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賢者巡礼  作者: ナハァト
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身の丈に合う方がわかりやすい

「予め言っておくが……」


 無のグラノさんがそう前置きをする。


「これは強制ではないし、断っても構わない。その場合でもダンジョンを出る手伝いはしよう。それは約束する。その上で選択して欲しいのじゃ」


 無のグラノさんだけではなく、他のスケルトンたちも真剣な表情……はわからないが、雰囲気は伝わってくる。

 同時に、どこかこの時を切望していたかのようなモノも感じる。


「ちなみに、若さだけじゃなくて、美しさも胸の大きさもウチの方が上だから!」


「はあ? そんな訳ありません! 私の方が上だと、骨格を見ればわかると思いますが?」


「……どれだけ争っても、ワタシの方が人気が高いから」


 ………………まあ、女性陣はまだ争っているし、あっちはあっちで真剣なのは真剣なのだが、正直どれもスケルトンだし、骨格で判断はできないので、介入しようとは思わない。

 男性陣は手を出さない方がいいという雰囲気なので、俺もこれから受ける説明の方に集中する。


「選択しろと言われても、詳しいことを聞かないことにはなんとも答えられない」


「その通りじゃ。まずは、お主に問いたい。……魔法を使いたくはないか?」


「魔法?」


 無のグラノさんからそう問いかけられて考えてみる……が。


「正直、これまで魔法というモノに関わってこなかったから、使えるようになっても何ができるかよくわからないな。魔物を倒すのに役立つ、とかか?」


「それは一面にしか過ぎんが、魔物であれば一度に数百体を屠ることも可能じゃ」


 数百体を一度に屠ると言われても……正直想像ができないので首を傾げる。

 いや、正確にはそういう場面は想像できるのだが、自分にそれができる想像ができない……もしくは思えない。


「……少しよくわからないから、魔法が使えるようになってできることの規模を小さくしてくれ」


「ち、小さく?」


 無のグラノさんが唸って考え始める。

 すると、火のヒストさんが口を開く。


「そういうことなら、そうだな……火属性魔法であれば、敵に火傷を負わせることもできるし、鉄を溶かしたりなんてこともできるぜ!」


 自慢そうに言う火のヒストさん。

 火傷……熱……溶かす……熱……。


「つまり、たとえばですが、火属性魔法が使えるようになると、真冬であったとしてもカッチカチに凍ったかのような食事を出されても、瞬時に温めて熱々の食事を食べられるってことか?」


「あ、ああ、それもできるが」


「そうか! それはすごいな! いや、本当にすごいな! 滅茶苦茶すごいじゃないか!」


 母さんに温かい食事を食べさせることができる。


「……おい、敵を倒すよりも飯を温めることの方がキラキラに輝いて、一番いい反応をしているぞ」


 火のヒストさんが俺を指差しながら他の男性陣にそう言っているが、俺の心中はそれどころではない。

 魔法、すごい! という認識に書き換わっていっている。


「そういうことなら、風属性だとどんなことが?」


 風のウィンヴィさんに尋ねる。


「え? う、う~ん……敵を細切れにしたりとか、風力で勢い付けて物を飛ばせる、とか?」


「はあ……なるほど」


「うわ! 一転して露骨な悪い反応に! いや、充分すごいでしょ! 自分を空中に浮かばせたり、飛んだりだってできるんだよ!」


「それは……すごい、ですね……?」


「駄目だ! 反応がよくない!」


 風のウィンヴィさんが項垂れる。

 なんか……すまん。

 だけど、いまいちわからないというか……浮かせる……飛ぶ……風……風が吹く……。


「そうか! たとえば、暑い夏の日に雨が降ったあとのジメジメとした空気の中であっても、風を吹かせて快適に作業ができたり、寝苦しい夜も体全体に届くような優しい風があればぐっすりと眠れる、ということか?」


 確認するように風のウィンヴィさんを見ると、頬が引くついているように見えた。


「そ、そうだね。できるよ、それくらい簡単に」


「おおおおおっ! それはすごい! 風属性、なんてすごいんだ!」


 母さんの仕事を楽にさせたり、快適に休んでもらうことができる。


「なんだろう……なんか納得いかない」


 風のウィンヴィさんが何か言っているような気がするが、それどころではない。

 俺は期待を込めて闇のアンクさんに視線を向ける。

 闇のアンクさんはビクリと少し跳ねたあと、考えるように顎に手を当てて口を開く。


「そ、そうだね……アルムくんに合わせて言うのであれば、闇属性魔法の特性として、感覚を騙すというのがある」


「は、はあ……感覚を騙す?」


 よくわからないことを言われたので首を傾げる。


「そうだね。簡潔に言えば、不味いけど必要な時があるモノ……たとえば、不味いポーションを飲まなければいけなくても、それを美味しく感じることができるようになるよ」


「それはすごい!」


 ポーションは一度飲んだことがあるが、確かに不味かった。

 それも非常に。

 あれが美味しく感じるようになるなんて……闇属性魔法、恐るべし。


「ふぅ~……」


「上手く切り抜けたな」


「僕とヒストの前例があればこそだね」


 闇のアンクさんがどこか安堵している中、女性陣の方は……まだ争っているので、俺は無のグラノさんに視線を向ける。

 無のグラノさんは一つ頷いた。


「うむ。無属性魔法についてはあとじゃ。とりあえず、魔法に興味がある、使いたいということで良いな?」


「はい!」


 俺は力強く返事をした。


「逃げたな」


「逃げたね」


「逃げましたね」


 火のヒストさんたちの言葉に、無のグラノさんは明後日の方向を向いた。


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