計画的に進めると物事は早く進む
未だこの場に居る多くの者が放心状態だが、ジーナさんとは話ができそうなので、事情を窺う。
「ジーナさん。これは」
「助けてくれたこと、助かったことには感謝するが、いくらなんでもアレはないと思わないか?」
「そうだな。俺もそう思う」
勢いで乗り切ろうとしたが、出鼻を挫かれたのは事実。
しかし、誓って言えるのは、わざとではないのだ。
慣れた頃が危険、ミスしやすい……ということだな。
なので、わざとではない、ということは汲み取って欲しい。
狙って焼死させようとした訳ではない。
「まあいい。今回だけではなく、私は巨大ロックワームからも助けられたのだ。ありがとう。こうして生きているのは、間違いなくアルムのおかげだ」
そう真っ直ぐに感謝されると、今は罪悪感がちょっと。
ミスって……申し訳ない。
なので、気にせずに、と伝えて本題に入る。
「それで、今はどういう状況なんだ? そいつらは?」
「煌々明媚」以外の冒険者たちを指し示しながら言う。
どっかで見た……ような気がしないでもない。
ジーナさんは、悔しそうな、それでいて申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「すまない……ミスリル鉱石(極大)は『爆弓』に奪われてしまった」
「ああ……なるほど」
それは問題ない。
寧ろ、奪われたのが全然極大とは思えないようなのを手に入れている。
「それで、彼らは?」
「……情けない話だが、キミの安否の確認と、奪われたミスリル鉱石(極大)を追うのとで迷い、次に取る行動を躊躇ってしまってな、その隙を『爆弓』が突くように彼らを残し、付いて来れる者たちだけで脱出を始めたのだ」
「要は、とかげのしっぽ切りみたいなモノか」
「それもあるだろうが、彼らに地下四階を自力で抜け出す力はなく、そうとわかれば私たちも見捨てておけない――というところまで考えていたんだろうな」
「自分たちの脱出速度を上げるのと同時に、あとを追ってくるかもしれない『煌々明媚』の足止めを狙った訳か」
「ああ。それに上手く嵌ってしまった訳だ。今から『爆弓』を追っても……もう遅いだろう」
チラリ、と空中で漂っているアブさんに視線を向ける。
アブさんは首を横に振っていた。
居ないということは、もう脱出したあとか。
行動が早い。
さすがはAランクということか。
でもまあ、状況はわかった。
それに、もうここでやることはない。
なので――。
「それじゃあ、まずは脱出しますか」
「いや、しかし、ミスリル鉱石(極大)が……出遅れてしまったのは仕方ない。だが、彼らを地下三階まで送ったあとに戻って」
「ああ、それはもう大丈夫になった」
「大丈夫に、なった?」
わからない、と首を傾げるジーナさん。
ここで見せてもいいが、こういうのは見せ時というのがある。
このあと、相手が取る行動を考えれば……今ではない。
それに、今は「煌々明媚」以外も居るし、情報がどこから漏れるかわからない以上、本当の極大の存在は見せ時まで極秘にすべきだ。
話の内容を聞いていたアブさんも、口に人差し指を当てて、しー……とやっている。
その姿が少しお茶目に……見えないな。
「まあまあ、今は無事に脱出することだけを考えて」
今の状況、状態では継続も難しいとジーナさんも判断して、一旦地上に戻った。
―――
地上に戻ると同時に相手側の動向を確認しようと思ったが、その必要はなくなった。
ダンジョンから出ると、色々とお世話になった商人・シャッツさんと、冒険者ギルド・副ギルドマスターであるリユウさんが俺たちを待ち構えていたのだ。
外まで連れてきた冒険者たちが俺たちに感謝の言葉を告げて去ったあとに、二人から話を聞く。
どうやら、思っていた以上に話は進んでいた。
というのも、リユウさんの話によると、「爆弓」がミスリル鉱石(極大)を手に入れたと冒険者ギルドで報告したあと、直ぐにクソ野郎と共に既に王城へと納品に向かったそうだ。
そのまま王さまにお目通りもする予定である、と。
思ったよりも話が早く進んでいるのは、元々手に入れば最優先だったか、貴族が関わっているらしいし、そちらの方による手配かもしれない。
多分だけど、クソ野郎は「爆弓」から手に入れた経緯を聞き、早々にこれは自分たちが手に入れたモノだと周知させて手柄とし、あとで俺たちが奪われたモノだと言っても事実無根であると跳ね除けるつもりなんだろう。
実際、あれはあの場だけの話で、証拠の類は一切ない。
二人は、俺たちに何かあったのではないか? とここで待っていて、時間が経てば捜索も依頼するつもりだったそうだ。
心配してくれてありがとう、と伝えておく。
そして、こちらも起こった出来事をただしく伝えると――。
「あのクソ野郎! 『爆弓』共々殺してやる!」
「奪ったモノで栄光を得ようとは……クズですね」
二人共本気でキレている。
こういう人たちが怒ると怖いな。
ただ、向こうの話の進み具合は、俺としても都合がいい。
「リユウさん。俺たちもその場に、謁見するという場に立ち会えるか?」
「まあ、私の権限でできなくもないが、ミスリル鉱石(極大)が向こうの手にある以上、こちらが掘り出したと言っても信じはしないだろう。それでも、行きたいのか?」
「ええ。勝算はあります」
ニヤリ、と笑みを浮かべる。




