小さく見えても実際は大きいことだってある
上ではなく、下か……。
どうしたものだろうか?
色々と考えてみるが、答えは出ない。
結局のところ、地上まで戻る道がわからない以上、戻るも進むも同じようなモノに感じる。
それなら、進んでみるのも一つの手だろう。
もしかすると、次が最下層で、地上に戻るための魔法陣とかがあるかもしれない。
ボスも居るだろうが……まあ、そこは火属性、光属性でゴリ押そう。
そう判断して、下に向かう。
地下七階――。
「……そうきたか」
思わずそう呟いてしまう。
陽の光に照らされる青空に、空中に浮かぶ石や岩、大岩に、小さな島群……大空が広がっていた。
階段を下りた先にある神殿はこれまで通りだが、その神殿がある小さな島が空に浮かんでいる状態だ。
恐る恐るこの島の端に行き、下を見る。
「……こうきたか」
大地は見えなかった。
あるかもしれないが、少なくとも試そうとは思わない。
洞窟。草原。森。岩山。砂漠。海。ときて、空。
踏破させる気が一切ないと思うのは俺だけだろうか?
とりあえず、空を飛ぶ手段があってよかった――とほっと胸を撫でおろす。
すると、何かが通り過ぎた時のように一瞬影が差した。
視線を上げれば、翼が四枚ある大きな鳥が空を優雅に飛んでいる。
「ギアッ!」
「グアッ!」
「ゲアッ!」
「ゴアッ!」
不意にそんな鳴き声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、神殿の上に人の倍はありそうな大きさの鳥が四羽、綺麗に並んでとまっていた。
その目は、俺を見ている……というか、狙っているように見える。
餌として――。
「………………」
「「「「………………」」」」
「ガアッ!」
今度は頭上から聞こえてきた。
視線を上げれば、先ほど空を飛んでいた翼が四枚ある鳥が……こちらに向かって……というか、距離感がなんかおかしい。
普通の鳥の大きさを超えて……こっちの倍はありそうな……。
「ガアッ!」
「ギアッ!」
「グアッ!」
「ゲアッ!」
「ゴアッ!」
明らかな意思疎通。
振り返れば、四羽の大きな鳥は、四枚の翼を大きくはためかせ、今にも襲いかかりそうだ――俺に。
「ちいっ! 挟み撃ちのつもりかよ!」
このままここに居ては危険だと判断して、小さな島から飛び降りる。
俺が先ほどまで居た場所に、四枚翼の大きな鳥の一羽と四羽が交差するように飛び抜けていく。
あのまま居たら危なかったな。
このまま落ち続ける訳にもいかないので、竜杖に跨って飛翔する。
「ガアッ!」
「ギアッ!」
「グアッ!」
「ゲアッ!」
「ゴアッ!」
どうやら、俺を逃がす気はないらしい。
四枚翼の大きな鳥が五羽、俺のあとを付いてくる。
速度は……今のところ同等。
追いつかれることはなさそうだが、旋回して神殿まで戻るべきだろうか?
ただ、そこでもたついてしまうと一気にくちばしで咥えられそうで怖い。
どうしたものかと後ろを振り返ると、五羽の喉付近を俺に見せつけるような体勢になり、実際に喉が膨れ上がる。
――嫌な予感。
五羽が火球を放ってくる。
「くっそ!」
後ろを確認しながら避けるのがつらい。
撃ち落とすつもりのようだが、それだけではなく、俺が回避し続けることで速度が落ちることも狙いの一つのようだ。
段々と距離が近付いてくる。
くっ。頭脳で負けた気分だ。
だが、このままやられる訳にはいかないと、俺も反撃を放つ。
ここなら、火属性だって使えるのだ。
飛びながら、かわしながらでは魔法に集中できないので、まずは牽制として単純な火の玉を連射連発した――が、五羽は華麗な飛行ですべて回避。
「「「「「グエグエグエグエグエグエ!」」」」」
なんだろう。
馬鹿にされたような気がする。
それなら本格的にやってやる! と数と大きさを増やして連射連発。
すべて回避された。
「「「「「グエグエグエグエグエグエ!」」」」」
イライラする。
こういう時こそ暴走して欲しいものだが、最近の火属性は安定しているので暴走しない。
いや、違う。
さすがは地下七階の魔物、ということだろう。
このままだとどうしようもないので、もっと高威力……いや、炎の檻――もとい、炎の壁を展開すれば、と実行しようとして気付く。
五羽に集中し過ぎていた。
前方から新たな魔物が出現する。
地下四階にも居るらしいが、その姿を見なかったワイバーンだ。
しかも、十体ほどの群れ。
ワイバーンの群れはすさまじい速度で一直線に向かってくる。
衝突する! と急停止して下降することでワイバーンの群れを避けると、ワイバーンの群れはそのまま進み、五羽をフルボッコにした。
その様子を見ていると、俺の視線に気付いたワイバーンの一頭が、ペコペコと頭を下げて、こいつら、教育しておきますんで、みたいな仕草を取る。
……なんか、似たような光景をフォーマンス王国のワイバーンでも見たな。
カーくんの鱗の威光は、ここでも有効のようだ。
でも、助かった。
ありがとう! と一声かけて先を進もうとして、ふとあることに思い至り、ワイバーンに声をかける。
「もしかしてだけど、階段のある場所――ここだと島か。知っているか?」
言葉を理解しているようで、頷きが返される。
案内を頼み、案内された場所にあったのは、小さな島にある神殿。
……これ、もしかして、上に戻るヤツでは? と恐る恐る確認すると、下に向かう階段だった。
これで間違いない! と案内してくれたワイバーンの群れに向けて、グッ! と親指を立てて見せる。




