予想外の効果を発揮するモノだってある
敵ではないとわかってもらうため、俺は決定的なことを口にする。
「話は少し聞こえていた。俺も冒険者ギルドマスターはクソ野郎だと思っている!」
笑顔で親指を立てる。
「話のわかるヤツだな!」
女性戦士もニカッと笑って親指を立てる。
傷が痛そうだから無理にしないでも構わないが、やってくれたその気持ちは嬉しい。
ただ、女性剣士、女性射手、女性魔法使いからはまだ警戒されている。
「大丈夫だ。私の勘も特に反応してない。少なくとも敵ではないよ」
女性戦士がそう助言してくれると、三人の警戒が少し緩む。
「……まあ、ダークウルフの突進を揺らぐこともなく防ぐ魔法を放てるのなら、そもそもこんな風に現れる必要はないわね。不意の一発でやられていてもおかしくなかったわ」
女性魔法使いがそう言って、杖を下ろす。
女性剣士と女性射手も武器を下ろし、とりあえずこれで話はできると、俺は内心でホッと安堵。
でも、話をする前に女性戦士に一つ確認。
「その傷は治せないのか?」
「生憎と回復薬は使い切ってしまってね」
なるほど。
今度は女性魔法使いに尋ねる。
「魔法は?」
「……回復魔法の使い手ってこと? そんな希少な存在はこのパーティには居ないわ」
希少だったのか。
まあ、俺も今は使えないが。
しかし、こうして助けに入った訳だし、できることなら女性戦士には助かって欲しい。
魔物の方は火の鳥籠で結界を張っているようなモノだから問題ないが、女性戦士の傷は近くで見るとより深刻さがわかる。
どう見ても、地上に戻るまでもたなそうだし、回復薬があったとしても複数本は必要そうだ。
顔面も蒼白だ。
どうしたものかと考えた時、ふと頭の中を過ぎったのは、リノファのこと。
正確にはかけられていた呪いを一発で解呪した、ラビンさん印の状態異常回復薬である。
あの時、その前に試したというのは失敗していた訳だし、それを踏まえると、ラビンさん印はかなり効果が高いのかもしれない。
試してみる価値はあると、俺はマジックバッグからラビンさん印の回復薬を取り出し、女性戦士に投げ渡す。
「回復薬だ。飲んでくれ」
「ありがたいね。これで少しはまともになるよ……」
普通は疑うと思うのだが、そんな素振りは一切見せずに、女性戦士は一気に飲み干した。
寧ろ、女性戦士の仲間たちの方が慌てたくらいである。
「……うっ!」
女性戦士が空になった瓶を落として、お腹を抱えるようにして呻く。
何を飲ませた! と女性戦士の仲間たちから射殺さんばかりの視線を向けられるが――。
「治ったーーー!」
ガッツポーズのように片腕を上げてそう言う女性戦士。
顔色が良くなり、腹部の傷も完全に癒えている。
綺麗な筋肉が……いや、この思考は危険だ。
一度沼れば、恐らくもう二度と抜け出せない。
「「「うえええええっ!」」」
驚く女性戦士の仲間たち。
気持ちはわかる。
命に関わりそうな深手だったのに、俺も一本で治るとは思っていなかった。
女性戦士に近寄って、本当に大丈夫かどうかを確認し出す女性戦士の仲間たち。
「……確認が終わったら、とりあえずここから出るまでの相談をしようか」
確認に忙しそうなので、聞こえているかどうかはわからない。
ただ、こうしている間も、火の明かりで目立っているのは間違いないので、暗闇の中から魔物が次々と現れて火の鳥籠に当たってやられている。
落ち着ける環境に早く戻りたい。
―――
「悪いな、待たせて」
落ち着いた仲間を引き連れた女性戦士がこちらに来たので、立ち上がる。
「いや、そこまで待ってない」
ちょっと座って、そろそろラビンさんの本でも読もうかな? と思っていたくらいだ。
まずは自己紹介し合う。
俺の名を告げ、女性戦士はジーナさん、女性剣士はサラさん、女性射手はケイトさん、女性魔法使いはアンさんで、パーティ名は「煌々明媚」だということを知る。
――ついでに、冒険者ギルドマスターをクソ野郎認定した話もした。
「あっはっはっはっ! そのままボコッちまえば良かったのに! しかも、冒険者辞めて商人登録とはね! こんな魔法を使えるんだ。冒険者ギルドは有能な人材を逃しちまったようだね」
女性戦士のジーナさんが豪快に笑う。
今思えば、それもその時にボコッてしまえば良かったと思わなくもない。
それ以上の話は、まずはここから出てからとなった……が、ここで問題が一つ。
「ここから動かせない?」
「ああ。いや、正確には、俺が作り出している訳だし、火の鳥籠を動かしながら移動することはできるが、大きさならまだしも形は変えられない。よって、このまま進めば間違いなく森林火災一直線だ」
俺の回答を聞き、う~ん……と「煌々明媚」の面々が唸る。
ジーナさんがポッキリ折れた大剣を手に持つ。
「せめて、私の武器が無事であれば、強引にでも突き進むことができるんだが……」
武器さえあれば、か。
………………どうにかできるかもしれない。
少なくとも、俺の魔法をここでぶっ放すよりはマシだろう。




