一度あったのなら、二度目だってある
無のグラノさんたちの居住区で、円卓を囲んで考える。
「さて、アルムが受け継げるようになったのは良いことじゃが、問題は誰を受け継がせるか……」
ふむ……と、無のグラノさんが顎に手を当てて考える。
俺が誰かを選べる立場にあるとは思わないというか、何がどう作用するか、まだ全部把握していない。
できれば、やはり火属性で火災を心配したので、それをどうにか解決できる属性がいいのだが……。
俺も一緒に考えていると、火のヒストさんが口を開く。
「しかし、あのダンジョン、まだあったんだな」
「知って……て、記憶の中にあるな。入っていた頃のが。これは……駆け出し?」
「まあな。あそこの地下一階は弱いのしか出ねえし、冒険者成り立てが慣れるのや、武器や魔法の練習をするのにうってつけだからな。しかし、俺が生きていた頃でも地下五階までしか踏破されていなかったが、まだ一階分しか進んでないとはな。完全踏破はいつになることやら。まあ、そう言う俺も、生前は地下三階までしか進んでいないが」
確か、まだ地下六階までしか到達していないんだったな。
それなら、火のヒストさんの言う通り、完全踏破は時間がかかりそうだ。
「だからこそ、そこの厄介さはわかる。アルムも、俺の記憶を引っ張り出せばもう少し上手く動けただろうに」
「いや、それは、なんと言えばいいか」
「まっ、それでいいと思うぜ。いくら記憶があろうとも、アルムは俺じゃない。代理でもない。大事なのは、アルムがアルムとして経験することだ。記憶に引っ張られたり、利用し過ぎたりってのも詰まんねえ。それに、知らないことを知るってのは楽しいからな」
火のヒストさんが笑みを浮かべたような気がしたので、俺も笑みを返す。
その通り、と無のグラノさんたちも思っていそうだ。
「それで、アルムが気にしてんのは地下三階だったな。確か森で……確かに、俺の火属性で魔力操作が甘いと、一気に森林火災まっしぐらだな」
納得するように頷く火のヒストさんに頷きを返す。
「……なら、俺が提案するのは『光属性』だ。水や風って手もあるが、火が使えない状況で、光量を確保しつつ攻撃できるとなると、光属性が一番だ」
火のヒストさんの言葉に全員納得を示し、次に受け継ぐ属性が決まった。
光属性――光のレイさんの記憶と魔力を受け継ぐ。
―――
目的を話していたので、既に準備はできていた。
ボス部屋に集まり、描かれている二つの魔法陣の上に俺と光のレイさんが立ち、二つの魔法陣を繋ぐ光り輝く線の上にラビンさんが立つ。
初めて見ることになる母さんとリノファには、無のグラノさんとカーくんが説明していた。
「それじゃ、サクッといくよ!」
ラビンさんが鼻歌を歌いながら、そこに何かがあるように空中で両手を動かしていく。
前回も見た光景だ。
光のレイさん側の魔法陣が大きく輝き――。
「いいね? レイくん」
「……いつでもどうぞ」
その言葉を合図に光のレイさん側の魔法陣の輝きが収まっていき、代わりに線の部分に強く輝く球体が描かれ、その球体が俺の方へ移動し、今度は俺側の魔法陣が輝き出す。
これも前回と同じく、何かが俺の中に流れ込んでくる。
腹部の辺りが熱を持ち、頭の中に何かが刻まれていき――俺は、光のレイさんの人生を駆け抜けていく。
それが一瞬だったのか、それとももっと時間がかかったのかは、再度体験してもわからない。
しかし、気が付けば俺は俺のまま、魔法陣の輝きが消えていた。
けれど、確かな実感として、俺の中に残っている。
――俺は、光のレイさんの魔力と記憶を受け継いだ。
「……大丈夫? アルム」
光のレイさんの心配そうな声に頷きを返し……動く。
「光よ」
両手を広げ、手のひらの先から光り輝く真っ直ぐな丁度いい大きさの棒を現出させる。
「輝きが」
その棒を握り、振れば輝きが火の粉のように舞う。
「暗闇の中で足元を照らし」
そのまま棒を振り続ける。
乱雑に見えて、規則的な――それこそ、武技の演武を披露するように。
「進むべき未来へと繋がらせ」
そのまま演武を続け、少しずつ動きを大きくしていく。
同時に、火の粉のような輝きの量も増していき、俺の周囲はぐんと明るくなる。
「心に煌めきを輝かせる」
円を描くように体を回し、同時に両手に掴んでいた棒をそれぞれ球体へと変えて、周囲を同じように回っている輝きの中へと混ぜ――両手を頭上に上げる。
「それはまさしく希望の光」
二つの球体が周囲を回る輝きを引き連れながら螺旋を描くように上昇し、頭上で衝突。
輝きに満ち溢れた火花が――。
――ポンッ。
ちいちゃく弾けた。
輝きは消えて、ボス部屋の中は普段の明るさに戻る。
先ほどまで輝いていた分、どこか暗くなったように見えなくもない。
「いや、その……もっとこう……派手に弾ける予定だったというか……」
「……まあ、失敗すると思っておったよ」
無のグラノさんたちが優しい雰囲気を醸し出している。
初見である母さんとリノファが居たから成功させたかった……。
恥ずかしい、と顔を両手で覆った。




