あとを託せる人が居ると、どこか安心する
「申し訳ございませんでした」
リノファが深々と頭を下げて謝る。
その相手は無事に自分の体――骨に戻った男性陣。
「大丈夫じゃよ、リノファ嬢ちゃん。ワシらは誰も気にしておらん」
「そうだな。こうして無事だった訳だし、それ以外はどうでもいいことだ」
「そうそう。それに、悲しい顔は見たくないな。ニカッと笑ってくれた方が、僕たちは嬉しいよ」
「案じる必要はありません。あれくらいの聖水でどうにかなる私たちではありませんから。寧ろ、この長い生の中で、これまで試したことがなかった経験でしたので、久々に新鮮な体験をさせていただきました。こちらこそ、ありがとうございます」
「「「そうそう」」」
闇のアンクさんの言葉に、無のグラノさんたちが同意するように頷く。
相手がリノファだからか、すっごく優しく接しているように見える。
というか、その新鮮な体験でそのまま昇天しそうになっていたと思うのだが。
対して――。
「では、これから評価を下します。まず、リタさま。噛み応えという着眼点に対して弾力を求めるのは間違いではありませんが、噛み切れないのはいただけません。弾力は感じられるが、噛み切ろうと思えば噛み切れる、丁度良い具合で弾力を留められるようにしましょう。それと、香辛料の過剰使用は……まあ、個人の自由ですので、場合によりけりです」
「……はいぃ」
「次に、アンススさま。硬さを選び、炙るのは……まあ、いいでしょう。香ばしくなりますし。ですが、骨だけというのはいただけません。せめて、もう少し彩りを添える、もしくは独自開発でも構いませんので、ソースなどをアートに描いて、視覚的に楽しませる演出を取り入れると、もっと良くなるかもしれません。どちらにしろ、骨だけなのはなしです」
「……はいぃ」
「次に、レイさま。健康まで考えての料理というのは大変素晴らしいです。飲料というのも、手軽に摂取できますし、それを選び取ったのは良い感性と言えますが、問題が一つございます。食せるようにすることこそ、料理。ただ、絞って濃縮しただけでは、少なくとも私は料理とは言えません」
「……はいぃ」
先ほどまではこちらと一緒に大慌てで無のグラノさんたちの蘇生――意識を戻すのに協力していたのだが、今は母さんから女性陣に向けて早速注意を行っている。
注意するのはいいことだが、微妙に間違っているような気がするのは……きっと気のせいだろう。
母さんが間違ったことを言うはずがない。
そして、そろそろ限界だ。
胃に今も残るスライムゼリーと濃縮葉物汁に、香ばしい骨の匂いが鼻孔を漂ったままで、そこに聖水騒動が重なったのだ。
胃の中が大変なことになっているのを感じる。
もう意識を手放しちまえよ、と本能が訴えている。
しかし、まだリノファの料理が残っているのだ。
残すのは母さんが許さない。
男性陣が無理な以上、俺が食すしかないと手を伸ばして……手を下ろした。
もう大丈夫だから。
大丈夫になった。
「あとはボクたちに任せて、アルムくんはゆっくり休んでよ」
「なあに、これくらい軽いわ。竜の我からすれば微量よ」
ラビンさんとカーくんが後を継いでくれるようだ。
俺は意識を手放しそうになる前に笑みを浮かべる。
「……母さん、二人が食べるって」
「わかりました。少々意見が足りないと思っていましたし、こちらの三人が作ったのもまだ残っています。最初から協力してもらいましょう」
「「最初から!」」
俺たちは仲間……仲間外れは良くないよな。
後は任せた、と親指を立てながら、俺は崩れ落ちた。
―――
無のグラノさんたちは普通だったが、俺、ラビンさん、カーくんは三日ほど寝込んだ。
寝込んでいた三日間の記憶はあまりないが、悪夢を見た時のように唸っていたらしい。
理由を思い出すと、味とか感触と同時に何かが呼び起こされるのでやめておこう。
その代わり、俺たちの絆はさらに深まったと思う。
「しばらく来なくてもいいか?」
『寧ろ、もっと頻繁に来なよ!』
お誘いが強いが、俺にその気はない。
スケルトン、人、竜……生贄の数を増やそうと画策しているように見えなくもない。
ただ、これよりは悪く……ならないと思いたいから、きっと今後は俺が居なくても大丈夫だろう。
効果の高い胃薬とか見つけておいた方がいいかもしれない。
そうして元気になれば、トゥーラ国での出来事を話し、ここまで戻ってきた目的を伝える。
冒険者ギルドマスターに関しては、全員怒ったのは間違いないが、鱗を提供してくれたカーくんが一番キレた。
国ごと滅ぼしてやろうかレベルであったため、みんなで宥める。
相対的に、シャッツさんの評判が上昇。
ラビンさんから手土産として、色々な魔物素材を渡された。
なんか、レアらしい。
そして――。
「……ふむ。だいぶ体もできたようだし、新しく受け継いでも問題ないじゃろ」
もう少しかかるかも? と思っていたが、大丈夫なようでホッと安堵した。
新しく記憶と魔力を受け継ぐ。




