実際に目にすれば、さらに鍛えようって思うよね
「待ってくれ」
一声かけて、「煌々明媚」をとめる。
「どうした? 何かあったのか?」
ジーナさんがそう声をかけてくる。
俺は少しだけ考えてから口を開く。
「……探しているミスリル鉱石――ミスリルの特徴を教えてくれないか?」
「特徴? そう言われても、専門家ではないし、詳しくは知らないが?」
「知っているだけでいい。俺もうろ覚えというか、それが合っているか確認したいだけだ」
「そうだな。銀のような輝きに、鋼を超える強固さ……あとは、魔法、魔力との融和性が高い、という辺りか?」
それだ。
俺のうろ覚えの中にもそれがあった。
「ミスリル鉱石がここ――地下四階で取れるのは間違いないんだよな?」
「ああ。何度も採掘されている。寧ろ、国内で産出できるのはここだけだ」
尋ねたら直ぐ答えが返ってくるのはありがたい。
なら、先ほどの感触――僅かだが魔力が吸われた感触が間違いでないのなら、その先にあるのはミスリル鉱石である確率は高い。
「少し、時間をくれ」
そう伝えると、俺の態度から何かあると察したのか、「煌々明媚」は何も言わずに周囲の警戒を始める。
邪魔しないように、ということかな。
ありがとう。
時間をかけると、魔物や他の冒険者に邪魔されるかもしれないので、早々に確認を始める。
吸われる感触はまだある。
本当に微々たるモノで、正直なところ吸われているのに気付けたのは偶々――あるいは、先ほど他の冒険者に見つかったと言うジーナさんの言葉から警戒を強くしていたので、その影響があったのかもしれない。
ただ、吸われる感触の先を見ようにも、空中に霧散するようで朧気である。
なら、もっとわかりやすくと、身体強化魔法の要領で魔力を体にではなく、外に放出する。
すると、目には見えないが、感覚としてはハッキリと伝わってきた。
別に隠す訳ではないので、情報を共有する。
「……魔力が吸われている?」
俺から話を聞いたジーナさんが、魔法使いのアンさんに向けて、どう? と確認の視線を向ける。
魔法使いのアンさんは少しだけ黙したあと、首を横に振った。
「嘘ではないから」
即座にそう言ってしまうのは、仕方ないだろう。
「別に疑ってはいない。感覚の話となると、それは個人の資質によるモノだからな。アンよりもアルムの方が魔法、魔力に対する関知能力が高くても不思議ではない。寧ろ、そうだと決め付ける方が危険だ」
そこまで大層な話ではないと思うのだが。
ただ、それはジーナさんだけではなく「煌々明媚」全員の意見のようだ。
「それに、結局のところ、こちらも大した指針がある訳じゃない。地下五階への階段に近い方がレアな鉱石が出やすい、というだけだ。それに、この話は誰もが知っていることだから、その分近付けば近付く分だけ他の冒険者たちと接触する確率は高くなる。今の状況なら、それは危険度が増すばかり。それなら、アルムの感覚の方を信じてみるのも一つの手というだけだ。なんといっても、アルムは凄腕魔法使いだからな」
まあ、俺の魔法の元となっている人たちが尋常ではないので。
魔法も。見た目も。
「ただ、こちらが見られたのも事実。確認するなら、急いだ方がいい」
その意見には誰しもが賛成なので、早速魔力が吸われている方へ向かうことにした。
幸いだったのは、人の行き来がなくて荒れたところを通らなかったことだろう。
また、地下五階への階段に近付かない道のりだったので、他の冒険者とも出会わない。
ただ、「煌々明媚」が上手く跡を消していたようだが、それも時間の問題だと言っていた。
そうして辿り着いたのは、岩山の中腹辺りにできた洞窟。
自然にできたモノのようだが、ここまで道ができていたので、多分探索と発掘はされたあとだと思う。
吸われる魔力は洞窟の中に続いているので、そのまま中へ。
洞窟の中を少しばかり進むと、広大な空間に出た。
何もない空間で、周囲の壁にはたくさんの穴が開けられている。
「採掘済み、だな」
ジーナさんがそう言う。
確かに、その通りだ。
穴は見逃しがないようにか、等間隔で開けられ、内部を覗いてみてもしっかりと掘られていた。
「かなり採掘されているな。ここにはもう何もなさそうだが?」
ジーナさんだけではなく、他の人たちも同じ判断のようだ。
俺はこの空間内をゆっくりと一蹴して確認し、間違いないと一つ頷く。
「確かに何もなさそうだ。何も残っていないくらいたくさん掘られている。……ただし、ここはまだ掘っていない」
俺は空間の中央辺りに立ち、下――地面を指差す。
「この下に向かって魔力が吸われている。ここに立つと勢いが増しているように感じるから、多分そう深くない」
間違いないと頷き、「煌々明媚」からも頷きが返される。
早速掘り始めた。
俺もやってやるぜ! と思ってやったが、明らかに俺よりも「煌々明媚」の方が掘る力が強く、速い。
「煌々明媚」の中で、もっとも非力そうな魔法使いのアンさんですら、俺よりも上だ。
……あれ? 身体強化魔法は使って……なさそうだ。誰も。
もっと体を鍛えようと思った。
そして、そろそろ深さが胸に届きそうなくらいになった時――ガキン! とジーナさんの振るったシャベルが甲高い音を上げる。
『………………』
全員で黙ったまま目配せし合い、一斉だが丁寧に掘り出す。
掘り出されたのは――銀色に輝き、直径が手から肘まではある大きさの楕円形の鉱物。
この鉱物が魔力を吸い取っていた。
輝きや特性から、これがミスリル鉱石だと思うが、問題は――。
「これ、は……どのくらいの大きさなんだ?」
基準がわからない。
必要なのは、確か極大。
「……だ、大丈夫だ。普通はもっと小さい。それこそ、これの半分くらいが大サイズだ」
「つまり……」
「私もこれほどの大きさの物を見るのは初めてだが、間違いなく極大と言える」
全員で、やったー! と喜ぼうとした時――。
「わざわざ掘り出してくれてありがとう。さあ、それを寄こしてもらおうか」
そう声をかけられた。




