あだ名で呼ばれたい? 呼ばれたくない?
黒い外套を身に纏った骸骨がこれから同行するのだが、その前に確認しておくことがある。
「同行するにあたって聞いておきたいんだが、名前あるのか? さすがにいつまでも『黒い外套を身に纏った骸骨』だと長い。あっ、ちなみに俺はアルムだ」
「アルムか! よし、憶えたぞ! というか、某をそんな風に呼んでいたの! と言っても、某も特に固有名詞のようなモノはないな。代わりに種族名ならあるぞ。自分で考えたのが」
「そうか。名前は――自分で考えた?」
「うむ。始まりはリッチからだった。しかし、己を鍛えていく内にエルダーリッチへと進化し、今はダンジョンマスターという特性も加わってか、さらにその先へ独自進化を果たしたのだ。つまり、某だけの種族。某しか居ない種族。……一人しか居ない」
黒い外套を身に纏った骸骨が、自分で言って自分で落ち込み始めた。
「……まあ、確かにここには一人しか居ないけど、外に出れば居るかもしれないだろ。早々に決め付けるのはよくないと思うぞ」
「確かに! そうかもしれないな! だが、名乗る時は、某が決めた種族名で名乗らせてもらうぞ!」
「好きにすればいい。それで、どんな種族名なんだ?」
「うむ。心して聞くが良い。『絶対的な死』。それが、某の種族名だ!」
バーン! と堂々と名乗る黒い外套を身に纏った骸骨。
なるほど。
ただ、それでも長いし、それで呼ぶのもちょっと……。
「じゃあ、縮めて『アブ』さん? 『アス』さん? 『デス』さん? どれがいい?」
「え~、ちょいちょい。いきなりあだ名で距離縮めてくるとか、もしかして某のこと好きなの? 邪険にしているようで実は……みたいなってこと? もう、それならそうと言ってくれれば、某だってもっと友好的に」
「……わかった。これからよろしく。『アブソリュート・デス』さん」
「いや、アルムよ。そんな、光がない目で見られても……。冗談。冗談だから。その中だったら、『アブ』でいい」
「そうか。それじゃ、『アブ』さんで」
あとは地上に戻るだけだが、さすがにこのまま連れていくのは不味いということくらいはわかる。
「アブさん」
「どうした? アルムよ!」
呼んだだけで嬉しそうにするのは……まあ、その内アブさんも慣れるだろうから、あえて触れないでおこう。
「さっき言っていたが、俺以外に見えなくすることはできるんだよな?」
「もちろんだ。某は死霊系だぞ。体を透過させるくらい訳はない。アルムには意図的に見えるようにすればいいだけ。そうだな。アルムからすれば、半透明のような状態で某が見えていれば、他の者からは見えなくなっている状態だ。人ともぶつからんし、壁だってすり抜けることができる。といっても、さすがに声だけは隠せんから、アルムに話しかける時は小声かな? でないと、アルムが独りで何かに話しかけているという、場合によっては心配される光景になりかねない」
「それは……危険だな」
そうならないように、俺も気を付けないと。
具体的には、アブさんに話しかける時は誰にも聞こえないくらいの小声とか、手信号でも考えておこうかな。
まあ、声をかけなくても、視線を向ければ何かあると気付いて近寄ってきてくれそうだけど、そこら辺は地上に戻ってからだ。
今は、早く戻ることを優先しよう。
「煌々明媚」がどうなったのか気にかかる。
「それじゃあ、さっさと地上に戻るか」
「ちょっと待ってくれ」
「なんだ? まだ何か?」
「先ほどアルムからここに来たまでの経緯を聞いてから調べておったが、共に入ったという者たちはまだダンジョン内に居るようだぞ」
「え? わかるのか?」
「わかるも何も、某はここのダンジョンマスターだからな。事柄に対して意識を向ける必要はあるが、このダンジョン内におけることで某にわからないことはない」
上機嫌に胸を張るアブさん。
お、おお。確かにどことなくなんとなくほのかに逞しそうに見えなくもない。
実際、中身は骨だけのスッカスカだが。
それに、よくよく考えてみると、多少時間はかかったものの、ほぼ一直線にここまで来た。
「煌々明媚」がまだ脱出していなくても不思議ではない。
そこに気付かなかったのは、無意識にそれだけ焦っていたということだろう。
「ただ、地下四階というのは同じだが、聞いていた人数と違うな。倍以上居て、魔物に襲われて戦闘中のようだ」
「……どういうことだ?」
「さすがに細部まではわからないな。そういう状況が見えているとしか言えん」
確かめるには、そこに行くしかないってことか。
「ダンジョン内のことがわかるのなら、俺をそこまで連れて行ってくれ」
「うむ。いいだろう。あっ、ついでにアレも持っていくか」
「アレ?」
「ちょっと待ってくれ」
また待たされるのか、と思うが道案内は必要なので待つ。
アブさんは壁を通り抜けどこかに行き、それほど時間は経たずに奥に扉を開けて戻ってくる。
その手――両手で抱えなければ持てないような、銀色に輝く巨大なクリスタルを持って。
「……何、それ?」
「いや、これが欲しかったのでは?」
「え?」
「だからミスリル鉱石(極大)」
「は?」
ちょっと開いた口が塞がらなかった。




