狙い通りにことが進むと、自然と含み笑いが出る
「ちょっと貸してもらえるか?」
「これか? 別にいいぞ」
「煌々明媚」のジーナさんから折れた大剣を受け取る。
見事に折れていて、剣身の先がない。
「この剣の先は?」
「さあな。今もどっかに行った魔物の腹に刺さっているかもな」
それは今も刺さっているのなら痛そうだ。
剣身は折れているが、柄の方は問題なさそうに見える。
「……これなら大丈夫そうだ」
「大丈夫、とは?」
「こうする……『赤燃 灼熱が作られ 猛火が漂い 焼き斬る一筋の光 炎熱剣』」
火属性魔法を発動。
残った部分を残さないように慎重に魔力を流したが、今回は上手くいった。
大剣の柄部分から先――残った剣身部分となくなった先を含めて、炎の大剣が形成される。
「これで戦えるか?」
「おお……」
驚きで目を見開く「煌々明媚」のジーナさんに、炎の大剣を返す。
ゆっくりと掲げるように持ち上げ、感触を確かめるようにぶんぶんと振り出した。
ちょっ! あぶなっ! 火の粉が舞ってる!
「いいな、これ! どれくらいもつ?」
「そんなに長くはもたない。ただ、なくなりそうになれば、その都度俺が魔力を注ぐから、外までもたせることはできる」
「外まで付いてきてくれるのか?」
「元々、地上に戻ろうとした時に、光り輝く玉を見ただけだからな。それに、このような状況で放っていくほど薄情ではないつもりだ」
「そうか! 恩に着る! もし困ったことがあれば、私か冒険者ギルドの副ギルドマスターに言ってくれ! 力になる!」
「副ギルドマスター? ああ、副ギルドマスター派ってヤツか」
「いや、私の旦那だ!」
……え? 今なんて――。
「良し! なら、いつまでもこんな暗いところに居ても仕方ない! 脱出だ!」
リーダーである「煌々明媚」のジーナさんがそう言うと、仲間たちも早速行動に移す。
いやいや、待って。
さっきの旦那だって件をもう一回……聞き間違いではないよな?
そう思っている間に、「煌々明媚」の準備が整う。
「いつでもいいぞ!」
テキパキしていて、あっという間だった。
まあ、俺も特に準備は必要ないので問題ないが、でも――。
「正直に言って、俺の魔法は基本火属性のみで大規模になりがちだ。上ならまだしも、ここ――地下三階では使い物ならないと思うが大丈夫か?」
まあ、空を飛んでいくという手段がない訳ではないが、ここは行動を共にするべきだと思う。
すると、「煌々明媚」のジーナさんが問題ないと強気な笑みを浮かべる。
「安心しろ。私は『A』ランク。サラたちは『B』ランクだ」
わお。心強い。
火の鳥籠を解き、「煌々明媚」と共に地上を目指す。
―――
無双だった。
俺が――ではない。
「煌々明媚」のジーナさんが、だ。
さすがは「A」ランクというべきか、単純に強い。
単独の魔物であれば、何が出てこようが一斬りで倒している。
「凄まじいな! この炎の大剣の切れ味は!」
子供が新しい玩具を手にした時のように、「煌々明媚」のジーナさんが楽しそうに喜んでいる。
きっと俺に気を遣ったのだろう。
それに、「煌々明媚」のサラさんたちも、「B」ランクに恥じない強さを発揮しているし、長く共に戦っているのが見てわかる連携振りを発揮していた。
問題なく進むことができて、寧ろ俺の活躍の場は一切ない。
炎の大剣に適度に魔力を注ぐだけだ。
また、このダンジョンにも来慣れているのだろう。
進み方に迷いがなく、ほどなくして地上に辿り着く。
……フフフ。これが俺の狙い通りだと、「煌々明媚」は気付かなかっただろう。
何しろ、俺はこのダンジョン初日である。
地下三階まで来たはいいが、地上まで戻るまでの道なんてわからないのだ。
このダンジョンは広大だし、来た時以上の時間がかかっていてもおかしくない。
それを、こうして、ある意味最短で戻って来られたのである。
……本当に戻って来られてよかった。
確かに狙い通りだけど、「ありがとう」と感謝したい。
「ありがとう」
ダンジョンから出て直ぐ、「煌々明媚」に感謝の言葉を伝えた。
「助けてもらったのはこっちだが? 寧ろ、こちらが言うべきだろう。こうして戻って来られたのはアルムのおかげだ。感謝する」
「煌々明媚」のジーナさんからそう言われ、サラさんたちからも同じように感謝を伝えられる――というより、しっかりと感謝を伝えたいから、今度食事に誘われた。
副ギルドマスターに紹介したいそうだ。
俺も会ってみたいので、食事の話を受けた。
それで、この場は一旦お開き。
「煌々明媚」は冒険者ギルドに向かうそうなので、別れた。
俺も一旦宿に戻るが、こうしてダンジョンに入って、よくわかったことが一つある。
それは、一属性……火属性だけでは、使いどころが難しい場面があるということだ。
魔力操作の甘い今の俺では、特に。
……そろそろ大丈夫だろうと言われていたし、一度ラビンさんのダンジョン最下層に戻って、新たな属性を受け継いだ方がいいかもしれない。
大丈夫じゃなければ……そのままその場で鍛えればいいだけだし。
そうしようと思い、翌日には王都・レゾールから出て、ラビンさんのダンジョン最下層に戻るため出発した。




