無意識でついつい動いてしまうこともある
地中から突如現れた巨大ロックワームが、天井を突き破る。
そのまま進んでいっているようだが、この空間にはまだその岩のような体表の体が残っているので、どれだけ巨大であるかはわからない。
それに地震というか、巨大ロックワームの移動による地響きも続いているので、ここが洞窟内の巨大空間であったとしても、いつ崩落が始まってもおかしくないと不安を抱く。
俺だけではなく、ここに居る全員が。
「なんだってこんなのが!」
誰かが、思わず言ってしまったという感じだ。
すると、「煌々明媚」――射手のケイトさんと、剣士のサラさんの会話が聞こえる。
「……巣が近くにあったとしか思えない。あの大きさは確かに異常だけど、それでもロックワームは普段はどちらかといえば大人しいはず……それを乱すような……たとえば、眠っていたところを起こされた、とか?」
「なんだ、それは。アレは地中に居るんだぞ。それこそ、アレが今起こしているこの地響きや地中にも響くだけの爆発、爆音でもない限り……」
そこで言葉はとまり、二人の目が「爆弓」に向けられる。
いや、二人だけではない。
この会話が聞こえていた、俺も含めて敵味方問わず全員の目が向けられた。
「ああ、なるほど。僕の爆発矢によって、と………………てへっ!」
『お前のせいか!』
この時ばかりは敵味方問わずに全員で「爆弓」に突っ込んだ。
「爆弓」に詰め寄りたいが、巨大ロックワームが戻って来て、今度は天井から出て来て地面の中に引っ込んでいく。
最初に出て来た時の巨大ロックワームの体も残っているのに、また追加された。
一体全長はどれだけなんだ。
それに、何人かが巨大ロックワームの体に攻撃を仕掛けているが、岩のような体表に阻まれてまったく通用していない。
そのため、冒険者グループの中にはここから逃げ出す者も居た。
けれど、こんな状況でも戦いをやめないのも居る。
「共倒れはごめんだから、そろそろそれを渡してもらえないかな? お互い、命が大事でしょ?」
「命が大事というのなら、お前が退けばいいだけだ」
「まさか! 寧ろ、僕はこの状況を楽しんでいるよ! 何しろ、Aランクまでくると、早々ないからね。命の危機に瀕するような状況は! ゾクゾクヒリヒリしている!」
「クズが!」
「冒険者だから、冒険しないと、だよ!」
ここにもう冒険者ではないのが居るのだが。
商人ですが……まあいい。
とりあえず、ジーナさんと「爆弓」は戦いをやめない。
というよりかは、「爆弓」がジーナさんの持つミスリル鉱石(極大)を狙っているだけではなく、この状況を楽しんでいるからのようだ。
また、「爆弓」が逃げないからか、冒険者グループの中にはまだ戦いをやめない者も居て、先ほどまでと同じように「煌々明媚」に襲いかかっている。
その上で、巨大ロックワームも去ろうとしない。
状況が混乱、混沌としてきた。
ちなみにだが、斬新な髪型の男性五人組は直ぐに逃走を選択して、既にこの場に居ない。
まあ、あれ以上は髪型をいじれないし、別にいいか。
しかし、パーティ単位とはいえ、Cランクなのに外に出て――強いのと一緒に居なくて大丈夫なのだろうか?
あんな髪型の人物たちを失うのは惜しいので、できればしぶとく生き残って欲しいモノだ。
ただ、これでこちらにとって多少は有利――ではなく、不利だった部分が解消された。
人数差は少し減り、何よりこれで俺も動ける。
光属性魔法で一気に状況を決めてしまおうとしたが、その前に何かを察したかのように、ジーナさんと「爆弓」の事態が動いた。
ミスリル鉱石(極大)を巡って格闘戦のようなこと行っていたのだが、やはりというか抱えたままでは動きが制限され、それによって生まれる隙を「爆弓」が突く。
下から押し上げるようにした「爆弓」の拳によって、ジーナさんが抱えていたミスリル鉱石(極大)が空中に舞い上がった。
ジーナさんが即座に掴み抱えようと飛び上がる。
遅れて、「爆弓」も飛び上がった。
――が、ミスリル鉱石(極大)がある位置は、壁から飛び出してきた巨大ロックワームの進行方向上。
何か考えがある訳ではないが、咄嗟に駆け出す。
空中のミスリル鉱石(極大)をジーナさんが掴むが、「爆弓」が死角からもう一度弾き飛ばしてさらに高く舞い上がる。
「爆弓」はそのまま空中で体勢を変えてジーナさんに蹴り込むが、ジーナさんはそれに反応して防ぐ。
ただし、それが「爆弓」の狙いだった。
そのままジーナさんを足場にして、「爆弓」はさらに高く舞い上がり、ミスリル鉱石(極大)を掴もうと手を伸ばす――と見せかけて、矢筒から鏃が魔石の矢を抜いてジーナさんに向けて構える。
「じゃあね!」
ジーナさんに向けて魔石の矢が放たれる。
咄嗟に大剣を前に出して防ごうとするジーナさん。
魔石の矢は大剣と衝突して、爆発を起こす。
爆発の規模は小さかったのか、ジーナさんの耐久力が強かったのか、理由はいくつか推測できるが、ジーナさんは無事に乗り切った。
ただ、ミスリル鉱石(極大)は手元にない――だけではなく、そこに巨大ロックワームの大きく開けた口が迫る。
「くっ!」
「させるかよ!」
流す魔力を増やして一気に加速。
飛び上がり――ジーナさんを掴んで位置を入れ替えるように放り投げる。
「なっ! ばっ――」
驚きで目を見開くジーナさんに一言。
「ご心配なく」
巨大ロックワームにバクッと喰われた。




