お願いされたから、お願いしてもいいよね?
どうやら、リユウさんは俺に何かをさせたいらしい。
「なるほど。悪くない手ではありますね。アルム殿が功績を挙げ、そのアルム殿がギルドマスターとのやり取りを然るべき場所と時で口にすれば、間違いなく問題になります。少なくとも、ギルドマスターとして相応しくない、と大きな声で言えるようになるでしょう。そうなれば」
「ああ、狙い通りなら、王も動けるようになっている」
盛り上がり始めるシャッツさんとリユウさん。
いや、当の本人である俺が置いてけぼりですが?
しかも、この国の王が動くとか、話が大きくなっていない?
それに、そもそもの話として――。
「そんなに上手くいくか? 功績なんて挙げようとして挙げられるモノではないだろ。それに、王が動くとか」
「それは問題ない。当てはある。寧ろ、それで一気に解決するのだ」
リユウさんがニヤリとする。
そんなのがあるのか?
「『ミスリル鉱石(極大)の入手』だ」
ん? なんかそれ、聞き覚えがあるな……ああ、あれだ。
冒険者ギルドで張り出されていた依頼の中で、一つだけ異様だったヤツ。
「なんかあったな、それ」
「憶えがあるのなら話が早い。それを成功させれば、功績と共に王へも話を通すことができる」
「そんな上手く……待て。解決するということは、その依頼は」
「ああ。あれは王家からの直接依頼だ。今のところそこまで緊急性は高くないが、できるだけ早く入手したいらしい。今王家はそれに関係することにかかりきりで動けないのだ。それでさらにアイツ――ギルドマスターの必要性が高まっているのも、こちらとしては不利な材料だ」
「どういうことだ?」
「あの依頼が達成できると思われる場所は、ダンジョン地下四階にある鉱山山岳地帯。そこに現れる魔物は、最低でもBランク――それもAランクに近いだけの戦力を保有していないと難しく、残念ながらここの冒険者ギルドに所属している冒険者の大半と、王家からの依頼達成にかかせないAランク冒険者はジーナ以外全員ギルドマスター側だ」
「あれが? そんな多くの冒険者を? そんな人望があるとは思えないが」
「人望は……ないだろうな。ただ、金と後ろ盾の力はある。大半は金、それで従わなければ脅迫、強要と手段を選んでいない」
「そこからギルドマスターに……辿れないようになっているから、こうなっているのか」
そういうこと、とシャッツさんとリユウさんから頷きが返される。
中々面倒な状況だ。
「それはつまり、自分たち以外は全員敵という状況の中で、どこにあるかもわからないミスリル鉱石を見つけないといけないのか」
「そうなるな」
それがどれだけ厳しいことかは、理解しているようだ。
……ん? 待てよ。基本的にAランクでなければ、ということは……まさか。
思わず、ジーナさんを見る。
「正解。あの時傷は魔物によるモノだが、その原因を辿れば地下四階で他の冒険者からの妨害を受けていたからだ。それで注意力が散漫になってね。まあ、私の想定が甘かったというのもあるかもしれないけどね」
なるほど。
「だから、だ。キミには、ジーナたち『煌々明媚』と協力して、ミスリル鉱石を先に採掘して欲しい」
真剣な表情で、そうお願いしてくるリユウさん。
リユウさんがジーナさんから話を聞いていたのなら、俺に期待しているのは攻撃力ではなく、防御力――火の鳥籠のような結界で「煌々明媚」を守る、もしくは相手を捕縛することかもしれない。
妨害なく採掘をして、持ち帰るために。
それはまあ、ギルドマスターをどうこうできるのなら協力してもいいが、それならこちらからも一つお願いしてみてもいいかもしれない。
ここの冒険者に関しては、俺より知っているのは確実なのだから。
「わかった。受けてもいい。ただし、俺からもお願いしていいか?」
対象は、リユウさん。
「なんだろうか? 命の危険があるところに向かわせるのだから、私も可能な限り対処しよう」
「過去に居た冒険者パーティ『暁の刃』について調べて欲しい。どういう経歴で、どのように生きたのかを」
俺のお願いに、リユウさんは少しだけ考えて答える。
「その『暁の刃』とは、英雄冒険者パーティ『蒼空の剣』の前身となったパーティのことか?」
「英雄? 『蒼空の剣』?」
寧ろ、そっちの方がわからない。
ただ、その英雄冒険者パーティについて聞くと、間違いないようだ。
「ああ、そのパーティのことで問題ない」
英雄、ね。
随分とまあ、上手くやったもんだ。
「わかった。それなら詳しい者が居る。それこそ非常にな。今は護衛依頼で外に出ているが、戻り次第、その者を紹介して、話ができるようにすることを約束する。もちろん、私の方でも情報を纏めておこう」
「それで充分だ」
どうやら、今度は「煌々明媚」と共にダンジョンに赴くことになるようだ。
そこで、思い出す。
「これは、功績にならないか? といっても、渡すのはシャッツさんに、だが」
そう前置きしてマジックバッグから取り出すのは、ラビンさんに持たされたシャッツさんへの手土産。
まず、たくさんのスライムの核。
「ふむ。ここらで見ないスライムのもあるようですね。様々な用途に使えそうです」
「ゼリーの方はないのか?」
リユウさん。ゼリーの方は一切ない。
すべて使われた。
次に、ミノタウロス数体。
「ふむ。綺麗に仕留められていますな。素晴らしい」
「肉もたくさんだな! ところで、どうしてどれも骨の一部がないんだ?」
ジーナさん。骨がないことには触れないように。
炙られただけだから。
あと、薬草類。
「おお! 素晴らしい薬草類ですな! どれもこれも高品質ですし、薬師が喜びます!」
「数もあるし、いくつか冒険者ギルドに回してもらえないか?」
「回復薬が増えるのはありがたいな」
喜んでくれて何よりだが、多分本当はもっと多かったと思う。
濃縮するのにどれだけ消費したのかは……考えたくない。
あといくつかあったが、結果として、功績としては弱いらしいが、大層喜んでくれた。
というか、これ……ラビンさんが押し付けた訳じゃないよな?




