目的、狙いが別々ってことだってある
相手が一体何者なのか、という思いを互いに抱き、俺と黒い外套を身に纏った骸骨は睨み合うように対峙する。
先ほど即死? らしい魔法をかけられたし、油断してはいけない。
いつでも動けるように体に魔力を流し、魔法を放てるように意識を戦闘の方に傾ける。
「……ふっ。まあ良い。何者であるかなど、関係なかったな。今こうしてダンジョン最下層に人が現れたのだ。その目的がダンジョン踏破であることは明白。さあ、ダンジョン踏破したければ、ダンジョンマスターである某を」
「いや、待った。別に踏破は目的ではない」
「え? ん? え? ん? いやいや、待って待って」
さっきから大人しく何もせずに待っているが?
というか、ここは最下層だったのか。
それに、黒い外套を身に纏った骸骨はダンジョンマスターなんだな。
そう聞いても不思議と少しもすごいと思わないのは、最初に花々に水をやる光景を見かけたということもあるが、ダンジョンマスターであるラビンさんを知っているから、というのが大きいだろう。
ラビンさんの強さはわからないが、何をするかわからない独特の雰囲気のようなモノがあった。
ラビンさんには俺の魔法は通じなさそうだが、目の前の黒い外套を身に纏った骸骨には通じそうな気がする。
まあ、通じるからといって、倒せるって訳ではないが。
実際に戦ってみないとわからないが、経験の差とかで負けそうな気がする。
「踏破が、目的ではない?」
「そうだ。ここから出られればそれでいい」
「出られればいいって、それだとなんで最下層まで?」
「成り行き?」
「そもそも、外に出たいのなら普通に上に戻ればいいだけでは?」
「道がわからない」
「……は? ここまで来ているのに?」
「だから、成り行き」
「意味がわからない。ということは何か? 某を倒すのが目的ではない、と? まあ、そもそも、魔物大発生は某を倒しても、もうとまらんが」
「なんの話をしているかさっぱりだが、さっきも言ったが目的は外に出ることだ。あんたを倒さないと出られないなら、そうするが?」
戦闘態勢に入る。
魔力を漲らせ――。
「いや、出ようと思えば出られるぞ。某の家――神殿の奥に地上までの直通魔法陣があるからな」
「そうなのか。なら、使わせてもらっても?」
「それは構わんが……ふむ。ちょっと成り行きというのに興味がある。急いでいないのなら、少し某と話でもしていかないか?」
急いでいるかどうかで問われると急いでいるのだが、無駄な戦いを避けられるのなら、それに越したことはない。
今の最優先は地上に戻ることだ。
「わかった。少しなら」
「よし。そうと決まれば、どうぞ、中へ」
黒い外套を身に纏った骸骨は嬉しそうに手を叩き、そのまま大きな神殿に進めと誘導してくるので、そのままあとを付いていく。
大きな神殿の中は――何もなかった。
まず広大な空間が広がっていて、あとは奥に続く扉があるだけ。
「何もないんだな」
「ここはダンジョンマスターである某と戦う場所だからな。特に何も設置してはいない。といっても、設置しようと思えば設置できるが」
そう言って、黒い外套を身に纏った骸骨がごにょごにょ呟いて指を軽く振ると、広大な空間の中央付近にテーブルと椅子が出現し、テーブルの上には湯気が立ち上る紅茶と茶菓子が置かれていた。
「ふふんっ!」
黒い外套を身に纏った骸骨が少し自慢げだ。
反応しないのは失礼だと思ったので、拍手しておく。
拍手に気持ちが入っていないのは、ラビンさんの方がすごいことしそうだと思ったからだが、あえて口にはしない。
対面するように座る。
「それで、その成り行きというのを聞かせてもらえないだろうか?」
別に隠すようなことではないので、ダンジョンに入った目的と、その背後関係を少しだけ語る。
その際、まだ尾を引いていたのか、紅茶と茶菓子が普通――まともなモノというだけで、少し感動で泣きそうになった。
語り終えると――。
「ということは何か? ここまで人が来ないのは、そのギルドマスターのせいなのか?」
「いや、一概にそうとは言えないが……」
言えないけど、フォーマンス王国での経験から言うと――。
「でも、ああいうのが一番上だと、下は育たないと思うな。冒険者の質が下がる一因ではあると思う」
「やはりそうか!」
ぐぬぬ……と黒い外套を身に纏った骸骨が拳を握って怒りを表す。
これで一応は語ったし、今度はこっちから聞いてみる。
「それで、あんたはなんなんだ?」
「ん? 某はここのダンジョンマスターだが? ああ、ダンジョンマスターが何か」
「いや、それは知っている」
というより、友達の一人だ。
「そうか……知っているのか」
露骨に残念と落ち込む、黒い外套を身に纏った骸骨。
誰かに言いたかったのだろうか。
すごいんだぞ、と自慢したかったとか?
「そうだな。そちらばかりに語らせるのもなんだし、某のことについても少し触れよう」
そう言って、黒い外套を身に纏った骸骨は喉を潤すように、優雅に紅茶を飲む。
……でも、普段そういうことをしていないのだろう。
紅茶が飲んだそばから内部――体内に零れ落ちていき、黒い外套を濡らしていく。
まあ、零れても黒いからバレないだろう。




