独り言ってついつい出てしまう
道案内してくれたワイバーンたちに感謝の言葉を伝え、下へ――地下八階に下りた。
そこにあったのは――洞窟の中を抜けた先にあるような、遺跡のような大きな神殿に、天井には大きな穴があって、そこから陽光が降り注いでいる。
それに、地面は石畳が綺麗に敷かれていて、大きな神殿の前には陽光に照らされて輝く花々が植えられていた。
なんというか、これまでの自然と違って、完全なる人工物。
もしかして、ここが最下層?
あるいは、ダンションの中には中ボスと呼ばれる、他の魔物とは一線を画した存在が居ると聞いたことがある。
……それだろうか?
色々と考えが過ぎるが、最終的な答えは進むか戻るかのどちらかだ。
……進む方の選択を取る。
一歩前に足を出そうとした時、大きな神殿の中から何かが出てきた。
それは全身を黒い外套で覆っているため、中が何かはわからない。
ただ、見ただけでわかる、尋常ではない雰囲気が感じ取れた。
明らかに、他とは何かが違う、と理解させられる。
それは、その手に――じょうろを持っていた。
………………じょうろ?
「フン、フフン、フフ~ン」
それは鼻歌を奏でながら大きな神殿前の花々のところに行き、楽しそうにじょうろを傾けて水をやり始める。
「……おっ、キミ、綺麗に咲いたね。うんうん。とても美しいよ。え? その子だけじゃなくて、自分も褒めろって? フフ。ヤキモチを焼かない。某はみんなを愛しているのだから、みんな仲良くね。だから、褒めろと言われなくても、いくらでも褒めるよ。キミの絹のように真っ白で美しい花弁が、真っ赤に染まるまでね」
それがそう言いながら、つん、と白い花を軽く突いた……ように見える。
「いやいや、私も僕もと、某の口と体は一つしかないのだが……わかった。わかりました。降参、降参。今日は存分にキミたちを愛でる日にしよう。某の可愛く愛らしい花々を。大丈夫だよ。どうせ誰もここまで来ない。このダンジョンができてから、誰も来たことはない。だから、時間はたっぷりとあるよ」
……とりあえず、アレだな。
このままここに居るのは不味い気がする。
見てはいけないモノを見てしまったような感覚だ。
もっとこう、タイミングというか、来ましたよ、という存在感を強くして来ないといけない。
……出直そう。
そっと……そっとだ。
音を立てずにこの場から避難――退散を――。
「それでは、少し待っていて欲しい。今、良質の肥料を――」
振り返ったそれと目が合う。
それで、黒い外套の中が何かわかった。
――骸骨。
骸骨の顔が、俺を覗いていた。
「あ」
「jkさfbぃあsdfsdふmdbさfくjm」
それがなんか訳のわからないことを言ったかと思うと、半透明の大鎌を持ったスケルトンが現れ、俺の体を薙ぎ払う。
「し、しまった! 漸くここまで人が来たというのに、羞恥のあまり即死魔法を放ってしまった! た、確かに、これで某の秘密は守られたが、これでは人と触れ合い、語らうという機会を逃してしまったあ!」
それが何やら喚いている。
いや、特に何も起こっていないのだが。
「しかも、まだ若者。若い命を摘み取ってしまうとは……。せめて、墓だけは立派なのを拵えよう。そして、墓石には『この者。最初の到達者。その栄誉を称えて』と銘を打っておけば、若者もきっと満足して天に召されるはず。死霊系のワシがそれをやるのも、粋というモノだろう」
うんうん、と頷くそれ。
というか、別に死んでいないが?
「それに、これで若者も死霊系にはならずに、迷うこともないだろう。某の仲間が生まれないのは残念だが……いや、待てよ。そうか! 死霊系として復活させればいいのか! 若者生き返る。某は話し相手ができる。これはどちらも買っているような素晴らしい関係だ! よし、そうと決まれば早速――」
そこで、再び俺と目が合った。
「………………」
「………………」
「勝手に殺すな」
「えええええっ! 生きてる! 某の即死魔法を食らって生きている! 自分で言うのもなんだけど、まず防ぎようがない、えげつないレベルの即死魔法だったのに!」
そんなのを食らわせたのか。
どれだけ羞恥を感じていたのやら。
もし、俺が向こうの立場なら……死にたくなるな。
だからといって、こっちを殺そうとする――いや、したのはどうかと思うが。
「いやいやいやいや、なんで本当に生きているの? 幽霊ではないよね? ……足がある。半透明でもない。……あり得ない。それこそ、竜鱗装備――それも素材となる竜が千年級以上の力がなければ防ぐのは無理だし」
なるほど。
まあ、実際にカーくんがいくつかは知らないが、年齢はともかく、力の方はまったく問題ないと思う。
「それに、その竜鱗装備があったとしても、本体――装備者の方も某の即死魔法に耐えうるだけの強固な光属性、あるいは聖属性の魔力がないと、何かしらの影響――気絶するとか、苦しむとかするはずなのに……それすらない」
なるほど。
まあ、聖属性はないが、光属性――それも極上なのが、今はある。
とりあえず、説明のおかげでまったく問題がないということはわかった。
「……一体何者なのだ?」
それがそう呟く。
いや、それはこっちが聞きたいのだが。




