士とかの姿はない? こっちのメニュー画面では、パーティにいるはずなんだけど』

「芸人……?」ボクは辺りを見渡した。やべこの他には誰もいない。

「ここには私たちだけですよ。ここはゲームの世界とは、近くて遠い異世界なんです。メルさん、ひとまず画面上の私たちを見てください」

 やべこが空に向けて話した。

『すごい。これって心霊体験よりぶっ飛んだ現象じゃん』

「ゲームとは違う? 異世界ってどういうことですか?」ボクはやべこにたずねた。

「私の主はあなたです、キルコ様。気をつかう必要はないんですよ。私も、メルさんの分身ですから」

「主って?」

「あなたはその尻尾で私の心臓……つまりは真名を掴み取ったのです。魔王は真名を奪った相手を使役する力を持っています。神社でのことを思い出してください」

 心臓を貫いた相手と話すなんて、妙な感じだ。ふと自分の尻尾を見ると、やべこという文字が絡みついていた。そういえば血はついていない。

「あっ、その節は失礼しました」

「とんでもない。偽りの魔王のゴートマの隷属魔法はお粗末なものでして、長らく苦しんでいたところなのです。むしろお救いいただきありがとうございます。改めてこのやべこ、魔王キルコ・デ・ラ・ジィータク・シュタインに忠誠をお誓いいたします」

 ビキニ鎧の勇者がボクの前にひざまずく。

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。キルコ様、この世界について、僭越ながら説明させていただきますと――――」

 離れたところで突如、爆炎が上がった。

 牧歌的な雰囲気が一瞬で吹き飛ぶ。爆煙の中にいくつかの影が浮かび上がった。

「見つけましたよ、キルコ坊や」

 知っている声だ。ボクの記憶の中で最も憎いしゃがれ声。

「ゴートマ……さん」

 煙が晴れる。

 お父さん、前魔王のレームドフの側近だったゴートマが姿を現した。手下であろう人影を従えて。

「気晴らしに外の空気を吸いに出て正解でした。まさかこんなところでお目にかかれるとは」

 ゴブリン兵団からの叩き上げの、魔国の参謀。勇者を手引きした裏切り者。太くねじれた双角の被り物を頭に乗せている。深緑の肌を隠すように塗りたくった白粉は錆びた塗装みたいにところどころ剥がれていた。夜を薄く削いだようなマントと、絢爛豪華な衣装。息が苦しくなるような強い威圧感があった。

「お久しぶりですねぇ。実に8年ぶり。わざわざこっちにいらっしゃるなんて何故です? なんとも無知で、不用心で、無様ですねぇ」

「黙れ! 裏切り者め!」

 やべこが剣身に炎を宿して、電光石火のスピードでゴートマに斬りかかった。

 しかし、

「ワタクシからしたら貴方が裏切り者ですよ」

 ゴートマはフッと煙になった。彼はおろか、そばに控えていた手下たちも雲散霧消。

『キルコ! そいつらは本体じゃないんだ!』

 メルが興奮した声で言った。

 その時だ。一瞬、時が止まったようになって、視界も聴覚を途切れて、ボクは暗闇に包まれた。

 もしかしてあっちで何かが?!

 体が思うように動かない。顔が柔らかくて弾力があるものに埋まっている。

「大丈夫、キルコ!?」

 とメルに抱き起こされるまで、そこがメルの胸の中だと気がつかなかった。

「ゴメン! さっきアタシがゲーム機を蹴っちゃった拍子にコードが抜けかけてゲームがリセットされたの。たぶんそのせいでキルコが向こうの聖神世界から飛び出して来たみたい。どっか痛い? ヘーキ?」

「うん、大丈夫です。すいませんです」

 メルの濃い色香に目が回った。

 聖剣神話の世界から飛び出してきた衝撃もあるかもしれない。そばでやべこも転がっている。

 ざざざ――――と、テレビの画面が乱れた。背後で騒々しい笑い声がしたかと思うと、画面いっぱいにゴートマの顔が映し出された。彼は興奮冷めやらぬといった様子で、頬を引きつらせて話し出した。

『大方の場所は把握しましたよ、キルコ坊や。東京は下北沢周辺に貴方はいる。なぜならそちらにいる勇者からの定時連絡が途絶え、代わりに貴方の隣にその勇者がいる。もっと用心するんでしたね! これから下北沢に勇者たちを送りつけます!』

 部屋中にゴートマのしゃがれ声が響き、ボクの心は不安で満たされた。メルが舌打ちした。

「場所が分かったくらいでいい気にならないでくれる?」

『強がりを! 絶えぬ勇者の襲撃、魔物らの襲来、更には魔国の新幹部、闇黒三美神の猛襲にやられるのも時間の問題だと言うのに。クゥアーカッカッカッカッ……』

「ウザ。あれ、なんかアイツの声が小さく」

 メルが首を傾げた。

「音量下げちゃった。声おおきくて、こわかったから」

 ボクはリモコンを操作して、ゴートマの音声を更に小さくした。

『キルコ坊や! 必ずその王冠を奪っ……、ワタクシは王になる……』

 ムキになって声を張りあげるゴートマと、リモコンの「小」ボタンを押すボクとの地味なせめぎ合い。

 メルが大笑いした。

「大した魔王だね! うるさいから黙れってか」

「あはは、あはははははは……」

 激しい不安と、メルが笑ってくれる心強さが拮抗する。

『よくもコケにしてくれましたね! 8年前に逃してやった恩を――――』

 ぶちっと、電源ボタンを押してテレビを消した。ふっと静かになる。

「ゴートマを……どうにかしなきゃ」そう呟いていた。

「そうだね」

「あの、間違って巻き込んじゃってごめんなさい」

「いいんだよ。聖神の世界をアイツが乱してるんでしょ? そして大好きなキルコが狙われてるとなれば、アタシも闘わなきゃね。聖神はアタシの恩人だもん」

「キルコ様、私ももちろん闘いますよ」

「2人とも……ありがとう。…………うん! ゴートマを倒そう!」

 ゴートマ。勇者に寝返り、お父さんたちを犠牲にして、のし上がった悪いやつ。

 こわくてたまらないけど、本当の魔王が誰かって、分かってもらわないと。

「コレあげるよ。魔王さま」

 メルはウインクすると、王冠をボクの頭の上に乗せた。

 ニセモノなんだけど、ボクは父に肩をたたかれたような、そんな気持ちになった。


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