表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
89/614

小さく見えても実際は大きいことだってある

 上ではなく、下か……。

 どうしたものだろうか?

 色々と考えてみるが、答えは出ない。

 結局のところ、地上まで戻る道がわからない以上、戻るも進むも同じようなモノに感じる。

 それなら、進んでみるのも一つの手だろう。

 もしかすると、次が最下層で、地上に戻るための魔法陣とかがあるかもしれない。

 ボスも居るだろうが……まあ、そこは火属性、光属性でゴリ押そう。

 そう判断して、下に向かう。

 地下七階――。


「……そうきたか」


 思わずそう呟いてしまう。

 陽の光に照らされる青空に、空中に浮かぶ石や岩、大岩に、小さな島群……大空が広がっていた。

 階段を下りた先にある神殿はこれまで通りだが、その神殿がある小さな島が空に浮かんでいる状態だ。

 恐る恐るこの島の端に行き、下を見る。


「……こうきたか」


 大地は見えなかった。

 あるかもしれないが、少なくとも試そうとは思わない。

 洞窟。草原。森。岩山。砂漠。海。ときて、空。

 踏破させる気が一切ないと思うのは俺だけだろうか?

 とりあえず、空を飛ぶ手段があってよかった――とほっと胸を撫でおろす。

 すると、何かが通り過ぎた時のように一瞬影が差した。

 視線を上げれば、翼が四枚ある大きな鳥が空を優雅に飛んでいる。


「ギアッ!」


「グアッ!」


「ゲアッ!」


「ゴアッ!」


 不意にそんな鳴き声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、神殿の上に人の倍はありそうな大きさの鳥が四羽、綺麗に並んでとまっていた。

 その目は、俺を見ている……というか、狙っているように見える。

 餌として――。


「………………」


「「「「………………」」」」


「ガアッ!」


 今度は頭上から聞こえてきた。

 視線を上げれば、先ほど空を飛んでいた翼が四枚ある鳥が……こちらに向かって……というか、距離感がなんかおかしい。

 普通の鳥の大きさを超えて……こっちの倍はありそうな……。


「ガアッ!」


「ギアッ!」


「グアッ!」


「ゲアッ!」


「ゴアッ!」


 明らかな意思疎通。

 振り返れば、四羽の大きな鳥は、四枚の翼を大きくはためかせ、今にも襲いかかりそうだ――俺に。


「ちいっ! 挟み撃ちのつもりかよ!」


 このままここに居ては危険だと判断して、小さな島から飛び降りる。

 俺が先ほどまで居た場所に、四枚翼の大きな鳥の一羽と四羽が交差するように飛び抜けていく。

 あのまま居たら危なかったな。

 このまま落ち続ける訳にもいかないので、竜杖に跨って飛翔する。


「ガアッ!」


「ギアッ!」


「グアッ!」


「ゲアッ!」


「ゴアッ!」


 どうやら、俺を逃がす気はないらしい。

 四枚翼の大きな鳥が五羽、俺のあとを付いてくる。

 速度は……今のところ同等。

 追いつかれることはなさそうだが、旋回して神殿まで戻るべきだろうか?

 ただ、そこでもたついてしまうと一気にくちばしで咥えられそうで怖い。

 どうしたものかと後ろを振り返ると、五羽の喉付近を俺に見せつけるような体勢になり、実際に喉が膨れ上がる。

 ――嫌な予感。

 五羽が火球を放ってくる。


「くっそ!」


 後ろを確認しながら避けるのがつらい。

 撃ち落とすつもりのようだが、それだけではなく、俺が回避し続けることで速度が落ちることも狙いの一つのようだ。

 段々と距離が近付いてくる。

 くっ。頭脳で負けた気分だ。

 だが、このままやられる訳にはいかないと、俺も反撃を放つ。

 ここなら、火属性だって使えるのだ。

 飛びながら、かわしながらでは魔法に集中できないので、まずは牽制として単純な火の玉を連射連発した――が、五羽は華麗な飛行ですべて回避。


「「「「「グエグエグエグエグエグエ!」」」」」


 なんだろう。

 馬鹿にされたような気がする。

 それなら本格的にやってやる! と数と大きさを増やして連射連発。

 すべて回避された。


「「「「「グエグエグエグエグエグエ!」」」」」


 イライラする。

 こういう時こそ暴走して欲しいものだが、最近の火属性は安定しているので暴走しない。

 いや、違う。

 さすがは地下七階の魔物、ということだろう。

 このままだとどうしようもないので、もっと高威力……いや、炎の檻――もとい、炎の壁を展開すれば、と実行しようとして気付く。

 五羽に集中し過ぎていた。

 前方から新たな魔物が出現する。

 地下四階にも居るらしいが、その姿を見なかったワイバーンだ。

 しかも、十体ほどの群れ。

 ワイバーンの群れはすさまじい速度で一直線に向かってくる。

 衝突する! と急停止して下降することでワイバーンの群れを避けると、ワイバーンの群れはそのまま進み、五羽をフルボッコにした。

 その様子を見ていると、俺の視線に気付いたワイバーンの一頭が、ペコペコと頭を下げて、こいつら、教育しておきますんで、みたいな仕草を取る。

 ……なんか、似たような光景をフォーマンス王国のワイバーンでも見たな。

 カーくんの鱗の威光は、ここでも有効のようだ。

 でも、助かった。

 ありがとう! と一声かけて先を進もうとして、ふとあることに思い至り、ワイバーンに声をかける。


「もしかしてだけど、階段のある場所――ここだと島か。知っているか?」


 言葉を理解しているようで、頷きが返される。

 案内を頼み、案内された場所にあったのは、小さな島にある神殿。

 ……これ、もしかして、上に戻るヤツでは? と恐る恐る確認すると、下に向かう階段だった。

 これで間違いない! と案内してくれたワイバーンの群れに向けて、グッ! と親指を立てて見せる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ