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賢者巡礼  作者: ナハァト
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それだけで連想できることだってある

 地下三階は森だったが、ただの森ではなく――夜の森であった。

 森というだけでも見通しが悪いのに、月明りがそれほど強くない夜となれば尚更で、先の方はほぼ見えない。

 地下二階――草原が青空の下だっただけに、より暗さが強調されている。

 ……さて、どうしたものか。

 今、俺の中には、このままなんの準備もなしに進んだ場合の明確な未来が見えている。


 暗闇の中から突然魔物が現れる。

   ↓

 驚きつつも流れるような動きで華麗に反撃の魔法を放つ俺。

   ↓

 魔力量を過剰に注ぎ、森林火災を起こす。


 ……間違いない。

 それがわかって進むのは愚かだろう。

 特にこれといった目標もなく、どのようなものなのかを確認しにきただけなので、今回はここで引き返した方がいい気がする。

 それに、帰り道……わからないんだよな。

 適当に進んできたツケのようなものだ。

 外に出られるまで時間がかかるかもしれないし、一旦戻ることにして振り返ろう――とした瞬間、本当に僅かだが頭上が少し輝く。

 何事かと上を見れば、光り輝く玉が上に向かって飛んでいき、そのまま弾けた。

 一度だけではなく、それこそ自分たちの位置を知らせるように定期的に何度も同じ方角から。

 仲間への合図? と思ったが、こんな暗闇の中では僅かな光量でも目立つのだから、魔物を引き寄せる結果になるのは間違いない。

 そのような危険な合図は普通しないと思うが、逆に考えれば……もしかすると救援を求めている……可能性はある。

 ………………。

 ………………。


「ああ、もう」


 これで救援だった場合、寝覚めが悪くなる。

 幸いというか、夜空の中であれば飛んでも見つけづらいだろう。

 確認するだけでも――と俺は竜杖に跨って光り輝く玉が上がっている場所に向かった。


     ―――


 向かう途中で光り輝く玉は上がらなくなったが、近付けば森の中で光っている場所があるので、そこだと向かう。


「魔物は!」


「近付いてくる気配があるわ! もう直ぐそこまできてる!」


「それが人ってことは?」


「唸り声を上げているのが人なら希望通りね。ついでに、息も荒そうだけど」


「くそっ! なんだってあんなのがここに居るのよ!」


 森の中。

 光り輝く玉を中心にして、全員見目麗しい女性四人組が居た。

 全員二十代から三十代くらいで、見た目で言えば青い長髪の女性戦士、黒い短髪の女性剣士、金色の長髪の女性射手、赤い長髪の女性魔法使い。

 その中で女性戦士が怪我を負っているのが見えた。

 腹部を上から押さえているのに血がドクドクと流れ出ていると、かなりの深手なようだ。

 女性剣士と女性射手は強張った表情で周囲の様子を窺っているのだが、女性魔法使いが少し落ち込んでいるように見える。


「……ごめん。私を庇ったばっかりに」


 なるほど。

 どうやら、女性魔法使いを庇って、女性戦士は深手を負ったようだ。

 女性戦士はなんでもないように笑みを浮かべる。


「謝るんじゃないよ。仲間なんだ。あの状況は誰が狙われていたっておかしくなかったし、もし私が狙われていたなら、同じように庇ってくれただろ?」


「当たり前でしょ」


「なら、この怪我のことは気にしなくていい。今気にするべきは、今後のことさ。私がこれじゃあ、お荷物でしかない。私を置いてさっさと逃げな」


「「「できる訳ないでしょ!」」」


 女性戦士の言葉を、他の三人が全力否定した。


「その気持ちだけで充分だよ。あんたたちだってわかっているだろ? 地下三階で通用する冒険者のほとんどは、あのクソ野郎の子飼いだ。それに助けられたなんてことになれば、それを理由に何をされるか……下手すりゃ奴隷だ」


 クソ野郎……子飼い……あれ? 思い当たる人物に心当たりがあるぞ。


「でも、それじゃあ、ジーナが助からないでしょ! それに、他の関係ない冒険者が来る可能性だって――」


『ウオオオオオンッ!』


 女性魔法使いが言い切る前に、複数の狼のような遠吠えが周囲に響く。

 女性剣士、女性射手、女性魔法使いが遠吠えに反応して身構える。

 いつ強襲されてもおかしくない状況になり――俺も動く。

 女性四人組の頭上から下りていき、光り輝く玉の近くに着地――した瞬間に女性四人組が俺に向けて身構える。

 女性戦士も怪我をしているのに大剣らしきモノを俺に向けてきた。

 らしき、なのは、大剣の剣身が中ほどからポッキリと折れているからだ。


「敵ではない! 少なくとも魔物ではない!」


 開口一番にそう口を開く。

 女性四人から向けられる強い敵意がつらい。

 でも、今は誤解を解く時間がないのだ。


「説明はあと。今はこっち。『赤燃 自由を奪い 羽ばたくことを禁じ 飛び立つことは叶わない ファイア鳥籠バードケージ』」


 檻の方ではなく鳥籠の方にしたのは、檻は基本的に対集団用で大きく、間違いなく森林火災を起こすことになる。

 対して鳥籠の方であれば、魔力量を注げば大きくできる――それこそ結界のように。

 実際、火で形成された鳥籠が、俺と四人組を内部に閉じ込めるように展開した。

 そこに、周囲の暗闇の中から狼型魔物が数体突っ込んできて火の鳥籠に当たり、突き抜けることなく燃え尽きていく。

 女性剣士、女性射手、女性魔法使いは呆気に取られていたが、女性戦士だけは俺を見て尋ねてくる。


「何者だ、あんた?」


「通りすがりの凄腕魔法使いだ。とりあえず、これで話す時間はできたな」


 あとは、本当に敵ではないとわかってもらうだけだ。


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