流行らせるのは相当大変だと思う
かけられた声は男性だった。
もちろん俺ではないし、「煌々明媚」は女性のみのパーティだ。
つまり、俺たちではない誰か。
聞こえてきた方に視線を向ければ、そこはこの空間の入口で、そこに冒険者と思われるグループが居た。
……そう。冒険者パーティではなく、グループ。
そう判断したのは、向こうの人数が二十人近いからだ。
「いやはや、性懲りもなく戻ってきたから邪魔しに来ただけなのに、まさか目当ての物を見つけてくれるなんて、ありがとう。中々見つからなくても困っていたんだよ。まさか、探索済みの場所の地下に埋まっているなんて、思いもしなかったね。勘かな? それとも、確かな手段で見つけたのかな? できれば、今後の参考のために、それも教えてくれない?」
そう言ってきたのは、このグループを引っ張ってきたのか、先頭に立っている、明らかに他の物たちは雰囲気からして違う二十代ほどの男性。
緑髪に軽装で、腰に短剣を二本と、弓と矢筒を背負っている。
「……『爆弓』」
苦々しい表情を浮かべて、ジーナさんがそう呟く。
いや、その不穏な呟きは何?
この状況だと、余計に不安になるのだが。
ただ、それについて詳しく聞く前に、向こうのグループの中から、前に飛び出してくる男性五人組が居た。
「まさか、こんなところで会うとはな。あの時のお礼を返してやるよ」
前に出た男性五人組の中から、斧持ち男性がそう言ってくる。
ただ、奇妙なのは二つ。
まず、言葉を投げかけた対象が「煌々明媚」ではなく、俺だということ。
なんか一人ならまだしも、五人全員の視線が俺に向けられることから間違いないと思う。
もう一つは、その男性五人組は、全員妙な髪型をしているということだ。
そもそも髪が一部しかなく、対峙している側からはよくわからないが、もしかすると文字でも表現されていそうである。
……斬新な髪型だ。
冒険者の間で流行っているのだろうか?
もしそうだったとしても、俺はしたくないな。
でも、確かなのは、俺に向けて言っているのだから、何か返した方がいいだろう。
「………………どちらさま?」
確認のために「煌々明媚」に視線を向けるが、知らないと返される。
寧ろ、知っているんじゃないのか? と視線で尋ねられたので、知らないと首を横に振る。
「なんで知らねえんだよ!」
男性五人組が憤慨するが、正直知らない。
それよりも気になることがある。
「とりあえず言っておく。その髪型、時代の最先端を気取りたいのかもしれないが、多分流行らないぞ。その証拠に、お前たち以外は誰もそんな髪型をしていない。流行りを作りたいなら別のことを」
「「「「「てめえがやったんだよ!」」」」」
「俺が?」
………………。
………………。
「………………あ、ああ」
「「「「「絶対わかってねえだろ! てめえ!」」」」」
俺がやった? 俺がそんな酷いことを?
………………わからん。
「「「「「首を傾げてんじゃねぇよ!」」」」」
そう言われても、と逆に首を傾げると、ジーナさんが補足してくれる。
「あれは、Cランクパーティの『列強の轟斧』よ。私が聞いた話だと、あいつらが原因でアルムは冒険者じゃなくなったはずだけど?」
「な、なんだって! なら、俺は寧ろ被害者ってことか!」
あんなナリをして、それを俺がやったなんて言うから、てっきり俺が悪いのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
あと、そのパーティ名は笑うところだろうか? 分不相応な気がするのだが……いや、待って。
その前に――。
「Cランク? 地下四階はA、Bランクしか居ないはずでは?」
「それは――」
「はいはい。その辺りはどうでもいい話だよ。キミたちも、いつまでも失った髪の話はしなくていいよ。今は必要ない。今重要なのは、『煌々明媚』が目的の物を持っているということと、状況はこちらに有利だってことさ」
話を遮り、先ほど妙な名で呼ばれていた緑髪の男性が、こちらに向けて弓矢を構える。
「さあ、その鉱石をこちらに渡してくれる? 大人しく渡してくれるなら、痛い思いをしなくて済むよ。抵抗するなら、前回よりも酷い目に遭うかもしれないね。何しろ、ここはダンジョンの中。最悪、命を落としてもおかしくない場所なんだからさ」
嘘でもなんでもないと、殺意が感じられる。
それはグループ全体で、戦う気満々だと全員戦闘態勢に入った。
特に、斬新な髪型の男性五人組は、俺に狙いを絞っている。
「煌々明媚」も警戒していた。
特に、緑髪の男性を。
「さっき遮られたが、誰だ? あいつは」
「……『爆弓』は異名だ。私と同じくAランク冒険者で、装備でわかる通り遠距離攻撃を得意としているが、近接もこなせる万能型。その異名で呼ばれるようになったのは、矢を見ればわかる」
ジーナさんに言われて矢を見ると、矢の先端に付いているのが鏃ではなく、丸い石。
「あれは爆発するように加工された魔石。あの矢で爆発を起こすことから、そう呼ばれるようになった。ついでに言えば、前回、私が怪我を負ったのも、こいつの爆撃によって魔物が居る方に誘導されたからだ」
それは……どうにもヤバい状況のようだ。




