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賢者巡礼  作者: ナハァト
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気付けば動いていたってこともある

「よくもやってくれたな」


 怒りを交じらせた声でそう言われる。

 どうやら、怒られているようだが、正直意味がわからない。

 冒険者ギルドで絡まれ、外に出て絡んできたヤツとその仲間を撃退しただけなのに、何故かそのことで俺が怒られているのだ。

 怒っているのは、大きく豪華な椅子に座る、冒険者ギルド・トゥーラ国本部のギルドマスター。

 四十代くらいの男性で、小太り、指にゴテゴテとした指輪を嵌めているとか、どうにも信じられないが冒険者ギルドマスターである。

 場所もそうだ。

 今居るのは冒険者ギルド内にあるギルドマスター室だが、無駄に豪華なモノが多く置かれ、寧ろ貴族の部屋と言った方が信じられるほどである。

 出会い頭に「冗談だろ?」と言ったことも、今怒っていることに関係しているかもしれない。

 でも、本当にそうなのだ。

 冒険者自体が腕っ節を誇って生業としているため、冒険者ギルドのマスターは元冒険者とか、ある程度の戦闘能力を持っていることが普通である。

 けれど、ここは違うようだ。

 なんというか、スリーレル公爵を思い出す。


「やってくれたと言うが、先に手を出してきたのは向こうだ。それを払い除けただけに過ぎない。それなのに、俺が怒られる意味がわからないが?」


「浅はかなガキめ。あいつらは地下三階まで行けるだけの実力を持っており、この本部に大いに貢献できるCランクパーティだ。お前のようなFランク、それもフォーマンス王国なんて田舎から流れ出て来たヤツが手を出していい者たちではない」


 ……は? 何言ってんだ、こいつは。


「だから、そもそも酔って手を出したのはあいつ」


「どうせ、上手く取り入って楽して稼ごうとしたのだろうが、それが発覚したのだろう? 倒したと吹聴しているが、それもどうせ冒険者としてあるまじき汚い行為でもしたのだろうよ。そのような手がここで二度も通じると思うなよ」


 駄目だ。こいつ。

 俺の話をまったく聞く気がないように思える。

 ギルドマスターに呼ばれて向かう際、中から戻ってきていた「堅牢なる鋼」と出会い、軽く事情を告げて呼ばれたことを口にすると、なんとも言えない表情を浮かべていたのだ。

 こうなることを危惧していたのかもしれない。

 そう思い出している間も、ギルドマスターは酔って絡んできたあいつらを擁護するような言葉を述べ続け、俺の行いを批判していく。

 なんとなく察した。

 目の前に居るギルドマスターをスリーレル公爵の同類だと思えば、ハッキリとわかる。

 要は、酔って絡んできたあいつらはギルドマスターの子飼いの冒険者たちで、それを撃退した俺の存在が気に食わないのだろう。

 推測だが、他にもあいつらみたいな子飼いが居て、色々やっていそうな気がする。

 あいつらはあいつらで、ギルドマスターの庇護の下で色々やっているだろうから、どっちもどっちだろうけど。

 ……でもなあ、結局俺の推測なだけで、証拠のようなモノはない。

 いや、スリーレル公爵を思い出して気に食わないのは間違いないが、今決め付けるのは早い――。


「貴様、聞いているのか?」


「聞いているか、聞いていないかで言えば、聞いていないな」


「……ふざけているのか」


 さらなる怒りを交じらせるが、正直怖くない。

 威厳とか威圧感とか、そういうのが一切ない。


「別にふざけている訳ではないが、さっさと話を終わらせて欲しいとは思っている」


「それをふざけていると……まあいい。それでは、ギルドマスターの権限を行使する」


「は? 権限を行使?」


「貴様が卑怯な手段で上のランクの冒険者を痛めつけたことにより、冒険者ギルドが得られる素材・資源が減少した。よって、その補填分を提出してもらう」


「そっちこそふざけているのか? 何故俺がそんなことをしなければならない」


「ギルドマスター権限の行使だと言っただろう。拒否するのなら、冒険者ギルドにお前の居場所はない。冒険者不適合として、冒険者資格剥奪とする」


「無茶苦茶言っている自覚はあるか? そんな無茶が通るとでも?」


 ギルドマスターが椅子に背を預け、尊大な態度でにやりと厭らしい笑みを浮かべる。


「通るんだよ。私はギルドマスターで、貴様はたかがFランク。それも田舎出身の流れ者など、どうにでもできるだけの力があるんだよ」


 また田舎って馬鹿にしたことにキレそう。


「それがわかったのなら、さっさと補填分を提出しろ。といっても、所詮はFランク。できることは限られているが……貴様、身形はいいな。では、これで決定だ。その杖とローブを寄こ」


 瞬間的に、というか、気付けば体が動いていた。

 身体強化魔法で強化して竜杖を振るい、ギルドマスターの顔の横でピタッととめる。

 当たりはしなかったが暴風が巻き起こり、ギルドマスターは椅子から落ち、書類やら本やらティーカップやら、小物が一度天井まで舞い上がって落ちていく。


「……調子に乗るなよ、クズが」


 俺がそう言うと、ギルドマスターが顔を紅潮させて憤慨する。


「剥奪だ! 剥奪! 貴様の冒険者資格を剥奪する! 他の冒険者ギルドにも手を回して、もう冒険者登録できないようにしてやる!」


「好きにしろ」


 ギルドカードを取り出し、放り投げて出て行った。


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