一人だけでは入りづらい場所ってあるよね
冒険者の国・トゥーラ。
その王都・レゾールに戻ってきた。
空の旅で便利だと思うことの一つは、方向さえわかれば迂回せずに進めることだろう。
このように迷わず辿り着くことができる。
まずは何をしようかと思った時、そういえば……と、ラビンさんから手土産を渡されていたのを思い出す。
まずはシャッツさんに渡しておこうかと、ローヴィシュ商会へ向かう。
店内に入ると早速シャッツさんの姿を見つけたので声をかける。
「どうも。数日振りで」
「おお! アルム殿! 丁度良かった。本日お暇ですかな?」
「え? あ、まあ、戻ってきたばかりなので、特に予定はありませんが」
「それならば、本日の夜にリユウ殿――冒険者ギルドの副マスターと食事を共にする予定なのですが、アルム殿もご一緒にどうでしょう? リユウ殿はアルム殿に感謝を伝えたいようですし」
冒険者ギルドの副マスターが? 俺に?
何かあったっけ?
「お忘れのようですが、『煌々明媚』を救ったお礼がしたいのかと」
シャッツさんからそう言われて思い出す。
ああ、そうだった。
冒険者パーティ「煌々明媚」のリーダーであるジーナさんから、そんなようなことを言われていたな。
確か、ジーナさんの旦那が、その副マスターだったはず。
「思い出した。わかった。行こう」
今日の夜と言ってもあと少ししたら陽が落ちそうなので、一度宿を取り前回使用した宿に部屋を取って、そのあとはシャッツさんの店に戻って中を物色しながら待った。
―――
シャッツさんと共に向かったのは、高級だと思われる飲食店の奥。
明らかに秘密の話がされていそうな個室だった。
高そうな大きなテーブルが置かれ、それを囲うように置かれている椅子も高そうだ。
先にこちらが着いたようなので、座って待つ。
まず俺一人であれば、絶対に入らないな、こんなところは。
味の良し悪しではなく、雰囲気に慣れない――なんてことを考え始めたところで、相手側が現れた。
以前助けたジーナさんと、そのジーナさんと腕を組んで現れた一人の男性。
黒髪のオールバックに、三十代ほどの端正な顔立ち。
痩せ型だが仕立てのいい服を身に纏っている姿が、妙に様になっているというか、雰囲気……凄みのようなモノが感じられる。
様子から、この人物が冒険者ギルドの副マスターなんだろうが、冒険者ギルドマスターよりもマスターとしての雰囲気がある。
また、ジーナさんは以前見た戦士の装いではなくドレス姿で、非常に似合っていた。
「漸くお礼が返せるな」
「どうも。ジーナさん」
会釈と共に答えると、連れの男性がジーナさんに確認を取る。
「彼が?」
「そう。文字通り、命の恩人よ」
「そうか」
連れの男性がこちらに来て、俺に向かって頭を下げる。
「ジーナの命を救っていただき、本当にありがとう。キミのおかげでジーナが居ない人生を歩まなくて済んだ。今こうしてジーナと共に居て、幸せを感じられるのもキミが助けてくれたおかげだ。ありがとう。もし、ジーナが居なくなっていれば、そんなことは考えたくもないが、これからの人生を歩む気もなかった。そうなるとキミは私の命の恩人でもある訳だな。私の命も救ってくれて、ありがとう」
「は、はあ」
とりあえず、ジーナさんのことが大好きなんだな、ということはわかった。
あと、圧が強い、ということも。
大半はわかってないけどわかったから、落ち着いて欲しい。
そうして、改めて紹介される。
連れの男性が、ジーナさんの夫であり、冒険者ギルドの副マスターである「リユウ」さん。
俺のことは「煌々明媚」からだけではなく、多分シャッツさんからも聞いていると思うが、改めて名乗った。
「通りすがりの凄腕魔法使い、アルムだ」
「本当にそう名乗っているのか。しかし、実際にジーナが助けられたのだから嘘偽りではない。それに、キミが冒険者ギルドに現れてからの経緯は聞いている。だからこそ、副マスターとしては非常に残念。キミのような存在が冒険者でなくなるのは……」
そう言うリユウさんから怒りが発せられる。
「キミのことといい、ジーナのことといい……あのクソや――失礼。ギルドマスターには早々に退いてもらわないといけませんね」
見ようによっては凄惨なように見える笑みを浮かべるリユウさん。
冒険者ギルドマスターに関しては、自分も同じ意見であるとシャッツさんも頷いている。
こっちはこっちで、どこか悪い笑みを浮かべているように見えた。
ジーナさんに、こそっと尋ねる。
「俺のことは自分のことなのでわかるが、ジーナさんのことって?」
「ああ、まあ……なんだ。あの時、私が大怪我を負っていたのも、元を辿ればギルドマスターに辿り着くのさ」
ジーナさんはなんでもないように答える。
え? いや、それって結構重要な――。
「そう! だからこそ、絶対に許さん! それでなくとも、アイツは――」
ジーナさんの言葉が聞こえていたのか、冒険者ギルドマスターに対する怒りというか、殺意のようなモノを発するリユウさん。
そんなリユウさんに、ジーナさんが声をかける。
「落ち着け。それに、これから食事をするんだから、アイツの話題ばっかりだと飯が不味くなる」
ジーナさんがリユウさんを席に座らせて、その隣にジーナさんが座り、まずは食事を始める。




