表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
72/614

狙い通りにことが進むと、自然と含み笑いが出る

「ちょっと貸してもらえるか?」


「これか? 別にいいぞ」


「煌々明媚」のジーナさんから折れた大剣を受け取る。

 見事に折れていて、剣身の先がない。


「この剣の先は?」


「さあな。今もどっかに行った魔物の腹に刺さっているかもな」


 それは今も刺さっているのなら痛そうだ。

 剣身は折れているが、柄の方は問題なさそうに見える。


「……これなら大丈夫そうだ」


「大丈夫、とは?」


「こうする……『赤燃 灼熱が作られ 猛火が漂い 焼き斬る一筋の光 炎熱剣ファイア・ソード』」


 火属性魔法を発動。

 残った部分を残さないように慎重に魔力を流したが、今回は上手くいった。

 大剣の柄部分から先――残った剣身部分となくなった先を含めて、炎の大剣が形成される。


「これで戦えるか?」


「おお……」


 驚きで目を見開く「煌々明媚」のジーナさんに、炎の大剣を返す。

 ゆっくりと掲げるように持ち上げ、感触を確かめるようにぶんぶんと振り出した。

 ちょっ! あぶなっ! 火の粉が舞ってる!


「いいな、これ! どれくらいもつ?」


「そんなに長くはもたない。ただ、なくなりそうになれば、その都度俺が魔力を注ぐから、外までもたせることはできる」


「外まで付いてきてくれるのか?」


「元々、地上に戻ろうとした時に、光り輝く玉を見ただけだからな。それに、このような状況で放っていくほど薄情ではないつもりだ」


「そうか! 恩に着る! もし困ったことがあれば、私か冒険者ギルドの副ギルドマスターに言ってくれ! 力になる!」


「副ギルドマスター? ああ、副ギルドマスター派ってヤツか」


「いや、私の旦那だ!」


 ……え? 今なんて――。


「良し! なら、いつまでもこんな暗いところに居ても仕方ない! 脱出だ!」


 リーダーである「煌々明媚」のジーナさんがそう言うと、仲間たちも早速行動に移す。

 いやいや、待って。

 さっきの旦那だって件をもう一回……聞き間違いではないよな?

 そう思っている間に、「煌々明媚」の準備が整う。


「いつでもいいぞ!」


 テキパキしていて、あっという間だった。

 まあ、俺も特に準備は必要ないので問題ないが、でも――。


「正直に言って、俺の魔法は基本火属性のみで大規模になりがちだ。上ならまだしも、ここ――地下三階では使い物ならないと思うが大丈夫か?」


 まあ、空を飛んでいくという手段がない訳ではないが、ここは行動を共にするべきだと思う。

 すると、「煌々明媚」のジーナさんが問題ないと強気な笑みを浮かべる。


「安心しろ。私は『A』ランク。サラたちは『B』ランクだ」


 わお。心強い。

 火の鳥籠を解き、「煌々明媚」と共に地上を目指す。


     ―――


 無双だった。

 俺が――ではない。

「煌々明媚」のジーナさんが、だ。

 さすがは「A」ランクというべきか、単純に強い。

 単独の魔物であれば、何が出てこようが一斬りで倒している。


「凄まじいな! この炎の大剣の切れ味は!」


 子供が新しい玩具を手にした時のように、「煌々明媚」のジーナさんが楽しそうに喜んでいる。

 きっと俺に気を遣ったのだろう。

 それに、「煌々明媚」のサラさんたちも、「B」ランクに恥じない強さを発揮しているし、長く共に戦っているのが見てわかる連携振りを発揮していた。

 問題なく進むことができて、寧ろ俺の活躍の場は一切ない。

 炎の大剣に適度に魔力を注ぐだけだ。

 また、このダンジョンにも来慣れているのだろう。

 進み方に迷いがなく、ほどなくして地上に辿り着く。

 ……フフフ。これが俺の狙い通りだと、「煌々明媚」は気付かなかっただろう。

 何しろ、俺はこのダンジョン初日である。

 地下三階まで来たはいいが、地上まで戻るまでの道なんてわからないのだ。

 このダンジョンは広大だし、来た時以上の時間がかかっていてもおかしくない。

 それを、こうして、ある意味最短で戻って来られたのである。

 ……本当に戻って来られてよかった。

 確かに狙い通りだけど、「ありがとう」と感謝したい。


「ありがとう」


 ダンジョンから出て直ぐ、「煌々明媚」に感謝の言葉を伝えた。


「助けてもらったのはこっちだが? 寧ろ、こちらが言うべきだろう。こうして戻って来られたのはアルムのおかげだ。感謝する」


「煌々明媚」のジーナさんからそう言われ、サラさんたちからも同じように感謝を伝えられる――というより、しっかりと感謝を伝えたいから、今度食事に誘われた。

 副ギルドマスターに紹介したいそうだ。

 俺も会ってみたいので、食事の話を受けた。

 それで、この場は一旦お開き。

「煌々明媚」は冒険者ギルドに向かうそうなので、別れた。

 俺も一旦宿に戻るが、こうしてダンジョンに入って、よくわかったことが一つある。

 それは、一属性……火属性だけでは、使いどころが難しい場面があるということだ。

 魔力操作の甘い今の俺では、特に。

 ……そろそろ大丈夫だろうと言われていたし、一度ラビンさんのダンジョン最下層に戻って、新たな属性を受け継いだ方がいいかもしれない。

 大丈夫じゃなければ……そのままその場で鍛えればいいだけだし。

 そうしようと思い、翌日には王都・レゾールから出て、ラビンさんのダンジョン最下層に戻るため出発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ