赤き翼☆フェザーマン(赤羽編)
☆1☆
「脱サラして亡くなった親父の金物屋を引き継いだけど、近所に大型スーパーが出来て閑古鳥が鳴くって、よくある話なのかな?ところで母さん、ものは相談なんだけど」
金物屋主人、列戸笛次、AFO48(アラフォー48歳)が上目遣いで妻を見る。
「ああ、もう!ナントカミクスはアテにならないし!今月も赤字経営で家計が苦しいのよ!いったい何の話なの!?」
年齢不詳、笛次の妻、笛子が旦那を睨む。
「俺の店が繁盛しないのはさ~。俺が悪いんじゃなくって、この、ショボい商店街のせいだと思うんだよね~」
「隣街に大型スーパーが出来て客を全部とられたんだから仕方ないでしょ!今さら何言ってるの?」
「だからさ~。俺、やろうと思うんだよね~。その、街おこしの…ヒーローを!」
笛子が目を見開き、
「はあっ!何言ってんの、あんた!? その年でヒーローって!? 頭おかしいんじゃないの!」
「俺は本気だよ、キリッ!/☆街おこしのヒーロー。いわゆる、ご当地ヒーローってやつ~? 最近はユルキャラに押され気味だけど」
ならユルキャラをやれ!
と言いかけ笛子は黙る。
どっちもみっともない事に変わりはない。
「ちょっと待って、今、変身してくるから」
「はあっ!変身って…!?」
隣の部屋でゴソゴソ着替え始める笛次。
「ちょっと、あなた…っ!」
「ジャ~ン。どうかな~。この衣装~、我ながら、似合ってると思うんだけど~。ちょっと、お腹がキツいのが玉に傷~♪」
笛次が太鼓腹をさする。
全身、赤いスーツに赤いマント。
赤いヘルメットの左右から黄色い角が突き出ている。
「名前も考えたんだ~。赤羽商店街を守る正義のヒーロー、その名も…、
赤き翼~フェザーマン!
決め台詞は、
飛ばない翼は…ただのニワトリだっ!
ってねっ!」
「ふざけんなあっ!」
「ぐぼべらあっっっ!」
笛次が軒先までぶっ飛んだ。
笛子のドロップキックが太鼓腹に決まったのだ。
☆2☆
得体の知れないオッサンが赤葉根駅周辺でヒーローショーをしている。
噂が広まるのは早い。
見物人に囲まれ、笛次は敵に見立てた黒人形を相手に悪戦苦闘、もとい、ヒーローショーを演じていた。
公演は、平日の夕方4時に1回。
土日祝祭日は、昼と夕の2回。
おおむね不評だ。
が、噂が噂を呼び、一時的には盛況だった。
例外的に子供には人気があった。
親は子供の将来を心配して見せようとしないが。
「笛美っ! 笛美じゃないか! 待って待って~っ! 何で逃げんの~っ! パパの勇姿を見ていきなよ~! 語ってよ~! お友達に紹介してよ~!」
「バッカじゃないのっ! 声かけないでよっ! パパなんかもうパパじゃない! 学校でみんな何て言ってるか知ってるの!? ヘンヒロよヘンヒロ! 変なヒーローでヘンヒロ! もう学校行けない! 恥ずかしくって友達にも顔合わせらんない!」
「おかしいな~。お兄ちゃんはすっごい応援してくれてたんだけどな~」
「お兄ちゃんは高校生だから! 学校まで噂が伝わらないのよ! だけど、あたしは地元の小学校だから! 噂直撃だよ! ど真ん中だよ! すでに意地悪なイジメっ娘のマノテが迫ってるよ! セツジツな問題だよ!」
「お母さんも喜んでいたけどな~」
「喜んでないよ! 大反対だよ! もう諦めて放置してんだよ! とにかく、コンリンザイあたしに声かけないで! 恥ずかしいから!」
笛次の娘、小学6年生の笛美がダッシュで逃げた。
「これが噂に聞く反抗期ってやつか~。親の心、子知らずだな~。アハハ~」
☆3☆
「ぼくはいいと思うけどな~。なんだっけ? 焼き豚~トンファーマン…だっけ?」
「「「赤き翼~フェザーマン!」」」
「それそれ。夢があっていいと思うけどな~。学校の帰りに一度だけ見たことがあるけど、子供にすっごい人気があったし。続けたほうがいいと思うな~」
列戸家・緊急・家族会議に出席した笛男が真っ先に口火を切った。
長男で虹祭高校1年生。
「笛男! お前もそう思うか! 思うよな~。男だったら誰だって、一度はヒーローになってみたいよな~。よし笛男!お前も父さんと一緒にヒーローショーに出演しよう!」
「それは嫌かな~」
冷めた反応だった。
「高校生にもなってそれはないっしょ~」
「しょうがない! しばらくは父さん一人で頑張るか!」
笛次は前向きだ。
「だいたい、パパは非常識すぎるのよ! その年でフェザーマンって…体型からして無理があるのよデブなヒーローなんてありえない!」
笛美は容赦無い。
「パパも少しはダイエットするかな~? でもさ~、フトレンジャーって、意外と人気あったよね~」
笛次は現実逃避した。
「やっぱりドロップキックしかないわね」
笛子が立ち上がった。
「待って! 待って! 笛子さん! 秘密統制法じゃあるまいし! 力づくで表現の自由を奪うなんて! 君の嫌いな自公党と一緒だよ!」
笛次の家庭はカカア天下だ。
「むう。仕方ないわね」
笛子動かず!
不毛な家族会議は終わった。
☆4☆
「ケンちゃん! ケンちゃんじゃないか! ちょっと待ってよ! 逃げないでよケンちゃん! クリーニングを一つ頼みたいんだよ!」
ドテドテと足を踏み鳴らし、お腹をブルンブルン震わせながら、笛次がクリーニングの配送車に走りよる。
「あ~、笛くん。いや~、全然、気づかなかったな~。悪い悪い」
嘘だった。
道行く人が全員、振り返るほど笛次のヒーロー姿は目立っていた。
「ところで、どうなの最近?元気だった?」
配送中に駅前を行き来するたびに駅前でヒーローショーをちょくちょく見かけるので笛次が無駄に元気な事は知っていた。
「その真っ赤なヒーローの衣装からすると、絶好調みたいだね!」
笛次の顔が沈む。
「う~ん。それがさ~、そうでもないんだよね~。俺さ~、最近、駅前で街おこしの、ご当地ヒーローってやつを始めたんだけど、赤き翼~フェザーマンっていうんだけど、一週間もすると客がみんないなくなっちゃってさ~。初めは、あんなに客がいたのにな~。人間って飽きっぽい生き物だな~って、つくづく感じちゃうよ。実を言うと俺も飽きちゃったんだよね~」
自分の飽きっぽさは棚上げである。
「だから、いよいよ、明日は最後の公演にしようと思うんだ。グランドフィナーレってやつ!」
笛次がケンに向き直り、
「それでさ~、家にあるヒーローの衣装10着を、もう使わないと思うから、クリーニングに出そうと思うんだよね~、ケンちゃん、ちょっと家までいって回収してくれない?」
「ああ、まかしてくれ! 回収して、綺麗にクリーニングして、あとは倉庫にしまって大切に保管してよ!」
二度と取り出さないでくれ。
とは言わない。
「でもさ~。俺のやった事って、街おこしのために、何か役に立ったのかな~?」
「そりゃ役に立ったさ! 俺の店にもフェルトペンマンに関する問い合わせが殺到したんだぜ!」
変なヒーローに関する苦情の問い合わせが!
「そっか、それは良かった。でもフェルトペンマンじゃなくて、フェザーマンだからね!」
「そうか、やめるなんて残念だな~。フェザーマン!」
ケンが嬉しそうに言った。
☆5☆
「ヒーローの衣装をクリーニングに出す? 本当に、そう言ったの?」
思わず笛子が聞き返す。
ケンが嬉しそうに、
「クリーニングが終わったら、この衣装はもう使わないから、永遠にしまってくれ。と、そう言ってました」
「意外とあっさりしたものね。しぶとく続けるかと思ったけど」
「近所でも評判でしたからね~。うちの店なんか、あのヒーローは何だ!? って怒鳴り込まれ…お客さんが殺到しましたよ。その…いい意味で!」
歯切れが悪い。
「そう…それで、いつやめるって言ったの?」
「明日じゃなかったかな? 悪の手先、黒ドールーとの最終決戦やーっ! って、最終回のタイトルを叫んでましたから。残念ですが…ぼくは忙しくって見に行けません!」
ケンが言い切った。
「意外と街おこしの話題になってたんですけどね~」
悪い意味で。
「本当に残念だな~。アハッ☆」
晴れやかな笑顔だ。
「そうよね。お客さん、いっぱい来てたもんね」
「まあ、最初だけですけどね」
「子供も喜んでたわ」
「教育上よくないって、親が見せませんでしたよね」
「それに…結構、格好良かったわ!」
「え~と………」
返す言葉がなかった。
☆6☆
〈赤き翼~フェザーマン・最終回~悪の手先、黒ドールーとの最終決戦やーっ!〉
は閑古鳥が鳴いていた。
道行く人々は足早に通り過ぎ、子供が好奇心を持たないよう、親はしっかり監視。
そんな冷めた空気のなか、笛次=フェザーマンの激闘が続いた。
ボロボロの黒っぽい人形のような物体を相手に、
「はあああああっっっちょあああああっ!フェザーマン必殺ぅううう!幻影☆羽☆手裏剣☆パーンチッッ!」
人形を空に放り投げ、落ちてきた所にすかさず手刀を叩き込む。
ポス、ポス、ポス。
情けない音を立て人形が地に落ちる。
「ハアッ、ハアッ。やった! ついに悪の手先、黒ドールーを…この手で倒したぞ! チャ~♪ララァ~ラ♪ララァ~ララ~♪」
鼻歌のBGMで感動の最終回を盛り上げる。
「これで…この赤葉根商店街にも平和が戻った! ありがとう! みんな! ありがとう!」
子供がフェザーマン・コールするが母親がメッと叱った。
「みんなが力を貸してくれたおかげだ! では、いつの日か、また会おう! 赤葉根商店街に危機が迫る時、赤き翼~フェザーマンはいつでもあらわれる!」 赤いマントをひるがえし立ち去ろうとする笛次に、
「フッフッフッフッ」
いかにも悪者っぽい笑い声が響く。
「な!何だ!?この笑い声は!?」
想定外の事態に驚きながらも、笛次はヒーローっぽく対応した。
「ハーッハッハ! とうっ!」
笛次の前に全身をフードでおおった謎の怪人物があらわれた。
「な、なにものだぁっ! きさまぁっ?」
「この世に正義のある限り! 悪の怒りが私を呼ぶ! 悪の女幹部、破裏猫ママニャー! ここに、推参っ!」
ママニャーがフードを脱ぎ捨てた。
露出度の高い黒皮ボンテージに猫耳マスク。
ムチを構える姿は女王様だ。
「笛子!? 何やってんだ!? 赤葉根・阿呆祭りで使った仮装大会の衣装なんか着て!? 気でも狂ったか!?」
「あなたに言われたくないわ! もとい!私は笛子じゃなぁーいっ! 悪の女幹部、破裏猫ママニャーよっ! 私があらわれたからには、フェザーマン! お前の戦いはまだまだ続くのだ!」
「えっ! それって?どういう事!? フェザーマンは今日で最終回なんだけど…お前、反対してなかったっけ?」
「パパのせいでママまでおかしくなっちゃったのよ! カ~ニ~!」
「カ~ニ~って! 笛美!? 何で学芸会〈思い出のカ~ニ~〉の衣装を着てるんだ!?」
フリフリのロリファッションに巨大なフカフカハサミ。
異様な衣装だった。
「笛美ってゆーな! 今は怪少女カ~ニ~! なのよ! 全部パパのせいなんだからね!」
「まあまあ、笛美…もとい、カ~ニ~。そのかわり母さんがお小遣いを増やすって言ったじゃないか」
「って笛男! 何でホストの格好してんの! それに、何でオモチャのハサミを持ってんの?」
「これを見なよ。頭の後ろにエビの尾っぽ型のアクセサリーが付いてるでしょ。だから、ぼくは今、怪少年エ~ビ~…なんだよ。トウッ!エビハサミ攻撃~っ!」
「なぁに~っ! 不意討ちとは卑怯な!」
が、笛男の攻撃はスローすぎて、笛次でも簡単によけることが出来た。
笛子=ママニャーがカ~ニ~をけしかける。
「さあっ! カ~ニ~! パパを…もといフェザーマンを攻撃するのよ!」
「ダルいけど仕方ないカ~ニ~。やるカ~ニ~」
やる気のないカ~ニ~のハサミをヒラリヒラリとかわす笛次。
気が付くとまわりにギャラリーの山が出来あがっていた。
やる気になった笛次が、お腹を揺らしながら笛子、笛男、笛美を相手に大立ち回りを演じた。
☆7☆
その後、赤葉根商店街の街おこし、赤き翼~フェザーマンが成功したのか?
それは賢明なる読者のご想像におまかせしよう。
ただ、これだけは書き記しておきたい。
AFO48、アラフォー48歳のオッサンでも、やる気を出せば、意外と、なんとかなる?
かもしれない。
☆完☆