素直に受け取っていいモノだってある
……商人になった。
いや、正確には商業ギルドに登録した、だ。
商業ギルドも冒険者ギルド同様世界各国に点在する一組織であり、その商業ギルドカードは冒険者ギルドカードと同様の効果を発揮する。
シャッツさんの提案だが、身元保証があった方が動きやすいのは間違いなく、これでダンジョンに入ることもできるそうなので、冒険者ギルドではもう登録できないだろうし、商業ギルドで登録することにしたのだ。
商業ギルドに辿り着く前に軽く説明を受け、冒険者ギルド・トゥーラ国本部よりも大きくて豪華な商業ギルド・トゥーラ国本部に驚きつつ、少しばかり緊張したが、登録の手続きは全部シャッツさんがやってくれた。
商売品目とか、商業ギルド登録料などが必要だったが、そういうのはシャッツさんが適当にでっち上げ、金も出してくれる。
登録受付を担当していた人が疑問を口にすると、シャッツさんが「ん?」とニッコリ笑って黙らせていた。
シャッツさんは商業ギルドに圧力をかけられるだけの商人なのかもしれない。
結果から言えば、商業ギルド登録において、俺に強制されるようなモノは一切なくなった。
本当に、身元証明のためだけの商業ギルドカードとなっている。
さすがにここまでやってもらうのは……と思って口にしたが、シャッツさんは気にしなくていいと言う。
「命を助けてもらった感謝という意味もありますが、私の商人としての勘とでも言いましょうか、アルム殿とは親しくなっておいた方がいいと思ったのです。もちろん、辞めたくなればいつでも辞めて構いませんよ」
その言葉の裏に何かあるかもしれない……と勘ぐってしまうのは、ここの冒険者ギルドマスターがアレだったからだろうか。
シャッツさんは「堅牢なる鋼」を雇っていたし、冒険者ギルドマスターを排除して、副ギルドマスターをギルドマスターにしたいのかもしれない。
そのために俺をこちら側に……は考え過ぎか。
でもまあ、そういう部分もあるかもしれないが、好意による部分も感じられるので、ありがたく受け入れることにした。
それに、商売をしろと言われても困るのは事実なので、助かる提案ではある。
ありがとう。
という訳で、商売をしない商人になった。
その日は「堅牢なる鋼」にオススメされた、値段の割に美味しい食事を出してくれる宿に泊まった。
特に肉が美味しかったが、ダンジョン産だそうだ。
そういえば、これでダンジョンに入れるな。
火のヒストさんのパーティのことについて調べるのに時間がかかるかもしれないし、ダンジョンで滞在費を稼ぐというのはアリかもしれない。
―――
なので、翌日。
筋肉痛になった。
イタ。イタタタタタ……。
身体強化魔法の使用がまだまだ甘いことの証明である。
ラビンさんの本を読みながら、大人しくすることにした。
さらに翌日。
かなりマシになったが、念のために休む。
本の続きを読む。
もう翌日。
大丈夫そうなので、早速ダンジョンに向かうことにする。
「堅牢なる鋼」は既に別の依頼を受けたのか、姿を見かけることはなかった。
ローヴィシュ商会に寄って、どれくらい必要かわからないので、多めだと思う量の食料を買っていく。
シャッツさんの姿も見かけなかったので、忙しくしているのかもしれない。
トゥーラ国・王都・レゾール内にあるダンジョン。
その入口は巨大な壁に囲まれ、壁の大きさに合わせた門が内部への出入口として設置されていて、門の横には詰所のような建物がある。
門の前には門番が立ち、主にギルドカードでダンジョンへの入場許可を出していて……ついでに人数も数えているようだ。
俺も門番に商業ギルドカードを提示する。
難色が表情に表れていたが、自己責任なのは冒険者と同じなようで、それさえわかっていればいいと中に入ることができた。
……ダンジョン入口は地下へと続く巨大な階段だった。
まるで、巨大な魔物がその大口を開けているかのようで………………今なら、ここに魔力量増し増しで火属性魔法を放てば、そのまま燃やし尽くして倒せそうな気がする。
そんなことを考えていると、こいつ入口に突っ立って何してんだ? みたいな目で、ダンジョンに入っていく冒険者たちに見られていることに気付いた。
……入るか。
ゆっくりと階段を下りていき、地下一階へ。
地下一階は、洞窟だった。
ところどころに不思議な光る石が壁や天井に嵌め込まれているので、光量はそれなりにある。
確か、魔石という魔力を込められた石だったはず。
人工物かと思ったが、洞窟と一体化しているようにも見える。
年月によるモノか、それとも元からそうなのか……。
考察しても今は答えが出ないので、先に進む。
洞窟内は、かなり広い。
天井までそれなりに高く、横幅も充分ある。
パーティ単位で動いても問題なさそうだ。
まあ、俺はソロだけど。
……広いなー。大きいなー。
両腕を上げても全然届かないし、ゴロゴロと床を転がることだってできる。
……汚れるから実際にやるのはやめておこう。
俺が言いたいのはソロでだって平気だということだ。
………………。
………………。
「平気だい!」
自分を鼓舞するように、あえて口に出して、先へと進む。




