似た経験によって関連する何かを思い出すこともある
入口は一つ。
そこには二十人ほどの冒険者グループが陣取っていて、その中には「爆弓」なんて有名らしい人物も居て、突破するのは難しそうだ。
向こうに逃がす気がない以上、今のところ取れる手は二つ。
要求されているミスリル鉱石(極大)を渡すか、それとも――。
「……アルム」
ジーナさんが俺を見る。
「これをあいつらに渡す訳にはいかない。凄腕の本領を発揮してもらっても構わないか?」
ジーナさんから、屈する訳にはいかないという強い意思を感じる。
それはジーナさんだけではなく、「煌々明媚」の他の人たちも同じであり、当然俺も。
頷きを返す。
「まあ、そういう選択になるよね。わかってた」
そんな言葉が聞こえてくると同時に、何かが風を割いて飛来する音が耳に届く。
「散れっ!」
ジーナさんの合図で掘った穴の中から這い出て散る。
同時に、何かが穴の中に飛来して――爆発した。
衝撃音が轟き、爆発の衝撃で少し吹き飛ぶ。
爆発跡が残る穴を中心にして、俺と「煌々明媚」は四方に散っている。
ミスリル鉱石は……ジーナさんが抱えていた。
「てめえは死ね! 俺らの髪をこんな風にした報いを受けろ!」
俺に狙いを絞っていた斬新な髪型の男性五人組が襲いかかってきた。
言葉通りに俺を殺すつもりだと、殺意が乗った斧が振り下ろされるが、瞬間的に魔力で身体強化を施して回避する。
今は反動を気にしている場合ではない。
「その髪型に似合わず、報いなんて言葉を知っているんだな」
「「「「「殺すっ!」」」」」
「さっき死ねと言ったのと意味合いは同じだが? 二度言うことに意味があるとかか?」
「「「「「ぶっ殺す!」」」」」
怒りで攻撃が単調になったのでやりやすくなり、周囲を見る余裕もできた。
ミスリル鉱石(極大)はジーナさんが持っているが、それを狙う「爆弓」からの攻撃を受けていて、他のみんなも冒険者グループから襲われている。
とりあえず、「爆弓」が厄介だ。
Aランク冒険者という強さもそうだが、爆発はヤバい。
使えるようになった火属性による結界を張ったとしても、爆発は余波もあるし、先ほどの爆発でわかったが、地面に向かって放たれると衝撃とかその破片まで防ぐ手立てがない。
それに、火のヒストさんの記憶から判断すると、閉鎖的空間で火属性は空気の問題でマズイとわかる。
森林火災の可能性と同様に、洞窟のような場所でも火属性は使用に注意しないといけない。
少し前なら、それこそ攻撃の選択肢は大幅に少なくなっていたが、今はもう改善した。
新たに受け継いだ光属性魔法の出番だ。
いつでも魔法を放てるようにタイミングを窺いつつ、まずは斬新な髪型の男性五人組を倒して、そのあと「煌々明媚」の援護を行おう。
そう判断して行動を起こす。
殺意が乗った振り下ろされる斧を避け、そこを狙いすましたかのように放たれた二本のナイフを竜杖で弾き――あっ。
「思い出した。冒険者ギルドで絡んできたヤツらか」
「「「「「今かよ!」」」」」
「それにしても似合ってるな、その髪型。どこで切ったんだ? ああ、紹介は要らない。お前たちには似合っているが、俺には似合わないからな」
褒めたのに、斬新な髪型の男性五人組からの攻撃が苛烈になった。
……何故?
といっても、それで結果が変わる訳ではない。
相手の強さは絡まれた時と別に変っていないし、身体強化魔法で充分対処可能だ。
前回と同じように早期決着を――。
「――っ!」
本能とでも言えばいいのか、危機感を覚えて身をよじると、そこを一本の矢が通り過ぎていき、壁にぶつかって爆発した。
「あれ? 避けられたか」
どうやら「爆弓」が俺を狙っていたようだ。
「貴様っ!」
「あんなのでも荷物持ちとして必要だからね。そう簡単にやられても困るんだよ。でも、キミだってわかっているでしょ? そんなお荷物を抱えたままで、僕とやり合えるとでも?」
ミスリル鉱石(極大)を抱えているジーナさんの方が不利なようだ。
「煌々明媚」のみんなの方も冒険者グループとの人数差によって苦戦している。
向こう側にとって弱点となりえるのは、どうやら俺が相手取っている斬新な髪型の男性五人組だが、そこを倒そうとすると「爆弓」からの危険なフォローが飛んでくるようだ。
「というか、お前らなんか偉そうにしていたが、荷物持ちなんだな」
「「「「「うるせえ!」」」」」
まあ、だからこそ、Cランクでも地下四階に居るのだろう。
ただ、このままだと手詰まりで、こちらがジリ貧なのも事実。
状況を動かせるとするなら、やはり俺のところからだ。
「『白輝 流星のように降り注ぎ 拡散する一筋の――』」
光属性魔法の詠唱途中で足元が振るえる。
いや、これは――。
「じ、地震!」
誰かがそう呟き、即座に否定が入る。
「いや、これは何かが地中からこっちに近付いてきて――全員逃げろ! 岩虫だ!」
誰かがそう叫ぶと同時に地面の一部が大きく盛り上がり、そこから岩のような体表を持つ、人を容易に丸呑みできそうなほどに大きな――巨大ミミズが姿を現した。




