使わなくても必要なモノはある
ラビンさん、カーくんと別れ、ボス部屋を出てスケルトンたちの居住区へと向かう。
案内されるままに通路を少し進むと、行き止まりにぶつかった。
「この先じゃ」
そう言って、無のグラノさんが壁の一部を押すと凹み、ゴゴゴ……と大きな音と共に正面の壁が横にずれていき、奥へと進む新たな通路が現れる。
「念のために隠しているのさ。といっても、ここまで来れるヤツなんて居ないだろうけど」
「無理でしょうね。人がその身でくることができるような階層ではありません。まあ、何か特別な力、もしくは人の枠を超えた人であれば、可能かもしれませんが」
風のウィンヴィさんと闇のアンクさんがそう教えてくれながら通路を進んでいく。
他のスケルトンたちも同様に進んでいくため、俺もあとに続いた。
通路を進んだ先にあったのは、まるで貴族の屋敷にあるリビングのような広い場所。
中央には円卓が置かれ、七脚の椅子がその周囲に置かれている。
また、床には絨毯が敷かれ、煩わしくない程度に調度品も置かれていた。
その中には本がたくさん置かれた本棚もあり、リビングなのは間違いなさそうだが、他にも休憩所とか集合場所とか、そう言った意図もありそうだ。
それに、というか、ここにあるモノはどれでもが公爵家の屋敷にあるモノよりも、かなり上等な……それこそ段違いのように見える。
「ここが私たちの集合場所です」
「基本的に、ウチたちはみんなここに居るし、大抵誰かしら居るわよ。あなたも好きに使っていいからね」
水のリタさんと土のアンススさんが、あれはそこ、そっちと簡単に教えてくれる。
その中に、部屋続きで台所のようなところがあって、他にもお風呂、トイレと、家として一通りのモノが揃っていた。
「台所、風呂はまあ納得しても、トイレ?」
スケルトンとはいえ、女性にそのような視線を向ける訳にもいかないので、男性陣の方に必要なのか? と視線を向ける。
「使う訳ねえだろ。雰囲気だよ、雰囲気」
火のヒストさんがそう言ってきたが、まあそうだろうな、と思っていた。
ただ、これはどちらかといえば些細な問題であり、最大の問題というか疑問がある。
「ここはダンジョン最下層なのに、どうしてこんなに豪華というか、立派というか、色々と取り揃えられているんだ?」
どう考えても、ダンジョンの外から持ってこれるような場所ではない。
それに、持ってこれたとしても、持って入る姿が不自然過ぎて目立つ。
そのような者が居れば話のタネになっていただろうし、広まるのは間違いない。
なのに、そんな話を聞かなかったとなると……。
「そうか! ここに居る数人だけで建築したのか。だが、ここまで建築するとなると時間がかかってしまう。その間に人からスケルトンに――」
『違うわ!』
どうやら違ったらしい。
それなりに当たっている推測だと思っていたのだが――。
「なら、大きなモノを運んでも目立たない、そんな運搬系のスキル、とかか?」
俺のなりの推測を口にしてみるが、無のグラノさんが違うと首を振る。
「そういうスキルもない訳ではないが、違う。すべてラビンが用意したのじゃ」
「ラビンさんが?」
「うむ。言っておったじゃろう? 己はダンジョンマスターだ、と」
「それが関係しているのか?」
「ダンジョンマスターはダンジョンを管理、支配している。それはつまり、内部を好きなようにいじれるということじゃ。それで色々と用意してもらっての。その中にはワシらの個室もある」
無のグラノさんが指し示すのは、リビングから続く七つの鍵付き扉。
自分の個室であると、それぞれネームプレートが扉にかけられていた。
「しばらくは居るのだし、お主の部屋もあとで用意してもらわんとな」
俺の部屋もあとでできるようだが、そんな簡単に用意できるのだろうか?
まあ、できるから言ったのだろう。
そう納得して、室内の説明を一通り聞き終わると、本題に入る。
俺の頑張り次第で早く出られるかもしれないというヤツだ。
全員が円卓の椅子に座り――。
「いや、俺の椅子はないよな?」
「おお、そうじゃったな。今、用意を」
「これはアレか? 若いんだから立っておけということか?」
きっとそうだと頷く――あれ? 今、無のグラノさんが何か言って――。
「そういうことならウチね! この中で一番若いモノ!」
土のアンススさんが立ち上がる――が、その動きに先んじて水のリタさんが立ち上がっていた。
「何を馬鹿なことを。私に決まっているでしょう」
「はあ? ウチよりずっと前からスケルトンになっていたくせに!」
「フッ。スケルトンになる前はあなたよりも若かったですよ」
「ああん? どうせ色気なしで、言い寄る男も居なかったんでしょ?」
「どうせあなたはところ構わず色気を振り撒いて騒動を起こしていたんでしょう? それよりはかなりマシだと思いますが?」
土のアンススさんと水のリタさんの睨み合いが始まる。
バチン、と火花が散ったような気がした。
スッ、と光のレイさんが立ち上がる。
「……見た目で一番若いのはワタシ」
「「エルフだからでしょうが!」」
そのまま女性陣が取っ組み合いを始める。
う~む。どうしたものか。
「放っておけ。いつものことだ。とめてどうにかなるモノでもないし、無駄だ」
火のヒストさんが、無駄無駄と手をひらひらと振る。
他の男性陣も同意見のようだ。
「そうじゃの。先に説明を始めてしまおう」
無のグラノさんがそう言って空いた椅子に座るように促してきたので、座って説明を受ける。