初見の驚きって大切だよね
「これが本当のミスリル鉱石(極大)だ。そんな棒状のモノではなく、な」
『………………』
俺の言葉に誰も答えてくれない。
それほどまでに、取り出したミスリル鉱石(極大)の衝撃が大きかったようだ。
誰もが釘付けである。
こっち側も。
……なんか、すみません。
事前に言うと印象が薄れるかな……とか、急いでいたからそんな余裕がなかった……とか、そこら辺を理由として受け入れてもらえないだろうか?
最初に我に返ったのは、王さま。
「ふっ……はっはっはっはっはっ! なんと見事なミスリル鉱石よ! 確かに、それこそ極大であると見せられれば、先に出されたモノを極大とは言えんな。余が望むモノはそれだ、としか言えん」
「なっ! お待ちください、王よ! あのような大きさのモノがこれまで見つかった事例は一切ありません! その者が難を逃れるために我らを謀ろうと浅知恵を働かせたのです! 安易な偽物に決まっております!」
なんとか伯爵の言葉に、アブさんが怒り心頭である。
自分の用意したモノが偽物扱いされたのだが許せないようだ。
こいつ、マジ殺す……殺していいよね? と俺に合図を送ってきたので、駄目だ、と小さく首を横に振る。
少なくとも、大衆の目がある今は駄目だ。
「だったら、偽物かどうか好きに調べればいい。まあ、これを偽物なんて言うあんたに、真偽を見極めるだけの審美眼が備わっているとは思えないけど」
嫌味というか、事実を言ったつもりである。
なんとか伯爵から怒りの視線を向けられる中、王さまが指示を出してこの場で調べられ、本物であることが証明される。
終わる頃には、こちら側も平静に戻っていた――というか、あとで説明を頼む、という目で追及された。
「「なっ!」」
本物だと証明されて、なんとか伯爵とギルドマスターが同時に驚きの声を上げ、これは不味いと焦りの表情を浮かべる。
何しろ、王さまの関心は完全にこちらに向けられているからな。
「爆弓」は、こりゃもう駄目だ、と肩をすくめていた。
良くも悪くも冒険者、といった態度だ。
まあ、あとでしこたま魔法を撃ってやるという意思に変わりはないが。
「それで、状況を踏まえると、余に味方になって欲しいようだが、それだけの品だ。他にも望みがあるのだろう? 言ってみろ」
王さまが不敵な笑みを浮かべてそう言う。
やっぱり、この状況を楽しんでいるかのように見える。
俺が何かを言う前に、ギルドマスターが動いた。
「し、失礼ながら、陛下! あれは正当な手段で持ち込まれたモノではありません!まずは冒険者ギルドの方で」
「は? 冒険者ギルドは関係ないだろ」
なんか変なことを言い出しそうなので、先に牽制する。
ギルドマスターは、俺を睨みながら反論する。
この状況でよくそんな表情が向けられるモノだ。
「馬鹿が。わからないようだから教えてやる、ミスリル鉱石(極大)の依頼を受けたのは冒険者ギルドなのだ。だから、正規の手順に則って、まずは冒険者ギルドに提出するのが」
「まあ、それは俺が冒険者だったら通用したかもな。でも、もう俺は冒険者ではない。図らずも、あんたのせいでな」
「あっ、いや、それは」
「それに、今の俺は商人だ。どうしてもどこかに提出するのであれば、俺は商業ギルドに提出する。ねえ、シャッツさん」
チラリ、とシャッツさんに視線を向ければ、シャッツさんはニコリと笑みを浮かべる。
「そうですね。こうして実物もある訳ですし、依頼の方は陛下から商業ギルドの方に出していただければ済む話ですから」
そう言って、シャッツさんはギルドマスターに向けて一礼する。
「ありがとうございます。あなたが見る目のない無能なおかげで、こうして非常に優秀な方を商業ギルドに招くことができました。この方は他にも上質な素材を色々と提出してくれましたし、非常に助かっています。これもあなたのおかげですので、感謝の言葉を送られていただきました。ああ、気付いているかどうかわかりませんが、もちろん皮肉ですよ」
これまでの鬱憤を晴らすかのように、シャッツさんは饒舌に語る。
いい笑顔付きで。
「冒険者ギルド、副マスターとしては、これだけ優秀な者が冒険者ではない、なくなってしまったというのは非常に痛手で残念で他ならない。冒険者ギルドは、とあるギルドマスターのおかげで、大きな損失を起こしてしまったようだ」
リユウさんも、ここぞとばかりに追従する。
騒然となるこの場において、二人はここが決め時だと口々にギルドマスターのこれまでの行いを、確証はないがこういうことをしていた疑いが……という感じで語り出す。
ギルドマスターも否定するが、発言力は先ほどまでと違って非常に弱い。
完全に立場が逆転している。
それに、ここで虚偽なら問題かもしれないが、二人のことだから、証拠はないが間違いないというモノを口にしているだろう。
あとで調べられても問題ないように。
いいぞ。もっと言ってやれ。
「……どうやら、色々と精査しなければいけないことがあるようだな」
そんな王さまの言葉がとどめとなり、ギルドマスターは崩れ落ちる。
ただ、諦めていない者も居た。
なんとか伯爵だ。
「王よ! そのような者たちの言葉に惑わされては」
「エフアト伯爵。お前は余が騙されていると? 騙されるような愚か者に見えると言いたいのか?」
「い、いえ、そのようなことは」
「それに、どうやら気付いておらんようだが、お前は余の身よりも、自分の身を案じた方がいいのではないか?」
「それは、どういう」
「商業ギルドの重鎮であるシャッツに、冒険者ギルドの副マスターが、冒険者ギルドのギルドマスターを悪し様を口にしているのだ。真偽は確かめねばならん。もし事実であるならば、余はこの国の王として、ギルドマスターにはそれ相応の責任を取ってもらうつもりだ。当然、その責はギルドマスターを推した者にも少なからず及ぶだろう。さて、そういえば、誰がこの者をギルドマスターに推したのだったかな?」
「そ、いえ……」
なんとか伯爵は何も言えなくなった。
そして、王さまが俺を見る。
「さて、話の途中であったが、他にも何かあるのなら言ってみろ」
「いえ、特には――」
ない、と言おうとしたが、その前にアブさんがこちらに身を寄せてきて、こっそり耳打ち。
……あまり気持ちのいいモノではないので、あとで別の方法を模索しよう。
「それでしたら、一つだけ。個人的な相談がありまして、余人を交えずに話すことは可能でしょうか?」
一礼しながら、そうお願いしてみる。




