無意識で答えてしまう時もある
「煌々明媚」、シャッツさん、リユウさんと共に王城に向かう。
アブさんも付いてきているが静かなモノだ。
外に出た訳だし、もっとはしゃぐかと思ってたのだが、今は外に出たという感慨と、目に映るすべての光景に心奪われ、何を口にすればいいのかわからないのかもしれない。
うるさくなるのは、もう少し落ち着いてからになるだろう。
その時を覚悟しつつ、先頭を走るリユウさんに付いていく、
リユウさんは大丈夫と言っていたが、本当に大丈夫だろうか?
………………。
………………。
そんな風に思っていた時期が俺にもあった。
全然大丈夫だった。
というより、思っていたよりも冒険者ギルド・副ギルドマスターという肩書きは、権力的に強いのかもしれない。
少なくとも、兵士、騎士ではとめられない。
ここが冒険者の国と呼ばれているだけのことはある、ということか。
それに、普通は武器や持ち物を預かるだろうが、それらも拒否できた。
といっても、これは元々そうらしい。
何かできるモノならやってみせろ、と強気な態度を示しているそうだ。
そして、あっという間に、両脇に屈強な兵士が立っている大きな扉の前に到達する。
折角の他国の城なのに、じっくりと中を見ることができなかったことだけは残念だ。
「この先が謁見の間。今、報告が行われている場所だが……本当に行くのだな?」
リユウさんが確認してくるので、頷きを返す。
「大丈夫。信じて、というのは都合が良過ぎるかもしれないが、少なくとも現状を変えることはできる。それもとびっきりのな」
「……わかった。どうせ、ここで何かしらの手を打たねば終わりで、今私たちの方で打てる手はない。アルムに頼らせてもらう」
両脇の兵士に緊急だと告げて、リユウさんが扉を開き、全員で中へ。
急遽始まった謁見なはずなのに、中には思いのほか人が多い。
室内の左右に多くの人が並んでいる。
ふかふかの豪華な絨毯の先は数段高くなっている場所があり、そこに玉座が置かれ、鎮座している者が居た。
赤い髪に精悍な顔立ちの、三十代後半くらいの男性。
仕立ての良さそうな衣服を身に纏っているが、それでも鍛えられた体格は隠せず、威風堂々とした雰囲気が醸し出されている。
明らかに、戦闘職、それも前衛に向いていそうな人物だ。
この人物が、この国――冒険者の国・トゥーラの王さまか。
そして――。
「――という訳でして、この『爆弓』が見事に依頼を達成し、こうしてミスリル鉱石(極大)をお届けに来た次第なのです! 冒険者ギルド、そしてギルドマスターとして、こうしてこの場に立ち会えたことは、何よりも誉れ――」
ギルドマスターが入口から玉座までの中間地点付近で、演説でもしているかのように高らかに声を張り上げていた。
その横にはムカツク野郎――今言われていた「爆弓」が片膝を付いている。
ただ、ギルドマスターは途中で気付いた。
周囲の視線が乱入者である俺たち――自身の後方に向けられていることに。
ギルドマスターが後方を確認すると俺たちと目が合い――にやり、とこちらを蔑みつつ、どこか勝ち誇るような笑みを浮かべる。
まるで、いいタイミングで現れた、と言わんばかりだ。
「そう! 彼らこそ、先ほど説明した邪魔者たちでございます! 彼らが邪魔さえしなければ、このミスリル鉱石(極大)はもっと早くに手に入れていたのは間違いありません!」
どうやら、完全にこちらを悪者にしたい――仕立て上げるつもりのようだ。
このまま魔法の一つでもお見舞いしてやろうか、と思ったが、その前に「煌々明媚」、シャッツさん、リユウさんが片膝を付いたのに、俺も慌てて片膝を付いて頭を下げる。
「……面倒なやり取りはもういい。省く。確か、そちらは冒険者ギルドの副ギルドマスターであったな。率直に答えよ」
王さまの渋い声がこちらに向けられている。
やり取りが省かれたので、片膝は付いたままだが頭を上げる。
「先ほどからの退屈なギルドマスターの話によると、お前たちがミスリル鉱石(極大)を掘り返す邪魔をしていた、とうことらしいが、それに相違はないか? それとも、何か申し開きたいことがあるのなら、遠慮なく申してみよ」
「はっ! それに関しては事実無根であり、むしろ邪魔してきたのはギルドマスターの方なのです」
「騙されてはいけません! この副ギルドマスターは常日頃私の地位――ギルドマスターの座を狙っているのです! こうしてこの場に現れたのも、私の足を引っ張ることを目的にしているに違いありません!」
「いえ、私にそのような意図はありません。それに、足を引っ張るというのであれば、それはギルドマスターの方であり――」
リユウさんとギルドマスターが舌戦を繰り広げる。
ただ、俺はそれに集中できなかった。
何しろ、アブさんが見えているのはこの場で俺だけ。
そのアブさんが謁見の間の中を珍しそうに飛び回って物色したり、王さまを上から下まで頷きながら見て、周囲に居る人たちの中で頭髪がない人を見て仲間と自分の頭を触って俺に見せてきたりと、それこそ好き勝手しているので、そっちに意識が持っていかれてしまう。
また、途中でギルドマスターと「爆弓」を見て、こいつら、即死っていい? と身振り手振りで伝えてくるので、今は駄目だと小さく首を振る。
だから、正直言って無意識の反応なのだ。
「王よ。真偽がどうであろうとも、現にミスリル鉱石(極大)を手にしているのはギルドマスターの方なのです。ギルドマスターの方が優秀なのは、目に見えて明らかではありませんか?」
「本当にそう見えるのなら、それはお前の目が腐っているからだ」
誰の言葉に反応したのかはわからないが、思わずそう言い返してしまう。
場が静かになり、王さまが吹いた。




